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閑話 めっちゃうざい後輩2人


 その日、学校が終わったあたしは後輩に呼び出された。


 エクスプローラの資格試験が今週末に迫っているが、あたしはもう対策は終わっているので、了承したのだ。


 そして、あたしは後輩のシズルの誘いで、放課後、学校近くのファミレスにやってきている。

 このファミレスは学園の生徒がよく使うファミレスで、10月にあたし達がスタンピードを止めた時の打ち上げにも使った場所だ。


 ファミレス内には、同じ学園の生徒が大勢いる。

 おそらく、試験が終わったので、冬休みの予定でも立てているのだろう。


 そんなファミレスの一席にあたしは座っている。

 座っているのはあたしだけじゃなく、シズルもだ。

 他にも同学年の瀬能と弟のカナタもいる。

 シズルがあたしの隣に座り、瀬能とカナタと向かい合っている形だ。


 このメンツはダンジョンに挑む同じパーティーメンバーだが、この場には2人ほどいない。

 そのうち、1人はリーダーだし、もう1人はこういう集まりに参加できないとごねる人間である。


 本来ならば、この場にいるだろう。

 しかし、いない。

 なぜなら、この集まりの原因はあのバカ2人なのだから。


「呼び出して、すみません。お二人は試験があるのに…………」


 この集まりの発起人であるシズルが申し訳なさそうにあたしと瀬能に謝ってくる。


「いいよ。今さら、あがいてもどうしようもないし、やるだけの事はやったからね」


 瀬能は頭を下げるシズルに問題ないとアピールする。


「あたしもいいよ。あとは、覚えたことのおさらいぐらいだし」


 実際はもうやることもないので、大分前から遊んでいるのだが、瀬能の手前、それは言えない。


 あたしは昔から勉強ができた。

 おそらく、理解力があったのだろう。

 教科書を見れば、大体の事は理解できたし、テストの点も良かった。

 それに、エクスプローラになって、≪学者≫になってからは、さらに成績が上がった。

 ≪学者≫のスキルである≪記憶術≫によって、記憶力が上がったからだ。


 ただし、これはあまり人には言えないことである。

 これを言うと、大抵、嫉妬される。

 テストで一喜一憂する学生は特にだ。


 瀬能はそういうことを気にするような人間ではないと思うが、あたしは昔から成績が良いことで、いい思いをしてきていない。


 ルミナちゃんやアカネみたいな完全なバカは問題ない。

 ああいうのは、勉強を教えてとか、頼るという選択しかしないからだ。


 しかし、頭が良く、成績が良いヤツは違う。

 いわば、ライバル的な存在が≪記憶術≫というチートを使っている状態なのだ。

 それは向こうも良くは思わないだろう。


「それで用は何だい? まあ、この場にいない2人で想像はつくけど」


 瀬能がシズルに用件を聞くが、瀬能も用件はわかっているらしい。

 そりゃそうだ。


「はい。えーっと、皆も知ってると思いますけど、あの2人、来週末の12日が誕生日じゃないですか?」


 シズルが用件を口にすると、カナタが頷く。

 リアクションから見て、カナタも気付いていたようだ。

 そりゃそうだ。


「まあ、そうだと思ったよ。最近の神条と柊さんは……こう、何ていうか……」


 じれったいな。


「うざいよね」

「……チサトさん」


 瀬能があたしを責めるような目で見てくる。


「良い子ぶんな。あんただって、うざいと思ってるだろ。毎日、毎日、白々しくアピールしてんじゃん」


 そう、あの2人は12月に近づくにつれて、誕生日アピールをし始めたのだ。



 ある日の事


『アカネちゃん、何か欲しいものある?』

『えー……何ですか~、急に。私はバッグか新しい槍が欲しいですねー』

『そっかー、槍かー』

『センパイって、昔の事を覚えてます?』

『昔ねー……よく4人で遊んだな-。プール行ったり、ゲームしたり……パーティーしたりね!』



 めっちゃうざい。


「あの2人、なんであそこまでするんですかねー」


 カナタが首を傾げながらつぶやく。


「ルミナ君のお姉さんに聞いたら昔からなんだって。会話で欲しいものを2つ言って、片方を相手が悩むフリをしながら買うアピールをする。そして、もう一つの方を他の人が買うように仕向けるらしい」


