第016話 陥陣営の元ネタは三国志の高順
-ロクロ迷宮-
前日に続き、再び、ダンジョンの1階層に来た俺達は、ダンジョン内で最終確認を行っていた。
「いいか、さっきも言ったが、今回は俺が前衛でお前が後衛だ。基本的にモンスターは、俺が全部倒す。お前はバックアタックを警戒しておけ」
「カメレオンフロッグは? あれって見えないんでしょ? 私の≪諜報lv1≫では、わからないと思う」
「カメレオンフロッグは無視する。あれは宝箱に張り付くモンスターだ。今回の攻略は、モンスターのドロップ品のみを拾う。宝箱や嵩張る魔石は無視する」
「わかった」
カメレオンフロッグはその名の通り、擬態するカエルのモンスターである。
宝箱を開けようと近づくと攻撃してくるうざいモンスターだ。
「よし、行くぞ。10階層までは一直線で向かう。地図を確認しておけよ」
俺はそう言うと、アイテムボックスの中からハルバードを出す。
これこそが俺のメインウェポンである≪破壊の戦斧≫だ。
ハルバードは槍と斧が一体化した武器のことで重いうえに、扱いが非常に難しい。
俺の≪破壊の戦斧≫は重さが800キロある。
何でこんなに重いかは知らないが、重い分、俺の≪怪力lv5≫と合わせれば、破壊力は並大抵のものじゃない。
俺はこれを担ぐとシズルに目で合図を送り、2階層に向けて、最短距離のルートで走り出した。
走り出した俺達の前にスライムが何回か現れたが、これを無視する。
ゴブリンも一回現れたが、走りながらハルバードで突き刺した。
1階層を軽く突破した俺達は、2階層へとやって来た。
「シズル、この層からゴブリンやビッグラットが出てくる。気を抜くなよ」
「了解!」
俺達は再び、走りだし、3階層を目指した。
ゴブリンが多く出てきたが、俺の敵ではない。
時にハルバードで突き刺し、またある時は蹴飛ばして倒した。
そんなこんなで2階層を突破した俺達は、3階層、4階層と一直線で走り、ついに5階層に到達した。
「ふぅ、シズル、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ。でも、こんなに走り続けているのに全然疲れないのね」
「スキル≪身体能力向上≫のおかげだ。これをレベル1にするだけで、オリンピックに出れるぞ」
まあ、エクスプローラはオリンピックに出られないけどね。
出る気もないだろうが。
俺はシズルを見て、問題なさそうだと、判断すると、休憩を取り止め、さらに奥に向かうことに決めた。
「シズル、この5階層からオークが出てくる。オークはルーキーの登竜門だ。お前、一回だけ戦え」
これまでの敵はエクスプローラじゃなくても武器を持てば、倒せる可能性のあるモンスターだ。
しかし、オークは例え、銃を持ってたとしても絶対に倒せない。
「オークを? 私、レベル2よ。無理じゃない?」
「火遁の術を使え。あれなら一撃だ。これから先はオークを始め、本当の意味でのモンスターが多い。一度倒しておくとおかないとでは、心構えが違う」
恐怖は人の判断を鈍らせる。
例え、シズルが≪度胸≫を持っていたとしても、目の前に死が迫った時、正しい判断が出来るかはわからない。
俺が死亡し、シズル一人になった時にパニックにならず、ちゃんと帰還の結晶を使ってもらわないと困るのだ。
「わかった。やってみる」
「ああ、ヤバくなったら助ける」
「お願いね」
俺はスキル≪索敵≫でオークを探す。
すると、すぐに発見した。
しかも、都合よく一体のみだ。
「見つけた。行くぞ」
「うん」
俺とシズルはオークのいる場所に向かうと、シズルもオークに気がついたのか、いつもの忍法スタイルで構える。
すると、オークもこちらに気づき、こちらに向かって突っ込んできた。
オークのやっかいなところはこの突進である。
勢いのついたその巨体をまともに受ければ、一般人や防御力の低いメイジは、一撃で吹き飛び、お陀仏だ。
シズルはそんなオークに狙いを定めると、火遁の術を放った。
「忍法、火遁の術!」
シズルの目の前に現れた螺旋の火は一直線にオークに向かうと、オークは驚いて躱そうとする。
