第110話 マイちんに嫌われたら死ぬと思う
俺はシズルに謝り、なんとか首の皮一枚で関係性の崩壊を防いだ。
その後、学校が終わり、マイちんから依頼内容を聞くために、シズルと共に協会へとやってきた。
俺達は他の仲間を待つために、ロビーのソファーに座っている。
俺が協会に入ってきてから、これまで、周りにいるエクスプローラ達は誰も俺と目を合わさなかった。
それは完全に避けられているような感じであり、今年の春に、この協会にやってきた当初と同じ感じだ。
「なあ、もしかして、ずっとこんな感じだった?」
俺は隣に座っているシズルに聞く。
「だねー。皆、絡まれたくないんだよ」
俺は別に、こいつらに良く思われようが、悪く思われようがどうでもいい。
ただ、俺には仲間がおり、≪魔女の森≫のリーダーだ。
前にマイちんがパーティーリーダーの評価がパーティーの評価に直結すると言っていた。
つまり、この現状が≪魔女の森≫の評価と同義だ。
「やべーな」
「また一からやろうよ。ね?」
シズルは俺の手を握り、微笑んできた。
こいつ、完全に母親の顔をしてやがる!
「こんにちはでーす!」
「遅くなってすみません!」
俺がシズルの笑顔に引きつっていると、後輩2人がやってきた。
「こんにちは。2人共」
「よう。まだ、先輩2人が来てないから気にすんな」
俺とシズルは挨拶を返す。
そして、後輩2人もソファーに座った。
「カナタ、これまで悪かったな」
俺はカナタにも謝ることをした。
「え? 何がです?」
「ここ最近、俺って、感じ悪かったろ?」
「そうでしたか? いつもと変わらなかったですけど」
あれ?
「ほら、周りの連中に絡んでたりしてたじゃん」
「え? いつものことじゃないですか?」
お前もかい!
後輩2人の俺への評価って、実は元々、高くない気がしてきた。
「ほら、こっちに来てからはあんまりそういうのはしてなかったじゃん」
「あー……まあ、最近は人を殴ってないし、跳び蹴りもしてないなーとは思ってましたけど」
わかった。
こいつの俺に対するデフォは俺が川崎支部にいた時なんだ。
だから、俺が他の連中に絡もうが気にしない。
「お前はもういいや。これからダンジョン攻略を頑張ろうな」
「はい!」
よしよし、カナタは問題なさそうだな。
あとは先輩2人かねー。
俺がカナタを見ながら頷いていると、裏切りそうな先輩2名がやってきた。
「悪い。遅れた」
「遅くなってごめんねー」
瀬能とちーちゃんが謝りながらやってきた。
来たな、反逆者共!
裏切りは許さないぞ!
「よう、遅かったな。なんかあったん?」
俺はちょっと探りを入れることにした。
「ちょっとね。後で話すよ。それよりも依頼の方だろ。受付に行かないか?」
瀬能はそう言って、受付のマイちんを見た。
はぐらかされた!?
「そうだな。行くぞ……」
俺はそう声をかけ、しぶしぶ立ち上がった。
そして、受付で待っているマイちんの所に向かう。
マイちんはいつものように受付で座って待っており、俺達を視認すると、手を振ってくれた。
マイちん…………
顔を合わせづらいよ……
「……やっほー、マイちん。マイちんは今日もかわいいねー」
俺は頭をフル回転させ、おべっかを使う。
「こんにちは、ルミナ君。どうしたの?」
俺が急に変なことを言い出したので、マイちんは訝しげに見てくる。
「んー、なんでもないよー、いつも通りだよ」
俺はマイちんに一生懸命、笑顔を向ける。
「こいつ、さっきから様子がおかしいけど、どうしたん?」
後ろから裏切り者の声が聞こえる。
「センパイはようやく自分の状況を理解したみたいです」
「遅っ!」
うるせーヤツらだな。
「あのね、マイちん。最近、ちょっと荒れてて、ごめんね」
俺はマイちんに誠心誠意を込めて謝った。
「……ちょっと?」
マイちんが無表情に変わった。
ひえー。
「かなり荒れててゴメンね。とっても反省してるんだー」
「ふーん。まあ、これからは気をつけなさいよ」
あれ?
