第171話 やあ、また会ったね
ダンジョン攻略に向け、協会に集まった俺達はダンジョンに入った。
そして、40階層に転移するために、俺は集団痴漢に遭ってしまった。
「いつまでそうしてんだ? 早くしろよ」
サエコが俺を見下ろし、急かす。
「お前…………この人数を40階層まで飛ばすのに、どれだけの精神力を使うと思ってんだ」
あー、気分わりー。
「ったく……」
サエコは呆れたように首を振る。
今度からこいつは歩かせようかな?
「しかし、すごいね。ここまで来るのに3日、4日はかかるのに、あっという間に着いた」
≪Mr.ジャスティス≫は感心したように言う。
「ホントな。ずるいわー。これが終わったら、今度の探索ではこいつに運んでもらおうかな」
「僕もそうしようかな」
こいつらは俺を労わることをせんのか……
「1階層ごとに1000万な。40階層なら4億」
「高っ!」
「ホント、強欲な小娘さんだな、お前」
「断わってんだよ。めんどくせーから」
俺は暇じゃないの!
エクスプローラが何で運び屋せにゃならんのだ。
「転移魔法って、他にないかな?」
「魔女になれよ。楽しいぞー」
「いや、僕は男のままがいいし、君みたいにはなれそうにない」
≪Ms.ジャスティス≫でいいじゃん。
すげーださいと思うけど。
「そもそも魔女は嫌だわ。絶対にカオスだろ」
サエコが決めつけてくる。
「うるせーよ」
カオスって、ラスボスの名前みたいで嫌だな。
「私もカオスね」
ショウコもカオスらしい。
まあ、こいつは悪役令嬢だし、きっと悪いジョブなんだろうな。
「あ、俺も」
クーフーリンもカオスのようだ。
知ってる。
チンピラだもん。
「あきちゃんもだよ」
絶対にそうでしょうね。
あきちゃんがカオスじゃなかったら誰がカオスなんだって話。
「私もです」
キララもらしい。
「キララさんも、ということは、ユリコさんもか…………君らって、カオスばっかだね」
≪Mr.ジャスティス≫がさりげに俺達第2世代を貶めてくる。
「いや、私はオーダーだから。こいつらと一緒にすんな」
サエコはオーダーのようだ。
まあ、こいつは騎士様だからオーダーっぽいな。
「なあ、シロ。≪グラディエーター≫って、オーダー?」
俺はちょっと気になったので。シロに聞いてみる。
「うんにゃ、カオスだぞ。当たり前だが、≪暗殺者≫もカオス」
えー……
「カオスばっかじゃん」
「そら、お前はそうだろ。自分がなれるジョブを思い出してみろ」
≪剣士≫、≪銃使い≫、≪格闘家≫、≪盗賊≫、≪暗殺者≫、≪あらくれもの≫、≪強盗≫、≪グラディエーター≫、そして、≪魔女≫。
うーん、良さそうなのがないなー。
「今から良い行いをすれば、オーダーになれるかな?」
「無理。だって、お前が良い行いを出来るわけねーじゃん」
ひっで……
後輩に優しいお姉さまで有名なのに。
さらにひどいのはカナタを除いた16人がシロの言葉に頷いていることだ。
ゴミ共のくせに、人を不当に評価しやがる。
ってか、シズルさんや…………
「うぜ。お前らはきっと天罰が下るな」
「天罰が下るのはお前だ。もういいだろ。行くぞ」
サエコはそう言って、ボス部屋の扉に歩いていく。
自分だけオーダーだからって、調子に乗ってるな。
俺は仕方がないので立ち上がり、サエコについていく。
このボス部屋への通路は他のボス階層と同じく一本道だ。
そして、前に来た時と同じようにコンクリートのような綺麗な材質である。
俺は懐かしさを感じながら歩いていると、先頭のサエコが扉を開け、中に入っていく。