しかし、突進して勢いがついているオークはこれを躱せない。
そのまま、まともに当たると螺旋の火はオークに纏わりつき、燃え広がる。
オークは何も抵抗できず、一瞬にして灰となった。
相変わらず、恐ろしいほどの威力である。
俺は内心、自分があのオークじゃなくて良かったと安堵した。
「やった! 倒せた」
「おう、見事なもんだ」
シズルはオークを倒したことを喜んでいる。
よく考えたら≪忍法≫を使って敵を倒したのは始めてだ。
「あ、レベルが上がった。スキルポイントは4ポイント」
「やはり、少ないな」
スキルポイントが最小の3ポイントじゃないのは、先ほど、オークを倒したからだろう。
「どうしよう? ≪身体能力向上≫か≪疾走≫かな? それとも貯めておいて≪回復魔法≫を取る? 私達って、2人共、持ってないよね?」
「≪身体能力向上≫を上げろ、もしくは≪疾走≫。≪回復魔法≫はやめろ。お前は適性がないから、必要ポイントが多すぎる。ヒーラーを勧誘した方がいい。今後の課題だな」
ヒーラーがいるといないとでは、パーティーの安定感がまったく違うが、こればかりは仕方ない。
ソロの時は≪自然治癒lv5≫があったから大丈夫だったんだが。
≪自然治癒≫は俺のジョブであるグラディエーターのスキルで、グラディエーターになった初期から持っていた。
----------------------
☆≪自然治癒lv5≫
ダメージを受けても時間経過で回復する。
回復量は自身とスキルのレベルに依存する。
ただし、状態異常及び部位欠損は回復しない。
----------------------
「そうね。でも、私達のパーティーに入ってくれるヒーラーっているかな? うーん……まあ、後で考えましょう。≪身体能力向上≫をレベル3にするわ」
それを言うなよ。
いや、ヒーラーは優しい人が多いから、もしかして……
俺は少ない可能性に希望を抱く。
「よし、行くか。お前も≪身体能力向上≫をレベル3にしたし、ここからはノンストップで10階層に行くぞ」
「りょーかい」
俺達は気合いを入れ直し、再び、走り出した。
再び、奥を目指した俺達は、幾度となく、立ちはだかるオークなどのモンスターをハルバードの餌食にし、順調に6、7、8階層を通過し、ついに9階層に到達し、10階層の階段の前まで来た。
ここまでにシズルはレベルを1つ上げ、レベル4になっていた。
スキルは≪疾走≫をレベル2にしている。
「ついにボスね」
「ああ、ここまでは順調に来たな。お前の調子はどうだ? 違和感があれば、早めに言えよ」
「私は大丈夫。ルミナ君は?」
「俺も問題ない」
「9階層って、ゴブリンばかりだったね。やっぱり、次の階層のボスがゴブリンだから?」
「ああ、そうらしいぞ。ボスの前の階層はそのボスの種類のモンスターがいることが多い。そんな研究をしてるエクスプローラがいたな。モンスター偏愛者のヤツ」
名前は……秋、春……忘れた。
ぶりっ子の痛いヤツだったことは覚えてる。
「へー、色んなエクスプローラがいるんだね」
お前もかなりイロモノだぞ、エロ忍者。
「まあ、変なヤツほど、特殊で有用なジョブになりやすいからな。それよりも、次のボスだが、前に言ったと思うけど、レッドゴブリンとお供のゴブリン軍団だ」
「確か、レッドゴブリンとは相性が良いって言ってたよね」
「ああ、レッドゴブリンは特殊攻撃がないからな。力と力のぶつかり合いになる。俺のほうが強いから負ける要素がない。問題はお供のゴブリンだが、秘策がある」
「秘策? なんか裏技でもあるの?」
「いや、お前の水遁の術で洗い流せば、弱いゴブリンメイジやゴブリンは一網打尽だろ。ハイゴブリンは2、3体しかいないから俺が瞬殺する」
ハイゴブリンは耐えるだろうが、あの滝みたいな水量ならゴブリンや魔法がやっかいなだけで弱いゴブリンメイジは余裕だろ。
「いけるかな? ……いけるか。じゃあ、最初に水遁の術を使うから後はお願いね」
「おう、任せておけ」
作戦を決めた俺達は、ついにボスに挑むことにした。
階段を降りた先は広い円状の広間だった。
