第132話 ケンカはしない……もっといい方法を≪正義の剣≫から学んだのだ
マジカルテレポートで20階層まで飛び、21階層、22階層を探索し終えた俺達は23階層の途中で引き返した。
そして、23階層の難敵であるヘルホーネットの攻略法の確認のためにあきちゃんを尋ねた。
そんなあきちゃんは新進気鋭で俺達に対抗しようとする第3世代のコンビに敗れたらしい(ついでに、クーフーリンも)。
俺はそんな雑魚2人が気になるものの、学校に行かないといけない。
なぜなら、今日は月曜日。
月曜日だよ…………
俺は学校に行きながら、寒い風を感じている。
今週末は俺の誕生日。
さらに、その先にはクリスマスが待っている。
問題はこのクリスマスである。
クリスマスといえば、家族で過ごすものだろうか…………否!
お姉ちゃんやホノカ、父さんに母さん。
いつも5人で過ごしていたクリスマス。
たまにハムスターもいたが。
ごめんよ。
今年は4人+1匹で過ごしてくれ。
俺は……俺は……彼女(仮)と過ごします!
しかーし! ここで悩み事が一つ。
俺はトランスリングを持っている。
このアイテムは70日に一度、90分ほど男に戻れる。
俺は10月の初旬にこれを使った。
10月の初旬から70日。
そう、クリスマスの時には男に戻れるのだ!
カップルが過ごす初めてのクリスマス。
ね?
わかるよね?
ヤルよね?
が、ここで問題だ。
時間は90分。
ヤルだけなら十分だろう。
だが、クリスマスともなると、ショウコやサエコに貰ったブドウジュースで、ショウコ家から取ってきたワイングラスでチンをする。
さらに、ケーキを食べ、プレゼントかなんかを交換する。
そして、徐々に座っている距離が近づき、手を握り、目を合わせ、キスをする。
あとは流れに任せるだけ!
さて、これだけで、どれだけの時間がかかると思う?
たとえ、そこまで90分もかからなかったとしよう。
でも、している途中で女に戻るの?
想像してごらん?
気まずいどころの話じゃない。
シズルがさめざめと泣き出すレベルだ。
俺はここまで想像して、勇気ある撤退を選ぶことにした。
クリスマスはあえて、健全な感じでいこうと思う。
学生らしいピュアな感じ。
めっちゃ不本意だけどね!!
クソが!!
90分じゃなくて、倍の3時間くらいにしろや、ボケ!!
俺はふぅーと息を吐く。
そうすると、俺の麗しい口から白い息が出る。
俺は空を見た。
フッ……冬だね。
『詩人になれないヤツ……他にないの?』
ないねー。
感性が悪いのかもしれん。
俺は黄昏詩人ごっこに飽きたので、学校へと急いだ。
学校に着くと、俺は自分のクラスに入る。
すると、中にいた体のでかい男を発見した。
土井である。
「よう」
「おう、神条。寒いなー」
土井はハヤト君の≪勇者パーティー≫の一員だ。
つまり、クーフーリンの仲間だ。
こいつならクーフーリンが負けたっていう話を聞けると思ったのだ。
「だなー。お前さ、昨日、クーフーリンが負けたとかいう話を知ってる?」
「あー…………まあ、負けたのか、な?」
歯切れ悪いな。
「何があったん?」
「昨日、俺達が朝からダンジョンに行こうと思ったら、ウチのOBが協会でクーフーリンさんに絡んできたんだ。まあ、あの人だから、すぐにケンカを買ったわけだ」
うんうん。
すごく簡単に想像できる。
「俺達もすぐにヤバいなと思ったんだが、アヤとマヤがクーフーリンを責め始めたんだ。こう……交互に罵倒する感じかな」
うんうん。
前に見た。
「それで、それで?」
「クーフーリンさんもマズいと思ったのか、怒りの矛を収めたんだよ。でも、先輩方はそれでもしつこく絡んできたんで、≪教授≫が勝負を提案してきたんだ」
≪教授≫は止めろよ。
お前は先生だろ。
何を煽ってんだよ。
「それから、それから?」
「先輩方はそれでタイムアタックを提案してきたんだ」
「タイムアタック? ダンジョン祭の?」
「ああ。10階層のボスを先に倒した方が勝ちということで」
まあ、健全な方か……
「お前らって、10階層に到達してんの?」
「ああ、一応な。とはいえ、クーフーリンさんと≪教授≫の提案で今年は無理をせず、ダンジョンに慣れることに重きを置くことにしてるんだ。だから、10階層には行ったが、見てただけ」
思ったより、地に足をつけ、ちゃんとしてる。
確かに、こいつらは才能や実力はあるのだろうが、編入組なため、ダンジョンに慣れていない。
そういうヤツはダンジョン病にかかりやすいのだ。
あのアホで自己中な2人がそこまで考えているとは思わなかった。
「ほーん。俺もそれでいいと思うぞ。お前らは焦らずとも大丈夫。まあ、1年生で10階層まで行くのはかなり優秀だぞ」
「20階層以上のお前に優秀と言われてもな…………まあ、俺達は経験がないから、クーフーリンさんや≪教授≫に従うよ」
うんうん。
頑張れ。
「で? タイムアタックで勝負したの?」
「一応な」
「一応?」
「ああ。勝負が始まったんだが、俺達が足を引っ張ってな。途中から勝負を忘れ、クーフーリンさんの指導が始まった。そして、気が付けば、夕方になり、俺達は7階層で帰還した」
え?
