第118話 本部長へ報告する
メルヘンマジックのレベルを6にし、夢の転移魔法を手に入れた俺だったが、皆の意見を採用し、協会に報告するのはちーちゃんとなった。
俺達はその後、すぐに帰還すると、マイちんの所に向かい、本部長を呼んでもらった。
そして、マイちん、本部長と共に2階の応接室へとやってきた。
「話って何だ? 良い報告であることを願っているよ」
本部長がソファーに座り、切ない顔で聞いてくる。
本部長は夏と比べて、結構、痩せた。
ダイエットではなく、スタンピードの事後処理や上への説明で大変だったみたい。
「えーっと、ちーちゃん、どうぞ」
俺はちーちゃんに話すように促す。
「ん? 神条からじゃないのか?」
「こいつに任すと、ロクな方向に行かないのであたしが話す」
言い方、わるー。
「フッ……良い仲間を持ったな、神条」
本部長がカッコつけて笑う。
うぜ!
「それで、何だ?」
本部長は真面目な顔で仕切り直した。
「新規スキルの報告です」
「新規スキル?」
「ルミナちゃんのメルヘンマジックはご存じですよね?」
「もちろん。空を飛んだり、爆弾を投げるやつだろ」
ハートの矢を飛ばすことも出来るぞ!
「今日、ルミナちゃんがそのメルヘンマジックのレベルを6にして、新しい魔法を覚えたので、それの報告です」
「…………そうか。報告の義務があるもんな。ただ、そんなことなら桂木でいいだろ」
「本部長案件だと、こちらで判断しました」
「…………だろうな。嫌な予感しかせん」
なんと!
本部長にも≪冷静≫のスキルが!?
「メルヘンマジックlv6で覚えたのはマジカルテレポートです」
「テレポート…………帰りたくなってきたな」
「能力はルミナちゃんが行ったことがある階層に飛ぶことです。ただし、その階層に該当するボスを倒す必要があります。1~10階層に飛ぶには10階層のボス。11~20階層なら20階層のボスです。また、精神力をかなり使うみたいです」
「……………………」
本部長は無言で頭を抱えた。
「あたしは報告しない方が良いと思ったんですが、ルミナちゃんが皆に自慢したいと言うもので…………」
「報告してほしくなかったな。ハァ……まあでも仕方がない。神条、まずはこの能力を誰にも言うな」
何でじゃい!
「≪Mr.ジャスティス≫やサエコに自慢したいんだが」
「絶対にダメだ。お前はその魔法の重要性を理解してるのか?」
「金になる魔法」
「ああ……よりにもよって、どうして、こんなヤツに…………」
お、アカネちゃんが言った通りなことを言ってる。
アカネちゃん、すげー!
俺がアカネちゃんを見ると、アカネちゃんはドヤ顔で俺を見てくる。
「それで、これからどうすれば良いでしょうか?」
どうでもいいけど、ちーちゃんって、敬語を使えたんだね。
「…………上に報告せんといかん。しかし、そうなると、神条には色々と協力の要請が来ると思う」
「本人は拒否だそうです」
「だろうな…………」
「もしくは、1階層移動するごとに2000万寄こせだそうです」
そんなに言ってないぞ!
1000万だよ。
「無茶言うな。それを協会が承認するわけないだろ。依頼は協会を通さないと出来ないんだぞ。それを無視したらさすがに免許取り消しだ」
「本人はそうなったら海外に行くそうです」
「…………もうやだ、こいつ。≪白百合の王子様≫や≪教授≫と同じことを言ってる。でも、神条は男に戻りたいんだろ? ここを離れてどうする?」
そう、それが重要なんだな。
「稼いだ金で買うつもりです。ここだけにあるとは限りませんから」
なるほど。
金に物を言わせればいいのか!
「…………単刀直入に言え。何を要求している」
金。
「まずはこの魔法についての口止めです。はっきり言えば、転移魔法はトラブルしかやってきません。ルミナちゃんはこういう人間なので、すべてを暴力で解決するでしょう。そうなったらあたし達も協会も迷惑だけを被ります」
「だろうな。安易に想像がつく。他には?」
「どうしても、転移を使って欲しい時があるのならば、さっきの値段の半分で受けます。ルミナちゃんは文句を言うでしょうが、それはあたし達で説得します」
おや?
結局1000万で受けるんだ。
そうか!
心理学のなんとかなんとかだな。
知ってる。
俺賢い。
「…………わかった。学園長に話す。あの人は引退して学園にいるが、未だに影響力を持った方だ。金については、その都度になるだろうから確約は出来んが、そう伝えてやる」
「お願いします」
ちーちゃんが頭を下げた。
「転移魔法は人がいる前では使うな。それとお前らが転移を使って、探索すれば、ダンジョンの滞在時間とドロップ品に齟齬が出る。桂木がいない時は転移を禁止する」
これは俺もわかる。
ダンジョンに1時間しかいなかったのに、20階層以降のドロップ品を持ち帰ったら明らかに不自然だ。
「わかってます」
「神条。レベル7以降の魔法はわかってるのか?」
7以降?
知らね。
おい、シロ。
「聞かねー方が良いぞ」
シロは俺の服から出てきて忠告する。
「ああ、ロクなのがないんだな…………なんで≪魔女≫ってジョブはそんなキツいのばかりなんだ」
「いや、魔女だぜ? 厄災の象徴だ。まともなわけねーじゃん」
そうなの?
メルヘンチックじゃないの?
「ああ……俺も気付かぬうちにゲーム感覚になってたんだな……確かに、魔女と言えば、本来はロクでもない悪だ」
ひどーい。
人を悪魔みたいに言ってる。
「その認識で間違いないぞ。≪魔女≫の適性がある人間なんてそうはいない。まさしくロクでもないヤツにしかなれない」
ん?
