第165話 第2フェーズ
この世界にダンジョンが出現した。
これは多くの国を救った。
ダンジョンが出現する以前は、地球の資源が底を尽きそうになり、世界中の国々が戦争を起こす一歩手前だったからだ。
ダンジョンは危険である。
物理法則を無視したモンスター、殺す気としか思えない罠、長い迷宮。
多くの犠牲者を出した。
今なお、毎年のように犠牲者は出る。
しかし、ダンジョンは必要だ。
モンスターからドロップできる魔石、宝箱にあるアイテム。
これらは世界を救った。
あれから10年以上が経つが、もはや人類はダンジョンなしでは生きられないだろう。
これはほとんどの人間の共通認識だ。
俺が何故、今さらこんなコラムみたいなことを思っているかというと、先ほど、とんでもない言葉が聞こえたからである。
◆◇◆
俺はシロに言われた通り、仲間を呼び出し、協会にやってきた。
「急にどうしたの? ってか、もう退院したの?」
俺の仲間の1人であるシズルが聞いてくる。
「元々、ケガもしてねーよ。さっき病院から追い出された」
ちょっとムカついた。
「ふーん。まあ、それはどうでもいいけどさ。急にダンジョンに行くとか、何を言ってるの?」
急に呼び出され、不機嫌そうな顔をしているちーちゃんも聞いてくる。
この場にいるのは、シズルとちーちゃんだけだ。
あとの3人は用事があり、行けないと言われた。
なお、シズルは二つ返事で来てくれた。
良い子だね。
ちーちゃんはすげー文句を言ってきた。
それでもちゃんと来てくれるあたり、ツンデレさんだ。
「いや、俺もわからん。シロが言いだしたんだよ」
「シロ?」
「何かあんの?」
シズルとちーちゃんは俺の肩にいるシロを見る。
「まあ、ダンジョンに行けばわかる」
こいつ、本当にはぐらかすのが好きだよな。
「よくわからんが行ってみようぜ」
ダンジョンに行けばわかるって言ってるし、考えてもわからない時は行動だ。
「この3人で? 危なくない?」
「あたし、死にそう…………」
シズルは心配そうに言い、ちーちゃんは嫌そうだ。
「奥までは行かない。1階層でいいそうだ」
「ふーん」
「まあ、それなら……元々はこの3人だったしね」
懐かしいなー。
あの時はちーちゃんを仲間にしようと必死だった。
最終的には、俺の人徳で仲間になってくれたのだ。
俺は懐かしい気持ちになったが、さっさとダンジョンに行こうと思い、マイちんの所に向かった。
マイちんの所に行き、ダンジョンへ入る申請をすると、反対された。
というか、『病院じゃないの!?』と驚かれた。
俺はちょっと確認したいことがあるだけで、すぐに戻ると言って、説得し、何とか、ダンジョンに入ることが出来た。
俺達は今、ロクロ迷宮の1階層にいる。
ここはスライムがメインの階層であり、たまにゴブリンが出る程度だ。
ハッキリ言って、この階層でやることなんてない。
「おい、着いたぞ。話って何だよ」
俺は肩にいるシロに聞く。
シズルとちーちゃんもシロを見ている。
「まあ、焦るな。いいか? あと少ししたら、お前らの脳内に声が聞こえるだろう。それを聞き逃すな」
はい?
声が聞こえんの?
電波ちゃんになるの?
「何それ? 初めてダンジョンに入った時みたいなの?」
シズルが首を傾げた。
「良い線いってるなー。もっと前のやつだわ」
「はじまりの言葉?」
シロのヒントを受け、ちーちゃんが答えた。
はじまりの言葉とは、初期にダンジョンに入った人間全員に聞こえた言葉である。
ダンジョンやモンスター、もしくはジョブやスキルなどの説明をしていた言葉だ。
これは協会のホームページを見れば、いつでも確認できる。
「お前は頭がいいなー。ほれ、来るぞ。絶対に聞き逃すなよ」
「ちーちゃん、よくわからんが、一語一句覚えろ」
俺は重要なことだろうと判断し、ちーちゃんに指示を出す。
「わかった」
わかっちゃったよ…………
結構な無茶ぶりだよ?
俺は相変わらずなちーちゃんに呆れていると、耳がキーンとなった気がした。
そして………
『只今を持って、全ダンジョンの攻略進度が10パーセントに達しました。これより、第2フェーズへ移行します』
ん?
10パーセント?
俺はよくわからない言葉に困惑するも、聞き逃さないようにする。
『第2フェーズでは、ダンジョンの選定を行います。各地にダンジョンが出現しましたが、不要なダンジョンも多くあるため、それらのダンジョンを消滅させます。現在、未発見なダンジョンは今、この言葉を以て消滅しました。また、攻略進度が一定の基準に満たない進度のダンジョンを30日以内に消滅させます。基準については、各ダンジョンにいる人間に伝えます――――――このロクロ迷宮においては、30日以内に60階層のボスを倒すことを条件とします。倒す人間はどなたでも構いません。60階層攻略を以て、必要なダンジョンと判断します』
1ヶ月以内に60階層を行けって?
無理言うな、ボケ!!
『――今、ボケとほざいたあなた。怒りますよ?』
「ルミナ君!」
「ルミナちゃん!」
シズルとちーちゃんが俺を睨む。
決めつけんな!
いや、俺だけど……
でも、無理くね?
