42.好きな子の手作り、プライスレス。
***前回のあらすじ***
村で商団と合流し、ついに盗賊が現れた。今まで教わった事が脳裏に浮かぶ。倍近く居た盗賊を、連携を取り一人一人倒していき、俺達は無事商団を守りきり、盗賊団を捕らえることが出来た。
無事商団を送り届けた俺達は、その日その街で一泊し、翌朝カザンスに向けて出発することになった。宿屋に荷物を置いてから俺とアシュリーは街を少し見て回ることにする。
アシュリーは早速布地屋へと向かい、俺も付き合った。
「んー。やっぱりユウヤにはこの色が合うと思うんだよな」
アシュリーが選んだのは淡いベージュの生成りの布だった。
「そ? てかホント作れんの?」
「出来るよ! なんだよ、文句あるなら作ってやんねーぞ」
えー。アシュリーが針と糸でちくちくやるのが想像できない。でも、嬉しいな。好きな子が自分の為に何かしてくれるのって、凄い嬉しい。
「ないない、あるわけない。凄い嬉しいって」
俺は笑いながらアシュリーの髪をくしゃくしゃっと撫でる。それでもふて腐れているアシュリーを食い物でつることにした。丁度目に止まったのはこの世界っていうか国?のお菓子で、リューシュカっていうお菓子だ。
見た目は、某しっとり系のクッキーを棒に巻いて焼いた感じのお菓子で、真ん中に穴が空いてる太めのちくわって感じだ。中には何だかわからないけどサクサクした食感の木の実と干した果実が練り込んであり、生地と生っぽいキャラメルみたいなのが層になっていてかなり甘いけど凄く美味い。
リューシュカを2本買って1本差し出すとアシュリーのご機嫌が直る。
「よし、許す」
わーい、なんて子供っぽくはしゃぐあたり、めちゃくちゃ可愛いんだよな。コイツ。こうやって一緒に居ると、緊張感が薄れてしまう。人間って、警戒みたいなのって持続しないのかも。
街の賑わいを見ていてふと気になって居た事を聞いてみる。こういう時に聞く事じゃないかもしれないけど。
「そういやさ。ラルフって結局どうなったの?」
ずっとアシュリーに思いを寄せていたラルフ。あの日俺は自分が元の世界に帰らされると知って逃げ出してしまって、それから一度も会っていない。あれだけ毎日アシュリーにあしらわれてもめげずに来てたのに。あの後何があったのか、ずっと気になっていた。
「んー。ちゃんと考えはしたけどな。ラルフの事はそういう好きとは思えないつった。例えユウヤと離れても、その…俺が、好きなのは、ユウヤだし…」
ぐはぁ! なんだこの可愛い生き物は。真っ赤になりながらそんな事言われると萌え死か悦死するわ!
「アシュリー、ちょっと俺、可愛すぎてどうしていいか判らない」
「!! 今そういう話してねーだろ!?」
「…うん、俺が悪かった。悪かったけど往来の真ん中で殴るの止めようぜ?」
言った瞬間ほっぺたにアシュリーの拳がめり込む。とっても痛い。周り歩いてた人がぎょっとしている。
「だっ…だから、ちゃんと断ったんだって…! そしたら、判ったって。敵わないつって、今までごめんなつってくれた」
周囲の視線に慌てて拳を戻し、隠す様に背に回して、アシュリーが歩き出す。俺も頬を擦りながら隣を歩く。宿屋の看板が見えて来た。
「そっか。あいつも良い彼女出来ればいいなー」
「アイツあれで結構モテてたしすぐだろ」
そうかな。そうだと良いな。
「それじゃ、俺部屋戻ってこれ作るから、またな!」
照れ隠しみたいにアシュリーが買ったばかりの布を掲げて宿屋に向かって駆けて行く。
俺はゆっくり歩いて宿屋に向かった。
***
部屋に戻って数時間後。イングとゴッドはまだ下で飲んでいて、今はこの部屋には俺だけだ。
ノックの音にベッドに転がってうとうととしていた俺は身体を起こし、部屋のドアを開ける。もしかしてと期待した通り、アシュリーが真っ赤になって立って居た。
「アシュリー? こんな遅くにどした?」
「ん!」
アシュリーが後ろ手に持っていた布をずぃっと突き出した来た。
え。もう出来たの? 凄くね? と思ったが、受け取ってみて、うん。凄くなかった。凄く無かったけど、でも…。
縫い跡はがったがただし、あっちこっち引きつったりしてて、うわぁ~~な出来栄え。
だけど、小学生の裁縫並みに下手くそだけど、一生懸命作ったのが判る代物だった。
四角い布に、スリングを止める輪とナイフを納める仕切りに手帳を入れるポケット、弾を入れる蓋つきの仕切りが着いていて、くるっと丸めて小さな獣の牙を輪にした紐で留める様に作られている。布の左右には長い紐が付いていて、先の部分だけ細いリボンみたいになっていて腹のところで結べるようになっていた。3時間ちょっと。もの凄い頑張ったんじゃないか?
何よりこの歪さがアシュリーっぽくて愛しくなる。こういうのきっと苦手だったんだろうな。それなのに使いやすいように、落とさない様に、寝るときに邪魔にならない様にと考えて、俺の為に急いで作ってくれたんだ。
「み…見た目悪いけど頑張ったんだからな!」
涙目で言い訳っぽくまくし立てるアシュリーの言葉に返事を返さず、俺はアシュリーの作ってくれたケースにスリングとナイフと手帳を納め、ベルトポーチみたいに腹に回し、紐で縛ってみた。跳ねてみたりしたけど、中身はしっかり固定されていて飛び出さない。上出来じゃないか。
「や…やっぱビアンカに言って作って貰って──」
「駄目。アシュリーが作ってくれたんだからこっちが良いに決まってんじゃん。すっげぇ嬉しい! ありがとな! へへ。どう? 似合う?」
俺がくるっと回って見せるとアシュリーはほっとしたように嬉しそうに笑みを浮かべた。
「うん、早く渡したくてさ。やっぱユウヤ、その色似合うよ」
「めっちゃ大事にするわ」
「へへっ。良かった。上手く出来なかったからちょっと不安だったんだ。それじゃ、また明日な?」
「ああ。ありがとな、アシュリー」
俺が手を広げると、カーっと真っ赤になってから、ぎゅーっと目を瞑ってぽすんっとアシュリーが腕の中に飛び込んでくる。ほんと、可愛いなぁ。ぎゅっと抱きしめ、ふわふわと髪を撫でる。今日はすっげぇ良い夢見れそう。
「おやすみ、アシュリー」
「おやすみ、ユウヤ」
髪にキスして名残惜し気に手を解けば、アシュリーは少女らしい笑顔で頬を赤く染めて手を振り、ビアンカの待つ部屋へと駆けて行った。
アシュリーが見えなくなると俺も部屋の中へと戻る。俺はアシュリーのくれた布を付けたままベッドに転がる。やっぱり馬車の旅は疲れていたらしい。直ぐに睡魔が襲ってきた。
意識を手放す直前、何気なく窓に向けた目に、ぞっとするほど赤い月が不気味に浮かんでいるのが見えた──。
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