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評判最悪男、魔女になる  作者: 出雲大吉
第9章

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第185話 目の前に人参がぶら下がっているのに、飛びつかない馬はいないだろ!


 50階層のボス戦で撤退した俺達は作戦会議をすることにした。

 そこで、デュラハンには謎の能力があることが判明した。

 それはウォープというスキルらしい。


 なんだそれ?


「シロ」


 俺は詳しそうなシロに聞くことにした。


「ウォープね。なるほど、なるほど」


 シロはうんうんと頷いている。


「もったいぶんな。はよ言え」


 こいつはこういうのが好きなんだよなー。


「ウォープっていうのは簡単に言えば、ワープのことだ。ヤツはワープしたんだよ。クーフーリンの時は後ろに飛び、おっさんの時は剣をワープさせた。そして、相棒とサエコは斬撃を飛ばした」


 ワープかい!

 ワープでいいじゃん。

 おいこら、神様じゃない人!

 ネーミングをもっと考えろや!


『うるせー、クソガキ! 文句ばっか言うな! 報酬をトランスバングルからスライムローションに変えるぞ!』


 さーせん。

 スライムローションはいりませーん。


「つまりデュラハンは超スピードではなく、スキルで飛んでいたわけか……ルミナ君の転移魔法に近い技だね」


 ≪Mr.ジャスティス≫が手を顎に当て、考え込むように言う。


「どちらかと言えば、≪空間魔法lv10≫に近いけどな」


 ≪空間魔法lv10≫はその階層の帰還の魔方陣まで飛べる魔法だ。

 しかも、俺のマジカルテレポートと違い、発動までの時間が短い。


「そうかもね。しかし、厄介なスキルだ」


 ほんとにな。

 からくりの種がわかっても、どう対策すればいいんだろ?


「弱点はないん?」


 俺は再び、シロに聞く。


「弱点って言われてもなー。あー、でも、一回発動すると、次のワープまでに時間がかかるな。インターバルがあると思う」


 なるほど。


「インターバルはどれくらいだ?」

「すまん。それは知らない。使い手の精神力によるから」

「ふーん、他には?」

「まあ、お前のマジカルテレポートと同じで精神力はめっちゃ使うな」


 そらそうだ。

 気軽に使えたらチートもいいとこだろ。


「≪Mr.ジャスティス≫、どうする? インターバルがあるならワープを使った直後に突っ込むという手もあるが……」


 サエコは突っ込むのが大好きだなー。


「問題はあのワープ攻撃を後衛に使われることだよ。ただでさえ、デュラハンが強いのに、そのうえ、キリングドールやリビングアーマーまでいる。後衛が落ちたらまずい」


 クーフーリンやおっさんAを一撃で仕留める敵だからなー。

 後衛はまず死ぬな。


「うーん」

「あのー……」


 サエコが悩んでいると、カナタが手を上げた。


「どうしたの? 何か考えでもあるのか?」


 ≪Mr.ジャスティス≫は意外そうな顔をして、手を上げたカナタに聞く。


「さっきの戦いを見てて思ったんですが、デュラハンって攻撃をしてきた相手にしかワープを使ってませんよね? 普通は真っ先に僕らに向かって、使うスキルだと思うんですけど」


 カナタの言いたいことがわかった。


「なるほど。これまでのモンスターの傾向からして、デュラハンも決まったパターンの攻撃しかしてこない可能性があるな。後衛を攻撃しなかった理由が別にあるとしても、突っ込んできたクーフーリンに使わなかった理由がない」


 ワープがあるならクーフーリンの突きを待つ必要性はない。

 さっさと斬撃を飛ばせばいいだけだ。

 それをしなかった理由は攻撃されていないから。

 おっさんAはシールドバッシュ、サエコは千剣、俺はパンプキンボムを使っていた。

 だから、攻撃された。


 矛盾はない。


「ありえるね……いや、待てよ。クーフーリン君、君はあの時、スキルを使ったかい?」


 ≪Mr.ジャスティス≫は何かに気付いたようで、ハッとして、クーフーリンに尋ねる。


「ああ、俺のスキル≪一閃≫を使った。お前や≪レッド≫の斬撃とは違って、突き技だがな」


 ああ……なるほど。

 ≪Mr.ジャスティス≫が言いたいことがわかった。


「スキルか! ヤツはスキルを使うと、ワープを使うのか!」


 サエコのバカは皆が気づいたであろうことを真っ先に言う。


 クソ! 取られた!


