第114話 ミレイさんって…………
ミレイさん、クーフーリンチームとメルル(笑)、≪正義の剣≫チームの対決は中途半端なところで終わってしまった。
≪正義の剣≫とメルル(笑)はダンジョンに行ってしまったので、俺達も受付のマイちんの所に行き、ダンジョン探索の申請を行った。
そして、ダンジョン入口前で、今日の予定を決めることにした。
「とりあえず、パーティーは≪魔女の森≫とミレイさんwith≪勇者パーティー≫に分かれるでいいだろ?」
俺達は6人揃ってるし、ミレイさんとアヤマヤ姉妹、クーフーリンの4人で分かれる方が自然だ。
「6:4で分かれるの? 5:5の方がいいんじゃない?」
ミレイさんが不安げな表情で聞いてきた。
全滅を防ぐためには、人数が多い方がいいので、当然と言えば、当然の反応だ。
「とりあえず、今日は低階層にしか行かないから大丈夫。最悪、クーフーリンがいるから全滅はないよ」
クーフーリンは憐れな男だが、実力だけはある。
低階層どころか、20階層程度なら、一人でも余裕だろう。
「任しとけって!」
クーフーリンは自信ありげに取り出した槍を掲げる。
さっきの落ち度を取り返そうと必死なんだろう。
「それよか、お前らはドロップアイテムとかの配分を決めとけ」
≪勇者パーティー≫がどう分けているのかは知らないけど、こういうのは先に決めておかないと揉める。
「俺はいいわ。アヤとマヤとミレイさんで分けな」
チンピラのくせに、懐が広いなー。
「いいんですか?」
「俺は午前中もダンジョンに来てるし、低階層のもんを貰ってもなー」
こいつ、朝も来てたのに、またダンジョンに行くのか?
暇人だなー。
「…………クーフーリンはいいヤツ」
「…………いつも私達に多めに分けてくれる」
お前ら、さっきまで死ねって、言ってたのに……
現金な双子だこと。
「お前、報酬をこいつらにやってんのか?」
俺は双子の頭に手を置き、クーフーリンを見る。
「ああ、こいつらは10階層前後だし、俺からしたら、そんなもんは雀の涙だよ」
「それで稼げてんの? お前にも生活があるだろ」
「貯金あるし、昼間は一人でダンジョンに行ってるから問題ねーよ、ソロの一番の利点は稼げることだからな」
そりゃあ、そうだけど、よく一人でダンジョンに行こうと思うな。
死んだら終わりなんだぞ。
「ソロとか信じらんねー」
「俺だって、ソロの限界は感じてんだ。だから、こいつらのパーティーに入った。こいつらもハヤトもタケトも、今はまだ雑魚だけど、絶対に伸びる」
先行投資なわけね。
「ふーん。まあ、頑張れや。≪教授≫が足を引っ張りそうだがな」
「そう言うなって。あの人も普段はちゃんとしてんだから」
信じられねーわ。
俺、あいつ嫌い。
大っ嫌い!
「死ねばいいのに。じゃあ、今日はダンジョンに入ったら適当にモンスターを狩ってみてよ。それを見て、何かアドバイスがあったら言うわ」
俺は≪教授≫に対して毒づき、ミレイさんに今日の方針を伝えた。
「うん、それでお願い」
ミレイさんにも了承を得られたところで。俺達はダンジョンに入った。
ダンジョンに入ると、俺達はさっさと6階層までやってきた。
いくらお試しとはいえ、レベルが18もあるミレイさんの力を測るのにゴブリンじゃあ、相手にならなさすぎる。
こういうのはオークが適当なのだ。
「……また、ここなのね」
「……オークはもういいよ」
6階層に来ると、シズルとちーちゃんがため息をつく。
俺とシズルとちーちゃんはこの6階層で長い間、オークと戦ってたし、お泊まりの練習やスキル確認があるたびに、ここに来ている。
そのたびに、この2人のオーク嫌いは進行していっている。
「しゃーないじゃん。我慢しろ。ミレイさん、適当にオークでも狩ってよ」
「私、一人?」
「あんた、Cランクだろうが。オークくらい一人で倒せよ」
「やってみる」
やってみるって……
一人で倒したことないの?
