第181話 49階層攻略と決戦前夜
俺達はついに49階層への階段を発見した。
残りは49階層とボスだけとなったため、ボス戦に挑む計画を立てた。
そして、翌日、泊まりの準備をし、49階層に向けて出発した。
俺達は40階層からスタートし、40階層のホワイトドラゴンを倒すと、41階層から47階層を最短ルートで突破した。
48階層に着くと、昨日、ちーちゃんが話し合いを無視して描いていた地図を見ながら49階層への階段を目指す。
ここまで来るのに苦労したが、昨日ほどの疲れはない。
レベルが上がったし、慣れてきているというのもあるのだろうが、やはりゴールが見えてきているのが大きい。
ここまで誰も欠けずに来れたのは、個々の力と≪Mr.ジャスティス≫のリーダーシップだろう。
よくもまあ、こんな揉めそうな連中を纏めるもんだと思う。
俺はあと少しだと思い、気合を入れて48階層のモンスターを蹴散らしていく。
そのまま進み続けると、49階層への階段まで到達した。
俺達は49階層への階段を降り、49階層の攻略を開始する。
49階層に出現するモンスターはこれまでと同じくキリングドールとリビングアーマーだ。
こいつらを見るのもいい加減、飽きてきた。
というか、40階層から50階層はモンスターのバリエーションが少ない気がする。
まあ、虫系モンスターのバリエーションが多かった30階層台よりかはマシだけども。
俺達は49階層も引き続き、苦労しつつも、順調に進んでいく。
時には罠があったり、迷子になりかけたこともあったが、18人もいれば何とかなるもんだ。
最初は18人の連携に苦労もしたが、これだけ戦っていると、多少の連携や信頼関係も生まれてくる。
俺達は協力して敵を倒し、50階層への階段を探し続けた。
そして、ついに50階層への階段を発見した。
俺は階段を見つけた時、大きく息を吐いた。
ここまでとても長く感じたからだ。
実際は20日程度だが、それだけ濃密だったし、大変だった。
まだ、ボス戦が残っているが、ようやく目標に辿り着いたのである。
「降りよう」
全員が階段をぼーっと見つめていると、≪Mr.ジャスティス≫がつぶやいた。
俺達は頷き、階段を降りる。
すると、そこは、これまで見てきたボス部屋の前の通路と同じく、1本道の通路であった。
そして、その通路の先には大きな扉が見える。
この先に目標である50階層のボス、デュラハンがいる。
そして、俺が男になれるためのアイテムであるトランスバングルがあるのだ。
ああ…………わかった。
とても長く感じたのは40階層から50階層が大変だったからだけじゃない。
俺にとっては、約1年かけた目標物がこの先にあるからだ。
20日じゃない、1年なのだ。
そりゃあ、長くも感じるはずだろう。
「ようやくここまで着いた……」
この1年、色々あった。
「まだ終わりじゃないよ」
俺が感慨深く、ボス部屋の扉を見ていると、≪Mr.ジャスティス≫が忠告してくる。
「わかってる。一番めんどくさいのが残っている」
まだ、ボスが残っている。
間違いなく、強敵であろうデュラハンがいる。
「皆! 予定通り、今日はここまでにして休もう。明日、起きて準備が整い次第、ボスに挑む。早起きしなくてもいいからゆっくり休んでくれ」
≪Mr.ジャスティス≫が皆に告げた。
「見張りはどうすんだよ?」
「いらないとは思うけど、女子もいるし、各パーティーで一人ずつ出そう。内訳は任せる」
「まあ、そんなもんか……」
他の連中が何かをするとは思えないが、自分のパーティーメンバーが見張っている方が安心できるし、ゆっくり休める。
≪ヴァルキリーズ≫+その他の場合はクーフーリンが男ではあるが、サエコやショウコ、あきちゃんと昔からの知り合いらしいし、ある程度は信用しているだろう。
俺達は各パーティーに別れ、見張り役を相談する。
「どうする? ローテーション?」
シズルが聞いてくる。
「俺一人でもいいけど……」
一晩くらいなら寝なくても問題ない。
「いや、あんたも休みな。あんたはここまで魔法に近接戦闘とフル回転だったんだ。ローテーションでいこう」
ちーちゃんが俺に気を使っている。
でも、一番体力がないのはお前だ。
「どう分けんの?」
「就寝を10時として、明日7時に起きよう。6人を9時間で割って、1人、1時間半。これに加えて、安眠枕もあるから余裕でしょ」
なるほどね。
「じゃあ、お前は最初な」
「何でさ?」
「いっつもグダるのはお前だから。一番楽な最初の見張りはお前」
「そんなことないと思うけど……」
そんなことあるんだよ。
皆、知ってる。
「その次は瀬能な」
瀬能はタンクで大変だったから休ませよう。
明日も働いてもらわないといけないし。
「了解」
「ほんで、シズル」
こいつは消去法。
「うん」
「で、俺。次がカナタ」
