第149話 ダウナー系説明大好きマウント大好きサイドテール参謀
今年初の協会で年末の依頼報酬であるマナポーションをもらい、ダンジョンへとやってきた。
俺は早速、もらった魔法袋の中を確認する。
すると、かなりの量のマナポーションが入っていることがわかった。
「ねえ、それ、どうしたのさ? さっき誤魔化すとか言ってたけど」
大量のマナポーションを見たちーちゃんが聞いてくる。
「うーん、何て言って、誤魔化そうかな」
本部長に言うなと言われたが、そもそも仲間がいる状態で、どう誤魔化せばいいんだ?
「何ですか、その茶番? これから言うことは嘘ってことじゃないですか」
アカネちゃんがツッコんできた。
そりゃそうだ。
まあ、正直に言うか…………
「別に怪しいものじゃない。年末に依頼があったって言ったろ。それの報酬なんだけど、うーん、緘口令が敷かれているから詳しく言えないんだよなー。あー、でも、ほら、前にマジカルテレポート使いたかったら1000万円寄こせって言ったじゃん。その依頼だったんだけど、そんな金は払えんから現物で我慢しろって本部長に言われたんだよ」
大筋は間違っていないと思う。
「ふーん。さっきのステータス開示といい、年末に暴行犯の残党が捕まったニュースといい、大体は想像がつくね」
ちーちゃんが推理を始めている。
「ちーちゃん、詮索すんなって」
「いや、こんくらいわかるでしょ。問題はその程度で、あんたに緘口令が敷かれてることだね。重大なことがあったか、協会がミスったか……」
「これ以上は本部長が泣いちゃうぞ」
「ミスったか…………まあ、興味ないからいいや」
だったら、黙ってればいいのに。
これだから賢しいヤツは……
「まあ、神条が解決したって言ってたし、問題ないだろ。それよりも大量のマナポーションはありがたいな。ボクは使わないけど、後衛の魔法が安定するのは良い。それに、神条のマジカルテレポートでかなり使うからな」
瀬能が空気を読まない(読めない)ちーちゃんを遮り、まとめてくれる。
「それそれ。本部長はそう言って、報酬にマナポーションをくれたんだよ」
「真っ当なものなんですね。じゃあ、良かった」
アカネちゃんがホッとしたように言うが、実は横流し品であり、全然、真っ当じゃない。
「あ、お前ら、マナポーションのことは誰にも言っちゃダメだぞ」
「…………この報酬も真っ黒な――」
「それよりも早く26階層に行こう! 遅れちゃったしな!」
瀬能がまたもや、余計なことを言おうとしているちーちゃんを遮った。
「よし、行くか」
「私は何も聞いてません。何も気づいていません。さあ、行きましょう!」
アカネちゃんはちーちゃんと違って空気が読めるなー。
◆◇◆
俺達はマジカルテレポートで20階層まで来ると、ミノタウロスを瞬殺し、21階層、22階層、23階層を最短ルートで突破した。
そして、24階層の虫エリアはカボチャ爆弾を惜しみなく使い、モンスターに遭遇する前に倒し、突破した。
25階層は皆、慣れたものなので、楽に26階層への階段前に到着した。
「26階層からはゴーレムだったな?」
俺はいつものようにちーちゃんに聞く。
「だね。ここから30階層のボスであるタートルゴーレムを含め、全部ゴーレム」
タートルゴーレム?
≪Mr.ジャスティス≫が苦労していたボスだが、いかにも、堅そうだな。
「ゴーレムってどんなのなんですか?」
シズルがさらにちーちゃんに聞く。
「まあ、あんたがイメージしているだろうモンスターで合ってると思うよ。石でできた人形というか、バケモン」
まあ、ゲームやアニメで出てくるゴーレムと大差ないのだろう。
「ゴーレムって、1種類か?」
続けて、瀬能もちーちゃんに聞く。
「普通のゴーレムと武器を持ったゴーレムナイト、あとはカラーゴーレムだね」
「カラーゴーレム? 色でも付いてるんですかー?」
アカネちゃんもちーちゃんに聞く。
「付いてるね。色によって、有効な魔法が異なるんだよ」
へー。
「じゃあ、火魔法が有効だったり、効かなかったりするってこと?」
火魔法と土魔法しか使えないカナタがちーちゃんに聞く。
「まあ、そういうこと……………………ねえ? あんたら、誰も調べてないの? 普通、新しいモンスターが出るんだから調べるだろ」
実にごもっともな指摘ですなー。
「だって、お前が調べるし、教えてくれるんだもん。多分、ここにいる全員、モンスターどころか、地図もロクに確認してないぞ」
「は?」
ちーちゃんは呆れた声を出して、全員を見るが、全員、そっぽを向いた。
俺だって、最初は調べてた。
でも、この出しゃばり女は、人が確認や説明をしようとすると、遮って、べらべらとしゃべる。
しかも、俺が調べた内容よりも詳しい。
そうなると、せっかく調べたものがパーになるので、途中から調べるのをやめた。
多分、皆、同じことを思っている。
「ちーちゃんには参謀の地位をやろう」
「あんたら、あたしが死んだら詰むよ?」
「いや、ちーちゃんが離脱した時点で帰る。だから、瀬能がお前を重視して守ってんだよ。必要なくせに、よえーもん」
瀬能やシズルには、基本的にちーちゃんを守るように言ってある。
アカネちゃんは接近戦も出来るし、カナタは魔法で反撃が出来る。
でも、こいつは攻撃魔法と回復魔法の両方を兼ねているから反撃がおぼつかないのだ。
しかも、トロい。
「いや、情報の共有や一方的な視点では偏るから、皆で調べたほうがいいよ」
「わかった、わかった。これからも頑張れ、参謀。で? カラーゴーレムって? 赤いゴーレムは水魔法が有効なん?」
うだうだと賢しいことを言ってんじゃねーよ。
お前は黙って、べらべらとしゃべってればいいの!
