第092話 文化祭初日~美人は何を着ても似合うなあ~
ダンジョン学園の文化祭前日に、最終準備を整えた後、俺はショウコの家に行き、今日のコスプレ用の衣装をもらった。
そして、朝起きると、もらった衣装に着替える。
「これであってるかな?」
「多分、あってると思うぞ」
俺は鏡を見ながら確認する。
うん、ちょー可愛い!
「よし、行くとするか」
俺は篠山にもらった立札を持つと、学校へと向かうことにした。
学校に向かって歩いていると、わかっていたことではあるが、かなり注目されている。
まあ、俺の役目は歩く広告塔なので、問題はないはずだ。
学校に到着すると、自分のクラスを目指す。
その間も通りすぎる学生や先生に二度見をされていた。
先生に至っては、ため息のおまけ付きだ。
しかし、いつものことだと思われているようで、何も言われない。
それはそれで悲しい。
誰か、ツッコめよ!
そうこうしていると、自分のクラスに到着した。
「うぃーす」
俺は扉を開けて、挨拶をする。
「…………おはよう、フフ」
篠山が俺を見て、笑う。
「お前が言うから着てきたのに、なぜ笑う?」
「いや、ごめん。でも、それでいいのよ! あんたは今日からその格好で歩き続けなさいね」
はいはい。
「おい、神条、『お帰りなさいませ、ご主人様』って言ってみろよ」
山崎がうざい顔をしながら言う。
そう。
俺の格好はメイドである。
それもメイド喫茶とかの安いコスプレではない。
金持ちの家にある本物のメイド服だ。
しかも、カチューシャ付き。
「殺すぞ、ご主人様!」
「こえー」
マジで、殺すぞ!
「ねえ、ルミナ君、これ、どうしたの? 生地がすごい良さそうだけど」
シズルが俺の衣装に触りながら聞いてくる。
「よくわかるな。多分、すげー高いと思うぞ。何せ、クソ金持ちのショウコにもらったやつだから」
「ショウコさん? あの人の家にメイドさんがいるの?」
「いるぞ。本物のやつ。執事もいたな」
あいつの家は昔の貴族みたいな家である。
そして、何故かお嬢様であるショウコはジャージを着ている。
意味がわからん。
「へー、似合ってるよ」
「どうも」
「そうかぁ? こんな生意気そうなメイドいるか?」
「黙れ、山崎!」
まあ、こんなメイド、秒でクビだろうな。
「口の悪いメイドだな」
「見た目が良ければいいんだよ!」
メイド服に金髪はよく似合うのだ。
「自分で言う? そんなことよりナンパには気を付けなさいよ」
篠山が忠告してくる。
「ナンパなんか、いるか?」
ここは学校だぞ。
「外部からも来るからね。あんたを知っている人間は近づかないだろうけど、知らない人間に声をかけられるかも」
あー……たまに街を歩いていると、道を聞かれるやつだ。
「ぶっとばしてやる」
「それそれ。絶対に止めなさいよ」
どうやら篠山は俺を心配しているのではなく、問題を起こすなと、言っているらしい。
「うーん、努力しよう」
「皆、頑張ってるのよ。あんた一人のせいでクラスに迷惑をかけないで」
そう言われると、殴りづらい。
仕方がない。
「頑張ります。お嬢様」
俺は恭しく礼をする。
「よろしい」
まあ、先生達が見回りをしているから大丈夫だろう。
「よーし、皆、頑張るわよー!」
『おー!』
おー。
こうしてダンジョン学園東京本部の文化祭が始まった。
文化祭が始まると、外部から大勢の客がやってきた。
ダンジョン学園は基本的に関係者以外の立ち入りが禁止されているため、この文化祭の時は大勢の人がやってくるのだ。
中には、クランや企業の人間も混じっており、この機会に勧誘をされることもあるらしい。
もちろん、そのような事は禁止された行為であるが、学生だって、良いところに就職したいため、ほぼ黙認状態となっている。
『これからどうするんだ?』
メイド服の中に隠れているシロが念話で聞いてくる。
「出てきてもいいぞ。どうせ、このメイド服で目立ってんだ」
魔女のコスプレをしていた時もそうであったが、皆、俺の方に目が行くため、シロを見ても、そういえば、白蛇を従魔にしてるんだなーと思う程度だ。
『そうか。じゃあ、そうする』
シロはそう念話すると、モゾモゾと服の中から出てきて、俺の肩にやってきた。
「それで? どうする?」
「まずは喫茶店で軽く朝飯を食べようか」
朝だし、ちょうどいいだろ。
「朝飯は食っただろ。正直に、ミサキの所に行きたいって言えよ」
「まあ、そういう一面も否定できないな」
よーし、お姉ちゃんのクラスにレッツゴー!
俺は立札を担ぎ、宣伝をしながらお姉ちゃんのクラスに向かった。
例によって、俺が歩いていると、外部の人間から注目されている。
メイド服✕金髪美人さん✕白蛇のスーパーコンボだ。
お姉ちゃんのクラスに着くと、すでに人が並んでいた。
どけ!
