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06.現代人の俺に魔力なんてあるわけが無かった。

***前回のあらすじ***

森で拾ってくれたイング達と旅を始めて数日。俺たちは魔物に遭遇してしまった。あっという間に戦闘開始。見事な連携でゴッドが壁になりアシュリーが弓で援護をしイングが魔物を打ち取っていく。俺はと言うと、みっともなく腰を抜かして震えていた。俺が落ち込んでいると、イングが『デュォ フォルツェン』、神様の落とし物の話を聞かせてくれた。神様に落っことされた無力な俺を面倒見てくれるイング達に申し訳なくなって落ち込んでいると、イングは俺に優しい言葉を掛けてくれた。心が弱っている時ほど優しい言葉がしみて来る。俺はイングの優しさに涙が零れてしまった。

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※文字数3286字です(空白・改行含みません)

 夜は、交代で火の番をしていた。最初の数日は俺はそれを知らずにぐーすか寝てしまっていたが、夜中にふと目が覚めた時に火の番をしていたイングを見てその事に気が付いた。俺はその後、焚き火の番に加わっている。今日は俺が最初の火の番だ。月の位置で大体の時間を計って、ゴッドと交代する。皆が寝静まった時、俺は試そうと思って居た事を実践することにした。


 異世界転生、異世界転移と言えば、チート能力引っ提げてがテンプレだ。チートでなくても何らかの特殊能力くらいは手に入れてるんじゃないだろうか。血に慣れたりは直ぐには無理だろうけれど、魔法なりが使えれば、それなりに何か役に立つかもしれない。やっとそこに思い至った俺は、自分の能力の確認をすることにした。

 割とよくあるのは、あれだよな。自分のスキルを確認できるってヤツ。俺は皆の様子をチラ見してから、そっと火の傍から少し離れ、両手を前に翳した。


「──スキル」


 ……。 何も起こらない。


 じゃ、あれか。空間を開く。


「オープン」


 ……シーン。……はは。そうだよな。流石にチートは欲張り過ぎか。


 やり方が良くないのかと、過去に読んだ小説の主人公がやっていた事を覚えてる範囲で片っ端から試してみる。水に炎、風にヒール、中二廟前回のセリフまでやってみた。掌に魔法よ集まれーっと念じてみても、神頼みをしてみても、妖精さんを呼んでみても、何も起こらなかった。俺はがっくりと膝を付いた。


 ……だよなー。なんかそんな予感はしたんだよ。

 夕飯の時にそれとなく俺はビアンカに尋ねてみていたんだ。魔法ってどうやるの?っと。

 ビアンカは、魔法は生まれつきのものだから説明するのは難しいと言っていた。誰でも使える物じゃないそうだ。ビアンカの話しぶりを聞くと、霊感の有る無しみたいなものらしい。

 俺現代人だもんねー。魔法は持ってないよねー。霊感も無いしねー。……世の中そんなもんだよ。此処は小説みたいだけど、小説の中じゃない。もう一つの現実だ。


 けどさ、今までは別にモブでも良かったけど、今は悔しいんだよ。向こうの世界なら、モブでもそれなりに会社だの家族だのに貢献は出来ただろうと思うんだ。凄くは無いけど人並みにはある程度出来たから。でも、此処は違う。今の俺は、モブ以下だった。イング達が良い人だから、何も出来ない自分が不甲斐なくて情けなくて悲しいんだ。


 せめて焚き火の番くらいは、ちゃんとやらないとな。出来ない事を落ち込んでばかりじゃ、もっと情けない。どんな簡単な事でも、俺に出来ることを頑張らねば。ちょっと残念だったけどな。……やってみたかったなぁ。チート。

 俺はため息を付くと、焚き火の傍へと座り直し、火の番に戻った。


***


 俺は旅の間に色々な事を教わった。火口っていう道具を使って火を付けるやり方、食える草に食える木の実。水をろ過する方法。蔓草で荷物を固定する方法。ナイフの扱い方。魚の取り方。肉の捌き方。肉を捌くのは泣きそうだったが、これも慣れれば出来る様になるだろう。イングに剣を借りて持ち上げてみたけど重くて振り上げたら後ろにひっくり返ってしまった。イングが呆れてコイツにしとけとゴツめのナイフを貸してくれた。


 ゴッドが火のつけ方だのナイフの使い方だの肉の捌き方だのを教えてくれて、イングは蔓草をロープの様に柔らかくしてしっかり結ぶ結び方や魚の取り方、水のろ過する方法を、ビアンカは野の草や木の実を教えてくれた。

 アシュリーも貧弱だののろまだのと文句を言いつつ、身体を鍛えるのを手伝ってくれる。アシュリーには嫌われているんだろうが、どうのこうので一番俺に文句を言いながら手を貸してくれるのは、アシュリーが一番多いかもしれない。

