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第097話 30代はもっと若いと思ってた


 ロクロ迷宮で発生したスタンピードを止めるため、俺達は元Bランクのエクスプローラである先生達6人を先頭にロクロ迷宮へとやってきた。


 20階層までは先生達がモンスターを倒してくれることになっているため、俺達はついて行くだけでいい。


 俺は先生達が元Bランクとはいえ、何年も前に引退しているエクスプローラであることから、多少、心配であった。


 先生達のパーティーは前衛が剣士の伊藤先生、盾を持った相沢先生だ。

 そして、後衛に保険の森本先生ら、ヒーラーやメイジが控えている。

 この人達は第一世代のエクスプローラであり、全員、年齢が高めなのだ。

 一番若いのが33歳の伊藤先生であり、中には40前の先生もいる。


 しかし、先生達は強かった。


 歳をとっても、Bランクまでいったエクスプローラであるため、低階層のゴブリンやオークはまるで相手になっていない。

 しかも、経験も豊富であるため、連携も上手く、俺達は本当に見ているだけである。


「強いね」


 俺の隣にいるシズルが先生達の戦闘を見ながら言う。


「だな。引退しなくてもいいのに」


 とは言っても、危険が多いエクスプローラを長く続けるわけにはいかないのだろう。

 特に体力が落ちてくると、しんどいようだ。


 先生達はモンスターを軽く倒しつつ、最短距離で階層を駆け抜けていき、10階層のボス部屋までやってきた。


 ボス部屋の前に着くと、先生達は何の打ち合わせもなくボス部屋に入っていく。

 ボス部屋の中央には、いつものレッドゴブリンが座っていた。

 先生達はボス部屋に入ると、そのままレッドゴブリン目掛けて走り、レッドゴブリンがお供のゴブリンを呼ぶ前に切りかかる。

 すると、レッドゴブリンは座ったまま、あっという間に倒されてしまった。


「あれ? お供のゴブリンは?」


 俺はこの瞬殺劇を見て、あっけにとられた。

 

「ん? レッドゴブリンはゴブリン達を呼ぶ前に倒してしまうのが定石だぞ。知らんのか?」


 知らなかった。

 俺はいつもレッドゴブリンが立ち上がるのを律儀に待っていたが、よく考えたら、待たなくてもいい。


「なるほどー。さすが年の功ですね!」

「あん!?」

「いえ、経験が豊富って、言いたかっただけです。 ごめんなさい」


 伊藤先生に睨まれた俺は素直に謝る。


 伊藤先生は33歳であり、微妙な年齢だ。

 危ない、危ない。



 その後も先生達は11、12、13、14階層を突破した。

 しかし、15階層から速度が落ち始めてきた。


 別に、敵が強い訳ではない。

 先生達の体力が落ち始めたのだ。


 やっぱり歳じゃん!


 俺は息を切らしてきている先生達を見て、おっさん、おばさんだなーと思ったが、怖いので口には出さなかった。


「休憩します?」

「大丈夫。ポーションを飲む」


 伊藤先生がそう言って、アイテムボックスからポーションを取り出すと、他の先生達もポーションを取り出し、飲んだ。


「ハァ、まさか怪我もしていないのに、体力回復だけのために、ポーションを飲むことになるとは」

「ですな。現役の時には考えられません」


 ポーションは高いのだ。

 怪我を治すのには使うが、体力回復のために使うのは贅沢の極みである。

 

「しかし、思ったより、疲れますなー」

「≪身体能力向上≫も歳には勝てないようですね」


 先生達は笑いながら反応に困る会話をしている。


「生徒達には普段から運動をしろと言っているのに、我々はこの様ですから」

「わはは。伊藤先生はまだお若いではないですか」

「いえいえ、最近は筋肉痛が2日後ですよ」


 きっと、会話に入ると、怒るんだろうなー。

 自虐しているくせに、俺達若者が言うと、怒る。

 めんどくさい大人達だ。


「さて、行きますか」

「ですな」


 先生達はポーションを飲み終えると、再び、走り出した。


 その後、何度かポーションタイムがあったものの、15、16、17、18階層を突破し、ついに本日の目的地である宿泊地に決めていた19階層の小部屋に到着した。


「先生達が先に休んでください」


 宿泊地に到着すると、シズルが息を切らしている先生達を見て、先に休むように提案する。

 

「いや、私達が見張りをするからお前達は休め」

「でも…………」

「私達は明日、次の階層のミノタウロスを倒したら帰還する。お前達にはスタンピードを止めてもらわないといけないのだ。休んでくれ」

「……わかりました」


 シズルが引き下がると、先生達は小部屋の入口前に陣取った。

 俺達は奥でテントを設置し、テントの前で夕食を食べることにした。


「先生達、すごかったね」


 夕食のコンビニ弁当を食べながら、シズルが言う。


「あの人達は第一世代のエクスプローラだ。当時はダンジョンの地図もなければ、ジョブやスキルの特性もわからなかったから、手探りでダンジョンを探索していたらしい。だから、俺達とは、くぐってきた修羅場が違う」