俺達もそれに続き、中に入っていった。
ボス部屋は広い空間だが、見渡す限り、何もいない。
「何もいないけど……」
先頭のサエコがこちらを振り向き、聞いてくる。
「このまま進めば、出てくるぞ」
以前はそうだった。
エクストラステージにいたズメイもだが、ドラゴン系はそういう演出が好きなんだろう。
いや、知らんけどな。
「よし、じゃあ、さっき言ったように僕達が先行して抑えるから、君達は隙を見て、一気にやってくれ。あ、でも、僕達を攻撃するなよ」
≪Mr.ジャスティス≫が最終確認をする。
「よっしゃ! 俺様の特製爆弾で皆殺しにしてやるぜ!」
ヘルパンプキンで文字通り地獄に送ってやろう。
「怒るよ?」
「冗談だよ。お前らにプリティーガードをかけるから並べ」
俺は一列に並んだ17人にプリティーガードをかけていく。
正直、マジカルテレポートを使った後だからキツい。
「何で色がピンクなんだ? 君の魔法は本当に変わってるねー。まあ、いいか。じゃあ、行ってくる」
≪Mr.ジャスティス≫は笑いながら言い、仲間を引き連れて、部屋の中央に歩いていった。
「シズル、ホワイトドラゴンが出てきたら雷迅で動きを止めろ」
俺は近くにいたシズルに指示を出す。
「いいけど、効くかな? ミノタウロスにはあまり効かなかったけど」
「時間差があるだろうが、かまわん。こんな所で労力も時間も使いたくない」
「わかった。やってみる」
正直、他のエクスプローラがいる前で、シズルを活躍させたくないが、そう言っていられる状況ではない。
まあ、一番引き抜きをしそうなショウコはダンジョン祭の時にシズルの雷迅を見ているから、今さら、勧誘などはしないだろう。
俺はシズルに指示を出すと、サエコ、クーフーリン、あきちゃんの3人と共に先行した≪正義の剣≫の後に続く。
そして、≪正義の剣≫の前に、突如として六芒星の魔法陣が現れた。
六芒星は光りだし、そこから体長20メートル以上の巨大な白蛇が出現する。
シロの友達、ホワイトドラゴンである。
久しぶりー。
ホワイトドラゴンが出現すると、≪正義の剣≫は≪Mr.ジャスティス≫を先頭に走り出した。
ホワイトドラゴンはそんな≪正義の剣≫を一瞥すると、大きく息を吸った。
直後、ホワイトドラゴンの口から白いブレスが吐かれる。
しかし、俺のプリティーガードを受けた≪正義の剣≫はブレスをものともせずに、突撃した。
「ギュー!」
ホワイトドラゴンさんは前に聞いたマヌケな鳴き声を発しながら尻尾で薙ぎ払う。
だが、≪正義の剣≫のおっさん共は協力して、強烈そうな薙ぎ払いを盾で抑えた。
「あいつら、本当に防御重視だな」
クーフーリンは≪正義の剣≫とホワイトドラゴンの戦いを見て、感想を漏らす。
「よくやるよな。敵の攻撃を受けようと思う神経がわからん」
俺なら絶対に嫌だ。
「勇気はすごいけどね。あんな怪物に立ち向かえるんだから」
サエコには絶対に無理だろう。
騎士系ジョブのくせに、防御はてんでダメ。
「あきちゃんはあの人達のことを尊敬してるけど、絶対になりたくはないねー」
俺達は改めて≪正義の剣≫の戦い方を見たが、すごいし、強いとは思うが、参考にする気はなかった。
「いや! しゃべってないで、早く攻撃せんか!!」
おっさんAが俺達の方を向き、怒鳴る。
「どうする? 誰が行く?」
サエコが俺達に聞いてくる。
「ってか、あいつらが邪魔でデストロイヤーが放てん」
絶対に巻き添えを食うな。
「俺もゲイ・ボルグが放てない」
お前、この前、グングニルって言ってなかったか?
ようやく間違えに気付いたのかな?