一番進んでいる≪Mr.ジャスティス≫でも39階層だ。
どう急いでも無理だよ。
神様ー、無理でーす。
でも、このダンジョンはちょー必要でーす。
『じゃあ、50階層にします。頑張ってください』
お!
言ってみるもんだ。
もう一声!
40階層にしようよー。
『いや、40階層だと、もうあなたが到達してるじゃないですか。ダメです』
じゃあ、50階層に到達したらトランスバングルをちょうだい。
『強欲な人間ですねー。今からクリアした報酬を伝えるところだったのですが、強欲な小娘がうるさいので、ロクロ迷宮の50階層攻略報酬はトランスバングルにします』
やったー!
神様ー、ありがとう!
『その謙虚な心が大事ですよ。私は神様ではありませんけどね』
あっそ。
ついでに、金もくれよ。
『金って…………そこの2人、その強欲の塊みたいな魔女を黙らせなさい』
「ルミナ君、黙ろっか」
「あんた、よくそんな要求ができるね」
チッ!
じゃあ、黙ってまーす。
ってか、しゃべってねーし。
『また、ダンジョンにおけるルールを説明します――――』
神様じゃない人は何かルールを説明しだした。
内容ははじまりの言葉の追加説明のようだ。
俺も聞いているが、特に気になることはない。
まあ、あとでちーちゃんにまとめてもらって見返せばいいだろう。
そんなことよりも50階層でトランスバングルが手に入る。
本来なら、もっと奥にあるであろうアイテムが50階層で手に入るのはチャンスだ。
しかし、50階層って難しいな。
≪Mr.ジャスティス≫に行かすか…………
『――以上となります』
お、終わったみたいだ。
しつもーん!
トランスバングルって、他の迷宮にもあるんですかー?
『ホントにうるさい小娘……トランスバングルはこのロクロ迷宮にしかありませんので、頑張ってください』
じゃあ、50階層に行けず、このダンジョンが消滅したらヤバいじゃん!
男になるジョブとか、スキルはないんですかー?
『ないです! もう質問は受け付けません! いいですね?』
うーん、どうしようか……
50階層は厳しいなー。
『無視かい…………』
聞いてる、聞いてる。
『では、これで終了します。頑張ってください――なお、この後、上位ジョブを持つ者だけに、お知らせがあります』
上位ジョブ?
レアジョブのことかな?
『上位ジョブは――』
レアジョブだよ!
皆、そう呼んでる!
『うるさいクソガキだな…………レアジョブは一般的なジョブとは違い、特殊なジョブです。レアジョブは主に3種類に分類されます。一つはニュートラルです。これは努力をすれば、誰でもなれるレアジョブになります。もう一つはオーダー。これは秩序という意味であり、よき行いをし、規律正しい人間に与えられます。普段からの心がけを大事にしましょう。最後の一つはカオスです。カオスは混沌という意味であり、秩序であるオーダーとは反対の意味になります。どっかの強欲な小娘のような人間がなれます。ならないほうがいいでしょう。ロクな人間にはなりません。ステータスを見れば、ニュートラルなのか、オーダーなのか、カオスなのかをわかるようにしました。確認してください。以上です』
どっかに強欲な小娘がいるらしい。
っていうか、英語はやめてほしいわ。
「終わった?」
俺はシズルとちーちゃんに聞く。
「多分ね」
「あんた、強欲な小娘とか言われてたね」
「心外だわー。ってか、ステータスを見てみるか。お前らもレアジョブだろ?」
「だね」
「あんたは確認しなくてもいいでしょ。ご指名でカオスって言われてたし」
うるせーな。
誰がロクな人間じゃない、だ。
俺はきっとオーダーだろう。
俺はステータスを操作し、自分のジョブを確認する。
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名前 神条ルミナ
レベル33
ジョブ 魔女 超カオス(笑)
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え?
なにこれ?
まあ、百歩譲って、カオスなのはまだいい。
超が付いてるし、しかも、笑われている。
「あたしはニュートラルだね。まあ学者だし、そんなもんか」
「私はオーダーです」
「おー、さすが」
ちーちゃんとシズルは盛り上がっている。
「ルミナ君はカオス?」
「決まってんじゃん。ご指名だよ?」
シズルとちーちゃんがきゃっきゃしながら俺にも聞いてきた。
「いや、カオスじゃなかった……」
俺は自分のステータスを見ながら固まっている。
「え!? 絶対にカオスだよ!」
「だよねー。どれどれ……」
シズルとちーちゃんは完全に決めつけ、俺のステータスを覗く。
「……………………」
「……………………」
シズルとちーちゃんはそーっと俺から離れた。
「しかし、とんでもないことになったね」
「ですね。でも、ルミナ君のおかげで、60階層から50階層に減ったのは良かったです」
「だね。よくもまあ、図々しく要求できるわ」
「とりあえず、協会に戻って、さっきの言葉をまとめましょう。私もある程度は覚えてますので」
「そうしよっか。ルミナちゃん、帰るよ」
絶対に復讐だろ、これ。
神様じゃない人は性格が悪いわー。
『あなたに言われたくないです』
いいから、はよ直せや!
攻略のヒント
レアジョブは以下の4種類に分類される。
ニュートラル 普通のジョブ
オーダー 秩序あるジョブ
カオス 混沌のジョブ
超カオス(笑) ルミナちゃん専用
『とあるノート』より