じゃあ、あいつらは?
10階層で待ってたんじゃないの?
「お前ら、何してんの?」
「帰還して思い出したんだ。クーフーリンさんは慌てて、一人で10階層に向かったが、誰もいなかったそうだ」
そりゃあ、10階層なら、かかっても数時間で着くだろうし、朝から夕方まで、ずっと待っているわけない。
「それで?」
「いや、終わり。俺達は謝ろうと思って、探したんだが、見つけることが出来なかった」
つまんね……
クーフーリンがボコボコにされたんじゃないの?
なんか、あきちゃんの方も似たような感じな気がする。
あきちゃんの仲間は新人のキララだし。
「なるほどねー。ありがと」
「微妙な話で悪いな」
こいつの歯切れが悪い理由がわかった。
マジでつまらん。
そこはボコボコに負けとけよー。
何、途中で勝負を投げ出してんだよー。
俺の友人の仇をとる覚醒イベントはないの?
あいつら、マジで小物だわ。
俺の踏み台にすらなれない。
ペッ!
あいつらは今日から負け犬だ。
ショウコにそう報告しよう。
俺は自分の席に戻り、同期のふがいなさと情けなさと使えなさに落胆する。
今日はあいつらのせいで、真面目に授業を受ける気になれんわ……
『……………………』
言いたいことがあるなら言いな。
『真面目に受けたことないじゃん』
はっきり言うな!
『だから黙ってたのに』
ハァ……あいつらもトランスリングも使えねーわ。
◆◇◆
学校を終えた俺は帰宅した。
今日はシズルとちーちゃんが用事があるそうで、ダンジョン探索は中止となったのだ。
俺は暇だなーと思っていたのだが、休んでいると、電話が鳴った。
俺の携帯に表示されている発信者は本部長となっていた。
俺は舌打ちをしながら電話をとる。
『おう、神条』
『なんだよー。悪いことはしてないぞー』
『そっちじゃないが、ちょっと話があるから来てもらえないか?』
何で、俺が行くんだよ。
用事があるのはお前だろ。
『てめーが来い』
『…………家だな? 今から行く』
来るなや!
『てめー、一人暮らしの女子学生の家に来る気か? 怖いわー』
『……いいから来い。お前は人をイラつかせないと気が済まんのか?』
『会話を楽しむ余裕もないのかー?』
『ない。いいから来い!』
まったくユーモアっていうのを知らないのかねー。
俺はしぶしぶ着替え、協会へと向かった。
協会に着いた俺は近くにいた職員に話し、本部長を呼んでもらった。
今日はマイちんが休みなのだ。
戻ってきた職員に本部長室まで案内してもらい、部屋に入ると、税金(?)の無駄遣いっぽい高そうなソファーに座った。
「なんか用?」
「お前の転移魔法について、結論が出た」
結論?
