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第155話 亀と聞くとめっちゃ弱そうに感じる


 貴重な日曜日に定期検診を受けた。

 結果は多分、問題ない。


 そして、その後にシロにガトーショコラを作る約束をしたため、俺は約束通り、バレンタインデーの前日にガトーショコラを作ってやった。

 出来はまあまあといったところである。


 俺はせっかくだし、明日来る仲間にもやろうと思い、かなりの量を作ったのだが、一つも残らなかった。

 作れば、作るほど、片っ端から白蛇が食べていくのだ。

 俺は負けじと夜遅くまで作ったが、結局、材料が尽きるまで食べられた。


 こいつの何がそうさせるのかはわからないが、実に食い意地のはったモンスターだと思う。


 俺は疲れたので、風呂に入り、そのまま就寝した。


 そして、翌日の土曜日。

 今日は待ちに待った30階層のボスに挑戦する日である。

 仲間達との話し合いの結果、午前中に俺の家に集まり、午後から30階層に挑むこととなった。


 俺は朝10時集合の約束であったため、8時半には起き、迎える準備をする予定だった。


 しかし、起きたのは10時前だった。


「てへ」

「いいから着替えな」


 一番最初に家に来たちーちゃんに呆れられてしまっている。

 俺はちーちゃんのチャイムで起きたのだ。

 ちなみに、シロはまだ寝ている。

 なにせ、昨日寝たのは夜というか、朝の3時だ。


「悪いけど、適当に飲み物でも飲んでて」

「そうする」


 俺はちーちゃんなら勝手にやるだろと思い、洗面台で顔を洗う。

 そして、ジャージから外出着に着替え、鏡台の前に座り、櫛で髪を必死にとく。

 すると、再び、チャイムが鳴った。


「ちーちゃん、出てー」


 俺は俺を呆れながら見ているちーちゃんに出るように言う。


「はいはい」


 ちーちゃんは素直に玄関に向かった。


「おはよー」

「おはようございまーす」


 来たのはシズルとアカネちゃんだ。


「よう。寒かっただろう。ちーちゃん、暖かいものを出してあげて」

「はいはい」

「あ、手伝います」


 俺がメイドのちーちゃんに命じると、シズルもメイドになった。

 もちろん、いつものように、一番年下のアカネちゃんは一切、手伝わない。


 いい根性してるわ。


「センパイ、もしかして、今、起きたんですか?」

「そう」

「だから、今、髪をといてるんですね、この前も思いましたけど、時間かけすぎでは?」

「うっさい。この髪は俺の自慢なんだよ」

「まあ、そんな気はしてましたけど…………」


 俺が髪をといていると、再び、チャイムが鳴った。


「ほれ、メイドC、行け」

「誰がメイドですか……喜んでメイド服を着てたのは自分のくせに」


 アカネちゃんはぶつくさと文句をたれながら、玄関へと向かう。


「遅くなりましたー」

「悪いな」


 来たのはカナタと瀬能だ。

 時計を確認すると、10時を5分ほど過ぎている。


「気にすんな。誰にでも遅れることはある」


 俺、優しい。


「見ての通り、一番のねぼすけさんがこちらにおわすご主人さまです」


 嫌味な後輩メイドだわ。


「今、起きたのか?」


 遅刻野郎の瀬能が聞いてくる。


「まあな。ちょっと待ってろ。今、女子力アピールに必死な女二人がコーヒー淹れてるから」

「それはお前だろ」

「センパイ、いつまで髪をといているんです? 長いから時間がかかるのはわかりますが、もう十分でしょ。それ以上は枝毛になりますよ?」


 俺はアカネちゃんの言葉を聞いて、すぐに櫛を置いた。

 髪をとき終えた俺は、髪留めで後ろ髪をまとめる。


「こんなもんかなー」

「はいはい、きれいですよー。もういいでしょ」


 急かす後輩だなー。


 俺は髪をまとめ終えると、鏡で自分の目の下にクマがないか、確認する。


 化粧は…………必要なさそうだな。

 まあ、今日はダンジョンだし。


「おまたー」

「はいはい。ルミナ君が寝坊するのは珍しいね。なんだかんだで遅刻もしたことないのに」


