09.異世界の街は毎日がお祭りみたいだった。
***前回のあらすじ***
俺たちはやっと街道に出ることが出来た。こっちの世界に来てから森しか見てなかった俺は、初めて見たこの世界の森以外の風景は息を飲む程に美しかった。後数日でカザンスの街へと到着するらしい。サユース(ギルド)に着けば新しいパチンコの改良が出来そうだ。俺はまだ見ぬ異世界の街やギルドに思いを馳せた。
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※文字数3673字です(空白・改行含みません)
「わぁ……!」
街が近づくと、風景は一変した。俺たちの歩いて来た道は、途中で他の道と合流し、別の道からも旅人や馬車が合流をしてきて、気づくと結構な人が道を往来する様になっていた。丁度ラッシュ時間に駅に人が向かう光景に似てる。馬車を引く馬がごつくてびっくりしたり、カザンスから別の場所に向かう旅仕様の人や馬車に『良い旅を』と挨拶するのがこの世界流だったり、面白くてわくわくとしてしまう。俺が田舎者丸出しできょろきょろしていると、アシュリーが俺の腕を掴んで歩いてくれた。
カザンスの街の入口は堀の様になっていて、下を綺麗な川が流れている。その川に掛けられた橋を渡ると、巨大な門があって、特に門番なんかは居なかった。街は広い通りいっぱいに簡素な屋台みたいなのが立ち並んでいて凄く活気がある。山盛りに積まれた果物だとか屋台の上からぶら下がってる肉の固まりだとか、スープみたいなのを売ってる店や何かの肉を焼いている店なんかもあって祭りみたいだ。朝と夕方にはこうして市が立つらしい。すげぇ、毎日がお祭りみたいじゃないか。
「なぁ、イング、ユウヤと少し見て回っても良い? コイツ街初めてだしさ」
「逸れんなよ。俺たちは先にサユースに向かってる」
イングがアシュリーに金が入ってる袋を投げてよこしてくれて、アシュリーはその袋をキャッチすると「やった!」と悪戯っ子の様に笑い、俺の腕を掴んだ。
「行こうぜ!」
「ああ!」
アシュリーと一緒に行動する様になってから俺は小学生くらいまで精神年齢が落っこちた気がする。コイツがあんまり無邪気だから、俺も馬鹿みたいにはしゃいでしまうんだ。祭りに興奮して走って見に行くなんて小学校の低学年でもした事が無かったんじゃないか? 馬鹿っぽいけどすげぇ楽しい。
ファンタジーだから、けも耳とかもいるんだろうかとドキドキそわそわしたんだけど、アシュリーに言うと呆れた様に返された。
「亜人が人の街に来るわけないじゃん」
だそうだ。そうかー。いないのかー。残念……。でも、けも耳自体が居ないわけじゃないらしい。ただ、アシュリーの口ぶりから俺が思っているけも耳とは大分違ってそう。いつか逢えるかな。会ってみたい。やっぱ王道だし憧れるよね。もっふもふの耳だの尻尾だの。
アシュリーの案内でお勧めだと言うロコと言うパイみたいなヤツを買って食った。3cm幅くらいで、20cmくらいの長さのパイみたいなヤツで、中にかなり粗いひき肉や香草を細かくしたスパイシーな具がたっぷり詰まっていて、それはかなり美味かった。旅の間に食ってたスープとかは不味かったから食事系にはあんまり期待してなかったんだけど美味いものもあると判るとテンションが上がる。美味いって大事だ。
飲み物に買った果実水はレモンとオレンジの中間みたいな味でそこまで酸っぱくもなく、甘すぎもせず、苦みも無くて、さっぱりとしてこれも美味かった。飲むと後からほんのりミントみたいなすっきりした清涼感があって癖になる。
食べ歩きをしていたら、山の様な香辛料の屋台が目に入る。……あ。閃いた。
「なぁ、あそこちょっと寄っても良い?」
「香辛料? 良いけど何するんだ?」
「ちょっとな」
屋台に行くと俺は香辛料を眺めた。すんげー辛そう。生のでっかい唐辛子も山の様に積まれ、胡椒みたいな粒も山積みになっている。後は良く分からない木の根っこみたいなのや枝みたいなの、茶葉っぽいのや種っぽいの、何かの花を乾燥させたみたいなやつ、良く分からないのもいっぱいあった。
「なぁ、凄い辛いのってどれ?」
「辛いのなぁ……。この辺かな」
アシュリーは乾燥させ唐辛子っぽいのと棘がいっぱいある、オナモミをもっと小さく丸くしたような茶色の実と、ニンキクっぽい球根を手に取った。
「これはそのまま粉にして使う。生の方はそのままぶち込んだりするんだけど。こっちは中に白い実が入っててそれがめちゃくちゃ辛い。匂いも独特なんだけど癖になるんだよな。こっちのは切るとめっちゃ目に染みるんだけど舌がビリビリする様な辛さだね」
へぇ。唐辛子を粉にするってのは俺のトコと一緒だ。店のオッサンが試すかい?とオナモミっぽいのをナイフで割って中の白い実を出してくれる。おぅっふ。結構な匂い。匂いは酸っぱい匂いがした。くれるっていうから試しにちょびっと舐めてみたけどこりゃ辛い。ハバネロなんかは後から来る辛さだけどこれは舐めた瞬間に飛び上がりそうな程辛い。俺が舌を出してばたばたしていると、アシュリーと店員のオッサンが可笑しそうに笑った。