「う、うん。基本的には色で判別するんだけど、その色と同じ系統の魔法が有効なんだよ」
こいつ、本当に押しに弱いな。
「具体的には?」
「赤いゴーレムは火魔法に弱い。青のゴーレムは水魔法。緑のゴーレムは風魔法に弱い。黄色のゴーレムは雷魔法に弱い。茶色のゴーレムは土魔法に弱い。一応、言っておくけど、普通のゴーレムやゴーレムナイトも茶色というか、土色なんだけど、サイズが違うからそれで見極めればいいよ」
嬉しそうに語ってんなー。
普段はダウナーなくせに、こういう時だけ輝いている。
ホント、説明大好きマウント大好きサイドテールだわ。
「ほーん。普通のゴーレムは魔法が効くん?」
「普通って言えばいいのかな? 効かないことはないけど、ゴーレムはスピードがない分、堅いからね」
まあ、そんなイメージだな。
「黄色のゴーレムはどうします? 雷魔法を使える人がいませんよ?」
メイジであり、魔法を担当するカナタが聞いてくる。
「あー……どうしよう? シズルの雷迅が有効だろうが、連発できないし、そもそも攻撃じゃないからなー」
シズルの雷迅は広範囲に敵をマヒする忍法だから、微妙だ。
「雷魔法を取りましょうか? レベルも上がっているし、スキルポイントも余ってます」
こいつらは26階層を来るまでにレベルがさらに上がっている。
特に、シズル、アカネちゃん、カナタは元のレベルが低いので、すごいスピードだ。
「うーん、参謀、どう思う?」
「正直、あんま取りたくないし、取らせたくない。前にも言ったけど、メイジの場合は特化じゃないと火力が落ちる」
メイジは器用貧乏になると、深層には行けない。
どうしても、スキルポイント的に火力不足になるのだ。
20階層までなら、それでもいいが、俺達が目指すのはもっと奥だ。
「しゃーない。ごり押しで行くか」
「だね。あんたに任せる」
俺の爆弾かハルバードが一番か…………
まあ、粉砕してやるか!
「ちなみに、こういう場合って、他所はどうしてるんです?」
シズルは疑問に思ったらしく、ちーちゃん参謀に聞く。
「ここまで来ると、大抵はクランを組んでるからね。パーティーメンバーを入れ替えたり、複数パーティーで行くのが普通」
「俺らにそれは無理だな」
俺のマジカルテレポートを言うわけにもいかんし。
「そっか……ルミナ君、評判悪いもんね」
あれ?
「いや、マジカルテレポートが…………」
「あ…………そ、そうだよね! 言えないもんね!」
このドスケベ女め!
「いや、悪いけど、あたしもシズルと同じことを思った」
「ボクも」
「私もでーす」
「……………………」
こいつら、人を何だと思ってんだ。
まあ、事実だけど!
ところで、カナタ君はどうして、そっぽを向いて、何も言わずに壁を撫でているんだい?
そこには何もないよ?
それで誤魔化してるつもり?
嘘でもいいから、そんなことを思ってませんって言えや。
「こうなったら≪魔女っ娘クラブ≫のクランリーダーになってやろうかな」
「シャレにならないと思います…………」
「神条さん、やめたほうがいいですよ…………」
中等部2人の反応が怖い。
「よし、その辺は考えないようにして、26階層に行くか!」
大丈夫、大丈夫!
『この時の俺は思いもしなかった…………まさか、あんなことになるなんて……』
変なナレーション入れんな!
攻略のヒント
ゴーレムは土人形でもロボットでもなく、立派なモンスターである。
特に弱点もなく、伝承のように一字を消すと、死ぬわけでもない。
見た目通り、鈍重であるが、防御力はかなり高いので長期戦になりやすく、疲弊してしまい、探索を続けることが出来なくなることがよくある。
倒すのに時間がかかる、かつ、鈍重で逃げやすいので、スルーすることも一考したほうがよい。
『週刊エクスプローラ 儲かる? 儲からない? ゴーレム編』より
 




