第095話 楽しい事の後には、めんどくさい事が待っているもんだ
文化祭最終日の後夜祭で、俺はシズルに誕生日プレゼントのネックレスを渡した。
その後、後夜祭も終わり、家に帰ると、ぼーっとしていた。
そして、翌日、学校は休みである。
とはいえ、授業がないだけで、文化祭の片付けを行う日だ。
俺は前日に引き続き、ぼーっとしながら学校に行き、クラスの片付けを手伝っている。
教室では、クラスメイト達も片付けをしているが、皆、祭りの終わった後の喪失感と文化祭が成功した満足感の両方を味わっているようだった。
「いくら儲かったん?」
俺は一緒に片付けをしているシズルに聞く。
「いくらかな? みっちゃんと山崎君がすごい喜んでたから、かなりの額じゃない? 今度、打ち上げを計画するって言ってた」
どうやら打ち上げをするくらいには儲かったらしい。
ちなみに、みっちゃんとは篠山のことだ。
篠山ミツキでみっちゃん。
「焼肉がいいなー」
「ルミナ君、そればっかりだね」
焼肉が好きなんだよ。
それなのに、ウチの家族はあまり食べない。
「どちらにせよ、早めがいいな」
「だねー、ん?」
俺とシズルが話していると、ピーンポーンパーンポーンとチャイムが聞こえてきた。
『1年3組の神条ルミナ君、至急、学長室まで来てください。繰り返します。1年3組の神条ルミナ君、至急、学長室まで来てください』
この声は伊藤先生である。
「俺?」
「だったね……」
「何もしてねーけど」
「学長室って、言ってたね」
学長室ってことは、学園長が呼んでいることになる。
それも至急。
……………………。
嫌な予感がする。
「悪い、ちょっと行ってくるわ」
「う、うん」
俺はクラスの皆にも謝り、学長室へと向かった。
学長室の前まで来ると、扉をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
俺は中から入室許可の声が聞こえてきたので、扉を開ける。
学長室に入ると、そこには学園長と伊藤先生、そして、本部長がいた。
このメンツ、絶対にロクなことじゃない。
俺は学長室にいる3人の表情を見て、嫌な予感が的中していることを悟った。
「来たか、座れ」
本部長が俺を見て、座るように促す。
俺は学長室にある高そうな革のソファーに座った。
「何の用だ?」
「単刀直入に言う。ロクロ迷宮でスタンピードの予兆が発見された」
ほら、ロクなことじゃない。
「それは確かか?」
「ああ、25階層において、モンスターが急激に増加している」
「シロ」
俺は服の中にいるシロに声をかけると、シロは服から出てきた。
「スタンピードだな」
「そうか」
ついにロクロ迷宮でも起きたか。
「それで? なんで俺を呼んだ?」
俺は状況を理解すると、本部長に用件を尋ねる。
「お前に原因となるモンスターを倒してほしい」
まあ、わざわざ呼んだんだから、そうだろうな。
「なんで俺? 東京本部には高ランカーがいっぱいいるだろ」
≪Mr.ジャスティス≫やサエコ。
他にもクーフーリンや≪教授≫、そして、≪竜殺し≫もいるはずだ。
「もう隠せないから言う。実は数日前から全国各地の複数のダンジョンでスタンピードの予兆が確認されている」
「は?」
「これはパニックを起こさないために、箝口令が敷かれている。現在、東京本部にいる高ランカーはそれの対処のために出払っている」
俺がメイド服をショウコにもらいに行った時、ショウコの反応がおかしかった。
どうやらこれのせいらしい。
「クーフーリンや≪教授≫は? あいつらはハヤト君の≪勇者パーティー≫のメンバーだろ」
「その2人は川崎支部のダイダラ迷宮に行っている。お前も知っているだろうが、あそこにいるエクスプローラはファイターばかりで、ローグがいない。だから、あそこで活動していたクーフーリンを派遣した」
ダイダラ迷宮でもスタンピードが起きそうなのか…………
まあ、クーフーリンと≪教授≫に加え、東城さんや≪ファイターズ≫のクズ共がいるから大丈夫だとは思うが。
「つまり、日本の協会の中枢である東京本部がもぬけの殻だと?」
「…………そうだ」
バカじゃねーの?
