58.占者。
***前回のあらすじ***
おにいちゃんは、行ってしまった。家に戻った私達に、森本さんがあの時撮っていた動画を見せてくれた。最初は信じようとしなかったお父さんもお母さんも、それを見たら嫌でも信じるしかなかったみたい。でも世界が違ってしまっても、おにいちゃんは傍に居る。シャボンの壁、1枚隔てた直ぐ隣に。
「お帰り。ユウヤ」
俺の肩を、イングがぽん、っと叩く。お帰り、か。嬉しいな。『帰ってきた』、そう思えるのが嬉しい。
「ただいま、イング」
「このやろう!急にいなくなりやがって!心配したじゃねぇか!」
「ごめん、ごめんってゴッド、ってか髭! 髭痛いから!」
ゴッドが俺の肩をガッシと組んでゴワゴワの髭をザリザリとこすりつけて来る。オッサンの抱擁なんて嬉しく──あるけど。
「──ユウヤ」
振り返ると、ビアンカが俺を見上げていた。初めてみたよ。ビアンカが泣くところなんて。
ビアンカは、ぎゅっと俺を抱き寄せた。
「ありがと。ありがとねぇ、ユウヤ。あんたが連れて来てくれたんだねぇ。ありがとね」
ビアンカの後ろでビアンカを優しく見守っていた乾さんが顔を上げる。目が合った。
「悠哉くん、君のお陰だ…。長かったよ。とても、長かった。君と出会わなければ、私はビアンカに会えなかったかもしれない。感謝してもしきれない」
「いや、俺は何も」
照れ臭くなって首を振る。それよりも──
「でも、アシュリー達は何でここに? 戻れるかも判らなかったのに…」
「占者だよ」
「──へ? 占者?」
せんじゃってなんじゃ。自分で言っててくそ寒い。
いや、そうじゃなくて。占いで俺が此処に居るって判ってって事? そんな不確かな事鵜呑みにしたの? まぁ、そのお陰で助かったんだけど。
「ユウヤ、なんか変なの想像してんだろ」
涙目のままアシュリーが可笑しそうに笑う。
「占者ってのは、『先読み』の力を持つ術者なんだよ」
──おお。そうか、こっちは魔法が普通にあるんだもんな。俺のとこみたいな当たるも八卦って感じじゃないんだろう。イングの言葉に納得、と俺は頷いた。
「流石に占者って言ってもピンポイントにお前がいつどこに現れるかまでは判らないんだけどさ。前にお前が現れた場所、現れた時間から、お前の世界を割り出して、その世界とこの世界が繋がる日と場所を割り出して貰ったんだ」
「すげぇ! そんな事出来んの?! てかわざわざ俺の為に調べてくれたの?」
「あのね。あたしらずっとそれやって来てるから。あんたが来る前から」
アシュリーの愛に感動しかけた俺だったが、即座にビアンカがすぱんっとぶった切る。けど、ずっとって?
ビアンカの言葉に、俺はほわぃっと首を傾げる。
ビアンカが乾さんの腕を引いた。
「いったろ。あたしはこの人を探すためにギルドに入ったってね」
「ん?? ──あ。俺と乾さん、同じ日本人だから?」
「元々あたしが占者にナオの世界と此処が繋がる場所を探して貰っていたんだよ。あんたに会ったのもあの場所が繋がるって判っていたからだからね」
──なんと。偶然居合わせたのかと思ったら。
「いや、偶然は偶然だよ? 遺跡のダンジョンの依頼を受けたいって言ったのは確かにビアンカだけど、ビアンカが占者に探させてたのはあんたじゃなくてナオ。帰り道のあの場所でビアンカがナオが落ちてないか探してたらナオじゃなくてあんたが落ちてただけ」
…。ああ、そうね。うん。そりゃ確かに偶然だわ。俺がこの世界に落っこちた事は。
けどね、アシュリーさん。あなた俺の彼女でしょうよ。久しぶりに再開した恋人に辛辣すぎやしないか?
がっくりと項垂れる俺に乾さんが困ったように苦笑してる。
「そう落ち込むな、ユウヤ。お前が居なくなってから一番必死に世界が繋がる場所を飛び回ってたのはアシュリーなんだから。お前は絶対に帰って来るって言って」
「ちょ! イングてめー何言って…!」
アシュリーの頬が真っ赤に染まる。
ツンデレか。によによ。
「にやけてんじゃね──っ!」
アシュリーの拳が腹にめり込んだ。
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