結論なんか最初から決まってるだろ。
「なんだよ」
「お前の転移魔法は公表しないことが決定した。それと、場合によっては、協会を通して、転移の依頼がくるかもしれん。依頼料はその都度だが、お前の要望金額は難しい」
「あっそ。勝手にしな。俺はそもそも依頼を受ける気もねーし」
どうせ、そんなことだろうと思ってた。
こいつらは俺の事を自己中だとかほざくが、こいつらだって、十分に自己中だ。
対価もロクに払わず、人のスキルを便利に使おうとしている。
何で、俺がそんなのに付き合わなければならないのだ。
「まあ、そうだろうな」
「強制依頼とかない?」
「ないな。中世ならいざ知らず、現代の日本でそんなことは出来ん。ましてや、お前はプロだが、未成年だ」
もし、強制依頼って言われたら、マスコミにリークする予定だったのに。
「スタンピードの時になんかなかったけ?」
スタンピードを足止めしろとか、そんなの。
「あれは義務という言葉だ。義務と強制は違う」
そうかあ?
一緒じゃん。
「よくわからん」
「まあ、どちらにせよ、罰則なんかは設けてない。ザルだ。協力すれば、評価が上がるが、破ったところで罰を与えようがない。協会にそんな権限はないのでな」
大人の話はわかんね。
「よくわからんが、マジカルテレポートのことを誰にも言わなきゃいいんだな?」
「そうだ。これはお前のためでもある。前にお前の仲間の斎藤さんが言っていたが、転移魔法の存在が知られて、迷惑を被るのはお前達だぞ。色んなところから熱烈なラブコールを受ける」
「人気者は怖いねー」
ただでさえ、美人さんなのに。
「まあ、わかった。話は終わり?」
「あー、それと、≪クロイツ≫のことだがな。あまり揉めるなよ?」
「≪クロイツ≫って?」
「ん? この前、揉めそうだったと聞いたが……あー、お前の所の卒業生の男女2人だ。パーティー名を≪クロイツ≫って言うんだよ」
へー、中々、カッコいいパーティー名じゃないか。
意味はわかんねーけど。
「あれねー。あれって、俺らじゃなくて、向こうがケンカを売ってるんだわ」
「どういうことだ?」
俺は本部長にショウコからの情報を教える。
「なるほど。お前に嫌味でくれてやった雑誌の記者がね…………」
やっぱり嫌味だったみたい。
「まあ、ああいうのはたまにいるんだが、雑誌を使ってまでは初めてだわ」
「ハァ……第3世代は優秀なんだがなー。そのまま真面目にやってればいいのに。第2世代にケンカを売れば、自分達も同じ目で見られることに気付かないのだろうか……」
「俺は知らね。注意すれば? 絶対に聞かないと思うけど!」
「俺もそう思う。まあ、注意はしておく。お前らもそっち方面じゃなくて、ダンジョン攻略に力を入れてくれ」
「俺はずっとそうしてんだよ。邪魔すんなや」
俺は春から仲間と共にダンジョン攻略を真面目に頑張っている。
変な依頼をよこしたり、スタンピードを止めろって言って、邪魔してんのはお前らだろ。
「お前は男に戻りたいんだもんな。そのまま頑張ってくれ」
「はいはい。じゃあな」
俺は用件が済んだようなので、部屋を出た。
そして、協会のロビーを歩いていると、女6人を見つけた。
そいつらはサエコ、ショウコを含む≪ヴァルキリーズ≫の幹部共だ。
俺はそいつらに近づき、挨拶をする。
「よう。元気かー? あ、サエコにショウコ。この間はありがとな。おかげで雰囲気のあるクリスマスを送れそうだわ」
一番大事なメインイベントはお預けだけど。
「ん? ああ。神条か。気にすんな」
「学生らしくしなさいよ。はっちゃけないように」
サエコとショウコは俺に気付き、挨拶を返す。