「あきちゃんもあきちゃんビームが……」
ダサすぎわろた。
「まあ、私も千剣が使えないんだよな……」
サエコのはちょっとカッコいい。
「しゃーない。近づいて刺すかな」
クーフーリンはそう言いながら槍を構え、歩き出す。
「瀬田、ちょい待ち! 様子が変だ」
サエコが何かに気付いたようで、瀬田を止める。
「クーフーリンだっつーに……ん? ホントだ」
クーフーリンは訂正していたが、すぐにホワイトドラゴンの様子がおかしいことに気付いた。
ホワイトドラゴンはフルフルと震えており、目の前にいる≪正義の剣≫を攻撃しようとしない。
「あれはシズルの雷迅だな。マヒして動けないんだろう」
「マジ? あの子、すげーな」
クーフーリンは驚き、感心している。
「フフフ、あげないぞ」
「なんかうっぜ」
「しかし、長くは抑えれないかもしれん。今のうちにやろうぜ」
ミノタウロスを始め、大きい身体を持つ敵は雷迅が効きにくかった。
そう長くはしびれないだろう。
「≪Mr.ジャスティス≫!! そいつはマヒしてる! そこをどけ! 一気に片づける!」
俺は困惑している≪正義の剣≫に叫ぶ。
すると、≪正義の剣≫のおっさん達はすぐに横に退避した。
「死ね、シロ! デストロイヤー!!」
「ひでー」
俺はハルバードを振り下ろし、≪斬撃≫を放った。
「ゲイ――ボルグ!!」
「千剣!!」
「あきちゃんビーム!」
俺が必殺技を放つと、他の3人も続いた。
俺のハルバードから放たれた3つの斬撃がホワイトドラゴンを切り裂く。
さらに続くように、クーフーリンの一線がホワイトドラゴンの胴体を貫いた。
また、サエコが出した無数の剣は某黒ひげさんのおもちゃのようにホワイトドラゴンを串刺しにした。
最後にはあきちゃんのかめは〇波みたいなポーズから出されたエネルギー弾がホワイトドラゴンを襲う。
ホワイトドラゴンは叫ぶことも出来ずに、血だらけで地に伏した。
そして、煙と共に消えていく。
「フッ! 楽勝」
一人だと苦戦したが、皆で協力すればこんなもんだぜ。
「おつかれー。君達は相変わらず、とんでもない火力を出すねー」
戦闘を終えたので、≪Mr.ジャスティス≫がねぎらいの言葉をかけながら近づいてくる。
後ろに下がっていた他のメンバーも集まってきた。
「お前のジャスティスブレイバーみたいなもんだろ」
「僕のはあまり威力がないんだよねー。なんでだろ?」
「二刀流なんだから二刀流で放てよ。しかも、西洋剣のくせに、なんで居合切りで放ってんだ? 意味ねーだろ」
俺は最近、新選組の歴史本を読んだからその辺にはうるさいぞ。
「あー……なるほど。ところで、ホワイトドラゴンがマヒしたのはなんで?」
「ウチのシズルさんの雷迅だな。相手をマヒに出来る」
すごかろう?
ふふ、俺の彼女。
「雷迅? もしかして、Rainさんが忍者?」
「そうです」
シズルが答える。
ってか、見ればわかるだろ。
いかにも忍者っぽい黒装束なんだから。
「へー。すごいねー。ウチに来な――グッ」
俺はシズルに声をかけるバカを蹴った。
人の女に粉をかける悪者は退治だ。
「殴るぞ、コラ」
「蹴る前に言ってほしかったな。冗談だよ。それよりも、これで40階層はなんとかなりそうだね」
絶対に冗談じゃないな。
お前なんぞにやるか。
「これはどうする?」
ドロップした魔石と宝石を拾いに行っていたサエコが戻ってきて、聞く。
「報酬は18人で均等に分けよう」
ドロップ品を受け取った≪Mr.ジャスティス≫が提案してきた。
「いいのか? 正直、俺達はレベルが低いし、総合的に見れば、たいして貢献はしないぞ」
ホワイトドラゴン戦ではシズルも活躍したが、そう何度も放てないし、結局は≪正義の剣≫が一番貢献するだろう。
「今回の仕事はダンジョン探索ではなく、50階層攻略だ。基本的には最短距離で行くし、稼ぎは目的としていないからね」
ふむふむ。
俺的にはもらえるもんはもらうし、≪正義の剣≫のリーダーがそう言っているなら反対はしない。
「私らもそれでいいよ。ウチは混成パーティだから計算や貢献度を決めるのが面倒だし」
意外にも、がめついサエコも賛成らしい。
良いヤツだ。
「じゃあ、それでいくか」
「異論はないね? じゃあ、41階層に行こうか」
俺達は頷き、41階層へ向かった。
攻略のヒント
「今回のドロップ品は均等割りで行こうと思う」
「どうしてだ? 多分、俺達が一番貢献すると思うし、俺達が多くもらうべきだと思うが……」
「それは揉める。絶対に揉める。駄々をこねる人間がいるんだぞ。今回は50階層攻略を最優先にするべきだし、余計な揉め事は回避したい」
「なるほど……確かに、あの強欲な小娘や≪モンコン≫が文句を言いそうだ。わかった」
『≪正義の剣≫の大人な作戦会議』より