41.盗賊討伐とは護るという事。
***前回のあらすじ***
いつもの様にエルナの所へ依頼を受けに行った俺は盗賊討伐に行く事になった。目的の村の途中の野宿ポイントで、俺はアシュリーと蛍を眺め、七夕の話をする。束の間のデートを楽しんだ。
そのまま日本に戻ったらと思うと怖くて、俺は我儘を言ってアシュリーと並んで草の上に転がった。アシュリーの手に触れると、きゅっとアシュリーも俺の手を握り返す。思っている事は、多分一緒だ。時々迷子だろうか。蛍がふわりと飛んでいくのが見えた。
見上げた空には満天の星。そっとアシュリーの方を向くと、同じタイミングでアシュリーが俺の方を見る。
目が合って、俺達は小さく笑った。
「おやすみ、ユウヤ」
「うん、おやすみ、アシュリー」
きゅっきゅとお互いにそこに居る事を確かめる様に手を握り合い、瞼を閉じる。
どうか、無事みんなと一緒に朝を迎えられますように──。
***
鳥の囀りに、目が覚めた。もう皆起きていてそれぞれ薪を拾ったり飯の支度をしたりしている。アシュリーは俺の傍で柔軟をしていた。
──良かった、まだ俺は消えていない。勢いよく足を振り上げて身体を起こし、毛布を畳む。
「よぉ、ねぼすけ」
「お前らが早すぎるんだろ?」
俺は畳んだ毛布を自分の鞄に押し込んだ。今朝のメニューは豆と干し肉を煮たヤツと干しプルーンみたいなヤツだった。ゴッドは料理好きっぽくて野宿の時の料理はいつもゴッドが作ってるんだけど、見た目も匂いも美味しそうなのに味がいまいちなんだよなぁ。俺の口に合わないだけかもしれないけど。ただ、身体には良さそうだった。
準備を終えると馬車に乗り込み、村を目指す。到着は夕方くらいになるらしい。
「明日の早朝に商団と合流して護衛開始だ。ユウヤ、行けるか?」
「正直、少し怖いです。賊とはいえ、人を傷つけるのは怖いです」
「ちゃんと不安を口に出来るのは良い事だ」
イングから見ると俺はまだまだ子供なんだろうな。くしゃっと頭を撫でられた。
「良いか? ユウヤ。賊も人だ。だから躊躇するのは当然だ。だけどな。賊をそのままにすれば、賊の何倍もの人が傷つくことになる。荷を奪われるだけで済めばまだ良い。けれど大抵の場合は皆殺しだ。時には小さな子供まで奴らの手に掛かって命を落とす事もある」
イングが、ぐっと俺の肩を掴んだ。真剣な目だった。
「だから、俺達がすることは、賊を殺す事じゃない。荷を運ぶ連中の命を守るのが仕事だ。それをしっかり肝に銘じておけよ?」
俺は、賊を傷つける事ばかり気にしていた。そうだった。俺達の仕事は、守る事なんだ。手加減をすれば、何度でも襲って来るだろう。それによって傷つく人を守る事だった。甘っちょろい考えは捨てるんだ。俺はしっかりと頷いて見せる。
「行けます」
「よし」
イングがバンバンっと俺の肩を叩いた。
馬車の中で俺は念入りに弾をチェックし、頭の中で何度もシュミレーションをする。賊が出たら真っ先に俺とアシュリーとで出鼻を挫く役割だ。俺が少しでも躊躇をすれば、イングやゴッドが危険になる。強いてはアシュリーも危険に晒す。動体視力と命中率を上げるガザって虫を使った訓練は散々やって大分制度も上がっているはずだ。落ち着いて行けば、やれる。行ける。
天才じゃなくても、チートじゃなくても、日々の積み重ねで、モブでも成長することは出来るんだ。何もかも中途半端だった頃の俺じゃない。
最大の敵は自分だ。俺はしつこいくらいに、大丈夫、行ける、やれる、と自分に言い聞かせた。
馬車ってのは結構疲労が蓄積する。道は悪いし、ケツが痛い。ずっと同じ姿勢でガタゴト揺られていると体が固まってギシギシ言う。
夕刻、予定通りに村に着いた俺達は、同じ宿に先に着いていた商団と合流した。商団というくらいだからどんな規模だろうと思ったが、3台の箱型の馬車と、3組の家族経営の旅の商人だった。イングが代表で挨拶を交わし、翌朝早朝に出発をすることになる。
「ユウヤ、少し合わせておこうぜ」
「おう!」
まだ陽が落ちるまでには少し時間がある。俺とアシュリーは宿屋の裏手で陽が暮れるまで何度もタイミングの調整を行った。
***
まだ、夜明けまでには少し間がある。早朝、俺達は馬車を宿に預け、俺達は村で馬を借りて護衛に着いた。一応俺も馬に乗る練習はしたし、普通に乗るのは出来る様になったけれど、咄嗟の時に即反応はまだ無理だ。イングの後ろに乗せて貰う。
