第185話 目の前に人参がぶら下がっているのに、飛びつかない馬はいないだろ!
50階層のボス戦で撤退した俺達は作戦会議をすることにした。
そこで、デュラハンには謎の能力があることが判明した。
それはウォープというスキルらしい。
なんだそれ?
「シロ」
俺は詳しそうなシロに聞くことにした。
「ウォープね。なるほど、なるほど」
シロはうんうんと頷いている。
「もったいぶんな。はよ言え」
こいつはこういうのが好きなんだよなー。
「ウォープっていうのは簡単に言えば、ワープのことだ。ヤツはワープしたんだよ。クーフーリンの時は後ろに飛び、おっさんの時は剣をワープさせた。そして、相棒とサエコは斬撃を飛ばした」
ワープかい!
ワープでいいじゃん。
おいこら、神様じゃない人!
ネーミングをもっと考えろや!
『うるせー、クソガキ! 文句ばっか言うな! 報酬をトランスバングルからスライムローションに変えるぞ!』
さーせん。
スライムローションはいりませーん。
「つまりデュラハンは超スピードではなく、スキルで飛んでいたわけか……ルミナ君の転移魔法に近い技だね」
≪Mr.ジャスティス≫が手を顎に当て、考え込むように言う。
「どちらかと言えば、≪空間魔法lv10≫に近いけどな」
≪空間魔法lv10≫はその階層の帰還の魔方陣まで飛べる魔法だ。
しかも、俺のマジカルテレポートと違い、発動までの時間が短い。
「そうかもね。しかし、厄介なスキルだ」
ほんとにな。
からくりの種がわかっても、どう対策すればいいんだろ?
「弱点はないん?」
俺は再び、シロに聞く。
「弱点って言われてもなー。あー、でも、一回発動すると、次のワープまでに時間がかかるな。インターバルがあると思う」
なるほど。
「インターバルはどれくらいだ?」
「すまん。それは知らない。使い手の精神力によるから」
「ふーん、他には?」
「まあ、お前のマジカルテレポートと同じで精神力はめっちゃ使うな」
そらそうだ。
気軽に使えたらチートもいいとこだろ。
「≪Mr.ジャスティス≫、どうする? インターバルがあるならワープを使った直後に突っ込むという手もあるが……」
サエコは突っ込むのが大好きだなー。
「問題はあのワープ攻撃を後衛に使われることだよ。ただでさえ、デュラハンが強いのに、そのうえ、キリングドールやリビングアーマーまでいる。後衛が落ちたらまずい」
クーフーリンやおっさんAを一撃で仕留める敵だからなー。
後衛はまず死ぬな。
「うーん」
「あのー……」
サエコが悩んでいると、カナタが手を上げた。
「どうしたの? 何か考えでもあるのか?」
≪Mr.ジャスティス≫は意外そうな顔をして、手を上げたカナタに聞く。
「さっきの戦いを見てて思ったんですが、デュラハンって攻撃をしてきた相手にしかワープを使ってませんよね? 普通は真っ先に僕らに向かって、使うスキルだと思うんですけど」
カナタの言いたいことがわかった。
「なるほど。これまでのモンスターの傾向からして、デュラハンも決まったパターンの攻撃しかしてこない可能性があるな。後衛を攻撃しなかった理由が別にあるとしても、突っ込んできたクーフーリンに使わなかった理由がない」
ワープがあるならクーフーリンの突きを待つ必要性はない。
さっさと斬撃を飛ばせばいいだけだ。
それをしなかった理由は攻撃されていないから。
おっさんAはシールドバッシュ、サエコは千剣、俺はパンプキンボムを使っていた。
だから、攻撃された。
矛盾はない。
「ありえるね……いや、待てよ。クーフーリン君、君はあの時、スキルを使ったかい?」
≪Mr.ジャスティス≫は何かに気付いたようで、ハッとして、クーフーリンに尋ねる。
「ああ、俺のスキル≪一閃≫を使った。お前や≪レッド≫の斬撃とは違って、突き技だがな」
ああ……なるほど。
≪Mr.ジャスティス≫が言いたいことがわかった。
「スキルか! ヤツはスキルを使うと、ワープを使うのか!」
サエコのバカは皆が気づいたであろうことを真っ先に言う。
クソ! 取られた!