とは言わず、大人しく、列に並ぶ。
俺の前に並んでいた若い男は俺を見ると、一瞬、ビクッとした。
そして、すぐに俺の全身を見渡した後、立札を見る。
「あのー、オーク肉焼きそばって」
「オーク肉を使った焼きそばです。1つ500円。本来なら、オーク肉は高いですが、私達はエクスプローラなので、材料費がかかりません。なので、安いんです」
焼きそばに500円は高い。
しかし、オーク肉を使っているので、これでもかなり安いほうだ。
「そ、そうですか……どこのクラスです?」
「下の1年3組ですね。階段を降りてすぐです。今ならこのドリンク無料券をプレゼントします。どうぞ」
このドリンク無料券は俺が提案した業務用スーパーで仕入れた安いジュースを高く売ろう作戦の成れの果てである。
実は中学の時に、川崎支部の文化祭で原価数十円のジュースを極限にまで薄めたものを数百円で売り付けるというスーパー錬金術により一儲けしたことがあった。
しかし、これは売り方に多少の問題があり、川崎支部では禁止となっていた。
俺はこの東京本部ならいいだろと思い、≪魔女の森≫の名で申請したのだが、川崎支部での悪行を調べていた先生達により、あえなく却下となってしまい、このスーパー錬金術ジュースは無料券となってしまったのだ。
「ど、どうも。行ってみます」
行ってこい。
そして、金を落とせ!
俺は後ろに並んだ野郎にも、宣伝とジュース券を渡し、仕事をする。
そうこうしていると、列も進んでいき、ようやく中に入ることができた。
さーて、お姉ちゃんを指名をしよう!
「いらっしゃいませー。お姉さんは裏なので、いませんけど、こちらの席にどうぞー」
顔も名前も知らない先輩女子に席を案内される。
「お姉ちゃんを指名したいんですけど」
「ウチはそういうお店ではありませんのでー」
「でも…………」
「何になさいますかー。おすすめはこちらのケーキセットです」
「…………お前、何を食べたい?」
先輩の圧力に負けた俺はシロに聞く。
「ケーキでいい。しかし、お前、完全にブラックリストに入ってんじゃねーか」
開店して1時間も経っていないのに、ブラックリストに入るって何だよ!
「午前中はここで過ごそうと思っていたのに」
「食べたらすぐに帰ってくださいね。お姉さんはいませんのでー」
あ、すげー厄介な客と思われている。
「ケーキセットください。ドリンクはコーヒーで」
「かしこまりましたー」
先輩はそう言うと、裏に引っ込んでいく。
「ちーちゃんだな! 間違いない!」
「どうかなー」
しばらく待っていると、噂のちーちゃんがケーキセットを持ってきた。
「はい。食べたら、すぐに帰るんだよ」
「おい! お姉ちゃんを出せよ!」
「あんたがここに来て、居座るのは皆わかってたから、ミサキは裏方になったの。ミサキは料理も上手だし」
これはお姉ちゃんの手料理かな?
まあ、どう見ても市販のケーキだけど。
「それでちーちゃんが接客か? もう少し、愛想よくしろよ」
「メイド服を着て、女を出せって、恫喝しているヤツに言われたくない」
そこだけ聞くと、ド変態だな。
「クソッ! 俺の予定が!」
「いいからコーヒーを飲んで帰れ。このコーヒーはミサキがいれたものだよ」
「ズズーッ」
このコーヒー美味しい!!
「相棒、ケーキをもらってもいいか?」
「勝手に食え。俺はコーヒーを楽しんでいる」
俺はコーヒーを優雅に楽しみ、シロはケーキをむしゃむしゃ食べている。
ホントによく食う蛇だな。
そして、コーヒーを飲み終わったため、おかわりでもしようかなーと思っているとちーちゃんがやってきた。
「おかわり」
「ない。帰れ」
「客に向かって帰れだと!? ここの店はどういう教育をしているんだ!? 責任者を出せ!」
お姉ちゃんを出せ!!
「いいから帰りなよ。あんたがいると、メイド喫茶と間違えられるんだよ」
「えー……しゃーねーなー。じゃあ、このジュース無料券をお姉ちゃんに渡しといて。あ、ちーちゃんにもあげる」
俺はちーちゃんにジュース無料券を2枚渡す。
「ありがと。あんた、このジュースをパーティー名で申請したろ? あたしらも先生に文句を言われたよ」
「え?」
そうなん?
「そして、あんたが馬鹿な事をしないように釘を刺された。頼むから変なことをしないで」
「はーい」
俺は居づらくなったので、会計を済ませ、姉のクラスを出た。
明日も来よう!
「これからどうすんだ?」
「うーん、適当に見てまわるかー」
「ホノカの所には行かねーの」
姉の所に行った後は妹の所に行くのが自然であろう。
でもねー。
「行かない。行きたくない」
「何で?」
「会うと、気まずい人がいるから」
ホノカのクラスには織田ヒトミちゃんがいる。
ヒトミちゃんは夏休みの合宿遠征の時に俺にコクってきた可愛い子だ。
フッたので非常に顔を合わせづらい。
「そりゃあキツいな」
「心を読むんじゃない。デリケートなんだぞ」
「そう言われてもなー」
「とにかく、今日は高等部を見てまわるぞ」
「まあいいか」
この後、俺は2、3年のクラスを中心に見てまわりつつ、宣伝を兼ねたジュース券配りをした。
3年のマッスルミュージカルなるアホなクラスもあったが、基本的には、どのクラスも楽しめた。
俺はメイド服を着て、青春を謳歌し、文化祭初日を終えた。
攻略のヒント
ダンジョン学園の文化祭では、学生らしくをモットーに楽しくやりましょう。
ですので、利益を追求したり、モラルに反することをしないでください。
また、外部からも人がやってきますが、校則に準じ、ダンジョン学園の生徒であることを自覚して行動してください。
みんなで文化祭を楽しく盛り上げましょー!
『生徒会文書 生徒会からのお願い』より