「いつもはどうしてんの?」
「仲間と一緒に倒してるかな……」
俺はそれを聞いて、不安になってきた。
「ミレイさん達の最深到達階層って?」
「13かなー」
13……
逆にその程度なのに、何でレベルが18もあるんだよ……
「お前、本当に俺と同じCランクか?」
「ルミナ君は詐欺じゃん…………私のランクが高いのは協会の依頼をたくさんこなしているから。ほら、ダンジョンのイメージアップとか、そんなの」
お前も詐欺じゃん。
「まあ、ランクはとりあえずいいや。あんなもんは指標の一つだからな。レベル18もあるんだからオークなんて余裕だよ。安心して死んでこい!」
「死にたくはないけど……よーし!」
ミレイさんは気合いを入れて、一人で奥へ歩いていく。
え?
索敵とかしてる?
そこの角の先にオークがいるんだけど…………
「ひゃーー!!」
索敵しろよ……
ミレイさんは角の先でオークと遭遇して、腰を抜かしてしまった。
そんなミレイさんに向かって、オークが棍棒を振り上げる。
あ、死んだな。
ご愁傷様。
南無、南無。
「おらーーっ!」
俺が心の中でミレイさんに手を合わせていると、クーフーリンがものすごい勢いで突進し、自慢の槍でオークの頭を吹き飛ばした。
当然、即死であり、オークは煙となって消えた。
「……あれがクーフーリンか。本当に強いな」
瀬能が俺の横に来て、つぶやく。
「実力だけはAランクだからなー。まあ、俺の方が強いけど!」
オークを倒したクーフーリンはミレイさんを立たせて、こちらに戻ってきた。
「この依頼って、新人指導だったか?」
クーフーリンが呆れながら聞いてくる。
「まあまあ。ミレイさん、索敵くらいしろよ。もしくは、俺らに聞けよ」
俺はクーフーリンを宥め、ミレイさんに苦言を呈する。
「ご、ごめん」
「あと、ビビるのはしゃーないけど、せめて、こっちに逃げてよ。腰を抜かしたら死を待つだけだよ?」
「……そうだよね」
思ってた以上だわ。
「いっそ、ポンコツドジっ子キャラで売ったら?」
「その場合、私、死にまくることにならない?」
なるねー。
「まあ、こんなもんは慣れだし、次に行くかね。ミレイさん、ここから50メートル先にオークが2体いる。1体はクーフーリンがやるからもう1体を倒してみてよ」
無理だろうけど!
