47.神隠しのその後は。
***前回のあらすじ***
俺はゴシップルポライターの森本って人に逢う事が出来た。最初の内は話半分に聞いて居た彼は、俺が向こうから色々持ち帰ってると告げると、ゆっくりと話し出した。
──最初はね。ファミレスで近くに座ってた高校生の話から、だったんだ。
たまたま耳に飛び込んできた話は凄くベタな話だったけど、その高校生の中に君と同じように行方不明になって戻ってきた少年が居たんだよ。
最初は良くある、例えば幽霊なんて見たことないのに霊感があるって吹聴する子みたいなものかと思ったんだけどね。
仲間の少年たちに色々聞かれた彼は、突然目に涙を浮かべて怒鳴りだして店を飛び出したんだ。
少なくとも、自慢げな様子は無くて、嘘を言っている様には思えなかった。だから俺は彼を追いかけて話を聞かせて貰ったんだ。
それから、俺は似たような話を全国回って探し始めた。そうしたら、年間100人以上の人が『神隠し』と思われる現象で姿を消していたんだよ──
***
「100人!? ええ、でも、それっておかしくないですか? 何でニュースにならなかったんだろう…」
俺は森本さんのセリフに目がテンになった。日本の警察良いのかそれで。しこたまネットで叩かれるんじゃないのか?
「それはね。事件性は低いと判断されていたからだよ。怪しい人物の目撃情報も無ければ、幼い子供でもない、危険な場所でも無い。家出人扱いなんだ」
…なんと。俺がぽかんとしていると、森本さんは眉を下げ、肩を竦めて見せた。
「通常ね、誘拐の恐れがあったり、子供だったりお年寄りだったりね。こういう場合は『特異行方不明者』って言って、捜索して貰えるけど、ある程度の年齢の場合は、『一般家出人』になるんだ。タカハシ君、今日本で行方不明で、捜索願が出されている人、どのくらいいるか知ってる? 年間で8万件にも及ぶんだよ。だから警察は動かない。当然ニュースにすらならない」
…8万って、マジか…。
おまわりさんごめんなさい。無茶言いました。そりゃ緊急性の高い方優先するのは当然かも。無論ニュースにもならないよなぁ。1日のニュース行方不明者のネタだけで埋まるわ。寧ろただの家出だったり出かけてて帰りが遅くなっただけの場合クソ恥ずかしい事になるもんな。
「俺も色々な人を探しては会ってみたよ。でもね。皆失踪時の事を覚えてる人は居なかったんだ。判ったのはある日突然消えた事。早い人で1日から1週間、遅い人で2年から3年。ある日行方不明だった時の事を何も覚えて居ないまま、帰って来たそうだ。留年したり、会社をクビになってたり、恋人が別の人と結婚してた、なんて話もあったよ。良い話は聞かなかったね」
うわぁ…。
「あー…。俺も留年だそうです、そーいえば」
「そりゃまぁ…。娯愁傷さま」
森本さんがパンっと手を合わせぺこりと頭を下げた。が、直ぐに手で置いといて、と言う様に荷物を横に置く様な仕草をする。雑だなオイ。
「で、だ。 君が言ってたいぬいなおゆき、って人、確かに心当たりが無くも無い。その人かどうかは判らないけど、俺が逢った神隠しに遭った人の中にその名前の人が居た」
「マジですか!」
森本さんは、ペーパーナプキンにボールペンで文字を書く。
『乾 尚之』、か。 凄い、急に現実味を帯びた気がする。
「2年前に知り合った人でね。向こうから俺に接触をしてきたんだよ。俺がネットにそういう行方不明者を探しているって書き込んだのを見てね」
「──!」
「勿論、俺は戻り方なんて知らない。知ってれば俺も神隠しってのに遭ってみたいくらいだ」
冗談めかした森本さんの声は殆ど聞こえていなかった。直感で、その人だと思った。俺の日記に書かれていた、ビアンカって人の恋人さん。
「会えませんか? その人に!」
「こーかんじょうけんー」
ハイ、と森本さんは、此処まで、と手でどうぞと言う様に俺に手を向ける。俺はボディバッグから包みを取り出し膝の上に置く。中から短剣を取り出すとテーブルへと置いた。
「これは?」
「向こうから持ち帰ったものの1つです」
俺は剣を手に取って鞘を抜く。彫られた文字が見える様に。
「──ジルヴラヴィフ・ヴェント。向こうの言葉で銀の風。──これで、ユウヤ。デュォフォルツェン、神の落としたもの、って意味です」
俺は文字を1つずつ指さしながら意味を伝える。
「うーん、本当かどうかは判らないなぁ。何しろ俺はその字が読めないからねぇ」
「この文字、見た事は?」
「うーん、無いな。でも辺境の国の文字なら見た事が無くても不思議じゃない」
「一介の高校生がミニサイズとはいえ西洋風味の真剣なんてどこで手に入れるんっすか。此処日本っすよ?」
そんなもんどこで売ってると言うのか。もし売ってるなら普通に欲しい。欲しいが多分買える額じゃない。
「確かにな」
ははっと可笑しそうに森本さんが笑った。
「で、もし乾さんに逢わせてくれるなら、これ、見せます。向こうでの事が綴られた俺の日記」
俺は膝の上の包みの中から手帳を取り出し、フリフリと振って見せた。
「──OK、連絡を取ってやろう」
交渉成立。森本さんは少し挑戦的にニっと笑うと、ちょっと待っててと手で示し、店の外へと出て何処かへ電話を掛けた。俺が珈琲を飲んで待っていると、直ぐに早足で戻ってくる。
「よし、んじゃ行きますか」
森本さんはそのまま荷物を手に取った。
「え?」
「会ってくれるってさ。 乾 尚之氏」
意外とこの人頼もしかった。
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