dear bro.[ディアボロ]
衝動的に書き殴ったものになります。
小説の形を成しているかもわからないほど稚拙なものですが、どなたか1人にでも私の連ねた文字が届きますように願っています。
“我を呼び起こせしものは汝なりや?”
「あぁ俺だ!俺が呼び出した!」
“汝の願いを告げよ”
「俺は………………………」
“汝の願い、聞き入れようぞ”
「あぁ頼む…」
“然らば、汝の『死』を戴こう”
「Deer Kevin.
Hello,how are you? I’m good.I like Senbei very much.Thank you.
from Aki」
「…アキ?Ah…これは…?」
クルクルの金髪に碧眼の、いかにもな外国人のその男は、まるで難解な古書を読み解くような顔で僕に尋ねた。
「そんなに僕の手紙に感動してくれたんですかケビン先生?」
「…確かにletterを書けとは言いマシタが…これletterデスカ?いえまぁSenbeiが好きなのはわかりマシタが…」
「じゃあいいじゃないですか、それとももっと熱く語るべきでした?そうなると手紙じゃなくて論文になりますけどいいですかいいですねわかりましたそれでは書き直してきます」
「Wait!please wait!これ以上状況をこじらせないでクダサイ!わかりました!アナタのSenbei愛はわかりマシタから!」
「じゃあ一件落着ですね。せんべいのように円く収まってよかったよかったではさようなら」
「うまくないデスヨ!?」
「せんべいはうまいでしょ」
「shiiiiiiiit!!!いいですか!?ここはEnglish conversation class!英会話教室デスヨ!?Englishの使い方を学ぶノデス!letterはその一環であってアナタのSenbei愛は知らないノデス!!」
「はぁ」
(あ、スイッチ入ったなこりゃ)
「いいデスカ!?まず出だしの『deer』は間違いデス!本来は『dear』で『〜へ』と書き出すノデス!『deer』は『鹿』!『deer kevin』は『鹿野郎ケビン』という意味デス聞いてマスカMr.アキ!」
「ええまぁ、鹿せんべいがどうとか」
「Oh myッ…Oh…」
僕は、文字通り頭を抱えるケビン先生の方を、正確に言えばケビン先生の奥に置かれているデジタル時計を見つめていた。
「あ、そろそろ時間ですねお疲れさぁしたぁ」
「あっコラwaitアキ!うぇぇぇいとッ!!」
(ったく退屈なんだよなぁ、高校上がってバイト三昧遊び三昧できるかと思いきや英会話教室なんて退屈な場所に縛り付けられるとは…学校終わりに勉強なんて正気じゃねぇだr)
「おーい、アキさんアキさん?」
「………なんでしょうコハルさん」
「いや、ものすごい不機嫌そうだったから」
「もしや口に出てたか?」
「ううん?顔には出てたけどもね」
コハル、もとい僕が苦痛に苛まれながらもこなしたものと同じスケジュールを終えたとは思えないほど清々しい顔をした茶髪でセミロングのJKが左の脇腹を突いてきた。結構強めに。
「そうか、じゃっお疲れ様☆気をつけてな!」
「うんお疲れ☆…っていや待ってよ、一緒に帰ろーよ家隣じゃん、ねえってば」
「じゃあそのいかにも僕のこと荷物持ちにさせようとする魂胆丸見えのエコバックしまってくれませんかね」
「環境に優しいタイプの幼馴染みなので。」
「僕にも優しくしてほしいと思うの。」
「…結局利用されてる自分が悲しいんだけど、給料いくらくらい貰えますかね」
両手に膨らみ切ったエコバッグを持たせられながら僕は言う。
「おせんべい奢ってあげたじゃん許しなさいな」
「我ながらせんべい一袋でここまで働けるとは驚きだよ。ってかこんだけ買っといて全部食えるもんなんですかね華のJKってのは、16歳の男子高校生でも待つのに苦労する量の惣菜って…」
「この時間帯はお店閉まる直前でお惣菜が安いの。あとこう言う時に限って華のJK言うな」
高校での授業を終え、週に2回の英会話を終え、その帰り道の途中にある引くほどの安さを売りにするスーパーに寄り、等々…時刻は既に21時を回っていた。あたりは暗闇に包まれていて、電灯が数本立っているとはいえ、コハルの顔はほとんど見えない。
「なぁコハル…」
「えっ、な、なによ急に…そんな真剣な顔して…えっ、いやいや嘘!?私たちただの幼馴染みで!小学校からずっと一緒で姉弟みたいなもんじゃん!そんな…きゅ、急に…///」
「両腕千切れそう、ガチで。」
「………」
「あの…コハルさん…?無言でせんべい砕くのやめません?それ僕の労働報酬…」
