第170話 ダンジョンに行こう!
ロクロ迷宮50階層攻略に向けて、≪正義の剣≫、≪ヴァルキリーズ≫、その他と組み、3パーティーによるレイドをすることになった。
その際に問題になったのは、俺達の学校をどうするかである。
特に今回の作戦はマジカルテレポートで40階層まで飛ぶことを前提としているため、俺が昼間にいないのはマズい。
そこで、本部長が学園に連絡して、特別処置を取ってもらうことになった。
俺は本部長が学園長に電話をしている間、必死に祈ったが、やはりダメだった……
今回の作戦期間中は学校に行かなくてもよくなったが、俺達の春休みは消滅する事が決まったのだ。
春休みに補習とテストをするらしい。
まあ、なんとなく、そうなるだろうなーとは予想していたが、すげーショックである。
皆が1年間の学校生活を終え、新学年に向けて、キャッキャウフフしている間、俺達は学校だ。
実に最悪である。
一応、成績に色は付くだろうし、色々と考慮はするらしいが、嫌なものは嫌だ。
ダンジョンの消滅回避のために頑張るのに、その結果、俺達の春休みが消滅する。
不条理とはまさしく、このことである。
俺は本部長からその決定を聞いて、落ち込んだが、トランスバングルを手に入れるためだと切り替えることにした。
話がある程度まとまったところで、その日は解散となった。
時間がないが、今日はもう遅いので、攻略は翌日の午後からとなったのだ。
俺はちーちゃんを寮まで送り、家に帰った。
そして、翌日、朝から仲間を家に呼んだ。
攻略は午後からだが、一応、決まったことの報告と打ち合わせをしておかないといけないからである。
「チサトさんから大体の話は聞いたけど、私達って、足手まといじゃないかな?」
全員が家に集まり、コーヒーを出すと、シズルが話を切り出した。
「どんな敵が出るかわからんからそうでもない。ウチは火力があるから攻撃面では貢献できる。まあ、お前とちーちゃんは偵察要員だわ」
「私はローグだけど、チサトさんも?」
「エネミー鑑定があるからなー。前には出さないけど、敵の情報がわからんと対処のしようがない」
昨日の話し合いでわかったことだが、エネミー鑑定を持っているのはショウコだけだった。
≪正義の剣≫のクランメンバーにもいるらしいが、レベル的に参加は難しいらしい。
「じゃあ、私とチサトさんはモンスターや罠を探せばいいのね?」
「だなー。その辺全般を任せる。まあ、≪正義の剣≫は知らんが、ショウコやクーフーリンもローグが出来るし、気負うことはないぞ」
「わかった」
シズルが頷く。
「じゃあ、ボクらは雨宮さんとチサトさんの援護でいいかな?」
俺とシズルの話を聞いていた瀬能が確認のために聞いてくる。
「だな。まあ、適当にやれ。前衛は≪正義の剣≫だろうし、そんな負担はない……と思う」
俺はそうは言うが、若干、不安である。
「40階層だもんなー」
「最初はそこまで苦戦しないとは思う。≪正義の剣≫は全員レベル40オーバーだし」
「当たり前だけど、すごいな」
そいつらより強い俺はもっとすごい。
「まあ、無理はすんな。帰還の結晶もポーションも協会から支給されるし、危なくなったら逃げろ。俺達は学生だし、誰も文句は言わん」
「わかった。今日は午後からって言ってたけど、いきなり攻略を開始するのか?」
「時間ねーしな。今日は40階層のホワイトドラゴンを討伐する。まず、このボスを倒さんと話にならないからな」
俺のマジカルテレポートの微妙なところは10階層ごとに飛べるが、ボスを倒さないといけないことだ。
ゲームとかだと、ボスは一回限りだが、残念ながらそうはいかない。
地味にめんどい。
「ホワイトドラゴンか……」
瀬能はそうつぶやき、シロを見る。
「めっちゃ強いぞー」
シロはホワイトドラゴンの話題になると嬉しそうにする。
まあ、同族だしな。
「言っておくが、こいつのサイズじゃないからな。めっちゃでかい。ただ、厄介なブレスは俺のプリティーガードで防げる」
「それはありがたいけど、でかいってだけで厄介だな」
まあ、そりゃあそうだ。
でかい=強いだもん。
「だなー。あれ相手にはまともに戦わんほうがいい」
「とりあえず、やってみるか」
「まあ、最悪、俺一人でやるよ。一応、実績はあるし」
楽勝とは言えないけど、一人で勝ったことは勝った。
あれからレベルも上がっているし、≪Mr.ジャスティス≫もいる。
勝てないってことはないだろう。
「きつい1ヶ月になりそうだなー」
「俺はそのあとの春休みが嫌だわ。補習って……」
「それは仕方ないだろ。多分、先生達も熟考の上だと思うよ。ボクらはともかく、カナタ君と柊さんは中等部なんだから」
あー……言われてみれば、そうだ。
義務教育中のカナタとアカネちゃんに学校を休ませて、ダンジョンの深層に連れて行くって、よく考えたらアウトだな。
