第15話「制圧」
風早君――その言葉が聞こえた瞬間、俺の中でネコトちゃんの正体が確信に変わる。
だけど、俺はそのことに関して何かをネコトちゃんに言うことはしなかった。
それよりもまず、目の前にいる男のことが優先だ。
「くっそぉ……」
男は地面に腕を付いてどうにか体を持ち上げようとする。
しかし上手く力が入らないようで、すぐに地面に倒れ込んでいた。
それを何度も繰り返す。
無理にでも立ち上がろうとしているようだ。
「無駄ですよ、脳を揺らしましたからね。数時間はまともに立てないはずです」
俺はもう男がネコトちゃんに危害を加えられない状態ということを確認し、下手に煽らないよう丁寧な口調で話しかける。
男の意識を奪おうと思えば簡単だったけれど、この後色々と聞き出さないといけないと思い気絶させなかった。
後はさっさと諦めてくれればいいのだけど、この様子を見るにまだ諦めそうにないな。
「なんで邪魔するんだよ! お前も部外者だろうが!」
「部外者だろうと、止めないわけにはいかないです。人が傷つけられそうになっている状況ならそれを止めるのがまともな人間だと思いますよ」
まぁ実行できるかどうかはまた別として、普通はみんな止めたいと思うはず。
例え今回ネコトちゃんが巻き添えになっていなくても俺は止めに入っていただろう。
しかしこの男……動けなくすればすぐ諦めると思ったのに、全く諦める様子を見せないのはそれだけクララちゃんに恨みを持っていたということか。
なんとなく危うい子だとは思っていたけれど、とんでもないことをしていたもんだ。
俺は男を目で牽制しながらポケットから取り出したハンカチを使ってナイフを拾い上げる。
そしてそれを駆け寄ってきた警備員に渡した。
「あ、あの、大丈夫ですか……?」
動けない男を警備員が取り押さえているところを眺めていると、ネコトちゃんがとてもかわいらしい声で話しかけてきた。
「うん、大丈夫だよ」
俺はネコトちゃんに笑顔を向け、なんともないことをアピールする。
実際ナイフはくらっていないし、あんな男は熊に比べれば気に留めるほどでもない。
だからこれは強がりではなかった。
「怪我とかしていませんか……?」
「うん、大丈夫だよ?」
「でも……」
ネコトちゃんはやはりとても優しいようで、大丈夫だと言っている俺の体を心配そうに見てくる。
ここであまり長居をしているのはよくないし、このままではネコトちゃんにいらない心配をさせてしまいそうだからもう立ち去ったほうがいいか。
それに――今は、どんな顔をしてネコトちゃんと話せばいいのかわからないし。
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