 ほんと、うざいな。


「ええ……ってことは、アカネさんの場合は槍を神条さんに買ってもらって、バッグを僕達に要求してるってことですか? いや、槍って……高くないですかね?」


 槍は安くても10万前後はする。

 確かに、誕生日とはいえ、そんな高いものを他人に贈るのはおかしい。


「あんなアピールするくらいだから話は通してんじゃないの? ルミナちゃん、予備の武器をいっぱい持ってるし」


 要らないのは売ればいいのに、ルミナちゃんは何故か、部屋にコレクションしてる。


「だと思います。ちなみに、ルミナ君の場合は、アカネちゃんに包丁を買ってもらって、私達にフードプロセッサーを買ってほしいらしい……」


 シズルが頷きながら補足説明をする。


 しかし、あの2人、ひどいな……

 そして、ルミナちゃんは女子力がカンストして、嫁力までいってる……


「あたしらもちゃんと考えてたのにねー」


 あたしらはあの2人の誕生日を覚えてたし、先月くらいから何度か話し合いもしてた。


「こう言ったらなんだが、プレゼントを贈りがいのない2人だね」


 瀬能がついに言った。


「まあ、すごく祝う気がなくなりますよね」

「がめついというか、そのー」

「気分悪いよね」


 少し、どんよりし始めた。


「ま、まあ、でも、あの2人がそう言っているんだから希望通りの物を買ってあげようよ」


 瀬能がなんとか、場とあたしらの心を整えようとする。


「ですねー。えーっと、アカネさんがバッグで神条さんがフードプロセッサーでしたね…………フードプロセッサーって、何ですか?」

「ボクも知らない」


 男共はフードプロセッサーを知らないらしい。


「ミキサーみたいなもんだよ。ルミナちゃんは料理が好きだし、欲しいんでしょ」


 フードプロセッサーなんかはあると便利だが、自分では買おうと思わない。


「ふーん。柊さんのバッグもだけど、任せていい? 悪いけど、僕らはわからない」

「ですね…………料理しないし、ましてや、バッグって言われても…………鞄?」


 ダメだ、こいつら。

 まあ、10代男子としては、当然だろう。

 ってか、そんなのを要求すんなよ。


「まあ、私が見繕っておきます。チサトさん、試験が終わった後で良いんで、お店に付き合って貰えます?」


 シズルがそう言うが、あたしは試験の日以外なら別にいつでもいい。


「わかった。来週にしようか。ってか、シズルはどうすんの?」

「私ですか?」

「ルミナちゃんに個人であげるんじゃないの? あんたもルミナちゃんに貰ったでしょ」


 シズル以外のメンバーがルミナちゃんへの評価を著しく下げた時のやつ。

 さすがに、シズルには言えないけど。


「あー……あはは……そうですねー……」


 シズルが乾いた笑いで目を横に逸らした。


 あのバカ、また、なんかしたな。


「どうかしたのか?」


 瀬能がなんかしたんだろうなーとわかってそうな顔で聞く。


「今朝、やたら寒いって、連呼してました。どうやらマフラーが欲しいみたいです…………」


 あいつ、マジで何してんの?


「神条…………あー、まあ、喜んではくれると思うよ」


 逆に言うと、それ以外を買うと、微妙な顔をすると思う。


「マフラー? 手編み?」

「え!?」


 カナタがポツリとつぶやいた言葉にシズルが大きく反応した。


「ま、まさか、それはないだろ。来週なんだぞ……」

「シズル、編める?」


 呆然としているシズルに聞いてみる。


「編みものをしたことがないです」


 だろうね。

 普通はない。


「じゃあ、普通に買えばいいでしょ。大丈夫だって、ルミナちゃんだって、そんな意図は……」


 ……あるかもしれない。

 ルミナちゃん、めっちゃ独占欲強いし。


「…………どうしよう」


 シズルが予想外なことに混乱している。

 シズルはシズルで若干、重いから、悩んでしまっている。

 