「その可能性が高いな。41階層から50階層はこういうギミックステージなんだろう。だから、敵が異様に強いんだ。じゃなきゃ、1パーティーで突破できねーわ」
俺らは3パーティーだからなんとかなっているが、これが6人しかいなかったらまず無理な難易度だ。
だが、ギミックを理解していれば、適正な難易度になるのだろう。
「だろうね。しかし、スキルなしでデュラハンか……」
≪Mr.ジャスティス≫は俺に同意すると、悩みだす。
まあ、確かに、スキルなしはきつい。
デュラハンはワープなしでも、あのサエコを圧倒していた。
まともにやって勝てるのかねー。
「後衛連中は周りのキリングドールとリビングアーマーに集中させるべきだな。デュラハンは前衛で叩くしかない」
サエコがわかりきったことを言った。
「とはいえ、後ろにも前衛を残さないといけないぞ。それがさっきのフォーメーションなんだ。クーフーリンとあきちゃんの2人で勝てる相手じゃないだろ」
「私らも出るか?」
うーん……
「キリングドールとリビングアーマーを≪正義の剣≫だけで対応できるか?」
俺は≪Mr.ジャスティス≫に聞く。
「無理だね。数が多すぎるよ。後衛を捨てるなら可能だけど、それはちょっと……」
確かに、後衛を捨てる手もある。
どうせ後衛はデュラハンに魔法を使えば、反撃されて死ぬしかない。
ならば、それを前提に動くという方法がある。
つまり、後衛を守らず、全員が死ぬつもりで攻撃するという手だ。
だが、そうなれば、後衛は間違いなく死ぬ。
デュラハンのワープ攻撃か、もしくは、キリングドールとリビングアーマーにやられるかだ。
そして、この手は悪手である。
これをやったパーティーは間違いなく崩壊する。
信頼関係がなくなり、長くは続けられないのだ。
今回だけということにもならない。
一度やったパーティーは何度でもする。
過去にそうやって解散したり、引退するエクスプローラはいっぱいいたのだ。
ダンジョンでは、パーティーが全滅しなければ、死にはしないが、信頼関係で成り立っているパーティーで、こういうことを絶対にしてはならない。
エクスプローラなら誰でも知っている事だろう。
「うーん、とりあえず、試してみるか……」
俺は悩みながらも試してみるべきだと思った。
「え? やるの?」
俺の発言に当然、≪Mr.ジャスティス≫が驚く。
「今考えている作戦は俺達の予想が当たっている前提だろう? もし、デュラハンが普通にワープ攻撃をしてきたら作戦も何もない。時間もないし、やってみるべきだ」
「でも、その手は…………」
≪Mr.ジャスティス≫が言い淀んだ。
それはそうだ。
こういうパーティー崩壊を一番知っているのはこいつら第1世代なのだから。
「別に後衛を殺すつもりはねーよ。俺が魔法をぶっ放すから、お前らはその隙に得意のスキルで仕留めろ。インターバルがあるし、いけるだろ」
天才的なアイデアだ!
「いや、でも、ルミナ君、死ぬよ?」
「運が良ければ、死にはしない。それに言い出しっぺは俺だし」
「うーん、でもねー」
煮え切らないヤツだなー。
本人がいいって言ってんだから素直に頷けよ。
「俺は絶対にトランスバングルが欲しいの! てめーらとは覚悟が違うわ! それとも、ヘルパンプキンで何もかも吹き飛ばす手を使うか?」
全員に帰還させ、ぶっ放す。
ただし、その場合はトランスバングルが入手できない可能性が高い。
だって、俺も死んでるし。
「うーん、サエコさん、どう思う?」
≪Mr.ジャスティス≫がサエコに意見を求める。
「本人がこう言ってんだからやらせればいいだろ。こいつは≪ファイターズ≫にいたんだろ? じゃあ、慣れてるよ」
「慣れてねーわ」
「いや、あそこって、生贄アタックとかしてんじゃん」
「俺も生贄アタックはしたことがあるが、一人で潰したわ。グラディエーター舐めんな」
オーガの群れに突っ込んで、一匹残らず、片づけたわ!
がはは。
「うーん、わかった。じゃあ、ルミナ君も前に出てくれ。デュラハンはルミナ君、クーフーリン君、春田さんに任せる。サエコさんは僕らと一緒に後衛を守りながらキリングドールとリビングアーマーを蹴散らそう」
俺達は翌日に再び、挑むことにし、この日は解散となった。
◆◇◆
話し合いを終え、家に帰ると、俺は一息つく。
「相棒、いいのか?」
俺がベッドで横になっていると、シロが話しかけてくる。
「しゃーないだろ」
「俺っちはてっきり他の人間にやらせるかと思った」
最初は俺もクーフーリンやサエコ辺りにやらせようかと思っていた。
「俺らがあの部屋に入った時、半分以上の人間が諦めモードだった。士気を上げるにはああするしかない」
「なるほど。お前の覚悟を見せたわけね」
「まあ、そんなところ。あと少しなのに、諦めてたまるか」
たかが、一度や二度死ぬくらい、どうってことはない。
俺にはゴールが見えているのだ。
げへへ。
「相棒、前に瀬能が言ってただろ。そこはゴールじゃねーぞ」
シズルにゴールを決めてやるぜ!
「……頑張れ」
あれ? つまんなかったかな?
じゃあ、ホールインワン!
「…………もう寝ようぜ」
「うん」
俺はシロに冷たくされたので、早めに寝ることにした。
あと少しだ。
あと少しで…………
神様じゃない人、ありがとう!
『なんか嫌だな……』
どうでもいいけど、ダンジョンの外なのに、何で声が聞こえるんだ?
『え? 今さら?』
まあ、どうでもいいか。
『あ、そうですか……』
攻略のヒント
「≪破壊者≫って、すごいですよね?」
「モーニングスターのせいかな!?」
「……………………うるせー」
『二つ名の由来を聞いてみよう~東城ヒロシ~』より