 俺が準備を整え、皆と同じテーブルにつくと、人数分のコーヒーを淹れてきたシズルが言う。


「そういえば、あんたって遅刻しないね。待ち合わせでも早く来るし」

「言われてみれば、そうだな」

「センパイって、遅刻魔じゃないんですか?」

「良いことじゃないですか」


 皆、ようやく俺が遅刻をしないことに気付いたようだ。

 ここまで、半年も経ってるんですけどね。

 イメージって怖いわ。


「俺は真面目だから」

「あんたが真面目っていうのには素直に首を縦には振れないけど、今日はどうしたのさ?」


 回りくどく言う女。

 素直に不真面目って言えばいいのに。

 お前の長いあだ名に嫌味を追加するぞ。


「昨日、遅くまで、ガトーショコラを作ってたんだよ。せっかくだから、お前らに振舞ってやろうと思ったのに、シロが全部食べた」


 そんなシロはベッドでとぐろを巻いてお休み中。


「ああ…………だから、この部屋は甘い匂いがするんだな」

「シロは良いヤツだねー」

「………………ですね」

「うっ……ガトーショコラ…………ホノカちゃんもお兄さんも嫌い」

「神条さんは何でも出来るなー」


 女性陣の反応が微妙によくわからん。

 特にアカネちゃんはどうした?

 頭を抱えて、不穏なことを言っている。


「なんか俺、悪いことしたかな?」


 俺はカナタに聞く。


「さあ? そういえば、今日はバレンタインでしたね」

「お前、いくつもらったん?」

「いえ、別にもらってませんよ。今日は土曜ですし」


 なんだ、つまらん。

 カナタのビターであまーいコイバナを聞こうかと思ったのに。

 ちなみに、瀬能は聞かない。

 あいつはビターすぎる。


「あ、これあげるよ」


 ちーちゃんはそう言って、チョコを取り出した。


「なんで、コアラのマー〇?」

「おいしいじゃん」

「お前、時たまにかわいいところを出すよな。キャラが崩れるだろ」


 こいつは何を考えて、コアラのマー〇を買ってきたんだ?

 まず、チョコだけど、チョコっぽくないだろ。


「いらないなら食べなくていいよ」

「いや、もらう。朝飯にする。あ、そうだ、そこにあるチョコを食べてもいいぞ」


 俺は棚を指差す。


「これ? 外国のっぽいけど」


 シズルが立ち上がり、チョコの箱を取った。


「うん。ユリコからもらったオーストラリア土産。あいつ、1ヶ月もバカンスしてたんだと」

「1ヶ月も? すごいねー」

「ってことは、あの人が帰ってきてるのか…………こわ」

「センパーイ、どうにかしてください」


 前にユリコが言っていたが、面識のないちーちゃんやアカネちゃんまで、この拒否反応だ。

 あいつが東京本部で活動(意味深)するのは厳しいだろう。


「あいつは大阪に行くと思う。逃げた高橋先輩には悪いが、煽っておいた」

「あんた最低だね。でも、よくやった」

「ひどいね。しょうがないけど」

「まあ、純愛ですよ」


 こいつらにここまで言わせるユリコってすげーな。


「まあ、あいつはこれで大丈夫だろ。そろそろ、本題に入るかね――ボリボリ」


 コアラのマー〇って、久しぶりに食べると、うめーな。


「だねー。30階層のボスはタートルゴーレムだったよね」


 シズルもチョコを摘まみながら相槌を打つ。


「タートルゴーレムは体長が5メートルを超える巨大な亀だよ」


 出たな! 妖怪、説明大好きマウント大好き女。

 ってか、亀、でか!


「亀か…………遅そうだな」

「でも、堅そうですー」

「ボスだし、今までのようにはいかないでしょうね」


 絶対に調べてないだろう瀬能、アカネちゃん、カナタはそれぞれ巨大亀の想像をする。


「俺も≪Mr.ジャスティス≫とサエコに聞いてみたんだが、かなり堅いみたいだ。しかも、火を吹く」


 初めて30階層のボスを倒したのは≪正義の剣≫だが、サエコ達≪ヴァルキリーズ≫もすぐに30階層を突破した。

 今は両クランともに40階層に届こうとしているらしい。

 もっとも、40階層のホワイトドラゴンを最初に倒したのは俺だがね!


