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08.俺の住んでいた世界は淀んでいたと気づかされた。

***前回のあらすじ***

うっかりしていたが、俺達どこに向かっているんだろう。アシュリーに尋ねてみたけれど、言葉の壁が邪魔をした。取りあえずカザンスとか言う所に向かっているのは理解できた。行き先が何となくわかったところで、アシュリーの勧めで、その辺の枝じゃなく硬い木を使ってもっと丈夫なパチンコを作ることにする。俺はビアンカが教えてくれた硬い木の枝を取る為にアシュリーと一緒に登り、そこで沈む夕日を見た。涙が出そうなくらい、綺麗だった。見惚れすぎてて暗くなり木から降りられなくなった俺はイングにおんぶされて木から降ろされ、みっちりと説教を食らう事になった。

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※文字数2313字です(空白・改行含みません)

「もうじき『アンバリー』に出るよ」


 俺の前を歩いていたビアンカが振り返った。アンバリー?これ、この間アシュリーが言ってた言葉っぽい。確か『もうじきアンバリーに出る』、そう言っていたと記憶している。


「ビアンカ、アンバリーって?」

「来いよ、ユウヤ!」


 ビアンカが何か答える前に俺はアシュリーに腕を掴まれ、引っ張られるままに駆け出す。


「おい、なんだよ──」

「ほら、これがアンバリーだ!」


 目の前が、一気に開けた。一瞬眩しさに目が眩む。光に慣れると、目の前に息を飲む程美しい光景が広がっていた。茂みを飛び越えたアシュリーの先には、青々とした草原が遥か遠くまで広がり、土を固めた道がずっと伸びている。アシュリーが道の後ろを指し、ずーっとその指先を道の先へと指さす。


 あ──!街道! アンバリーって言うのは街道か。


 それにしても、すげぇ……。なだらかな丘になった草原は目に鮮やかな柔らかそうな草が風に靡いて波打ち、所々にぽつぽつと立った樹が、自然の造形美を作り出している。渡る風は物凄く爽やかで、草の香りを運んでくる。降り注ぐ日差しは、日本で見る太陽よりもずっと鮮明で眩く感じた。突き抜けるような青空はどこまでも高く澄んでいる。

 何て気持ちが良いんだろう。解放感が凄い。このまま風になれそうな気がするくらいに、広大な景色だった。


 どっかでこんな光景を見たことがある気がすると思ったが、カレンダーだ。時々年末になると親父が貰って来るカレンダーの写真に、こんな風景写真があった気がする。居間に掛けられたカレンダーにそういう風景があっても、見慣れてしまって気にも留めなかったけれど、実物は写真では現わせない迫ってくるような、心が洗われるような、息吹みたいなものが感じられた。夕日の時も息を飲んだけど、この光景も絵みたいだ。自然って凄いなぁ……。こういう景色を見た人が、その景色の中に神様ってのを感じたのかもしれない。

 日本もきっと昔はこんな光景があっちこっちにあったんだろうな。この光景を見る前は日本の景色も青空はちゃんと澄んで見えたし、空気も透き通って見えていたけれど、これを見てしまうと、日本の空気は酷く淀んでいたと気づかされる。頭では知ってたつもりだったんだけどな。大気汚染も知っていたし、光化学スモッグとか夏になればしょっちゅうだったし。

 知ってはいたけど、他人事の様に思っていた。こんなにも違うなんて、ここに来て初めて気づくなんて。何だか少し切なくなった。


「この道の先に『カザンス ツェントール』があるんだ」


 俺がぼんやりと風景に見入っていたら、アシュリーが俺を覗きこんで、聞いてる?と首を傾げた。我に返った俺は曖昧にああ、と頷いて、今アシュリーが言った言葉を考える。街道があって、カザンスは多分名前だ。 という事は、ツェントールは……。