「実際、どのくらいの戦力がいるんだ?」
「………………」
「おい!」
「すまん、お前を除けば、Dランクしかいない」
Dランク。
ユリコのような例外を除けば、初心者を卒業した程度のランクだ。
ロクロ迷宮で言えば、良くて15階層を越えた程度である。
とても25階層には行けない。
「俺に死ねと? 戦力が揃うまでの時間稼ぎをしろと? まあ、こんな状況で戦力が揃うとは思えんが」
「すまん」
本部長は唇を噛む。
「おい、シロ。なんで急にスタンピードが起きたんだよ」
「スタンピードが起きる原因であるモンスターを呼ぶモンスターがポップしたんだよ。こいつらは10年くらいでポップするからな」
ああ、こいつが前に言っていたことはそういうことか。
「ちょっと待て! そんなことは初耳だぞ!!」
本部長はシロを怒鳴った。
「言ってないからな」
シロは本部長の怒りを気にしていないようで、あっけらかんと答える。
「ルールか?」
「ああ、ルールだ」
「ルールって何だ!? いったいどうなってるんだ!?」
「本部長、落ち着きなさい」
学園長が興奮している本部長をなだめる。
「すみません…………」
「なあ? この前は言えなかったのに、なんで今は言えるんだ?」
俺は本部長が静かになったので、話を続ける。
「それがルールだ。起きた現象は話すことが出来る。しかし、まだ起きてない現象は話すことが出来ない」
「シャーマンは?」
「あれはニュウドウ迷宮のモンスターだから、俺っちには関係ねーよ。俺っちがルールに縛られるのはロクロ迷宮だ」
「俺がこの前、30階層のボスを聞いたのに答えられなかったのは、俺達人間がまだそこに到達していないからか?」
「そうだ。お前は覚えていないだろうが、春にズメイの試練を受けた時、お前とシズルは試練を受ける前に、試練の内容を聞いてきた。俺っちは教えられないと答えたが、ズメイが出てきたらアドバイスをしてやっただろう。あれはそういうことだ」
…………覚えてない。
まあ、いい。
「つまり、ロクロ迷宮でスタンピードの原因となるモンスターがポップしたから答えられるわけだ」
「だな。モンスターはクイーンスパイダー。こいつがキルスパイダーっていう蜘蛛モンスターを生み出す」
えー、虫かよー。
「強いん?」
「別に強くねーよ。ズメイやレッドオーガのほうが遥かに強い」
「俺で勝てそうか?」
「余裕、余裕。キルスパイダーもクイーンスパイダーも毒持ちだが、耐性のある相棒が負けるわけねーよ。まあ、数が多いのがネックなんだが…………」
「だろうなー」
ニュウドウ迷宮のゾンビだってそうだった。
ゾンビ自体はそんなに強くない。
問題は数だ。
通路や部屋を埋め尽くすほどのゾンビ軍団だった。
「俺一人では無理か…………」
「いくらお前でも、いつかは体力が尽きる。その時にお前は蜘蛛のエサだ」
「やめろよ。想像しただけで、鳥肌が立つ。しかし、俺しかいないわけだ」
「一人で行かすつもりはない。パーティーを組んでもらう」
本部長が止めてくる。
全滅のリスクを避けるためには、パーティーを組まないといけない。
「Dランクか? 足手まといにしかならんぞ?」
「それは…………」
本部長だってわかっている。
でも、他に手がないのだ。
「学園長、ウチのパーティーを連れていく許可を下さい。もちろん、本人達の同意が得られればですが」
「おい!」
「それはマズい! 仮免の学生だぞ!」
俺の提案に伊藤先生と本部長が反対する。
「君のパーティー≪魔女の森≫なら行けるのかね?」
「学園長!」
「ウチのパーティーメンバーはDランクの雑魚共とは違います。それにシズルの雷迅を使えば、キルスパイダーとの戦闘を極力回避できます」
もうこれしかないだろう。
「うーむ…………」
学園長は悩んでいる。
「それに、組んだこともないヤツらと急造パーティーを組んでも、ロクなことはありません。必ず失敗します」
「しかし、学生に任せるわけには…………」
「どっちみち、スタンピードが起きれば、学生も戦わないといけませんよ。なにせ、ロクロ迷宮は目の前にあるんですから」
戦いになればいいけどね。
外での戦いで学生がどれだけ戦えるだろうか?
皆、死の恐怖で逃げ、後ろからズドンだ。
「ぶっちゃけた話をすると、こうなったらダンジョンの中の方が安全ですよ。どうせやるなら死ぬリスクが低い方がいい」
「…………伊藤君、≪魔女の森≫の5人を呼んでくれ」
「っ、わかりました」
伊藤先生は学長室から出ていく。
伊藤先生が出てからしばらくすると、ノックが聞こえてくる。
学園長が入室の許可を出すと、伊藤先生とウチのパーティーメンバーが入ってきた。
「何さ? ルミナちゃん、何かしたの?」
部屋に入るなり、ちーちゃんが俺に疑いの目を向けてくる。
「俺は何もしてないな。ほら、本部長、仕事だ」
「ああ、実は…………」
本部長は5人に状況を説明した。
「マジで?」
「マジだな。先に言っておくが、強制はしない。最悪、俺一人で行く。虫は嫌いだが、ゾンビよりかはマシだ」
一人はキツいが、逃げるわけにもいかないし、行くしかない。
「神条、前に言っただろ。ボクは行くよ。ボクの家はここの近くなんだぞ」
瀬能が真っ先に応えた。
「そういえば、そんなことを言ってたな」
「ああ、家族を見捨てられない」
俺も瀬能の立場ならそうしただろう。
「私も行く。ルミナ君を一人では行かせられないし」
シズルも行くことに同意してくれる。
きっと愛の力だね。
「わかった」
前衛の2人は勇ましく応えてくれた。
「お前らはどうする?」
俺は残っている3人に問いかける。
「あ、あのー、私はやめ――」
「あたしも行くよ」
「僕も行きます!」
「え!? あ、わ、私も行きますよ! 当然です!」
本当にダメな子だな…………
「アカネちゃん、無理しなくてもいいよ」
「い、行きますよー! 置いて行かないでください!」
うーん、まあヒーラーは必須になるからな。
心配だけど連れて行くか…………
「危なくなったら逃げろよ」
「はい!!」
そこだけははっきりと答えるんだな。
「学園長、許可を」
俺はパーティーメンバーの了承を得られたので、学園長を見た。
「わかった」
「待ってください! せめて、親御さんの許可を得ないと!」
教師である伊藤先生は未だに反対のようだ。
「そんな時間はねーし、許可を出すわけねーだろ」
どこの親が許可を出すんだよ。
「それはそうだが……」
「お前らのクビをかけろ。うまくいったら嘘ついて隠ぺいすればいいだろ」
もちろん、その分の報酬は上乗せしろよ!