怒らないの?
「ごめんね」
「もういいわよ」
見捨てる気?
「嫌いになった?」
「…………泣かないでよ。別に嫌いになんてなってないし、ちゃんと反省してるんなら、今後はちゃんとしなさい」
うん。
「こいつ、メンタルよえー」
「この人、すぐ泣くんですよ。泣くくらいならやらなきゃいいのに」
「お前ら、殺すぞ」
俺とマイちんの世界に入ってくんな!
「よしなさいよ」
「はーい。それで依頼って何?」
素直で良い子な俺はマイちんに依頼内容を聞く。
「それなんだけどね、応接室に依頼人が来てるから、これから会ってもらえる?」
「良いけど、マジで誰なん? 依頼内容も依頼人も聞いてないけど」
「直接話したいってことでね。まあ、怪しい人じゃないわよ」
「ふーん。礼儀知らずなヤツだな。なめてんのか?」
俺みたいな高ランクに依頼する時は事前に多少の依頼内容なんかを伝えるもんなんだが。
「こいつ、すげー! さっきまで泣いてたくせに、もう立ち直ってる!」
「だから、言ったじゃないですかー。センパイを心配するだけ無駄ですって」
この凸凹コンビは黙ることができねーのか?
「ちょっと事情があるのよ。ほら、応接室に行くからついてきて」
「はいはい」
マイちんが立ち上がって、応接室に向かったので、俺達もそれに続く。
「いいか、お前ら、俺達は学生だから、なめられている可能性がある。最初が肝心だぞ」
俺はリーダーらしく、依頼を受ける際の心構えをレクチャーする。
「最初って、なにさ?」
「まずは、威嚇して……じゃなくて、受けてやってもいいぞのスタンスでいくんだよ。じゃないと、学生だからって、依頼料を下げようとするヤツもいるからな」
マジでそういうヤツは多い。
高ランクを指名しといて、若いからって、ケチったり、騙そうとするヤツが一定数いるのだ。
「そんなヤツもいるのか?」
瀬能が聞いてくる。
こいつは今後、自分のクランを立ち上げたいって言ってたし、参考にしたいんだろう。
「いたいた。ポーションを取って来いって言っておいて、取ってくると、難癖を付けて依頼料を下げようとするんだ。まあ、安心しろ、そういうヤツは一喝でどうにかなるからな。手本を見せてやるぜ」
俺は自慢げに胸を張る。
「こいつ、二重人格? さっきまでオドオドしながら泣いていたヤツと同一人物とは思えないんだけど」
「感情豊かな人なんですよー」
うるせーなー。
「お前ら、しつけーよ。俺は終わったことをウジウジと悩まねーの! 切り替えが大事なんだよ」
「あんたって、幸せな人生を送れそうだね」
「ありがとよ!」
俺が依頼を受ける際の心構えを説いていると、応接室に到着した。
「まあ、大丈夫だとは思うけど、変なことはしないでね」
マイちんはそう言って、応接室をノックし、扉を開けた。
「わかってるよー」
俺はマイちんに続き、応接室に入っていく。
すると、中には1人の女が座っていた。
そいつはストレートの茶髪を肩まで伸ばしている容姿端麗な女だ。
そして、俺はこいつを知っていた。
「なんだ、ミレイさんか……」
「お久しぶりだね。ルミナ君」
ミレイさんはそう言いながら俺に微笑む。
「え!? ミレイさん!? 本物!?」
「マジで?」
凸凹コンビのアカネちゃんとちーちゃんがミレイさんに反応した。
「マイちん、依頼人って、ミレイさんなの?」
「ええ、そうよ。シズルに似ているっていうのはそういうこと」
なるほどねー。
ミレイさんはエクスプローラアイドルである≪ダンジョン攻略し隊≫のリーダー(隊長)だ。
シズルに似ているっていうのは芸能人ってことなんだろう。
「ミレイさんが俺に依頼って何? ユリコを殺せか?」
かつて、俺と≪白百合の王子様≫ことユリコは≪ダンジョン攻略し隊≫の収録現場に突撃したことがある。
俺は≪ダンジョン攻略し隊≫のメンバーにサインをもらったので、満足していたが、あのクレイジーサイコレズはセクハラ、痴漢三昧だった。
「まあ、座ってよ。ちゃんと説明するから」
ミレイさんが促したため、俺達はソファーに座った。
「では、改めまして。ルミナ君、こちらが今回の依頼人である上野ミレイさんよ。あなた達も知っているとは思うけど、≪ダンジョン攻略し隊≫のリーダーをしているわ」
マイちんが俺達にミレイさんを紹介してくれる。
どうやら協会の職員であるマイちんが進行役らしい。
「どうも。上野ミレイです。この度はよろしくお願いします」
マイちんに紹介されたミレイさんは俺達に頭を下げた。
「ミレイさん、こんな格好をしているけど、この金髪の女の子が神条ルミナ君です」
「ええ。存じています。当時とかなり変わっていますが、言動や目つきでなんとなくわかります」
俺って、そんな目つきに特徴あるか?
