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43.ウラシマる。

***前回のあらすじ***

無事討伐を終え街に空いた俺は、アシュリーと共に街を散策した。アシュリーが買った布でスリングや手帳を入れる袋みたいなのを作ってくれた。けれど眠りに落ちる直前、俺は窓の向こうに赤い月が不気味に浮かぶを見てしまった──。

 ──嫌だ。眠っちゃ駄目だ。俺はここに残るんだ。

 夢の中、俺は必死に何かから逃げていた。後ろから追いかけて来る影の様な幾つもの手。背後に赤い月を背負って迫ってくる。俺の影が長く伸び、行く手を塞ぐ。伸びて来た手が腕に、足に、絡みつく。飲みこまれて行く。俺は必死にもがいた。飲まれちゃ、駄目だ。忘れちゃ、駄目だ。俺は、──と居ると決めたんだ。──が好きなんだ。


 俺は行かない! 帰らない! 帰りたくないんだ! 離せよ──!


「ぃっ! ユウヤッ!!」

「おにいちゃんっ!!」


 思いっきり振り払ったら、バシっと誰かを叩いた手ごたえ。聞き覚えのある声。誰だっけ。

 俺ははっと我に返った。


「──あれ?」

「お兄ちゃん!」


 飛びついて来たのは、妹の千佳だった。何が何だかわからず俺は目を白黒させる。

 今まで目も合わせようとしなかった妹が突然デレたら多分誰でも驚くと思う。


 ええと? 俺なんで千佳に抱きつかれてんの? いや、千佳だけなら兎も角、何でシンまで抱きついて来てんの?

 周りを見渡すと、そこは西高の裏の雑木林の中だった。

 あー、そうか。俺、シンと一緒に西高のヤツがウラシマった場所を見に来たんだっけ。何かがあったはずなんだけど、思い出せない。喉元まで出かかってる感じがするんだけど。


「わり、俺はぐれてた? うっかり眠っちゃったみたいだ」

「何言ってんだよユウヤ! お前1年も行方不明だったんだぞ!?」


 …は? 1年? 俺が?


「…シン、お前なぁ、俺までオカルトのネタにすんなよ。しまいには怒るぞ?」

「ほんとに覚えて無いのかよ!?」


 顔を上げたシンはマジ泣きしてた。──嘘だろ?


「えー…。お前と此処に入って、それからなんか…なんか見た気がするんだよ。で、それから逃げて──コケて寝ちゃった感じなんだけど」

「おにいちゃんのばか! お父さんもお母さんも凄い心配してたんだからね!」

「…んなこと言われてもなぁ…。 本当に1年も経ってんの?」

「なんかと見間違えたんだと思うけど、俺も何かにびっくりして逃げ出して、そうしたらお前がどんどん走って行っちゃって先に帰ったのかと思ってたのに、お前が帰ってこないって夜中に家に電話掛かって来て! 俺がこんなことに誘ったばっかりにお前が居なくなっちゃって俺、俺…っ!」


 俺には全く実感が無いんだが、めちゃくちゃ心配かけたらしい。千佳がこんな風に俺に抱きつく事自体小学校以来だ。よっぽどだったんだろう。


「うん、ごめん、ほんと何ともないから」

「お兄ちゃん、帰ろ? お父さんもお母さんも待ってるよ」

「ああ」


 俺は千佳に腕を取られて立ち上がる。


『──約束だ』


 …何か、声が聞こえた気がした。大事な事を、忘れている気がする。何だっけ。俺は後ろを振り返る。遠くを車のライトが横切って行った。


『ゆびきりげんまん』


 ──何だっけ…。


***


 家に帰ると親父もお袋も駆け寄って来て俺を抱きしめた。親父が泣くのを初めて見た。いつも怒鳴ってばかりのお袋が座り込んで顔を覆って声を上げて泣いている。


 意外だった。


 俺の事なんてどうでも良さそうだったのに。両親も妹もこんなに俺を心配するなんて思わなかった。どこも何ともないのに、お袋が慌てて救急車を呼ぶ。警察にも電話を掛けている。俺は1時間程度雑木林を走り回り、疲れて寝てしまっただけだと言うのに、まるで遭難した人が見つかったかの様な騒ぎだった。


 直ぐに救急車のサイレンが鳴り響き、俺の家の前で止まる。野次馬も遠巻きに様子を伺っている。平々凡々な俺の日常は途端に異質な感じになってしまったみたいだ。救急車に自分で乗り込んで、べたべたと心電図だのくっ付けられて、何ともないつってるのに救急車のベッドに寝かされて病院に運び込まれ、更にあれこれ検査を受けてその日は病院に1日入院することになった。


 緊急入院って事もあって大部屋は空きが無いらしく個室だ。結構高いんだろうなぁ。トイレ付きだし。部屋広いし。ソファーなんかもあるし。お袋ごめん。


点滴打たれて、警察が来ているけど話せるかと聞かれて、俺が頷くと看護師は部屋を出て行った。数分後、警官がやって来てあれこれと聞かれたけど、覚えて居ないものは覚えて居ない。警官は「無事で良かった」と優しい笑みを向けてくれて帰って行った。良い人だった。ちょっと尋問でもされるのかと警戒して悪い事したな。俺ちょっと態度悪かったかも。決めつけは良くない。気を付けよう。 