「どうもー」
「こんにちは」
「クリスマス頑張ってー」
「彼氏? 彼女?」
≪ヴァルキリーズ≫の連中も俺に気付き、挨拶する。
こいつらは以前の立花の時に面識がある。
回復してもらったし。
「彼女じゃい。お前ら、クーフーリンとあきちゃんの件、聞いた?」
俺はアホなことを言う1名に言葉を返し、サエコとショウコに昨日の負け犬共の一件を聞く。
「聞いた。向こうさんはあんなんで満足なのか?」
「使えな…………ドジな2人よねー。昔から肝心なところでダメなのよ」
ショウコ…………
やっぱりあの2人を完全に下に見てるな。
まあ、気持ちはわかる。
すごくかませ犬なんだもん。
「あきちゃんもクーフーリンと同じ感じ?」
「ああ。新人が足を引っ張ったって愚痴ってた。罰としてレッドゴブリンに突撃させたんだと」
キララって、レベル8のサポーターだぞ。
勝てるわけないじゃん。
鬼だな。
「あわれなキララ。まあ、これであいつらも満足だろ。お前らの所には行かないように忠告しといたし」
「そうかー? こっちにそれっぽい2人組が真っすぐ向かってきてるけど」
サエコが上半身を斜めに傾け、俺の後ろを見る。
俺はそれにつられて、振り向き、後ろを見た。
そこにはサエコが言うように、俺達をはっきり見ながら、こちらに歩いてくる男女の2人組がいた。
もちろん、この前、会った≪クロイツ≫とやらである。
俺はショウコに潰されるんだろうなーと思い、ぼけーっと見ていたのだが、男の方の井上先輩は≪ヴァルキリーズ≫でなく、俺を見ていた。
「よう、≪陥陣営≫。 土曜ぶりだな」
「…………ストーカーはやめてください」
俺は両手を口元に持っていき、震えながら言う。
「いや! いやいや!」
井上先輩は慌てて、否定の言葉を口にする。
周りにいる≪ヴァルキリーズ≫はものすごく冷たい目で井上先輩を見ている。
「ごめんなさい。彼もストーキングするつもりはないの。ちょっと話があってね」
女の方の高橋先輩が前に出てきて、フォローする。
「俺はない。帰る」
「まあ、そう言わないで」
「俺の所に来るなと言ったであろう。 記憶力のない小物共め! クーフーリンやあきちゃんに勝ったくらいで図にでも乗ったか? ヤツらは所詮、落ちこぼれよ」
「何のキャラだよ」
後ろにいるサエコからツッコミが飛んできた。
「お前、先輩に向かって、なんて口の利き方だ!」
ストーカーと責められ、引っ込んでいた井上先輩が怒って出てきた。
「先輩? 俺はお前らの事なんか知らんし、俺の方がエクスプローラ歴は長い。お前らが敬語を使って、敬え!」
「こ、このガキ!」
「ガキはお前だ! 自己紹介もなく、絡んできやがって…………最低限の礼儀も知らんのか」
俺はやれやれと首を振る。
「いや、ホント、何のキャラだよ」
サエコが再度、ツッコむ。
ちょっと黙ってろ。
今、知的キャラやってんだから。
「お、俺は井上ツバサ。ダンジョン学園東京本部のOBだ!」
知ってるー。
「ランクは?」
「でぃ、Dだが……」
「フッ……」
思わず、鼻で笑ってしまった。
「て、てめー!!」
井上先輩はもう少し挑発すれば、殴ってきそうだ。
これを俺は反撃せずに受ける。
そうすれば、こいつは無抵抗の女を殴ったヤツとして、処分できる。
頭脳とはこう使うんだよ。
シロ君、わかるかね?
『さすがだなー。デジャヴっぽいが』
まあなー!
「ツバサ、あなたは下がってて。話は私がするわ」
どうやら、このいけ好かない貧乳女は俺の意図に気付いたようだ。
「クソッ!!」
井上先輩は悪態をつきながら、下がっていく。
ふふふ、トドメじゃ!