「黙りなさい、弱虫アキちゃん」
「うぐぅ、やめろその僕に確実にダメージを与えられる切り札。ただでさえ腕千切れそうなのに」
「………」
「待ってせんべいが粉になるって、ごめんなさい許してくださいこれくらいの荷物も持てなくてすみませんってば」
「…はぁ、ほんっとに変わらないわね、その芯のない感じ。そんなんで家ではちゃんとやっていけてるの?弱虫アキちゃん」
「うるせ、クソ親父はともかく、母ちゃんとばあちゃんとはうまくやってるって」
「……ナツにぃはまだ?」
「あぁ、見つかってねぇよ」
「そっか………大丈夫だって!きっとふらっと帰ってくるわよ!」
「あぁ。」
コハルの顔は見えない。けれど無理して笑っていることはわかってしまう。
「じゃあまた明日ね、ゲームばっかしてないでちゃんと寝るのよ」
「いやおかんか。…なぁコハル」
「なぁに?別に私のことは気にしなくっても大丈夫よ?あ、それともなに?私と離れるの嫌になっちゃったのk」
「いや報酬のせんべい寄越せ」
大体3年前、ナツにぃは失踪した。ナツにぃ、ナツオは僕の2つ上の兄で、生きていれば今は18歳になる。僕なんかよりよっぽどすごい人だった。スポーツはなんでもこなせて、勉強もこの辺じゃ比べられる人なんていないほどの天才児だったのを覚えてる。それこそ僕がこうして英会話教室なんかに行かされてるのも「ナツオの弟」としての僕に期待されてる節もあるんだろう。
(まぁナツにぃの名前出されたら逆らえないのをわかってるクソ親父のせいってのがほとんどか…。)
「ただいまぁ…」
「あらおかえりなさい、遅かったわね」
朝帰りするのかと思ったわぁ、とニコニコしながら息子に言ってくるあたり母の天然は止まることを知らない。
「あぁ、コハルにこき使われてただけ」
「あらそぉだったの、コハルちゃんにちゃんとお礼言っておくのよ?」
「どういう原理で僕がお礼言うんだよ、税込264円のせんべい一袋の報酬に見合わない仕事させられといて」
「あらあらぁ、うふふ」
母のどこか抜けた会話を終えた後に、用意してくれていた晩飯をちゃっちゃと温めて平らげ、風呂に入りすぐに布団に入った。…まぁ布団に入っただけでしっかりゲームはしたんだけれども。ただ珍しいことに僕はやりかけのゲームのセーブボタンも押さぬまま深い眠りに落ちてしまった。
〈………き、アキ、ぜった…けい…く…するな…〉
なんだこの声…あれ?僕今寝てる…よな?あれか?明晰夢?ってやつか…?ってか「けい…く」ってなんだ?誰の声だ?そもそも声か?わからない…でも懐かしい…?ような…
「…き、アキ」
また声か…?でもさっきと違って馴染み深いような…
「アキ!こらアキ!弱虫アキちゃん!」
「….なんだ夢か。」
「寝るなおい、可愛い幼馴染みがモーニングコールしにきたんだよ?萌えるでしょこれ」
「それ自分から言うのは違うと思うの。」
朝になっても昨夜の謎の声が忘れられずにいた。普段はどんな夢を見ようが気にしないし、それこそ同級生たちが昨夜見た夢の話なんてしていようものならそっとヘッドホンをするほど興味の湧かない対象だった。けれど昨日見た夢は忘れられずに、登校中はずっとその夢で聞いた声をリピートしていた。隣で歩くコハルの声など気にも留めずにひたすらに相槌を打つほどに夢の声に夢中だった。
「じゃああそこのクレープ、アキのおごりに決定ね!アキってばやっさしい〜!」
…うん、気にも留めずに。
(ついにぼっち力が天井して夢の中で友達を作りはじめたのか?)
そんな特に発展のない考え事をしている中、僕らが通学用に使っている駅のホームへとたどり着いた。
あまりせんべいとテレビゲーム以外に興味のない僕でも、この少し小高い場所に建った駅のホームからの景色は数少ない僕の日常の癒しの一つだった。
「んでね?ミサキンってば水筒の中身の醤油ぶちまけてね!?」
(コハルの小煩い話し声もホームの雑踏でかき消され、ほどよく…いやそのミサキンの話はすごい気になるけども)
心の中でツッコミつつ、僕はいつもと同じようにホームから見える景色を見つめ返し、落ち着きを取り戻そうとする。左手の遠くに見える小さな山を始点に目を右へと順々に向けていく。森と街の境目に立つ3つの鉄塔。よく名前は目にはするけど、実際の店舗を見たことはない、近所で有名な大きなクリニックの看板。今にも女の子が飛び降りようとしている雑居ビルの屋上。この時間だと半裸で洗濯物を畳むおっさんが見えるアパート。
…今にも女の子が飛び降りようとしている雑居ビル?
