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第179話 俺は俺


 45階層を突破し、46階層にやってきた俺達は50階層のボス戦で出てくるリビングアーマーと戦った。

 この戦いによって、40階層以降に出てくるモンスターが決まった行動パターンしかしないことが判明した。


 そして、翌日。

 今日は休みだ。


 時間がないし、休みなくダンジョンに行くことが望ましい。

 実際、ダンジョンから戻れば、怪我は治る。

 でも、疲れは取れないし、何よりも精神的にしんどいのだ。


 時間はないが、きっちり休まないと、結果的に効率が落ちてしまう。

 こういうのはクランである≪正義の剣≫や≪ヴァルキリーズ≫は慣れているし、上手い。


 若干、焦りを感じないでもないが、50階層は見えてきたし、≪Mr.ジャスティス≫とサエコに従っておいた方がいいだろう。


 俺は目が覚め、起きる。

 今日は3月14日の土曜日であり、俗に言うホワイトデーだ。


 隣には泊まっていったシズルが寝ている。



 我慢した…………我慢した!!



 トランスリングの充電期間を終え、いつでも男に戻れる状態になって初めて二人で過ごした夜だ。

 だが、俺は我慢した。

 昨日、ショウコにピロー的な事をしている途中で戻るわよと言われたからだ。


 女というのは男と違い、致している最中よりも、その後を大事にする。

 男はその逆。


 俺はネットでこれを見て、へーと思った。

 したら、寝るだけじゃないの?