その中央に俺達の背丈の倍はある赤いゴブリンが座っている。
≪赤い悪魔≫、レッドゴブリンである。
レッドゴブリンは俺達を視認すると、立ち上がり、片手を上げると、どこからともなくゴブリン達が現れた。
その数は30はいる。
シズルはゴブリン達が現れると同時に忍法スタイルになる。
そして、レッドゴブリンが上げていた片手を俺達に向かって振りおろすと、それを合図にゴブリン達がこちらに向かってきた。
それを見たシズルが≪忍法≫を放つ。
「忍法! 水遁の術!」
すると、ゴブリン達の真上から水が大量に落ちてきた。
ゴブリン達は真上から落ちてくる水にまったく気づかず、そのまま水に叩きつけられてしまった。
ゴブリン達はそのまま流され、あちこちに転がっていく。
転がったゴブリンはハイゴブリン3体を除いて、煙となって消えていった。
「よし、ナイスだ! お前はそのまま下がってろ」
俺はシズルにそう言うと、流されたハイゴブリンをハルバードで叩き切っていく。
ハイゴブリン程度では俺のハルバードは防げず、3体とも一撃で死んでいった。
それを見ていたレッドゴブリンは雄叫びを上げて、俺に向かってくる。
俺はここで必殺技を繰り出すことにした。
俺はハルバードを頭上に構えて、風車のように回転させると、レッドゴブリンとまだ距離があるにもかかわらず、そのままレッドゴブリンに向けて振り降ろした。
「デストロイヤー!!」
俺がかっこよく技名を叫んで、振り降ろすと、振り降ろしたハルバードから衝撃波のような斬撃が5つ現れ、レッドゴブリンを襲った。
斬撃がレッドゴブリンに当たると、レッドゴブリンはバラバラに切り裂かれ、煙となって消え、宝石を残した。
これは、俺のスキル≪斬撃≫である。
≪斬撃≫は武器から衝撃波を出すという、とてもカッコいいスキルだ。
この≪斬撃≫と力が上がる≪怪力≫、そして、≪破壊の戦斧≫の攻撃力を合わせた一撃はどんな敵でも倒せる(と思う)。
この必殺技と破壊力こそが、俺の二つ名≪陥陣営≫の由来である。
「おし! 見たか、シズル!」
「見たよー。すごかったね」
俺が興奮してシズルに問いかけると、入口のほうに待避していたシズルが近づきながら答えてくれる。
「お前の水遁の術も良かったぞ。大量の雑魚は水遁で倒し、強いヤツは火遁で倒す、だな」
「ありがとう。もうちょっとレベルが上がったら安定して使えるんだけどね。あ、そういえば、またレベルが上がった。今度は5ポイントもスキルポイントがあるよ」
「ゴブリン共を倒したからだな。スキルは何にするんだ?」
「ううん。今回は上げない。次のレベルアップで8ポイントを越えるから、その時に≪投擲≫を覚える」
「≪投擲≫かー。いいかもな。俺が完全に前衛だし、お前は前衛と後衛ができる遊撃タイプを目指すほうがパーティー的には良いな」
「うん。今後、他の人が入るとしても、ルミナ君がいれば、前衛は安定するでしょ? だから私は遊撃タイプにするよ」
パーティーのことを良く考える副リーダーだな。
偉い、偉い。
「よし、あっ、そういえば、レッドゴブリンが宝石を落としたな。宝石は高く売れるから拾っておこう」
「だね」
シズルはそう言って、宝石を取りに行く。宝石を拾ったシズルは、宝石をアイテムボックスに入れた。
「よし、それを売って、後でお母さんの快気祝いするぞ」
「うん。ありがとう」
シズルは嬉しそうに笑った。
好感度アップだぜ。
「いよいよ、ランダムワープに行く。ランダムワープは階段を降りてすぐだ」
「うん。あと少しだね」
俺達は階段を降り、11階層のランダムワープに向かった。
攻略のヒント
ダンジョンにパーティーとして入れる人数は6人までであるため、効率的なパーティーを組むことが推奨されている。
おすすめの編成はアタッカー、タンクの前衛2人、ヒーラー、メイジの後衛2人である。
残りの2人はパーティーの好みだが、私は補助系1人と遊撃系1人を推す。
この組み合わせなら、どんな敵にも対処でき、安定した結果を残せるだろう。
『週刊エクスプローラ とあるエクスプローラ評論家』より