「!?」
「うわぁびっくりした!どしたのアキ!?」
「女の子…」
「はぁ?女の子?」
「さすがにやべぇって!」
「ちょっと!?アキ!?」
「コハルは!えーっと、あれだ!警察!警察呼んでくれ!」
「は!?警察!?ちょっと落ち着きなよアキ!なにがあったの!?ねぇ!アキってば!」
僕の足は駅のホームを駆け下り、改札を抜け、その雑居ビルへと向かっていた。そんな朝っぱらから必死で走る僕を、駅へ向かおうとしている周りのサラリーマンや学生たちは不思議そうに見つめてきた。ただ、一番驚いていたのは紛れもなく僕だった。
(なんで僕はこんなに必死になってるんだ?今から行って間に合うかもわからない、間に合ったとしてもあんなところに立って、今にも死のうとしているであろう女の子を僕は救えるのか?)
僕はもともと正義感の強い方ではなかった。今こうやって走っているのも、正義感が背中を押して、というわけではなさそうだった。ただただ、止めに行かなければという漠然とした義務感が心と、足を支配していた。
「ゲホッガハッ、おぇえ…」
普段コハルに連れ回されるとき以外、運動らしい運動をすることのない僕にとっては駅から雑居ビルまではあまりに長く、辛い道だった。
足を震わせながら雑居ビルの外設された階段を登る。心臓は激しく暴れ、視界が黒と白に点滅しながら黄色に染まっていった。
(女の子は無事だろうか、ビルの下を確認した感じは何事もなさそうだったが、まだ飛び降りようとしているんだろうか、それとも本当に女の子などいるのだろうか、僕の見間違いじゃないだろうか)
階段を登るたびに思考が目まぐるしく回り、足が上がらなくなっていくのを感じた。
ただ、計6階分の階段を登り切る頃には呼吸も、心もととのっていた。
「はぁ、はぁ……いた。」
声に出せたかもわからないほどかすれた声で彼女の無事を確認した。
赤みがかった黒髪に、人形のように整った顔立ちで、黒色のワンピースを着た、おそらく同い年か少し年下であろうその女の子は、屋上に設置された柵にもたれかかり、僕の方をじっと、どこか楽しそうに見つめていた。
「君、そこでなにしてたんだ?」
できるだけ傷つけないように、言葉を探しながら呟いた。
「危ないぞ、ほらこっちきなよ」
正解のわからないまま、言葉を探して捻り出した。
「なんか嫌なことでもあったのか?」
いつ出てくるかわからない弱虫アキちゃんを押し殺すように、言葉を紡いだ。
「大丈夫、怖くないよ」
自分に言い聞かせるように、言葉を吐いた。
手を差し伸べながら迫る僕に向かって、彼女は大人びた笑顔でこう言った。
「じゃあ早く助けてみて?」
その直後に彼女はもたれかかっていた柵の上に登り、まるでふかふかのベッドに背中から飛び込むように力を抜いた。
僕はとっさに柵から身を乗り出し、一心不乱に彼女の手を掴もうとした。
そして、僕の右手は彼女の右手をしっかりと掴んだ。
(…よかった、間に合った、助けられた、危なかった、救えた、怖かった…)
心の中を様々な感情が暴れ周り涙と汗と鼻水を吹き出させた。
彼女は僕の右手をしっかりと握り締めながら僕と目を合わせ微笑んだ。
そう、それはしっかりと。強く、強く。まるで、
僕を空中へと引きずり込むように。
僕は自分の足が浮いていることに今更ながらに気づいた。僕の身体は完全に宙に浮き、僕が救おうと手を伸ばした女の子とひとつになって落下を始めていた。
それに気づいた瞬間、安堵に包まれていた僕の心は絶望に塗りつぶされた。
(あ、僕は死ぬのか。…最後までかっこ悪かったなぁ…ナツにぃみたいな超人にはなれなくとも、普通に働いて、普通に家庭を持って、普通に生きていけるもんだと思ってたんだけどなぁ…母ちゃんとばあちゃん、それと、まぁクソ親父はどうでもいっか。元気に暮らしてほしいな…。コハルも、クレープ奢ってやれなくてごめんな…なんで奢ることになったか覚えてねぇけど。あとナツにぃ、また会いたかったなぁ…会えるって信じてたからなぁ…。)