「弱点はないのか?」

「ないのか?」


 俺は瀬能に聞かれたため、ちーちゃんに振った。

 そんなもんは聞いてない。


「弱点が特にないんだよ。だから、≪正義の剣≫も≪ヴァルキリーズ≫も苦労したみたい。攻撃力はさほどなんだけど、長期戦で徐々に削られていくらしい」


 めんどいなー。

 

「それって、私達に勝てます?」


 ビビりなアカネちゃんは不安そうだ。


「ウチは火力に特化したルミナちゃんとシズルがいるからねー。瀬能が引き付け、カナタが牽制する。そして、ルミナちゃんとシズルがトドメだね」

「私達は?」

「見学」

「重要な仕事ですねー」


 まあ、俺達の場合は長期戦だと勝ち目がないから速攻を仕掛けるしかない。

 だから、ヒーラーはいらないと言えば、いらないけど、なんかしろよ。


「いや、参加しろよ」

「冗談だよ。あたしは攻撃魔法を使う。アカネは瀬能を注視しな。いくら瀬能でも巨体の亀が相手だ。もし、デコイが使える瀬能が死んだらあたし達も死ぬからね」

「はーい」


 レベル的には多少、不安があるが、多分、勝てると思う。

 ≪正義の剣≫や≪ヴァルキリーズ≫が苦戦したのは、あいつらの火力不足が原因だろう。

 ≪正義の剣≫で一番火力があるのは≪Mr.ジャスティス≫だが、あいつはタンクも兼ねているから、火力がそこまでない。

 サエコはそもそもスピードタイプ、ショウコも火力は高くない。


 その点、ウチは火力特化が2人もいる。


 俺はパワーと魔法の火力特化だ。

 っていうか、それしか能がない。


 シズルは防御力や耐久力は皆無だが、忍法の攻撃力は≪Mr.ジャスティス≫を凌ぐ。


 稼ごうと思えば、当然、≪正義の剣≫や≪ヴァルキリーズ≫の方が稼げるだろうが、ボス戦だけを見れば、俺達の方が勝っているのだ。


 火力万歳!


「気を付けろよ。攻撃力がたいしたことないと言っても、それは、≪正義の剣≫や≪ヴァルキリーズ≫の情報だ。相手は30階層のボス。お前らのレベルを考えると、瀬能は持つだろうが、お前らは一撃で死ぬぞ」


 俺は瀬能以外のパーティーメンバーに忠告する。


「わかってるよ。そもそも、あたしはオークの攻撃でも死ぬし」

「あ、私もですね」

「私もかなぁ?」

「僕もそんな気が…………」


 不安になってきた…………

 紙耐久しかおらん…………


「瀬能、頑張れ!」

「まあ、いつも通りだよ。ボクは死んでもいいから絶対に倒せよ。虫エリアを通過するのは今日を最後にしよう」


 自分の死をかえりみないこの覚悟!

 瀬能先輩、主人公っぽい!


 まあ、虫が嫌なだけだけどね。

 めっちゃわかるわー。


「じゃあ、行くか!」


 俺達はついに30階層のボスに挑むため、協会へと向かうために立ち上がった。



 シロさん…………そろそろ起きな。

 君、前に睡眠は必要ないって、言ってませんでした?






攻略のヒント


宛先  紳士代表

差出人 お肉魔人

件名  クソガキ接触作戦について


おそらく対象者は土日休みを利用してダンジョンに行くだろう。

明日からの土日で接触する。


協会で張り、ダンジョンで接触する予定だ。

 





宛先  お肉魔人

差出人 紳士代表

件名  Re:クソガキ接触作戦について


了解。

マリリンの生まれ変わりの方もなんとか説得した。

 

朝から張ってくれ。



『とあるメール』より

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