59.もう一つの故郷。
***前回のあらすじ***
俺達は、やっと再開を果たすことが出来た。タイミング良く俺達の居場所へと現れたアシュリー達を不思議に思った俺だったが、俺と乾さんを探すために、占者に出現ポイントを割り出して貰っていたらしい。照れるアシュリーに思わずニヤけると、思いっきり腹を殴られた。
俺達が落ちた場所は、ギルドのあるカザンスから3日程の距離だった。
俺達はひとまず野宿のポイントへと移動する。
「アシュリーが悲鳴が聞こえたってんでな。もしかしてと思って急いで駆けつけたけど、本当にお前が居たんでびっくりしたよ」
「俺も、まさかイング達が来てくれるとは思わなかったよ」
俺のすぐ前には、未だぐすぐすと鼻を啜りべそをかくビアンカと、そんなビアンカに優しく語りかけている乾さんの姿。
──なんか、良いな。こういうの。
お互い歳とっても、変わらなく想い合っていて、おばちゃんのビアンカが、妙に若く見える。見た目はそのままなのに、仕草とか、表情とかは恋する乙女だ。
俺はちらっとアシュリーを見る。透き通った水色の瞳が直ぐに真っすぐ俺を見つめ返してきて、どきりとする。
こいつの瞳ってほんとガラス玉みたいだ。めちゃくちゃ綺麗なんだよな。イングの瞳程鮮やかじゃないけど、沖縄だとかの海の色みたいな、吸い込まれそうな綺麗な水色。
えへへっと嬉しそうに、照れ臭そうに笑うアシュリー。くそう。可愛い。
俺は繋いだ手を、にぎにぎっと少し合図する様に握る。アシュリーも応える様ににぎにぎっと俺の手を握った。
***
「──懸念が無いわけじゃないんだ。デュォ フォルツェンは、向こうに戻っちまうのが常なんだよね?」
「──ああ。あたしが知る限りでは、だけどね」
野宿ポイントで、俺達はお袋が握ってくれたおにぎりを食いながら火を囲んでいた。
おにぎり大好評だ。外人さんは梅干し苦手な人多いっていうけど、意外と梅干しおにぎり人気が高い。
乾さんが居なくなった当初、ビアンカは、デュォフォルツェンが現れたという話を聞けばすっ飛んでいっていたらしい。
最近は占者が割り出したポイント近くの依頼を率先して受けるだけだったらしいけど。
イングが自主的にそういう依頼を優先的に他のギルドにも声を掛けて回して貰っていたんだそうだ。
「まぁ、あたしらみたいにデュォ フォルツェンを探すような人って言うのはまずいないからねぇ」
「そうなの? なんで?」
「『デュォ フォルツェンに嫁入り』ってことわざがあるくらいだからなぁ」
「何それ。どんな意味?」
イングが苦笑を浮かべ、説明をしてくれた。
「デュォ フォルツェンに嫁入りしてもすぐ未亡人って意味だよ」
ぐっはぁ。
「他にも『デュォ フォルツェンに金貸すな』とか『デュォ フォルツェンの渡り人』とかな」
「金貸すなは判るとして、デュォ フォルツェンの渡り人、とは……?」
「仕事任せても数日で連絡なしに居なくなるヤツ」
……。 あー、うん、居るね。そういうタイプ。
ネーミングはちょっとかっこいいのになんて意味だ。てかデュォフォルツェンに対する風当たり強すぎじゃね?