女の子を助けようとした時と違って、涙は出なかった。漠然と感じる死を受け入れたんだと思う。
(これでアキのクソつまらん物語は終わり…かな)
僕は自虐じみた笑みを浮かべながら瞳と、人生に幕を閉じた。
「……あのぉ、もうそろそろ落ち着いたかい?」
(…………)
「ねえってばぁ、もう走馬灯は見終えたかい?」
「…あれ?もう僕死んだ?ここ天国?」
「いや天国じゃないけど」
「じゃあ地獄!?嘘だろ僕いい子にしてたじゃん!僕のせんべいとゲームに満ちた楽園はどこだよ!?ケビンか!?ケビンの英会話まじめに受けなかったのがそんなにいけなかったか!?」
「あのぉ、話、聞いてくれない?」
「てかお前は一体誰だ…よ…」
僕が落下死する恐怖に耐えきれず瞑っていた目を思わず見開くと、僕の身体はまだ宙に浮いていた。そして、目の前には僕が助けようとした女の子が少しだけ申し訳なさそうにはにかんでいた。
「改めて、はじめまして根暗クン、私は悪魔、よろしくね?イヒ」
「……………」
「おや?意識はあるよね?ショックで自我が飛んだかい?」
「…いや、情報過多で思考がショートしてるんだよ」
「そっか、ならよかったよ」
「いやよかねぇよ、悪魔…え?悪魔ってあれ?」
「ああそうさ、信じられないだろうけどね、イヒヒ」
「いや、もう一回全部飲み込むわ、説明はよ」
「え、あ、そういう感じ?調子狂うよ全く…」
その“悪魔”が言ったのをまとめるとこうらしい
ⅰ.悪魔はなんでも一つ、願いを叶えることができる
ⅱ.願いを叶えるには“死”を代償とする
「つまりよ?こっから命を救ってやるから命を捧げろと、そういうことですかね悪魔さん」
「いいえ、違いますよ人間さん、イヒ」
「んだよスッと言えよ!まだ浮いてるんだよこええんだよ早くしろよ!」
「あっ、えっと、それはごめんね?じゃなくて!…吹っ切れた人間ってすごいわね…」
体感で10分くらい死にかけてると意外と慣れるもので、弱虫アキちゃんの出番はなかった。
「要はね、私たちは人間の“死”をもらうの。つまり、悪魔と契約したものは“死”という概念を失うことになるの。」
「…それって不死になるって?」
「えぇ、そういうこと。悪魔と契約したものは願いに関係なく『死ななくなる』のよ、イヒヒ」
「つまり?契約して『不死になれ』ってことか?」
「えぇ、そうよ、最高でしょう?願いも叶えられて不死になれるのだから!イヒっイヒヒ」
僕は迷うことなく即答した。
「却下で。」
「そうよね!さっそく契約を!…ふぇ?」
「いややだよ死なないとか。それ実は死ぬより辛いってオチだろわかってるんだよありきたりなんだよってことで天国行ってきます。」
こうして僕の物語は幕を閉じ…
「待って!?ねぇ待ってってば!」
もはや悪魔の面影などないその女は泣きながら縋ってきた。…往復ビンタを添えて。
「…悪魔は本来、呼び出されるものなの。人間が願いを叶えるために儀式を行なってね…」
その悪魔はなんか語りはじめた。
「ただ私たちみたいな下等な悪魔は呼び出されることはほぼないの。だからこうやって、わざと人間を死に追い込んで契約させるのが常套手段なの」
「最低か、悪徳商法か。」
「ただ、その代わりと言ってはなんだけど…私たちは強い願いを持つものにしか視認されないの」
「………」
「きっとあなたにもあるんでしょう?」
(あぁ、そういうことかよ…)
「わかった、僕の負けだ、契約するよ」
「!?ほんとに!?」
(あの夢に出てきた声は〈契約するな〉って言ってたんだろ?)
「僕の願いは………」
(夢にまで出てそんなこと言う必要があるってことは…あれはきっとナツにぃの声なんだろ?じゃあナツにぃの失踪には悪魔が絡んでるってことだろ?)
「契約、完了だね、イヒ」
終わるはずだった僕の物語が始まってしまった。
特に連載などするつもりもなく、もしかすると二度と小説を書くこともないかもしれません。
もしこの文章をお読みになられた方がいらっしゃいましたらぜひダメ出ししてやってください。
ここまで読んでいただけた方に最大の感謝を申し上げます。