やっぱり一番面倒なところは俺がやるべきだろう。
カナタもこの辺なら大丈夫。
「わかりました」
「最後はアカネちゃんね」
まあ、一番年下の女子だし、楽なところにしてやろう。
「私は楽でいいですけど、センパイ、きつくないですか?」
といっても、疲れ具合や年齢を考えるとこんなもんだろ。
「俺は10秒で寝れるから問題ない」
寝て、起きて、寝る。
いつもの二度寝と一緒。
今日は抱き枕さんがいないけども。
「わかりましたー。じゃあ、お願いしまーす」
俺達は見張りのローテーションを決めると、ちょっと早いが、晩飯にする。
皆、時間がないのでコンビニ弁当とかだ。
俺以外。
「ルミナ君、作ってきたの?」
シズルが俺の数個のタッパーを見て聞いてくる。
「うんにゃ。残り物。もったいないじゃん」
「俺っちが全部食うって言ったのにー」
「てめーは散々食っただろ。どんだけ食うんだ、このデブ蛇は」
今年1年の食費が2倍以上かかっている気がする。
「あんた、いいお嫁さんになれるよ」
ちーちゃんがバカにしたような顔でうんうんと頷く。
「うるせー。お前らも一人暮らししたらそうなるわ。一食分作っても材料が余るんだよ」
もったいない。
しかも、この残飯処理機は食べたらダメなおかずまで食うからタチが悪い。
「僕、自炊できるかなー」
「出来る気がしないよな」
「………………」
ダメな男共だ。
ついでに、我関せずと弁当食ってるハムスターも。
「東京本部の寮にキッチンってついてないのか? 川崎支部にはあっただろ」
同じ川崎支部の寮生だったカナタに聞いてみる。
「東京本部はないですね。あー……確かに川崎支部にはありましたねー。使ったことないです。そういえば、神条さんが夜に飯テロするって、先輩方が怒ってましたよ」
そんなこともあったな。
ダンジョンで体を動かした中学生は寮食を食べても、深夜には腹が減る。
だから、俺はそれを見計らって、チャーハンとか作ってた。
めっちゃ笑った。
あいつら、乞食みたいなんだもん。
「懐かしいなー」
「あれ、寮中に匂いがこもってましたよ。離れた僕の部屋まで匂いましたもん」
そうなるようにしたんだよ。
嫌がらせのために。
っていうか、お前らも作れや。
「楽しそうな寮生活だな。ボクは寮に入ったことがないからなー」
瀬能は家が近いからずっと通いだったらしい。
「川崎支部は汚いし、泥棒ばっかだったけどな」
「まあ、建物自体が古かったですからねー。でも、東京本部はすごいきれいですよ。財布を持ち歩かなくてもいいですし」
こいつらを送っていく時に寮を見たことがあるが、新築っぽくて、きれいだった。
マジで羨ましい。
あの中学生活は何だったんだと思うくらいだ。
「川崎支部って、噂通りにひどい所なんだな……」
「ヤンキーが行くとこだよ。普通は行かない」
俺はヤンキーじゃないけど、東城さんがいたから行った。
まあ、川崎支部初の追放者になっちゃったけど。
「根はいい人ばかりですけどね。多少、おいたはしますが」
多少。
良い言葉だ。
「よくカナタ君を川崎支部に入れましたね……」
シズルがちーちゃんを見る。
「ウチの親も知らなかったんだよ。カナタは普通にしてたし、イジメとかもなかった。カナタがこっちに戻ってきた後に話を聞いてびっくりしたよ。しかも、おいた代表を絶賛するんだもん」
誰がおいた代表だ!
これ以上、俺に変なあだ名をつけんじゃねーよ!
「カナタ君も悪いことをしたんですかー?」
アカネちゃんは同級生のカナタに何故か敬語で聞く。
「僕はしないよー」
こういうヤツいたわー。
人が悪いことをすると、めっちゃ楽しそうに笑っているけど、いざ怒られる場面になるといなくなっている。
そういえば、支部長や先生に怒られてんのって、いつも俺一人だったような気がする。
「俺はしたぞー」
「知ってます。センパイのバカな武勇伝はいっぱい聞きました。聞くたびに尊敬の気持ちが軽蔑に変わっていきました。そして、今は何も思いません」
あれ?
いつも、センパイ、すごーいとか言ってた可愛いアカネちゃんがいなくなったなーと思ってたけど、俺のせい?
思春期だからじゃないの?
「ま、まあ、こっちに来て、生まれ変わったから」
「性格は変わりませんでしたけど、性別は変わりましたね」
アカネちゃんがクロネちゃんに……
「アカネちゃん、だし巻き食べる?」
おいしいよ?
「もらいます」
「俺っちもー」
「てめーは散々食っただろ! 卵が1パックなくなったんだぞ」
どんだけ食っても小さいままだし、たまにはブレスの一つでも吐いて、モンスターを倒せ!
『ゴブリンなら任せとけ!』
ダメだ、こいつ……
攻略のヒント
「どうして≪竜殺し≫って言うんですか?」
「竜も倒しそうだってことらしいが、過大評価だな」
「…………いえ、十分に怖いですよ」
『二つ名の由来を聞いてみよう~石川ジュウゾウ~』より