 それから別の部屋で待っていた家族が部屋に来たけど、俺も疲れているだろうから明日また来ると言い残し部屋を出て行った。俺はようやく一息つく。慌ただしい。


 それにしても、意味が分からん。腹も減ってないし怪我もないし、時間がワープしている感覚な事以外何ともないのに。ただ、林でうろうろしていただけって訳じゃ無さそうだ。ジャージの下の俺の腹には見覚えの無い布がぐるぐる巻かれて、中に何か入っている。多分これ、誰にも言わない方が良い。直感でそう思った。だから警察にも申し訳ないけど話していない。検査の時は外したけど、何も言われなかったし。


 ジャージは何故かぶかぶかになっていて、俺は随分痩せたっぽい。痩せたというより、腹が何故かシックスパックになっている。引き締まった分ジャージに余裕が出来て、布を巻いても目立たない。

 1人になった隙を見て、俺は腹に巻いていた布を外し、膝の上に乗せる。凄い歪だけど、何だろう。妙に温かみがある。何か、ファンタジーに出て来るシーフツールみたいだ。俺はゆっくり布を解いた。


 ──なんだこれ。


 布の中には、結構高そうなパチンコ。前に動画で見たことがある。スリングショットってヤツだ。ファンタジーっぽい作りで、グリップに革が巻かれている。相場は判らないけど万単位は軽く行くんじゃないか? 小さな小銭入れみたいなところには木の実で作った弾まで入っている。凄いな。

 もう1つは、鞘に入ったナイフだった。いや、短剣って言った方が良いかもしれない。刃渡り20㎝くらいはありそうだ。こっちもシンプルだけど鞘も凄いファンタジーっぽい。ゴテゴテした飾りが無い分、王道ファンタジーって感じだ。鞘を抜いてギクっとなった。


 …待って、これ、本物じゃないか? 果物ナイフじゃないし、しかも両刃。普通に斬れそうだし先も尖ってる。しかも見た事の無い文字が彫られている。機械で彫った感じじゃない。英語でもないし、俺が知っているどんな字とも違っている。フォルムは英語っぽいんだけど、こんな字見た事が無い。なのに、俺はこの字を知っている。


 「銀の風…? あ、これこのまま読むんだな。 ユウヤ…は、俺か。 神の落とし物? じゃねぇ、これ名前だ。…ジルヴラヴィフ・ヴェント、ユウヤ=デュォフォルツェン、神の命により異世界より参上…? うっわナニコレ中二病っぽい!」


 …普通に読めてしまった。待て。おかしいだろ? これ何語だよ? こんな字見た事ないのになんで読めるんだ!?


 何これ。何で俺こんなもの持ってんの? 何で読めんの? つか短剣とかヤバくね…?

 心臓がバクバクしてきた。何だか物凄く悪いことをしている気分だ。これ銃刀法違反で捕まったりしないよな…?


 まだ、何か入ってる。こっちは手帳だ。これもファンタジーの手帳って感じ。中の紙も質の悪い紙でファンタジーっぽさを出している。が、インクで書いたみたいなその字は、この手帳に似つかわしくない日本語で、更に見覚えのある俺の字だ。


「日本に戻った俺へ…? どういう事…?」


 俺はポケットをまさぐる。いつも通り、そこには俺のスマホ。充電は切れていた。流石に充電器は無いから、明日充電しよう。


 消灯で電気は消されたけど、俺はベッド脇のライトを付けて手帳を読みふけった。


 信じられないような事が書かれていた。これは、俺の知らない俺が書いた日記だ。下手くそな文章だけど、馬鹿らしい、と一蹴することは出来なかった。末尾にはしっかりと俺のフルネームに誕生日、血液型に家族構成、通っている学校の名前まで書かれている。間違いなくこれを書いたのは俺だ。全く覚えて居ないけど。それに──。


 ずっと、何かに追い立てられる様に気持ちがそわそわとしている。何故か判らないけど、早く行かなくちゃって気がせいている。何処に行こうとしているのかも判らないのに焦る。どうしても、逢わなくちゃいけない誰かが居る。

 断片的な単語が次々に脳裏に浮かんでは消える。


『やくそくだ』

『ゆびきりげんまん』

『来年もまた一緒に──』


 頭がガンガンした。吐きそうな程に痛む。覚えて無いけれど、俺は『そこ』に帰らないと。数ページ読んで、頭痛に耐え切れず手帳を閉じる。続きは明日読むことにしよう。


 俺は元の様に短剣や手帳を布に仕舞うと腹に括りつけた。何故かこうしなくてはいけない気がした。ライトを消して目を閉じる。明日になればすぐに退院できるはずだ。

 

「直ぐに、戻る。必ず、戻るから──。待っていて…」


 自分でも、誰に向けて言ったのか分からない。自然と口を付いて出た。直ぐに意識がぼやけ、俺は深い眠りの中に落ちていった。

ご閲覧・ご感想有難うございます!次回の更新は明日を予定しています。

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