俺とイングの馬とビアンカが左側を、ゴッドとアシュリーが右側を、それぞれ馬車と馬車の間に陣取る様にして山道をガタゴトと上がっていく。周囲は朝靄に包まれて視界が悪い。俺はイングの腰に腕を回したまま、目を閉じて耳を欹てた。今のところ聞こえるのは鳥の鳴き声と馬車の車輪の鳴る音と馬の蹄の音だけだ。スリングは直ぐに抜ける様に留め金は外してある。ピリっと空気が緊張していた。
──ガサッ
不自然に枝が揺れる。ぱっと目を開けると、一瞬音のした方に何か布の様なものが翻るのが見えた。
「「来た!!」」
俺とアシュリー、叫んだのは同時だった。つまり、敵は左右から襲って来る。俺は馬の背に足を掛け、イングの肩に手を掛けて、思い切って2台目の馬車目がけて飛んだ。
当然初めてでこんなスタントめいた真似出来るはずが無い。これも時間のある時に散々アシュリーに付き合って貰って練習をした事だった。ただ、走っている馬車に飛び乗るのは初だ。死ぬ程怖い。危うく勢い余って転げそうになったが、反対側から同じように馬車へ飛び移ったアシュリーに腕を掴まれ落下を免れる。俺は馬車の屋根の上で転がる様に体制を整え、スリングに弾を宛がって構えた。
「Thanks、アシュリー!」
「おう!」
アシュリーと俺は背中を合わせる様にして、同時に俺はスリングを、アシュリーは矢を放つ。茂みの向こうで悲鳴が上がった。
その悲鳴を合図とばかりに、俺の方側から5人。多分見えないけれどアシュリーの方も5人、総勢10名ほどの盗賊団だった。
一瞬だけど盗賊がたたらを踏み、その僅かな隙を逃さずイングがひらりと馬から飛び降りて風の様に走る。直ぐにけたたましい金属音が鳴り響く。あっという間に乱戦になった。
『──落ち着いて一人を狙え』
脳裏にアシュリーの声が響く。俺の背に僅かなぬくもりと筋肉の躍動。アシュリーの感触に俺は自分でもびっくりするほど落ち着いていた。
入り乱れる盗賊とイングの攻防で、狙うべき相手がまるで照準を当てたかの様に視界に飛び込んでくる。
俺はイングの後ろから剣を振り上げる男の顔面目がけスリングを打ち放った。
『──守るんだ』
バシっと弾が当たれば、赤い粉が舞い、男がギャっと悲鳴を上げて顔を覆う。別方向から攻撃を仕掛けようとしていた男も俺のスリングに驚いたように後ろへと飛びのいた。その間にイングが1人、また1人と倒していく。
僅かな肩の揺らし方、足運び、手に取る様にイングの動きが読める。こういう所、イングはマジで凄いと思う。敵に気づかれないような癖にも見える僅かな動き。俺に判る様に伝えてくれる合図だ。俺は慎重にイングのタイミングを読み、スリングを打ち放つ。イングもまた、俺のスリングの軌道を邪魔しない様に動いてくれている様だった。
片側5対2.それでも落ち着いて連携を取る事で、盗賊は1人、2人と傷を負い、戦意を喪失していく。程なく盗賊は観念したように皆へたり込んだ。
俺がほっと安堵の息を付くと、アシュリーの声が背中から掛かる。
「まだ気ィ緩めるなよ。終わったと見せかけて伏兵が居る事も少なくないんだ。最後まで、気ぃ抜くなよ」
アシュリーの言葉に気を引き締めて、耳を澄ませる。イングが次々と盗賊を縛っていくが、俺はスリングに弾を宛がったまま、じっと耳を澄ませた。
縛り上げた盗賊を樹に括りつけてから、馬車はゆっくりと走り出す。俺とアシュリーはまだ馬車の上だ。森を抜けるまでは警戒を緩めずに行くらしい。緊張を漂わせたまま、ガタゴトと馬車が走る。イングとゴッドは馬で左右を固めていた。アシュリーの馬はゴッドが引いてくれている。道は昇り坂から下り坂に変わり、木々を避ける様に蛇行をする道をゆっくりと下っていく。
やがて、朝日が眩く森の中に差し込み、森を金色に染め上げて、白く立ち込めていた朝靄が、すぅっと晴れていく。凄く綺麗だ。少し先で森の向こうが開けているのが見えた。後、少し──
『──最後まで、気を抜くな』
俺は慌てて緩みそうになる気持ちを引き締める。後、300m。100m。50m──。
サァっと風が吹き抜ける。目の前に広がる草原。長く伸びる道の先に、オレンジ色の屋根と白い外壁が美しい街が広がっていた。俺達の街、カザンスに負けないくらい大きな街だ。わぁっと馬車の中から歓声が上がる。此処まで来れば盗賊の心配はもう無い。俺の後ろでアシュリーがほっと息をつく声が聞こえ、俺はアシュリーを振り返った。アシュリーも俺を振り返る。
「やったな!」
「ああ!」
パァンっと良い音を響かせてアシュリーと手を打つ。俺はようやく、大きく息を吐きだした。
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