「それと、他の人達はルミナ君のパーティーメンバーですね」
「≪魔女の森≫でしたね。スタンピードを止めたそうで……感謝します。それと、本来なら、この東京本部に所属する私達も参加をしなければならなかったのに、参加できず、申し訳ありません」
≪ダンジョン攻略し隊≫は東京本部のロクロ迷宮で活動している。
とはいえ、活動時間は午前中や昼間なので、俺達と顔を合わせることはない。
「そういえば、いなかったな。どうしたん? 他の連中はDランク程度だけど、ミレイさんはCランクだろ」
ぶっちゃけ、こいつらはそんなに強くない。
まあ、芸能活動がメインだから仕方ないけど。
「私達も本来なら参加しないといけませんでした。しかし、実力不足で参加を見送らせてもらいました。あなた方は学生の身で参加されたのに、お恥ずかしい限りです」
「気にすんなよ。ミレイさん達は芸能人だし、どうせ、事務所が止めたんだろ。どっちみち、来てもやることねーよ。スタンピードなんぞ、俺が余裕で止めたわ」
漏らしちゃったけどね!
わはは!
「相変わらずの自信だね。さすがは二つ名持ち」
「まあな」
俺は自信満々に答えた。
「ルミナ君はミレイさんと知り合いなの?」
俺の隣に座っているシズルが聞いてくる。
「昔…………ちょっと」
えーっと、何て言えばいいんだ?
「2年前に私達が収録している現場で大暴れしたんですよ。まあ、ルミナ君というよりは、もう1人の方が…………ですけど」
俺が言い淀んでいると、ミレイさんが言いづらそうに補足した。
「……何したのよ?」
シズルがいつものジト目で追及してきた。
「昔、取材の仕事を受けたんだけど、途中で追い出されたんだよ。暇になったから、隣のスタジオで収録してたこの人達にサインを貰いに行っただけ」
「それで大暴れ?」
「一緒にユリコがいたんだわ」
「ああ…………あの人が」
俺はあの時がユリコとの初対面だったが、すげーヤバいヤツがいると、マジで思ったことを覚えている。
「俺はサインを貰っただけなのに、連帯責任で川崎支部の支部長に怒られたからなー。マジで理不尽だったわ」
マジ、ムカつくってかんじー。
「まあ、あなたはあなたで大笑いしてましたけどね」
……記憶にございません。
「で? 依頼って、マジでユリコ関係? なら断るぞ。俺はあいつとは関わりたくない」
あいつは何をするかわからんから怖い。
「違うよ。あなたに指導をお願いしたいの」
えー。
またそれー?
攻略のヒント
≪ダンジョン攻略し隊≫はエクスプローラをやりながら芸能活動を兼務する人気アイドルグループである。
活動内容はダンジョン攻略状況やアイテムの解説などを動画サイトで配信したりしている。
配信動画はわかりやすく面白いため、エクスプローラを目指す人は一度見てみることをおすすめする。
『週刊エクスプローラ エクスプローラアイドル≪ダンジョン攻略し隊≫特集』より




