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51.平凡な日常。

***前回のあらすじ***

帰宅をした俺は、妹の千佳に異世界の話を聞かせた。意外にも千佳は最初こそ冗談だと思ったみたいだけど、俺の話を信じてくれた。

 俺がこっちの世界に戻って1週間が経過した。で、今日は月曜日。

 留年か──。

 もう、ポカンだよ、ポカン。

 頭では判っているんだ。俺は1年間、異世界に居た。異世界でギルドに居て、恋人も居て、この俺が!魔物を!倒したりしていた! …らしい。

 身を焦がれる程にあの世界に帰りたがっている。それは本当だ。


 でもなー。俺の感覚は、1週間前、シンと西高に行って、それから1週間しか経ってないんだよ。

 夜遊びに行って疲れて眠り込んで起きたら1年経過してました、なんて、そう簡単に感覚が付いて行かない。

 1週間の休みを貰えたけど、ちょっと短めの夏休みを先に取っちゃった程度の感覚なんだよな。

 俺はあの日と何も変わらず、休み明けに普通に登校をする。でも、俺のクラスメイト達は3年に進級してて、俺は1学年下になるんだ。

 俺の中では俺はまだ高2なのに、他のヤツは皆3年になってる。夢でも見ている感覚が抜けない。


 俺はまだ夢の中に居て、向こうの世界に焦がれている。それなのに、日常ってヤツは俺の気持ちなんて置いてけぼりにして当たり前に流れるんだ。


 俺はいつも通りの時間に、スマホのアラームで目が覚めて、いつも通りに顔洗って飯食って、鞄に教科書詰め込── いや、時間割変わってるよな?

 寧ろ教科書とか全部学校に置きっぱだったんだけどあれどうなったんだろう。

 まぁいいか。適当に筆記用具と新品のノートだけ放り込んで制服に着替え、家を出る。お袋が付いてくるって言ってたけど流石に断った。俺的には1週間前も普通にがっこー行って授業受けてたんだよ。そこに親が付いて来るとか恥ずかしすぎんだろ。


***


「ユウヤ!」


 通学路を歩いていると後ろから声が掛かった。


「おー。おはよ」


 声を掛けて来たのは幼馴染のシンと、同じく幼馴染で隣のクラスの光輝だ。


「マジで戻ってきたんだな、ユウヤ!」

「なんか大げさなんだよなぁ。俺覚えてねーもん」

「マジで記憶喪失なんだ?」

「なんかなー、感覚的にはワープした感じ? 俺が居なくなってたって時間をさ、こう、ハサミでぶっつり切って今って時間に張り付けたみたいな。すっげー変な感じ」

「呑気だなぁ。皆すげー心配したんだぜ?」


 涙目の光輝には悪いんだけど、出来の悪い芝居みたいだ。俺は何も変わらないのに。


「けど、ユウヤは留年になるんだよな?」

「ああ、学校から連絡が来て、取りあえず職員室に来いってさ」


 学校に着くと俺はシン達と別れて、職員室へと向かった。


***


 俺は一応、1年間『事故』で学校に通えなかった、という事になっているらしい。

 まぁ、事故だよな。転移事故。

 一応こっちに戻ってから俺は精密検査だの精神科だのを受診して、医者からが過度のショックによる記憶障害って診断を受けた。ので、それをそのまま学校側に伝えることにする。有り難いことに、俺の担任は転移前と同じ山崎 和美先生──やまみんだった。教科書の類は、全部学校で取っておいてくれていた。俺は紙袋に入れられた俺の教科書を返して貰う。


「大変だったねぇ。でも、無事で良かったわ。記憶が無くて辛い事もあるだろうけど頑張ろうね!」


 やまみんは目に涙を浮かべ、俺の肩をぐっと掴む。感動で盛り上がってるところ悪いんだけど俺は気の抜けた声で、はぁ、とだけ返事をして頷いた。

 なんかよっぽどひどい目にでもあったと思ってるんだろうなぁ。ごめんなやまみん。


 やまみんに連れて行かれた教室は、以前と変わらない2-D。

 ますます1年記憶抜けてる感じが無い。

 1週間前と変わらない教室。変わらない廊下。張り出された展示物が休みの間に入れ替わってる、その程度にしか見えない。

 教室の中はざわついていた。


 俺はやまみんに連れられ、教壇の前に立つ。見慣れない顔ばっかし。当たり前か。皆1個下だもんな。変な感じだ。

 俺は1年事故で休学していたと紹介され、「高橋 悠哉です、よろしく」とだけ言って頭を下げた。

 休み時間になると、主に女子が集まってくる。女子ってこういう時物怖じしないよな。あれこれ質問をされたけど、マジで覚えて居ないし、異世界の事は流石に話せない。何を聞かれても覚えて無い、判らないしか言わない俺に、その内聞くネタが尽きた女子たちはそれじゃあねと気まずそうに離れていく。


 そもそもがモブな俺に気のきいた事なんて言えるわけも無い。

 それでも、1日が終わる頃には、一人二人、それなりに話せるヤツは出来た。


 俺は学校帰りに西高へと足を延ばす。

 西高の校庭では、野球部が部活の最中だった。ノックの音に、部員たちの声が響いている。

 俺はそんな野球部の部活の様子を柵越しに眺めながら、西高の裏の林へと向かった。


 夕日があたりを茜色に染めている。雑木林は、あの日と同じように、鬱蒼と茂り、緑の葉を風に揺らしている。

 空を仰ぐと、白い月が大分高く空に浮かんでいた。


 俺は雑木林の中に足を踏み入れる。小さな虫がパっと飛び散る。

 俺は繁みを掻き分けて、少し奥まで進んでみた。 ぐるりと見渡してみたけれど、道の向こうでは車が走るのが見えて、振り返ると西高の校庭が見える。

 普通の、雑木林だ。


 この向こうに、本当にあるんだろうか。異世界が。


 何となく、此処に来れば異世界がある事を実感出来そうな気がしたのに、その光景は余りにも当たり前の風景で、逆にやっぱり全部俺の妄想だったんだと、そう付きつけられた気がした。

いつもご閲覧有難うございます!次の更新は明日を予定しています。

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