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44.電波系男子。

***前回のあらすじ***

目が覚めると、俺は元の世界へ戻ってきていた。向こうの世界の記憶を一切無くして。俺は救急車で病院へと運ばれた。アシュリーの作ってくれた布は俺の腹に巻かれたままで、俺は異世界を信じざるを得なくなっていた。

 翌朝、お袋が迎えに来て、俺は何の異常も無しって事で無事退院した。寧ろ前よりも健康的になったかもしれない。看護師さんとかにお礼を言って病院を出る。自動ドアを抜けるなり、俺は、うっと顔をしかめた。なんだこれ。変な匂いがする。強い匂いじゃないけど地味に鼻につく匂いだ。空気が何だか粉っぽい。鼻がむずむずする。風も妙に生温くて、ねったりとと張り付くような嫌な生温さ。景色も少し灰色っぽい靄が掛かっているみたいに見える。なんだこれ。


「なぁ、何か臭くない?」

「え? そう? 何も臭わないけど。ほら、早くタクシー乗っちゃって」


 お袋に急かされて、俺は慌ててタクシーに乗り込んだ。タクシーの匂いもきつい。変に敏感になり過ぎてるみたいだ。俺は膝に肘をついて不自然にならないようにぐーに握った手の中指と人差し指の第二関節使って鼻の穴を塞ぐ。マジで具合悪くなりそう。気にするともっと気になるから、俺は鼻塞いだままお袋に話しかけた。


「そういえば俺学校ってどうなってんの?」

「それねぇ。やっぱり1年も休学していたから、留年になりそうなのよね」


 そっかー。世間体を気にするお袋にしてはやけにあっさりと言う。


「なんかごめんな。みっともないよな、留年なんて」

「あんたが戻ってくれただけで良いわよ」


 お袋は随分と丸くなった。たった1年 ──といっても俺の感覚だと1、2時間なんだけど──で、一気に老け込んだ気がする。白髪も凄い増えた。ごめんな。やっと戻ったって喜ばせてるのに。こんなに喜んでくれてるのに、俺はまた直ぐにここから消えるつもりでいる。申し訳なくて胃がキリキリした。何で俺はこんなに覚えてもいない場所に焦がれているんだろう。家族や友達泣かせても、譲れないくらいに焦がれるのは何故だろう。


***


 家に戻ると俺は自分の部屋に向かった。親父は仕事、千佳はまだ学校らしい。1年いなかった割に俺の部屋は窓が開けられ、部屋の中も何も変わっていなかった。お袋がきちんと掃除しておいてくれたらしい。ベッドに転がって俺は昨日の手帳の続きを読み始めた。異世界。そんなこと、本当にあるのか? マンガじゃあるまいし。信じられない気持ちも正直ある。全く記憶に無くて、それでもこれは俺の字で、確信めいてそこに書かれた事が本当だと感じてしまう半面、当たり前だけど現実味が全くない。正直気持ちが付いて行けない。大事を取って1週間、俺は休みを貰っていた。この間に、何が出来るだろう。

 まずは──。


 そうだな。西高、行ってみよう。西高の野球部のヤツだった筈だ。その人に会ってみたい。それから…。

 俺はベッドから起き上がると、パソコンを立ち上げた。アドレスバーに名前を打ち込んでみる。いぬい なおゆき。日記に書かれてあった名前だ。


 ぐっは。2210万件。マジかよ。俺は検索条件を絞っていく。んー。駄目だ。殆ど小説っぽい。ただ、神隠しの話は結構あるみたいだ。駄目元で俺はTwitterを立ち上げ、ツイートをしておく。


『いぬい なおゆき という人を探しています。一時期行方不明になった事がある人。多分年齢は50代。行方不明の間の記憶が無いと思われます。ご存じの方、連絡ください。#Duofortwen #神隠し #行方不明 #拡散希望』


 …なんか凄い痛い人っぽい。涙出そう。中々ツイートのボタンが押せない。押したら最後俺はモブから痛い人に変身してしまう。やだなー。載せたくないなぁ。でも他に探す手段も判らない。


 …もういいや。こういうのは開き直った者勝ちだ。

 ──ぽち。押しちゃった。全国ネットでの公開処刑だ。これで俺も電波ちゃんの仲間入り。ああ、反応が怖い。


 俺はそれ以上見るのが怖くて、腹に括ってあった荷物を外すと布ごとボディバッグに押し込んで西高へ行ってみることにした。

いつもご閲覧有難うございます!ちょっと連休中は更新できないかもしれません。次は早ければ明日、遅ければ月曜日更新になります。

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