「こいつをさ、木の実かなんかに詰めて飛ばしたら武器になるんじゃないかと思って」
「香辛料を武器に? お前面白い事考えるなぁ」
武器に使うなら、と他にも幾つかアシュリーとオッサンがお勧めのヤツを見繕ってくれた。結構買っちゃう感じになるけど金大丈夫か?俺は心配になったが、アシュリーはけらりと笑って安いから平気とサムズアップをして見せた。
袋に詰めて貰った香辛料を抱え、アシュリーの案内でサユース──ギルドへと向かう。大通りから外れて20分くらい歩いたところにギルドはあった。何となくビルっぽい感じの所にあるイメージだったけど、大通りから少し外れたちょっとしたお屋敷みたいな建物だった。バカでかくも無いけど、柵の付いた門を潜ると、建物の前には広場があって子供が遊んでいる。3階建てくらいで、窓が幾つも並んでいた。石造りで重厚な感じがする。ギルドのマークなんだろうか。盾形の翼の生えた剣が描かれたエンブレムが屋敷の入り口の上にどんっと据えられている。格好いい。脇には木造の馬小屋みたいなのやガレージみたいなのもある。小さな畑みたいなのもあるし、畑の傍には鶏だのアヒルだのが歩き回っている。凄いな。
屋敷の前で遊んでいた子供たちが俺たちを見つけて駆け寄って来た。
「アシュリー」
「アシュリーお帰り」
「だれー?」
「ユウヤだぞー。お前ら仲良くしてやれよ」
「ユウヤっていうんだ、宜しくな」
「ユウヤ!」
「はーい!」
アシュリー懐かれてるんだなぁ。ユウヤーユウヤーっと可愛い声で群がられ、思わずほっこりする。凄い素直そうな子ばっかだ。クソガキは苦手だけどこういう可愛い子ってのは普通に可愛いよな。
「ユウヤ、来いよ」
子供たちに纏わりつかれながら、アシュリーがギルドの中に案内をしてくれた。扉は開け放たれていて、中に入ると銀行?みたいな作りになっている。カウンターがあって、中に人が10人くらい居る。イングやゴッドやビアンカの姿もあった。一斉にこっちに視線が集まって、俺は少し緊張気味に頭を下げた。
「おう。帰ってきたか。……随分と買い込んだな。何を買って来たんだ?」
「香辛料」
「……香辛料? 料理でもすんのか?」
「いや、ユウヤの武器?」
「……は?」
「ごめんイング、何が出来るかわかんないけど働いて返すから!」
イングとアシュリーの会話に割って入って頭を下げる。イングは、ふっと笑うと俺の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「取りあえずアシュリー、ユウヤを部屋に案内してやりな」
「うん。ユウヤ、行こうぜ。こっち!」
俺はアシュリーに付いて行った。
「良いのかな。部屋まで用意して貰っちゃって……」
「表にガキ共居ただろ? あいつら皆孤児なんだ。此処で訓練積んでギルドのメンバーとして働くことになる。俺も此処で育ったんだ。ユウヤもいつか此処で役に立てる様になりゃ良い」
アシュリーの話だと、俺が思っていたギルドとは少し仕組みが違うっぽい。孤児院みたいなものも兼ねているんだそうだ。ギルドに引き取られた子供は此処で適性を見て得意な部分を伸ばし、やがてこのギルドで働く事になるんだそうだ。先行き投資って事らしい。ギルドから巣立っていった者も居て、それが各地に拠点を置いているのだそうだ。ギルドに残る場合は歳を取ると、今度は今までの経験を生かして教える側に回るんだそうだ。ギルドには国から補助も出ているらしい。良く出来てんな。
「此処がお前の部屋だよ。俺の部屋は2個手前の角部屋。何かあったら来てくれて良いから。夕飯の時呼びに来てやるよ。それまで休んでな。疲れたろ」
風呂だの食堂だの訓練所だのに案内をして貰ってから、俺は3階の部屋を1つ割り当てられた。3階には部屋が20部屋あって、今はアシュリーを含めて3人が入っているらしい。
「ああ、ありがと」
俺が礼を言うとアシュリーはまたなと言って自分の部屋へと戻って行った。アシュリーが部屋に入るのを眺めてから、俺も部屋の扉を開ける。気持ちの良い風が入ってきた。ベッドにクローゼット、棚が1つ、小さなテーブルが1つ。椅子が1つ。鏡が1つ備え付けられている。トイレは共同のが外にある。使われていない部屋とは思えないくらいに掃除が行き届いていて、清潔そうな部屋だった。きちんとベッドメイキングまでされている。すげー! 憧れの1人部屋だ。俺は荷物をテーブルに置くとベッドにダイブした。久しぶりの布団はお日様の匂いがして凄く気持ちが良くて、俺はそのまま疲れもあってか直ぐに眠りに落ちてしまった。
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