その言い方だと、俺がロクでもないことになっちゃうぞ?
「そうなのか? 確かに、こいつはロクでもないが……」
また、ロクでもないって言ったー!
「ジョブは努力でどうにかなるのは一般職までだ。お前らが言うレアジョブは才能がないと絶対になれない。相棒には≪暗殺者≫、≪グラディエーター≫、≪魔女≫の才能があった。これが何かのきっかけで目覚めたに過ぎない。例えば、そこにいるチサトは≪学者≫の才能があったから≪学者≫になれた。だが、チサトがどんなに努力しようが、多分、≪グラディエーター≫にはなれないだろう。他のやつらも一緒だ」
じゃあ、逆に言えば、俺は≪学者≫にはなれないわけだ。
そうなると、お姉ちゃんは≪聖女≫の素質があり、ホノカは≪賢者≫の素質があったということになる。
お姉ちゃんはともかく、ホノカって、もしかして、真面目に勉強したら頭が良くなるのか?
いーや、そんなのはお兄ちゃんが許さない!
あいつが勉強出来たら、成績が悪くて怒られるのが俺一人になっちゃうだろ。
「それは協会でも、なんとなく察しがついていた。明らかにジョブに偏りがあったからな」
お前らも感づいてたのか……
確かに、エクスプローラ界隈でも、そう言われていた。
「だから、忠告しておく。相棒以外の≪魔女≫を探そうと思うな、作ろうと思うな。≪魔女≫は絶対にお前らの思うようには動かない」
「ああ。よくわかった。そう考えると、≪魔女≫がこいつで良かったと思えるな。こいつはロクでもないが、俗物的だし、俗っぽいからある意味では信用できる」
それ、誉めてる?
「とまあ、報告は以上です。また何かあれば、報告します」
ちーちゃんが締めようとする。
「頼む。あー、斎藤さんだったかな? 君、協会の職員にならない?」
こら!
引き抜きにかかるんじゃない!
「いえ、結構です。あたしはエクスプローラを続けるんで」
「そうか……まあ、仕方がない。おい、神条! 絶対に転移魔法をしゃべるなよ! 変なところから目を付けられる可能性もあるからな!?」
本部長は急に俺を怒鳴り始めた。
「うるせーなー。わかってるよ。大体、今さらだろうが」
「…………ん?」
「なんだよ? 帰っていいか? もう9時だぜ? 腹減ったわ」
「ちょっと待て。今さらってなんだ?」
もう帰りたいわ。
話は終わっただろうに。
「いや、たまに変なのが来る。俺の身体を調べさせてくれーみたいなの。気持ちが悪いから追い払ったけど」
マジでキモい。
変質者だわ。
「は? 聞いてないぞ?」
いや、何でお前に言うんだよ。
過保護だぞ。
「いちいち言わねーよ、どうせ、ちょっと睨めば、逃げる雑魚だよ。まあ、たまにしつこかったり、暴力に走るヤツもいたけどな」
そんなアホは返り討ちでござる!
「お前な! そいつはどんなヤツらだった?」
「一時期、いっぱいいたから覚えてねえよ。よく夜道で一人で歩いていると遭遇したな。あいつら、人気がない時にやって来るから警察や目撃者がいなくて良かったわー。一回、剥いて、川に投げてやったぞ」
川であわあわしてるところに石を投げてやった。
めっちゃ笑った。
「それはいつだ!?」
うるせーなー。
ちょっとしたお茶目じゃねーか。
「いつだっけ?」
俺は一緒にいたシロに確認する。
「お前が薄着だった時だから夏くらいかな?」
ああ、そうだ!
俺の生足やえっちな胸元を見て、興奮してきたんだった。
マジでクズだわ。
殺せば良かった。
「桂木君。どう思う?」
「性別が変わった人間を調べようと思ったのでしょうね。どこの組織かはわかりません。外国かも……」
「これも上に報告しよう。神条、お前に護衛を付けるかもしれん」
は?
護衛?
そんなもん付けられたら、悪いことが出来ないだろ。
いや、しないけどね。
でも、近くに人がいるのは嫌だ。
「ふざけんな。そんなヤツを付けてみろ。ボコボコにして、痴漢で警察に突き出すからな」
「いや、お前の安全を思ってなんだが…………」
「安全? 俺を誰が守るんだ? 俺より弱いカスなんていらんわ。むしろ、そいつの方が怪しくて、排除するね」
護衛と称して、かわいい女の子の跡をつける。
知ってる?
それって、ストーカーって言うんだよ。
「気持ちはわからんこともないが」
「最近は変質者も来てないから大丈夫だよ。あ、先に言っとくが、こっそり付けても無駄だぞ。俺には≪索敵≫があるんだ。付けてくるヤツは変質者として処分する」
なにしろ殴っても正当防衛で済むからな。
「……もう勝手にしろ。ただ、こっちに報告だけはしてくれ。後始末があるんだから」
協会って、便利だなー。
「よし、絶対に協会には就職しない」
ちーちゃんが何か言ってる。
「もう帰っていいか? 俺達は明日も学校なんだよ。未成年をこんな時間まで拘束するな」
条例違反だぞ!
「お前って、たまにまともなことを言うよな。どうせ守らないくせに」
守るわけねーじゃん。
攻略のヒント
ある特定のスキル以外にはレベルがあり、レベルは10まで上昇する。
ただし、レベルが上がるにつれて、必要なスキルポイントも上昇する。
『はじまりの言葉』より