「私が全責任を取る!」
学園長が高らかに宣言した。
「わかりました。私もクビをかけましょう。神条、必要なものはあるか?」
本部長もクビをかけるらしい。
バカだなー。
適当に誤魔化せばいいのに。
俺、喋らないよ?
「ポーションとマナポーション、あと、帰還の結晶を人数分用意してくれ」
せっかくなので、本部長に物資の提供をお願いする。
「わかった。すぐに用意する。他には何かいるか?」
「あとは自前でいい。報酬の金を用意しておけ」
「いくらでも払ってやる! 準備が出来たら協会に来い。私は物資の準備をする。それと、他の連中はダンジョン内で待機させ、スタンピードに備えさせておく」
「来るといいな。あの雑魚共はきっと逃げ出すぞー」
掲示板で俺の悪口を言うしか能のないヘタレ共だ。
「その時は仕方がない。来れるヤツだけで対処する」
本部長はそう言って、足早に学長室を後にした。
「神条、すまん」
伊藤先生が謝ってくる。
「ニュウドウ迷宮の時より楽な仕事ですよ。ってか、あんたの旦那は?」
Bランクだろ?
「名古屋に行ってる」
名古屋もかよ。
まあ、あそこはユリコがいるから大丈夫だろう。
そして、あいつはこの騒動を利用して東京に返り咲くつもりだろうな。
協力するかわりに、東京本部の出禁を解けーって。
逆に不安だ…………
「ユリコの所とは御愁傷様。まあ、ユリコがいるから名古屋は大丈夫だ。さて、準備して行くか! お前らも準備してこい。協会に集合な」
「わかったわ」
「りょーかい」
「わかりました!」
「はーい」
「ボクは準備は出来てるから先に行く」
俺は家に戻り、必要なアイテムや武具をアイテムボックスに入れ、準備を完了させると、協会へと向かった。
攻略のヒント
やっほー!
皆のアイドル、あきちゃんだよー!
ちょっとクーフーリンとサエコちゃんのせいで時間が空いちゃったけど、今日もあきちゃんが知ってるエクスプローラを紹介しちゃいまーす。
第7回目はクレイジーなこの人!
安達ユリコさんでーす!
知らない人いるかな?
≪白百合の王子様≫でーす。
日本に変なエクスプローラはいっぱいいるけど、群を抜いているのがユリちゃん。
≪悲しきヴァルキリーズ事件≫を始め、多くの伝説を残したDランクエクスプローラ!!
ユリちゃんは皆も知っている通り、日本三大ランク詐欺、そして、日本三大エクスプローラの恥の1人。ってか、筆頭!!
しかーし、この人の強さは抜群!!
≪踊り子≫というレアジョブに加え、魔法、近接戦闘と何でもこなす天才エクスプローラ!!
もう褒めるのはこの辺でいいかな?
私も何度か会ったことがあるんだけど、すごく怖い。
私を見る目がウサギを見るライオンの目なんだよね。
そのくせ、すごく優しいの。
怖い。
ユリちゃんは東京本部を出禁になっていて、名古屋支部を中心に活躍しているらしい。
これで安心だと思っていました。
でも、ユリちゃんと仲が良いルミナ君情報だと、絶対にいつか舞い戻ってくるらしい。
そういうヤツだってさ。
女子エクスプローラの皆!
皆で力を合わせ、ユリちゃんを倒そう!!
私はしないけどね!!
勝てる気がしないし、負けたらジエンドだから!!
じゃあ、ユリちゃんの裏話でもしますか。
まあ、存在自体が裏な人だけど。
ユリちゃんとお酒を飲むときは席を外したらダメだよ!!
何故かは知らないけど、急に眠くなるらしいよ!!
ってか、良い子は近づいたらダメな人だよ!!
あきちゃんとの約束だよ!!
さ、さーて、次の更新は誰を紹介しようかな~。
みんなちゃーんと、毎日チェックしてね?
『≪モンコン≫ことBランクエクスプローラ春田秋子のブログ』より
 