「”街”か!! ああ、えっと、人がいっぱいいて!」


 身振り手振りで、食べる真似とか寝る真似とか建物を手で描いて見せたりとかで伝えると、アシュリーも、そう!と手で家の形を作って見せた。


「カザンス ツェントール!」

「カザンス ツェントール!」


 俺とアシュリーは馬鹿みたいに『カザンスの街!』っと連呼し、街道をはしゃぎながら駆けだした。イングもゴッドもビアンカもそんな俺たちを微笑まし気に眺め、ゆっくりと付いてくる。


「いつもならもっと早くに着くんだけどな。今回は倍近く掛かって長かったから、皆心配してるだろうな。カザンスには俺たちの『サユース』、『ジルヴラヴィフ・ヴェント』があるんだ。サユースってのは、イングや俺やビアンカにゴッド、俺の仲間が居る所。『ジルヴラヴィフ』はこの色。『ヴェント』は、ヒュゥー。俺たちの『サユース』の名前だよ」


 俺が何それと聞く前にアシュリーが説明してくれる。ジルヴ…ジルヴラヴィフ?は、銀色の事。ヴェントの所で、ヒュゥーっと風が吹く真似をしたから、多分風。銀の風、ジルヴラヴィフ・ヴェント。ちょっとかっこいいかも。サユースは多分ギルドみたいなものだろう。


 俺よりも前を走っていたアシュリーが振り返り、後ろを向きながら楽しそうに後ろ手を組んでトントンと歩く。俺も息が少し切れて、アシュリーに合わせて歩き出した。


 だけど、倍近く? 何かあったか?、と思いかけて、はっとした。──そうか。今回は『俺』が居たからだ。電車やチャリが通常装備の俺にとって徒歩はかなりしんどい。高校に上がってからは殆ど運動らしい運動をしてなかった俺は直ぐにヘトヘトになって遅れだし、その度に休憩を取ってくれていたから。最初の頃よりはマシになったとはいえ、俺が足手まといになっているのは間違いない。俺がしょぼっとすると、アシュリーがけらっと笑った。


「ばぁーか。今更何落ち込んでんだよ。流石に10日も一緒に居ればお前ののろまにも慣れてるから気にすんな」


 ……なぁ? それって慰めてる? 慰めてるんだよな? 一応。


***


 今日は街道の脇で野宿、明日の夕刻くらいにはカザンスの街に着くだろうと言う話。彼らだけならきっと明日の昼くらいには着くのかもしれない。俺は申し訳なさもあって、真面目に枝を集め、ビアンカに教わりながら食える草を摘んだ。


 飯を食った後寝るまでの時間は皆思い思いに過ごす。イングは武器が好きらしくて、暇さえあれば武器の手入れをしていたし、ゴッドは早い時間に高いびきをかいている。


 俺は焚き火の前でアシュリーと向かい合って計画を練っていた。折角説教付きで手に入れたシェプスの枝だ。葉は落としたけれど、枝は大分太さがある。枝分かれした部分だけを使って作るのも考えたけれど、これだけの太さがあるなら、他にも何か良い使い道があるかもしれない。

 俺は以前動画で見た狩猟武器として使われるスリングショットを地面に小枝で描いて見せた。上手くはないが何だか判らないほど下手でもないから、伝える手段としては十分だろう。


「へぇぇ、かっこいいな」


 俺の拙い絵でも、アシュリーは目を輝かせてくれる。


「こうさ、此処がグリップ、握るとこだろ? で、此処にゴムをつけて、──こんな感じで狙って……撃つ!」


 俺は絵を示して説明してから立ち上がり、構えて見せた。腕をまっすぐ伸ばし、グリップを握ってスリングは地面と水平になる。


「それならさ、此処に厚い皮を張れば手の甲で固定できそうだよな」

「ああ! それ良いな! そうしたらグリップの付け根に皮を張って……。こんな感じは?」

「良いな!サユースに付けば仲間もいるし、アイツらにも相談してみようぜ。手、貸してくれると思うから」

「サユースか。楽しみだな! カザンスの街も、サユースも!」

「皆に紹介してやるよ! 街も案内してやる」


 俺たちは顔を見合せ、笑いあった。

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