学園長の権力か、本部長の黒さか……
まあ、どうでもいいか。
「お前ら、参加するって聞いたけど、無理についてこなくてもいいぞ」
俺はカナタとアカネちゃんに確認をする。
「僕も行きますよ。貢献をできるかはわかりませんが、ロクロ迷宮がなくなると困りますし、神条さんが男に戻るチャンスじゃないですか」
カナタはかわいいなー。
「私も行きます。置いていかないでください。ハブは嫌です」
アカネちゃんは悲しいなー。
「お前らは絶対に前に出るなよ。お前らに何かあると、色んな人の責任問題になるから」
多分、色んな人のクビが飛ぶ。
俺も退学になりそうだな……
いや、その時は俺も死んでるわ。
じゃあ、いいか。
「まあ、どのみち僕はメイジなんで、前には出ませんよ」
「私も後ろで大人しくヒールしてます」
そうしなさい。
「さて、じゃあ、そろそろ行くか」
俺はそう言って、立ち上がった。
◆◇◆
俺達は家を出て、協会に向かう。
協会に着くと、もう他の連中は来ていた。
「よう」
俺はリーダーである≪Mr.ジャスティス≫に挨拶する。
「やあ。これで全員揃ったし、ダンジョンに行こうか。ここは目立ちすぎる」
≪Mr.ジャスティス≫はそう言って、ダンジョンに向かう。
確かに、有名どころが揃っているし、他のエクスプローラも俺達の目的が何なのかは理解しているだろうから注目は集まる。
ここはさっさと行くのが正解だろう。
じゃないと、殴りたくなっちゃうもんね。
俺達は先行する≪Mr.ジャスティス≫に続き、ダンジョンに向かう。
18人もいるため、かなり大所帯だ。
こんなにいて、まともに探索できるんだろうか?
俺はちょっと疑問に思ったが、気にせず、ダンジョンへと入っていった。
ロクロ迷宮に入ると、1階層で会議となった。
ダンジョン内だが、ほぼスライムしか出ない1階層では危険などない。
「今、この3パーティで分かれているけど、探索方法を話しておきたいんだ」
≪Mr.ジャスティス≫が話を切り出した。
「実際、レイドってどうするんだ? こんな人数じゃあ、横並びで進めないだろ」
「探索はローテーションで進む。ボスは混合だね」
「ローテーションって、俺らもか? レベル低いぞ?」
「だからだよ。50階層のボスはリビングアーマーやキリングドールを連れているんだろう? どんなのかは知らないけど、混戦になる可能性が高い。だから、なるべく、君らのレベルも上げておきたい。まあ、無理はしない範囲だけど」
なるほど。
「40階層のホワイトドラゴンはどうする? 見たことないんだけど……」
サエコが≪Mr.ジャスティス≫に聞く。
「うーん、どんなの?」
≪Mr.ジャスティス≫が俺に振ってきた。
「でっかい蛇みたいなドラゴンだ。ブレスが厄介だが、これは俺の魔法で防げる。でも、単純にでかいし、見た目よりも素早い。しかも、魔法も効かん」
「さすがに強そうだ……ルミナ君はよく一人で勝てたね」
「防御力はないからな。蛇だけにしぶといが、ダメージが通らないということはない。後衛は下がらせて、前衛でタコ殴りがベストだろう」
魔法が効かないし、巨体だ。
後衛はあまり参加しない方がいいだろう。
「わかった。僕達が抑えるから、サエコさん、クーフーリン君、ルミナ君、春田さんで頼むよ」
「ん」
「任せとけ」
「はいよ」
「あきちゃんの力を見せてやるぜ」
俺達、突っ込むことしか能のない第2世代4人は自信満々に頷いた。
「じゃあ、行こうか。えーっと、どうやって40階層まで転移するんだ?」
「魔法を使うから、お前ら、俺に触れ」
「この人数でか?」
「しゃーないだろ。いいからはよ触れ。あ、変なところ触ったら殺すからな」
「触らないよ」
≪Mr.ジャスティス≫はそう言うと、俺の肩に触った。
すると、他の人間も続々と触っていく。
「もうちょっと向こうに行きなさいよ」
「いや、こっちもいっぱいいっぱいなんだよ」
17人が同時に俺に触るのは難しい。
ダンジョン探索を始める前から揉め始めている。
「あ、今、俺のお尻に触ったのは誰だ!? おいこら、おっさん! お前だろ!? ドスケベめ!」
「触っとらんわ! いいから早く飛べ! おしくらまんじゅうになってるんだぞ!」
「チッ! 集団で痴漢されてる気分だわ。行くぞー。マジカルテレポート!!」
俺は息苦しさを感じながらもマジカルテレポートで転移する。
そして、10階層ごとに順々に飛んでいき、40階層へと到着した。
攻略のヒント
各協会へ
ダンジョン存続のため、期限以内に指定の階層まで攻略を進めること。
また、すみやかに戦力及び物資の状況を把握し、報告すること。
ダンジョンの維持を第一目標とするため、援助は惜しまない。
また、自衛隊の派遣も検討する。
『ダンジョン省から各協会への通達』より