 大抵アシュリーが怒鳴りだし、見かねたイングやゴッドが俺に何かを教えてくれるというケースが多い。

 くそ生意気だけど、良いヤツなんだろう。


***


「──あ」


 陽が落ちて来て、野宿の為の薪を拾っていた時だった。然程珍しくも無い、二股に別れた枝を見つけた。太さと良い、別れた枝も左右綺麗に対象。これ、パチンコみたいだ。

 閃いた。

 これ、使えるんじゃないか? これなら血は見ないで済むし、魔物に接近する必要も無い。アシュリーの様な弓は難しくても、パチンコなら俺にだって扱えそうだ。

 でもこの世界、ゴムとかあるのかな。もしあればこれが俺の武器になるかもしれない。

 俺はその枝だけ小脇に抱え、残りの枝を両手で抱え、焚き火へと運んだ。


「なぁ、イング!」


 俺は抱えていた枝を焚き火の傍へ下ろすと、剣の手入れをしていたイングへと駆け寄った。イングは色々物知りだ。


「イング、あれ知らない?『ゴム』。こう…。びょい──んっと」


 イングがきょとんとこっちを見る。俺は身振り手振りで、ゴムの伸びる様子を手で見せ、あ、っと思い出してジャージのズボンを引っ張って見せた。びょいーん。

 俺がジャージを引っ張ると、イングが面白そうに俺のジャージの下を見てる。この反応だとゴムは無いのかなぁ。


「そういうのは初めて見るが、似た様なのはあるな。来いよ」


 イングに示されて、俺はイングに付いて行った。が、イングが向かった先のものを見て俺は回れ右しそうになる。イングが俺を連れて行ったのは魔物の死体の所だった。


「ユウヤ?」

「あ、ごめん、何でもない、大丈夫」


 いかんいかん。これも慣れないとと決めたんだ。俺は意を決してイングに駆け寄る。……うあぁ。

 やっぱり死体を目の前にすると、ぶわっと腕に鳥肌が立ち、電気が走ったかのように背中がゾワゾワっとなる。

 イングは魔物の死体の傍にしゃがみ、ばっくりと裂かれた魔物の腹に手を突っ込んでいる。ひぃぃぃい。

 ずるりとイングが取り出したのは、多分魔物の筋肉かな?筋の様なものだった。血まみれのその筋の様なものを此方に上げて見せて、みてろよ、それを左右に引っ張って見せる。


 おおおお──!すんげー伸びる!ゴムみたいだ!


「こんなもんどうするんだ?」


 イングがそれをぶらぶらさせて持ってきてくれた。俺はうひーっとなりながら、指でそれを摘んで受け取る。


「ちょっとね!」


 まだ上手く行くかは判らない。俺は川でその筋みたいなのを丁寧に洗った。中々血が取れない。何度も擦って、流していると、やがてその筋の様なものは、真っ白になった。試しに引っ張ってみる。結構硬い。手を放すと勢いよく、ビョンっと縮まった。幅も結構ある。3cmくらいの幅で、長さは1mくらいあった。ひっぱると軽く倍は伸びる。

 俺はそれを半分に切った。ぶつんと切れる感触は中々に気色が悪い。俺は拾って来た枝の邪魔な部分をナイフで切り落としてから削って形を整える。

 いつの間にかアシュリーが傍に来て、じーっと俺の手元を覗きこんでいた。


「何やってんだ?ユウヤ」

「パチンコ作ってんの」

「パチンコ?」


 俺は削った木の枝に、ゴムっぽいやつを左右にしっかり結び付けた。


「上手く行くかな?」


 俺はゴムを引っ張ってみる。ギューっと引いて手を放すと、バチンっとゴムが戻った。枝もゴムに耐えている。俺は今度は小石を1つ手に取ってそれを引っ張ったゴムに宛がってからもう一度ゴムを引いて手を放した。石ころはびゅーんと飛んで狙った樹の幹に命中する。


「っしゃ!」

「へぇ……」


 珍しくアシュリーが目を輝かせている。こういう顔してると可愛いんだけどなぁ、コイツ。


「貸して貸して、俺もやってみたい!」

「ああ」


 やっべぇ、嬉しい。こんな風に興味持ってもらえるとこっちまで気分が良い。アシュリーが何度もゴムを引いて、小石を拾い上げてゴムを引いた。流石アーチャー、コントロールも威力も凄い。スパーンと良い音がして木の幹に石がめり込んだ。


「いいじゃんこれ! ユウヤ、特訓しようぜ!」


 アシュリーが興奮気味に笑って言った。俺も釣られて笑って頷いた。俺とアシュリーは周囲が真っ暗になるまで、代わる代わるパチンコを撃ってはゴムの位置を変えたり、どんな使い道があるか話したり、やたら盛り上がってしまった。アシュリーが多分一番俺と歳が近い。コイツとこんな風に話したのは初めてで、俺はやっとコイツと仲良くなれた気がして、凄く嬉しかった。

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