 ダメらしい。


 では、90分では足りない。

 だから、我慢した。


 以前の俺なら問答無用でトランスリングを使っただろう。

 正直、昨日、『使っちゃおう!』と思い、くらっと来たことは何回かあった。


 だが、我慢した。

 俺も成長したのだろう。

 うんうん。


 俺は自分の偉さに頷き、そのまま二度寝した。




 ◆◇◆




 シズルに起こされ、目が覚めると、朝ご飯を食べるなどの準備をした。

 準備を終えると、他の4人が来るまでの間、女子トークをして待つ。


 そして、昼過ぎに他の4人がやってきた。

 俺はホワイトデーなので、前にもらったコアラのマー〇のお返しに買ってきた動物の形をしたクッキーを出した。

 なお、シズルへのお返しは昨日のうちに渡している。


「この6人で集まるのは久しぶりだなー」

「だな。まあ、仕方がないよ」


 俺が言うと、瀬能が同意する。


「お前、どう? 多分、一番大変なのはお前だけど」


 タンクいねーし。


「いや、ホント大変。あの3人、勝手に突っ込むんだもん。っていうか、≪戦姫≫のサエコさんって、リーダーじゃないのか?」 


 リーダーでーす。


「まあ、そういう役割なんだよ。本当はショウコがリーダーに相応しいんだが、嫌がるんだよな」


 リーダーの仕事はほとんどショウコがやっているというのに。

 サエコがやってることは、私についてこいって言うだけ。

 他人の事は言えねーけど。


「とはいえ、強さは本物だな。参考にはならないけど」


 まあ、突っ込んでばかりのあいつらがタンクである瀬能の参考になるとは思えない。

 そういうのは、それこそ名前は忘れたけど、おっさんAの方が参考になるだろう。


「だろうなー。後衛共は?」


 俺は動物クッキーを選んでいるちーちゃんに聞く。

 よく見ると、こいつ、犬のクッキーしか食べてない。

 この女、ギャルのくせに、ところどころで、かわいいところを出すんだよな……


「後衛はやることは変わらないからねー。キリングドールが目の前に来た時は死んだと思ったけど」


 ちーちゃんは一撃で死ぬよ。


「だよね。近くで見ると、本当に怖かったです。よく前衛の人達はあれらと斬り合えますよね」


 カナタがちーちゃんに同意する。


「後ろにシズルとショウコを残しているんだが、2人とも攻撃寄りだからなー」

「そうなんだよね。ってか、防御が出来るヤツが少なすぎ。これで50階層に挑めんのかねー」


 痛いところをついてくるちーちゃんであった。


 ボス戦は基本的に大部屋での戦闘だ。

 通路での戦闘は前と後ろを防いでいれば、後衛が襲われることはない。

 だが、大部屋では四方から襲われる。

 ましてや、50階層はボスだけでなく、キリングドールとリビングアーマーも出てくるのだ。


「アカネちゃん、いけそう?」


 俺は後衛の戦闘要員であるアカネちゃんに聞く。


「一対一ならともかく、複数は無理ですよー。しかも、それでいて、後衛を守れって言われても……」


 だろうなー。

 ただでさえ、槍というのは小回りが利かない。

 それで味方を守れと言われても無理がある。


「≪正義の剣≫頼りかねー。俺らも≪ヴァルキリーズ≫+その他も防御できねーし」


 ≪ヴァルキリーズ≫の他のメンバーにタンクがいないか、聞いたのだが、いないそうだ。

 そもそも女でタンクになりたがるヤツはいないし、適性もないからだろう。

 これが≪ヴァルキリーズ≫が≪正義の剣≫に追いつけない理由なんだろうなー。


「後衛も戦えればいいんだけど、アカネ以外は近接戦闘がからきしだし」

「≪ヴァルキリーズ≫のヒーラーは? セツだっけ?」


 ダジャレ女。


「あの人は根っからのヒーラーだね。それ以外はできないっぽい」


 ふーん。

 男エクスプローラにモテそうな感じだな。

 ヒーラー特化の女はモテるのだ。


「一応、聞くけど、キララは?」

「あの人はバフしかしてない。実際、そのバフのおかげで、前衛はよく戦っているんだと思う。でも、存在感ないね。すごく地味」


 だろうね。

 俺もダンジョンにいる時にあいつの存在を感じたことがない。

 ダンジョンから帰還して、そういえば、こいつもいたなと思うくらいだ。


「といっても、小声でなんか言ってますよね。『私、何でここにいるんだろう』とか、『私、了承したっけ?』とか」


 同じ後衛にいるアカネちゃんが補足する。


 そういえば、キララは参加するか悩んでいたのに、あきちゃんが強引に連れていたんだった。

 あきちゃん的には唯一の仲間を育てる絶好の機会だもんな。


「何か聞いてる?」


 俺はちょこちょこと連絡を取っているらしいシズルに聞いてみる。


「あー……愚痴がすごい。でも、今さら断りにくいし、仕方がないかーって言ってた。あと、≪正義の剣≫と顔を合わせづらいとも言ってた」


 まあ、あんな問題を起こしてたらな。

 あいつ、変なところで真面目だし、気にするか……


「あんたは?」


 ちーちゃんが俺にも聞いてくる。


「俺は≪正義の剣≫とだけど、好きにやってる。抜かれてもあいつらが確実に倒すからな」


 ≪正義の剣≫はベテランだし、安定感がある。

 さすがはトップクランだと思う。


「さすがだねー。もうあの人達だけでいいんじゃない?」

「あいつらはメイジがいないからなー」

「そうなの? クランだし、メンバーにいると思うけど」


 いるとは思うけどねー。


「俺達との連携が難しいんだろう。俺らと仲悪いし」


 ≪ヴァルキリーズ≫はライバルだし、クーフーリン、あきちゃん、俺は説明不要。


 まだ前衛同士なら大丈夫だが、前衛と後衛だと、信頼関係は重要なのだ。

 だって、後ろから魔法を放つヤツが自分の事を嫌っているヤツだと怖いし。


「あんたらのせいか……仲良くしなよ」


 パーティークラッシャーがなんか言ってる……


「無理かなー。あいつら、上から目線でうぜーし」

「まあ、それはちょっとわかるけど」


 だよな?


「お前ら、レベルはどんな感じ? 俺、36になった」

「ボクは27になった。すごいよな」


 瀬能はレベルが5も上がって、27らしい。


「あたしは25。なんか信じられない」


 あの雑魚のちーちゃんが25になったのか……


「私は24。エクスプローラになって1年なのにね」


 確かに、すげーペースだわ。

 俺が24になるのに何年かかったと思ってんだ。


「私は23でーす。正直、自分のレベルの上がりようが怖いでーす」


 あのアカネちゃんがここまでくると、感慨深いな。


「僕も23ですね」


 さすがは俺の弟子だな。

 うんうん。


 しかし、皆、めっちゃレベル上がってるな。

 元のレベルが低い人間が深層に行くと、短期間でレベルが急上昇するんだ。

 あらためて、俺のマジカルテレポートのやばさがわかるな。


「マジカルテレポートは他人に使わんほうがいいな」

「だな」

「もし、転移魔法が世間にバレたら適当に制限をでっち上げようよ。ルミナちゃんが信用できないヤツは飛べない的な」

「なるほど。それでいくかー」


 まあ、そうすると、≪正義の剣≫は飛べないんだけどね。

 終わったら本部長に相談すっかなー。


「魔法で思い出しましたけど、センパイの髪が伸びるやつはなんです? めっちゃビビりましたけど」


 アカネちゃんが聞いてくる。


「あ! あたしも思った。何、あのキモいの?」


 キモい、言うな!