「女にケンカを売り、女の後ろに逃げたか…………ぷぷ」
井上先輩の動きが止まった。
そして、こちらをめっちゃ睨みつけてくる。
かもーん。
「ツバサ!!」
井上先輩が拳を振り上げた瞬間、高橋先輩が抱きつき、抑えた。
「離せ、サヤカ!! こいつは殺す!!」
「離せ、サヤカー。そいつは返り討ちにするー」
俺はニヤニヤが止まらない。
「こ、このガキ!!」
「落ち着きなさい!! ≪陥陣営≫はあなたに手を出させようとしているのよ!! 相手の術中に嵌らないで!」
見てて楽しいなー。
「ハァハァ……!」
「お、高橋先輩に抱きつかれて興奮してる?」
「こいつ――!!」
「落ち着いて!!」
うーん、相手に先に手を出させる作戦はもう無理っぽいな。
もういいや。
「話ってなんです? もう帰るところなんですけど……」
俺はロビーにある時計を見ながら聞く。
「ツバサ、あなたは下がってて!! ふう……私達と勝負をしないかしら?」
高橋先輩は一息つき、予想通りの事を提案してくる。
「なんで?」
「え? なんでって…………その、さっき、ツバサと争ってたじゃない?」
「争ってた?」
俺はショウコの方を向き、聞いてみた。
「いいえ。そちらの男性が一方的にルミナを殴ろうとしていただけね」
「だよな」
俺は再び、高橋先輩を見る。
「えーっと、勝負して白黒をはっきりさせた方がよくない?」
「白黒? なんの?」
「どっちが上か、みたいな…………」
「俺が上。せめてCランクになってから言ってもらえます? 身の程というものを知ってください」
雑魚が粋がんな。
「いや、私達ももうすぐCランクだし、もっと上の実力はあると自負してる」
何を言ってるか無茶苦茶だ。
まあ、そもそも、優位性はこちらがはるかに上なのだ。
「そうですか。俺はAランクの実力はあると自負してます」
「てめーがAランクの訳ないだろ」
井上先輩は黙っていればいいのに。
「そっくりそのまま返します。もう帰っていいですか?」
「…………勝負をしましょう……ね?」
ついに高橋先輩も壊れたな。
どう頑張っても理由が浮かばないのだろう。
だって、いちゃもんなんだもん。
「あのー、先輩。俺って、あなた達の後輩なんですよ? たとえ、勝負して、先輩方が勝っても、後輩にイキったOBとしか思われませんよ?」
「え? あー、まあ、そうかも…………」
高橋先輩は混乱している。
「先輩達の気持ちもわかりますが、俺は勘弁してください。先輩達もOBならわかると思いますが、学生は授業があるし、ダンジョン攻略につぎ込める時間がないんです。俺は男に戻りたいんですよ」
「そ、そうだったかもー……」
「ですので、代わりの相手を教えますよ」
「代わり?」
「はい。今週末にここに戻って来るエクスプローラがいましてね。そいつは間違いなく第2世代で最強のエクスプローラなんです」
ある意味ね……
「え? それって、もしかして、≪白百合の王子様≫じゃあ……」
噂を聞いているであろう高橋先輩の口元がピクピクする。
「はい。頑張ってください」
俺は全力のスマイルを高橋先輩に向ける。
「なあ、サヤカ、こいつの言う通り、≪白百合の王子様≫とやろうぜ」
「へ!?」
「クーフーリンと≪モンコン≫に勝ったし、もう、こいつはいいだろ。俺はこいつの顔をこれ以上見たくない」
「え、え、え?」
すかしていた高橋先輩の顔がマヌケ面に変わっている。
「よし、そうしよう! てめーは二度と面を見せんな!」
勝手に結論を出した井上先輩は高橋先輩を置いていき、歩いていく。
高橋先輩はそんな井上先輩に向かって涙目で手を伸ばす。
俺はそんな高橋先輩に近づき、耳元でささやく。
「負けたら餌食だな……」
「ヒッ!!」
高橋先輩は悲鳴をあげ、逃げ出した。
「よし、これで俺の平穏は保たれた」
「よくやった神条! さすがは性格最悪と呼ばれた男!」
「これを≪正義の剣≫は1ヶ月も我慢したのねー。可哀想」
そう褒めるでない。
「思ったより井上先輩が辛抱強かったけどな。あいつが殴ってきたらそれで終わったんだが……」
「それにしても、あなた、冷静だったわね。すぐに殴るかと思ったけど」
「まあ、クーフーリンとあきちゃんを見てるからな。冷静になれた」
ああいうバカを見てると、ああはなるまいと思うのだ。
「これで、あいつらとユリコが共倒れになるのが一番だが…………無理か」
サエコはどちらも消えてくれることを祈っているようだが、難しいだろう。
「どちらにせよ、ユリコは高橋先輩に標的を定める。当分は平和だろ?」
「だな。あの子には尊い犠牲になってもらおう」
「まあ、いい落としどころね。無駄な労力を使わずに済んだとしましょう」
「「「あはは」」」
俺とサエコとショウコは笑う。
「≪陥陣営≫はわかってましたけど、リーダー達もこんなのだったんですか?」
以前、俺に回復魔法をかけてくれたヒーラーが隣の女に聞く。
「私達も第2世代だけど、風評被害がひどいのよ」
「第2世代=この人達だから」
攻略のヒント
≪ヴァルキリーズ≫、辞めようかな…………
『とあるヒーラーの日記』より