「その可能性が高いな。41階層から50階層はこういうギミックステージなんだろう。だから、敵が異様に強いんだ。じゃなきゃ、1パーティーで突破できねーわ」


 俺らは3パーティーだからなんとかなっているが、これが6人しかいなかったらまず無理な難易度だ。

 だが、ギミックを理解していれば、適正な難易度になるのだろう。


「だろうね。しかし、スキルなしでデュラハンか……」


 ≪Mr.ジャスティス≫は俺に同意すると、悩みだす。


 まあ、確かに、スキルなしはきつい。

 デュラハンはワープなしでも、あのサエコを圧倒していた。

 まともにやって勝てるのかねー。


「後衛連中は周りのキリングドールとリビングアーマーに集中させるべきだな。デュラハンは前衛で叩くしかない」


 サエコがわかりきったことを言った。


「とはいえ、後ろにも前衛を残さないといけないぞ。それがさっきのフォーメーションなんだ。クーフーリンとあきちゃんの2人で勝てる相手じゃないだろ」

「私らも出るか?」


 うーん……


「キリングドールとリビングアーマーを≪正義の剣≫だけで対応できるか?」


 俺は≪Mr.ジャスティス≫に聞く。


「無理だね。数が多すぎるよ。後衛を捨てるなら可能だけど、それはちょっと……」


 確かに、後衛を捨てる手もある。

 どうせ後衛はデュラハンに魔法を使えば、反撃されて死ぬしかない。

 ならば、それを前提に動くという方法がある。

 つまり、後衛を守らず、全員が死ぬつもりで攻撃するという手だ。


 だが、そうなれば、後衛は間違いなく死ぬ。

 デュラハンのワープ攻撃か、もしくは、キリングドールとリビングアーマーにやられるかだ。


 そして、この手は悪手である。

 これをやったパーティーは間違いなく崩壊する。

 信頼関係がなくなり、長くは続けられないのだ。


 今回だけということにもならない。

 一度やったパーティーは何度でもする。

 過去にそうやって解散したり、引退するエクスプローラはいっぱいいたのだ。

 

 ダンジョンでは、パーティーが全滅しなければ、死にはしないが、信頼関係で成り立っているパーティーで、こういうことを絶対にしてはならない。


 エクスプローラなら誰でも知っている事だろう。


「うーん、とりあえず、試してみるか……」


 俺は悩みながらも試してみるべきだと思った。


「え? やるの?」


 俺の発言に当然、≪Mr.ジャスティス≫が驚く。


「今考えている作戦は俺達の予想が当たっている前提だろう? もし、デュラハンが普通にワープ攻撃をしてきたら作戦も何もない。時間もないし、やってみるべきだ」

「でも、その手は…………」


 ≪Mr.ジャスティス≫が言い淀んだ。


 それはそうだ。

 こういうパーティー崩壊を一番知っているのはこいつら第1世代なのだから。


「別に後衛を殺すつもりはねーよ。俺が魔法をぶっ放すから、お前らはその隙に得意のスキルで仕留めろ。インターバルがあるし、いけるだろ」


 天才的なアイデアだ!


「いや、でも、ルミナ君、死ぬよ?」

「運が良ければ、死にはしない。それに言い出しっぺは俺だし」

「うーん、でもねー」


 煮え切らないヤツだなー。

 本人がいいって言ってんだから素直に頷けよ。


「俺は絶対にトランスバングルが欲しいの! てめーらとは覚悟が違うわ! それとも、ヘルパンプキンで何もかも吹き飛ばす手を使うか?」


 全員に帰還させ、ぶっ放す。

 ただし、その場合はトランスバングルが入手できない可能性が高い。

 だって、俺も死んでるし。


「うーん、サエコさん、どう思う?」


 ≪Mr.ジャスティス≫がサエコに意見を求める。


「本人がこう言ってんだからやらせればいいだろ。こいつは≪ファイターズ≫にいたんだろ? じゃあ、慣れてるよ」

「慣れてねーわ」

「いや、あそこって、生贄アタックとかしてんじゃん」

「俺も生贄アタックはしたことがあるが、一人で潰したわ。グラディエーター舐めんな」


 オーガの群れに突っ込んで、一匹残らず、片づけたわ!

 がはは。


「うーん、わかった。じゃあ、ルミナ君も前に出てくれ。デュラハンはルミナ君、クーフーリン君、春田さんに任せる。サエコさんは僕らと一緒に後衛を守りながらキリングドールとリビングアーマーを蹴散らそう」


 俺達は翌日に再び、挑むことにし、この日は解散となった。




 ◆◇◆




 話し合いを終え、家に帰ると、俺は一息つく。


「相棒、いいのか?」


 俺がベッドで横になっていると、シロが話しかけてくる。


「しゃーないだろ」

「俺っちはてっきり他の人間にやらせるかと思った」


 最初は俺もクーフーリンやサエコ辺りにやらせようかと思っていた。


「俺らがあの部屋に入った時、半分以上の人間が諦めモードだった。士気を上げるにはああするしかない」

「なるほど。お前の覚悟を見せたわけね」

「まあ、そんなところ。あと少しなのに、諦めてたまるか」


 たかが、一度や二度死ぬくらい、どうってことはない。

 俺にはゴールが見えているのだ。

 げへへ。


「相棒、前に瀬能が言ってただろ。そこはゴールじゃねーぞ」


 シズルにゴールを決めてやるぜ!


「……頑張れ」


 あれ? つまんなかったかな?

 じゃあ、ホールインワン!


「…………もう寝ようぜ」

「うん」


 俺はシロに冷たくされたので、早めに寝ることにした。


 あと少しだ。

 あと少しで…………


 神様じゃない人、ありがとう!


『なんか嫌だな……』


 どうでもいいけど、ダンジョンの外なのに、何で声が聞こえるんだ?


『え? 今さら?』


 まあ、どうでもいいか。


『あ、そうですか……』





攻略のヒント


「≪破壊者≫って、すごいですよね?」

「モーニングスターのせいかな!?」

「……………………うるせー」


『二つ名の由来を聞いてみよう~東城ヒロシ~』より

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