「……わかった」
ミレイさんは自信なさげに頷いた。
「お前も頼むわ」
「……了解」
クーフーリンは自信なさげなミレイさんを見て、呆れながら頷く。
そして、2人は歩いて、オークの所に向かっていき、見えなくなった。
「なにあれ? あれでレベル18のCランクなの?」
絶対にちーちゃんはそう言うと思ってたよ。
「仲間と一緒なら戦える。でも、一人は無理ってタイプだな。そこのアヤマヤと一緒」
「…………ぎく」
「…………なぜわかる」
お前らは後衛だし、そんな感じがする。
「あたしだって、後衛だし、そんなに強くないけど、あそこまで情けなくはないよ」
「お前は気が強いから、そうだろうよ。でも、そういうヤツは結構いる」
「私も一人は嫌でーす」
アカネちゃんが手を上げた。
「お前はそんなことを気にしなくていい。危なくなったらとっとと逃げろ」
「はーい」
瀬能は問題ないだろうし、シズルは≪度胸≫を持ってる。
カナタはそもそも、そういうことを気にしたこともなさそうだ。
「どうするの?」
シズルが不安そうに聞いてくる。
「とりあえず、ミレイさんだけを鍛えよう。あの人がリーダーだし、それだけやって、後の事は向こうで勝手にやるだろ」
≪ダンジョン攻略し隊≫の全員を鍛えるのはさすがにめんどくさい。
リーダーであるミレイさんを鍛えるくらいは付き合ってやろう。
俺が方針を決めると、ミレイさんとクーフーリンが歩いて戻ってきた。
クーフーリンは気まずそうにしており、ミレイさんは俯いている。
結果は聞くまでもなさそう……
「……第2世代って、本当にすごいね」
ミレイさんはかなりへこんでいるようだ。
「そこはあんま関係ない気がするけど……」
「同じ槍使いなのに、こんなに差があるんだぁ……」
泣きそうだ。
重症やな。
「……アカネちゃん、同じ槍使いとして、お前の情けないところを見せてやる気はない?」
「ないです」
もしかしたら、アカネちゃんよりも弱かったりして……
「どうだった?」
俺は同行したクーフーリンに聞いてみる。
「基礎はできてるし、力もあると思う。それなのに、オークに負ける…………以上」
シンプルだなー。
「ミレイさん、あんたらはパーティーなら13階層まで行けるんだ。パーティーとしての実力はある。あとは個人の力量だわ。特にミレイさんはリーダーだから、せめて、あんたくらいは一人でも戦える実力をつけるんだ」
それ以上でもそれ以下でもない。
「どうすればいいかな?」
「一人でレッドゴブリンを狩れ」
「…………無理」
「レベル18もある前衛なんだから出来るよ。出来ないならエクスプローラを辞めな。そんな感じだと、早いうちにダンジョン病になるよ」
「ダンジョン病…………」
心というのは気付かないうちにダメージを受けている。
それがある日、爆発する。
そうなったら引退だ。
体は元気なのに、ダンジョンに入ると、急に力が出なくなったり、モンスターと対峙すると、体が動かなくなるらしい。
ミレイさんが今まで通り、自分達のペースでやるならそんなことは気にする必要はない。
だが、このままではミレイさんより若く、しかも、≪踊り子≫であるメルルには勝てないだろう。
ならば、ミレイさんは正統派でいくしかない。
「敵のメルルは≪踊り子≫だ。一人でレッドゴブリンを倒したくらいの箔がないと、きついぞ?」
「……でも、メルルさんもそれくらいやるんじゃ? ≪踊り子≫でしょ?」
「≪踊り子≫はアタッカーじゃなくてサポーターだ。一人じゃレッドゴブリンは倒せない。≪踊り子≫はめっちゃ強いと言われてるけど、それは≪踊り子≫と言えば、ユリコだからだ。あいつが特別強いだけで、≪踊り子≫自体の戦闘能力は低いよ」
あいつはいろんな意味で化け物だ。
「…………レッドゴブリン」
「あんたからの依頼で、俺が付き合えるのはそこまでだ。俺も暇じゃないからな」
「わかった。お願いします」
「じゃあ、もう一回行ってこい」
「…………え?」
え? じゃねーよ。
「向こうにオークがいるから倒せ。危なくなったら援護はしてやる」
「…………はい」
なんか、俺が悪役みてーだな。
この日、何度かオークに挑んだが、ミレイさんが一人でオークを倒すことはなかった。
攻略のヒント
エクスプローラにはランクがある。
Fから始まり、F→E→D→C→B→Aと順に上がっていく。
ランクの上げ方は、ダンジョン攻略深度や依頼等をこなすことで上がっていく。
その中でも、Cランク以上は高ランクと呼ばれ、専属がつくなど、協会やエクスプローラの中でも一目置かれる存在である。
ただし、問題行動や不正等が発覚した場合はランクが下がることもあるので要注意だ!!
『週刊エクスプローラ エクスプローラになったらランクを上げよう!』より