 ってか、寝ずに編みそう……

 めっちゃ重いマフラーが出来そう……


 そして、カナタは余計なことを言ってしまったと思ったようで、気まずそうだ。


「ちょっと待ってな。シロに聞いてみる」


 シロはルミナちゃんの心が読めるし、ルミナちゃんの真意もわかるだろう。


 あたしは携帯を操作し、シロにメッセを送る。


『シロ、いる?』

『なんか用?』


 お、早い。


 シロはルミナちゃんの携帯を独占しており、あたし達がメッセを送ると、大抵、シロから返事が来る。

 というか、シロは暇なのか、よくあたし達にメッセを送ってくる。


『ルミナちゃんはそこにいる? あいつに聞かせたくない話なんだけど』

『相棒は鼻歌を歌いながら唐揚げを揚げてる』


 あいつは主婦か!


『唐揚げ? 一人暮らしだろ』

『俺っちが要求した。総菜じゃない唐揚げを食いたい』


 こいつはこいつで自由だね。


『あっそ。ちょっと聞きたいんだけどさー。今朝、ルミナちゃんがシズルにマフラーを要求したらしいじゃん?』

『あー、あれね。百年の恋も冷めそうなぐらいにうざかったわ』


 だろうね。

 まあ、当人は冷めるどころか手編みをしようとしてるけど。


『それって、手編み? シズルが悩んでる。ってか、放っておくと、寝ずに編みそう』

『それはないな。あいつはいつも身に着けられるものがほしいだけ。それでマフラーを思いついたんだよ。バカだよなー。マフラーなんて、冬にしか巻かないのに』


 ホント、バカだ。


『あー、わかった。ありがと』

『おう。お前も頑張れよー』


 私は携帯をしまった。


「どうでした?」


 シズルが真っ先に聞いてくる。


「あー、手編みじゃないっぽい。買いな」


 シズルはホッとしたようだ。

 指でエア編み物してるけど……


「とりあえず、よかったな。めんどくさい2人だが、要望通りの物をあげようよ」

「本当にめんどくさい2人だね。瀬能、今度、説教しな」

「あの2人が聞くわけないだろ。神条は逆ギレか拗ねる。柊さんは逃げる」


 確かに、そうなると思う。


「嫌なコンビだね」

「ちなみに、ルミナ君の妹のホノカちゃんも同じ感じらしいです」

「ミサキ……」


 ミサキがあの弟、妹+αに似ず、歳の割に大人びている理由がわかった。


「あ、あのー、ところで、シズルさんはどっちのマフラーを買うんですか?」


 カナタがおずおずと質問する。


「どっちって?」


 シズルはカナタの質問の意味がわからないようで聞き返すが、あたしは質問の意図がわかった。


 バカカナタ。

 あんたは余計なことばっかり言うな。


「えーっと…………メンズ? レディース? みたいな……」

「…………え」


 シズルが固まった。


 まあ、仕方がない。

 だって、ルミナちゃん、姿は女だし、女の格好してる。

 でも、中身は多分、男。

 それでいて、隣の後輩はその彼女。


 女子100%なルミナちゃんに男物を送るか、彼氏に女物を送るか、究極な選択だ。


「ぶ、無難なものを贈ればいいんじゃない? ユニセックスみたいなやつ」


 瀬能がなんとか、解決先を見出そうとしている。


「…………考えてみます」


 シズルはポツリとつぶやいた。


 多分、寝ずに悩むんだろうなー。





攻略のヒント

 

 仲間外れは嫌!!


『エクスプローラの名言集 柊アカネ』

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― 新着の感想 ―
男の頃にマフラーなんて使わんってことで譲って貰ったことがあるんだから 悩む必要なんて無く女物贈ればいいだけじゃん
普段遣い用なら女性ものだよね
[一言] (この回の感想欄を見て)  大丈夫。 ボディービルの大会で飛び交う変な声援をまとめるだけで、一冊の本になって話題になれるんだから。  エクスプローラー版だってネタになる。
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