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05.心が弱っている時ほど優しい言葉は泣けてくる。

***前回のあらすじ***


俺は少しずつ、彼らの言葉が聞き取れる様になった。長い言葉の中の断片的な単語を1つ2つ覚えると、俺は此処の言葉を覚えるのが楽しくなっていた。ビアンカやイングが俺に言葉を教えてくれる。俺はしゃべり始めた赤ん坊の様に、あれは何?これは何?と質問を繰り返す。俺は少しずつだけど、この世界の言葉を覚えて行った。


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※文字数1991字です(空白・改行含みません)

「ビアンカ、ユウヤを頼むぞ!」

「あいよ!」

「うるあぁぁ!!!」


 俺たちの目の前には、黒い獣が3匹、囲む様に迫っていた。

 ゴッドとイングが獣の群に身を躍らせる。

 アシュリーは身軽にクルっと木の枝に掴り、逆上がりをする様に枝の上に着地する。慣れた様子で着地をした時には片手には矢が握られていて、直ぐに弓をキリリと引き絞っていた。俺の前には俺をかばう様に杖を構えるビアンカ。

 俺は───。


 「ひぃぃぃ……っ」


 俺は、大きな木を背に、腰が抜けてへたり込んでいた。恐怖でガタガタと大げさな程に震えていた。奥歯がガチガチと音を立てる。膝が笑うってこういう事を言うのか。恐怖で息が上手く吸えない。

 皆が戦ってる後ろで、俺はみっともなく腰を抜かし、おばちゃんで明らかに戦闘力の低そうなビアンカに守られているのだ。


 ゴッドが腕でガードする様に1匹にタックルをかます。一瞬弾かれた黒い獣──魔物を、イングの剣が切り裂いた。血飛沫が舞う。俺は恐怖で吐きそうになった。1匹を切り倒したイングの隙を付き、もう一匹がイングへと躍りかかる。獣がジャンプをした瞬間、木の枝の上に居たアシュリーから矢が飛んで魔物の首へと突き刺さり、魔物はギャゥっと悲鳴を上げて地面へ転がり落ちた。残り1匹をゴッドが抑える。獣の牙がゴッドの腕にめり込むのが見えた。ゴッドの腕から血がしたたり落ちる。ゴッドに食らい付いた獣の首を、イングが一刀両断した。頭を残したまま、胴体だけが地面に落ちる。噴水の様に血が噴き出していた。


 俺は恐怖とその生々しい光景に、それ以上見ている事が出来なくなって、木に縋りついて必死に口を押える。震えが止まらない。吐き気がこみ上げて来る。小説の様に、その光景に歓喜することは出来なかった。かっこいいと見惚れる事さえ出来なかった。


「おお痛ぇ」


 血をばたばたと垂らしながら、ゴッドが此方に近づいてくる。正確には、俺の前に居るビアンカに。


「ビアンカ、頼むわ」

「あいよ」


 俺は恐々と振り返った。ビアンカがゴッドの腕に両手を翳す。いつもの言葉とは違う、歌う様な声がビアンカから紡がれた。別人の様な、綺麗な声だった。ゴッド傷のあたりが、ポゥっと光る。


「はい、良いよ。どうだい?」

「ああ、大丈夫だ」


 ゴッドは2度3度、腕を曲げてみる。腰に下げていた布を取り、その腕を拭うと、傷口はもうどこにも見当たらなかった。


 ……す……すげぇ……。


 夢でも見ている様だった。初めて見た魔法は、きっと感動的だった筈なのに、恐怖で色々感情がぶっ壊れてしまっていた俺は、そのまま意識を手放した。


***


「いつまで寝てんだ! とっとと起きろ!」


 ガンっと背中に衝撃が走り、俺は痛みで飛び起きた。顔を上げると、ふんぞり返りながら腕組みしたアシュリーが俺を侮蔑した様な顔で見下ろしている。

 ……ああ、そうだ……。俺は、魔物との戦闘を目の当たりにして、ビビって動けなくなって、挙句に気絶をしてしまったんだった。俺はのろのろと体を起こした。顔が上げられない。みっともなくて、情けなくて。


「アシュリー」


 咎める様なイングの声に、アシュリーがだって!っと声を荒げる。


「そうぽんぽん怒鳴るな。仕方がないだろう?ユウヤは『デュォ フォルツェン』なんだから」


 ……デュォ フォルツェン? 新しい単語だ。多分デュォは神様の事。フォルツェンが判らない。


「『神様の落とし物』って意味だよ、ユウヤ」


 ビアンカが何時もの穏やかなにこにこ顔で教えてくれる。アシュリーはぷぃっと顔を背けて野宿の準備に向かってしまった。

 イングが立てるか?と手を差し出してくれたので、俺はその手に掴り立ち上がる。まだ少し震えてしまっているが、歩けない程じゃなかった。俺はイングに誘われて、一緒に薪を集めて回る。


「時々な。お前の様に、ここの事を何も知らないやつが突然現れる事があるんだ。言葉が通じない、顔立ちが俺たちと違う、どこから来たのか全く分からないやつが。そういう連中の事を、『デュォ フォルツェン』、神の落とし物って言うんだよ」


 ……ああ、だからか。いきなり俺みたいなやつを保護してくれて、当たり前みたいに言葉を教えてくれて、当然の様に守ってくれる。イング達は、異世界転移するヤツに免疫があったらしい。

とはいえ、はっきり言って俺はこの人たちにとってお荷物なのは確かだ。アシュリーが怒るのも無理はない。


「ごめん、イング。俺足手まといだよね」


 俺が落ち込みながらそういうと、イングは優しく目を細めて、俺の背をぽんぽんっと叩いた。


「アシュリーの事なら気にするな。あいつはちょっと気が短いんだ。なぁに、お前はまだ落ちて来たばかりなんだろう? 直に慣れるさ。それに俺はお前の事は気に入ってる。遠慮は要らない。お前にはお前にしか出来ない事が、その内きっと見つかるだろうよ? それまでは遠慮なく俺たちを頼って良いんだ」


 イングの優しい言葉に、俺は涙が零れてしまった。

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