 生贄世代と呼ばれる第一世代は苦労人が多い世代である。

 地雷と呼ばれるスキルを獲得した者やダンジョンの罠に引っ掛かったりと、大変だったらしい。


「言われてみれば、そうだよね。私達が学園や協会で教わることって、先生達世代のエクスプローラが経験してきたことだもんね」

「だな。俺ら第二世代が半分ふざけているのも、第一世代のおかげなんだわ」


 だから、第二世代は嫌われているんだけどね。


「明日はいよいよ21階層か…………どんな所かな?」

「さあ? ちーちゃん、どんな所?」


 俺は例によって調べていない。


「21階層以降は洞窟系に戻る。とはいっても、10階層までのトンネルみたいな洞窟じゃなくて、もっとごつごつした洞窟だよ。足元には気をつけて」

「モンスターは?」

「色々だね。まあ、その都度言うよ。でも、メインは蜘蛛だろうね」

「私、蜘蛛が嫌いなんですけど」


 アカネちゃんが嫌そうな顔をしている。


「あたしだって嫌だよ。まあ、あたしらは戦わないから大丈夫」

「何でだよ?」


 サボる気か?

 

「キルスパイダーは火に弱いんだけど、それ以外の魔法には耐性があるんだ。だから、あんたとカナタ、あとシズルの火遁で倒してよ」


 また、俺が貧乏くじだよ。

 

「ハァ……まあ、ゾンビよりはいいか」

「あんた、そればっかりだね」

「嫌いな虫を平気と思えるくらいにはトラウマなんだよ」

「それは御愁傷様。とにかく、あんたらがメインだから。瀬能はカナタを守って」


 ちーちゃんは瀬能にも指示をする。

 

「了解した」

「アカネは私とヒーラーをやる。キルスパイダーは毒持ちだからタンクの瀬能を優先して回復するんだよ」

「わっかりましたー!」


 アカネちゃんは自分が蜘蛛と戦わなくて済むとわかって嬉しそうだ。


「どれだけの数がいるかわからないけど、マナポーションを惜しんじゃダメだよ。キルスパイダーは素早いから油断すると、すぐに接近されるから」

「りょーかい」


 ちーちゃんは本当に詳しいなー。

 ってか、俺より、リーダーしてない?

 マズい!


「よーし、お前ら、明日はいよいよ決戦だ。頑張るぞー!」

「おー!」


 俺の掛け声にカナタだけが応じた。

 

「急にどうした?」


 瀬能が呆れて聞いてくる。

 

「いつものリーダーアピールですよ。チサトさんに立場を追われそうになって、焦っているんです」


 シズルが俺の内心を的確に読み取って、解説する。


「くっだらねー」

「ホントにちっちゃいなー、この人」


 ちーちゃんとアカネちゃんが冷たい目で俺を見てくる。


「さ、さーて、そろそろ休むか」

「そうですね!」


 俺の味方はカナタだけだよ。


 その後、各自のテントに入り、休むことにした。


 俺が寝ようかと思い、早着替えで寝巻きの体操服に着替えると、外に何者かの気配がした。


「神条、ちょっといいか?」

「ん? 瀬能か? いいぞ」


 テントの外から瀬能の声がしたため、中に入るように言う。


「寝る前に悪い」


 瀬能が謝りながらテントの中に入ってきた。

 

「何だよ? 夜這いか?」

「違うよ。そうじゃないことはわかるだろ」


 こいつは女に興味がない。


「だったら、何だよ?」

「君に確認しておきたいことがある。ボクは何としてもこのスタンピードを止めたい」

「実家が近いって、言ってたもんな」


 瀬能は俺らとは違い、家族の命がかかっている。

 俺達とはやる気が違うだろう。

 

「ああ、だから、何としてでも、クイーンスパイダーを倒さないといけないんだ」

「まあ、そらそうだろ。何が言いたいんだ? 死亡フラグにしか聞こえねーぞ」


 戦いの前夜にそんなことを言うな。

 

「ボクはタンクだ。敵を抑えるのが仕事。神条、もし、やれると思ったらボクごとで構わないからやってくれ」

「マジで死亡フラグを立てに来たのかよ」

「生き返るけどな」


 まあ、そうだな。

 瀬能がマジで死ぬ場合は俺達も死んでる。

 

「言いたいことはわかった。安心しろ。その時は特別なカボチャで、痛みを感じる暇もなく吹き飛ばしてやるよ」

「頼む。他の人は躊躇するだろうからな」

「何か、俺を人でなし呼ばわりしてないか?」


 実に心外である!

 

「してないよ。君は≪ファイターズ≫で経験があるだろう?」

「あるな。知っているのか?」

「ボクはリーダーになりたいからね。色々と調べたよ」


 ≪ファイターズ≫には生贄アタックという必殺技があった。

 誰かが敵を抑え、そいつごと敵を倒す必殺技だ。

 

 非常に効果的であったが、協会が禁止したため、今は使われていない。


「なるほど。まあ、わかった。明日は何としてでも、クイーンスパイダーを殺ろう」

「ありがとう」


 瀬能はそう言うと、テントを出ていった。


 俺は瀬能の思いに応えてやろうと決意を固め、休むことにした。

 

 


 

攻略のヒント

 クラン≪ファイターズ≫はファイター系の前衛が集まったクランである。

 メイジ、ヒーラー、ローグなどがいないため、効率は非常に悪いクランではあるが、単純な戦闘力は日本一である。

 特にリーダーの東城を始めとする幹部達は恐ろしく強い。

 その一方で素行の悪さも日本一であり、なるべく≪ファイターズ≫には近づかないほうが良い。


『週刊エクスプローラ ≪ファイターズ≫特集』より


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生贄アタック面白過ぎる
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