俺が遠い目をしていると、ビアンカが苦笑を浮かべた。
「こっちじゃデュォ フォルツェンに深入りしてはいけないってのは常識みたいなもんだからねぇ」
……最初の頃のアシュリーのそっけなさと冷たさが判った気がする。俺達も被害者なんですけど。何なのそのろくでもないみたいな扱い。
「私も最初の内は随分と村の人に嫌われていたからねぇ……。ビアンカが教会に行ってる間にうっかり出歩くと囲まれてビアンカにちょっかい出すなって釘刺されたりね」
乾さんがしみじみという。む…村八分か…。
「基本、デュォ フォルツェンは長くても数年で居なくなる。だから、深入りをすると傷つくことになるって戒めだったんだよ。勿論これはデュォ フォルツェンは知らないだろうけれどね」
まぁ、最初からそんな事聞かされたらやる気失せるもんなぁ。
寧ろ帰る方法を必死に探しそうだ。誰が好き好んで村八分になるのが判ってる場所に留まりたいと思うだろうか。
そう思うと、俺は相当運が良かったらしい。
「まぁ、話を戻すけど、向こうに戻るってのが常なのは事実だけど、あんたは二度目だからね」
ビアンカが含みのある言い方をする。俺が首を傾げると、アシュリーが胸を張って見せた。
「そこんとこは俺も気になったからさ。占者に占って貰ったんだよ」
「お。んで、なんて?」
「簡単に言うと、ユウヤが自分の意思で此処へ戻った事で試練を乗り越えたって事になるんだって。1度目は神の試練。戻った後に、選択の猶予が与えられて、自分の意思で此処へ戻れば、もう神によって連れ戻される事は無いんだって。逆に戻らないって選択をするか、何もしないのであればこっちには戻って来れないらしいよ。チャンスは1度だけなんだってさ」
「マジでっ?!」
「……私も戻ろうとしてたんだけどなぁ」
がっくりと乾さんが肩を落とす。でも、たった1度のチャンスを、俺はちゃんと掴めたんだ。
「乾さんのとこは入口自体が消えちゃったからじゃないかなぁ」
本来ならもっと早く戻れたはずだったのかも。森だったところがマンションになった事で道が閉ざされたのかもしれない。
「でもさ、こうして戻って来てくれたじゃないか。ナオも自分の意思で戻って来てくれたんだからね。もう離れ離れにはならないんだ。それで十分だろ?」
「……ああ、そうだね」
見つめ合う二人はとてもお似合いだった。
***
「ユウヤっ!?」
「お──! ユウヤ! お前戻って来れたのか!」
3日間の旅を終え、俺達は漸くもう1つの俺の故郷、ジルヴラヴィフ・ヴェントに帰ってきた。
あっという間に囲まれてもみくちゃにされる。
ヤバイ。泣きそうだ。ガキンチョ達は皆少し大きくなっていた。
皆変わってないなぁ。乾さんは凄い歓迎に目を白黒させている。
俺が戻った後、ビアンカは皆に乾さんの事を話したらしい。お帰り、と声を掛けられ、乾さんは号泣をしていた。
その日の夜、皆が俺の帰還と乾さんの歓迎を祝ってパーティーを開いてくれた。
乾さんも今日からこのジルヴラヴィフ・ヴェントの一員だ。
俺は早速土産とばかりに、スマホで撮った写真や動画を皆に公開した。
充電ばっちり、ネットは使えなくても自分が撮影した動画は見れる。
「うおおおおおおっ!? なんだこれ、すげ────!」
「でっけぇ! どうやって飛んでるんだ? 魔法か!?」
「飛行機っての。これだと馬で10日くらい掛かる距離も4,5時間で着いちゃうんだぜ」
飛行機が轟音を上げて空へと舞い上がれば、オッサン共が身を乗り出し大興奮。
車を見ては騒ぎ、電車を見ては騒ぎ、高層ビルを見ては騒ぎと、動画は大好評だった。
ただ、プールを撮ってきた動画で、オッサン連中は鼻の下を伸ばして鼻息を荒くし、アシュリーからは変質者を見る様な目で見られてしまった。
いや、あのね? 俺が見せたかったのは流れるプールだの波のプールだの面白いでしょって方で決して水着のおねーさんじゃないんだよ。
乾さんがこっちではこれが普通なんだと援護してくれて何とか誤解は免れたみたいだけど。
俺達がワイワイやってると、辞典好きのチビのトッドが駆け寄って来て、いつか俺の世界の図鑑を作るんだと、目を輝かせて宣言をした。
いつもご閲覧有難うございます! 次の更新は明日になります。次回最終話の予定です!