「あれもメルヘンマジックの一種なんだよ。助けてやったんだからいいだろ」

「まあ、そうですけど、中々な絵面でしたよ。どっちがモンスターかわかりませんね」


 ダークナイトは人間に見えんことはないしな。


「あれも魔法かー。変なの」


 ちーちゃんが頷きながら言う。


「知ってる」

「他にどんなのがあるのさ?」

「今、覚えてんのは、相手の動きを鈍くするウィッチカースだな。あと、昨日、覚えたのはキラキラドレイン」


 俺はレベルが上がったことで、メルヘンマジックのレベルを9にし、新しい魔法を覚えた。




----------------------

名前 神条ルミナ

レベル36

ジョブ 魔女

スキル

 ≪身体能力向上lv5≫

☆≪自然治癒lv6≫

 ≪空間魔法lv2≫

 ≪怪力lv6≫

☆≪斬撃lvー≫

☆≪魅了lvー≫

☆≪気合lvー≫

 ≪索敵lv3≫

 ≪罠回避lv2≫

 ≪冷静lv2≫

 ≪隠密lv5≫

 ≪投擲lv1≫

☆≪メルヘンマジックlv8→9≫

 ≪薬品鑑定lvー≫

☆≪使役~蛇~lvー≫

☆≪魔女の素養lvー≫

----------------------

☆≪メルヘンマジックlv9≫

 魔女のみが使える魔法。見た目はメルヘンだが、強力な魔法を使えるようになる。

 使用可能魔法

 ラブリーアロー、パンプキンボム

 ラブラブファイヤー、ラブリーストリーム

 プリティーガード、ヘルパンプキン

 マジカルフライ、マジカルテレポート

 キューティーヘアー、ウィッチカース

 キラキラドレイン

----------------------

☆≪キラキラドレイン≫

 相手の精神力を奪う魔法。

 ただし、相手に触れないといけない。

----------------------




 使い道があるような、ないような魔法だ。


 そもそもメルヘンマジックは他のスキルと比べて非常に上がりやすい。

 まあ、魔女のみが使える魔法だから魔女は上げやすいのだろう。


「またダサい名前だねー。どんなの?」


 ちーちゃんはもう慣れたのか、呆れもしなければ、笑いもしない。


 せめて、笑ってー。


「相手の精神力を奪える。実に地味だ」


 これがメルヘンマジックのレベル9?

 ハズレすぎん?


「メルヘンマジックは威力が高いから精神力を食う。だから有用な魔法なんだよ」


 メルヘンマジックを推すシロが有用性を教えてくれる。


「なるほど。でも、今はマナポーションが使い放題だから不要な魔法なわけだな?」

「そうだな」


 こらー!


「ダメじゃん」

「そんなこと言ったって、お前が前衛スキルを上げるのは非効率だし、だからと言って、今さら普通の魔法を覚えてどうすんだよ」


 確かに、ちーちゃんもカナタもいるから今さら感はあるけども。


「まあ、そのうち、使える魔法になるよ。あんたはマジカルテレポートがあるし、魔法をめっちゃ使うでしょ」


 俺は今回のミッションでは、40階層に飛んだり、全員にプリティーガードをかけたり、モンスターにウィッチカースをかけたりと、見えないところでめっちゃ魔法を使っている。


 もし、マナポーションがなければ、ここまで出来ない。

 今後の攻略で使える魔法なんだろう。

 まあ、髪を伸ばすよりは有用だと思う。

 そう信じたい。


「50階層攻略、間に合いますかね?」


 カナタが聞いてくる。


「期間はあと半分残っているし、間に合うんじゃね? しかし、間に合わんかったら2ヶ月に1回しか戻れねーんだよなー。もうちょっと戻りたいわ」


 せめて、1週間に1回くらいがいい。


「ずーっと思ってたけどさ…………あんた、トランスバングルを手に入れたら男に戻る気あんの? 前はトランスバングルを手に入れたら女になることはない的なことを言ってたけど。このままだと、あんた、基本そのままでいそうなんだけど」


 うーん、別にどっちでもいいなー。

 生理前とシズルに会う時だけ、男に戻ればよくね?


「まあ、その時の気分でいこう」


 男だろうが、女だろうが俺は俺。

 ってか、魔女じゃないと、マジカルテレポートが使えねーし。


「ダメだこりゃ」

「もう戻れないか……」

「大丈夫。私は理解があるから」

「さよならセンパイ。そして、ようこそお姉さま」

「僕はどっちの神条さんでもいいと思いますよ」


 そんなに気にすることかねー。





攻略のヒント


「≪モンコン≫って何ですか?」

「モンスター偏愛者だって。私はスーパーアイドルあきちゃんがいいと思うんだけど」

「………………」

「え? ダメ? じゃあ、神ブロガーあきちゃんは?」

「…………ありがとうございましたー」


『二つ名の由来を聞いてみよう~春田秋子~』より

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[一言] このキラキラドレイン、キューティーヘアーとのコンボが出来そうな気がする……
[一言] 髪の話で思い出したけど髪を伸ばして巻き付ければテレポート出来ない?
[良い点] さよならルミナ君……こんにちはルミナちゃん……(やったぜ)
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