表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/60

40.星降る夜。

***前回のあらすじ***

俺はいつ戻されても良いように、手帳に今まであった事、元の世界に戻った時の為に家族に宛てた手紙を書き、スリングなんかも纏めて寝る時も身に着けておく事にした。いつか来るその日の為に。

 薪割を終えてから俺はアシュリーと共に受付のエルナの所へと向かう。これは俺の日課で、ここの連中は毎朝エルナに声を掛けてその日の仕事を貰う事になっている。自分のレベルで仕事を受けられない事もあるけど、そんな時はひたすら訓練をしたり、ギルドの雑用を請け負ったりする。

 デュォフォルツェンの事は気になってるし情報も集めたいけれど、いつまでも自分の勝手をするわけには行かない。働かざる者食うべからずだ。

 1か月ほどは気を使ってくれたのか、簡単な仕事だけを回してくれて、情報を集める時間が取れたけれど、この日は受付に行くなり、既に大きな仕事が決まっていた。討伐の仕事があるらしい。メンバーはイング、ゴッド、ビアンカ、アシュリー、そして俺。俺がこの世界に来た時と同じメンバーだ。出発は1時間後。


 俺は一旦アシュリーと別れ、汗を流し、準備をしてからホールへと向かった。今回も俺が一番乗り。

 直ぐに皆集まってきた。外に出ると既に馬車が1台止まっている。今日は徒歩じゃなく、馬車での移動になるらしい。御者はゴッドが務めてくれた。俺達は馬車へと乗り込む。


 イングの表情が少し硬い。まるで俺を試すかの様にじっと見つめながら地図を開き、口を開いた。


「これから向かうのは国境近くの村だ。此処カザンスの街は色々な場所から人が集まってくる。商団も多い。彼らが通ってくるルートは──」


 イングは地図の上に伸びる街道を示す線を1つ1つゆっくり指さしていく。イングが示した線は全部で6つ。その線の先にはカザンスを中心として各地へと伸びているのが判る。最後にイングが指したのは山を越えた先にある街へと伸びた街道だった。


「隣国とこの国を繋ぐルートは2つ。1つは山を迂回するこのルート。道幅は広いし途中に宿泊できる村もあるけれど到着までに10日は掛かる。もう一つがこのルートだ。こっちは道が細い上に急で危険も多い。その代り3日で到着できる。問題はこの山の辺り。商団を狙った賊が出るんだ」


 俺はヒュっと息を飲んだ。 賊。つまり、今回の相手は──


「そう。人間だ。ランクはD。この仕事をする以上避けることは出来ない依頼の1つだよ」


 獣は狩れるようになったけれど、人相手。俺は初めて人を刺した時の事を思い出し、身震いした。


「俺達が討伐をする時は、よっぽどでない限り命は取らないんだ。肩だの腕だのを狙って戦力を削いで捕らえるまでで、その先は自警団に引き渡す格好」


 補足の様にアシュリーが俺の手を握り、ゆっくり言い聞かせるように俺に告げる。香辛料を入れた俺の弾。血の気は引いたけれど、俺達のギルド、『ジルヴラヴィフ・ヴェント』で殺しを楽しむ様なヤツは居ない。きっと今までやってきた訓練が役に立つはずだ。俺が頷くと、イングは話を続けた。


「手前の村で馬車を預けて、此処で商団と合流する。護衛をしながら山の向こうの街まで行って帰ってくる。これが今回の仕事だよ」


 つまり、盗賊が出れば討伐に、でなかったら何もなく帰ってくることになるらしい。出くわした場合、人間な分知恵や武器を使って来る上に殺さずに捕らえる事になる為、難易度はDまで上がるんだそうだ。


 手前にある村まで2日、山越えで1日。片道3日の仕事になる。

 馬車の中で、俺はビアンカに寝る時に持ち物を外したくないから良い装備方法が無いか相談をしてみた。ビアンカは少し考える様に首を傾げた後、ケープを外してそこにナイフを入れてくるくると丸め、腹のところでぎゅっと結んで見せた。


「こんな風にしてさ。もう少し長い布を使って腹側にアイテムを包んで一度背中に回して、手前で結べば寝るときに邪魔にならないんじゃないかねぇ」


 おー。なるほど。良いかもしれない。


「帰りに布買っていくか」

「あ!そしたら俺、作ってやるよ! 布で巻くよりも良いヤツ!」

「え、マジで?」

「任せろ!」


 あの! アシュリーが! こんな女の子っぽいことを!

 イングとビアンカがニヤニヤとして、アシュリーは2人の視線に気づくと真っ赤になって俯いた。


 1日目は野宿だ。こうやって過ごすのも随分と久しぶりだった。俺は薪を集め、川の水を汲む。飯を食い終わってから、俺はアシュリーを川岸へと誘った。もう日はとっぷりと落ちている。


「さっき水汲みに行った時に見つけたんだ」


 繁みを掻き分けると、川一面に蛍が舞っていた。


「あー、蛍!」


 アシュリーが嬉しそうに笑う。俺達は並んで川の畔に腰を下ろした。風がひんやりと心地いい。見上げると一面の星空。天の川が見える。


 そう言えば、こっちの世界だと1か月の日にちが違うんだよな。お陰で日数的に確実に誕生日迎えては居るんだけどいつ過ぎたのかは判らない有様で、今が日本だと何月何日なのかもう判らないんだけど、多分今って6月か7月くらいなんじゃないか? 蛍って確かその辺だよな。俺の住んでた辺りにはもう蛍は居なかったから正確な事は判らないけど。

 満天の星空と舞う蛍に、ふと七夕の事を思い出した。星を写した様な川と空に広がる天の川。俺が星に詳しかったら織姫と彦星を見つけられたかもしれないんだけど。


「俺の世界にさぁ。七夕ってのがあるんだよね。あの白く見える所を天の川って言ってさ。空の川だって言われてたわけ。で、星の機織りのお姫様と牽牛って牛飼いの青年が恋をしてね。お互い仕事サボって毎日デートばっかしてたわけ。で、神様が怒っちゃってね。2人を川のこっちと向こうに引き離しちゃうんだ。でも可哀想だから年に1回だけ2人が会う事を許して、その日は2つの星がデートするのが見れるんだよ。その日を七夕っていうんだけど願い事をするとデートの記念に願い事叶えてくれるって言い伝えがあるんだ」

「…それは…自業自得っつーか馬鹿だな…。1年に1回とかお前んとこの神様心狭すぎじゃね?」


 夢も希望もムードも無いお言葉ありがとう。


「一応な? 一応ロマンチックなイベントではあるんだぜ?」

「ぇー。どの辺が?」

「わかんねーけど」


 俺は笑いながら空を指さす。


「けどさ、あんな沢山ある星の中で、たった2つの星が巡り合って恋して、1年に1回逢瀬でも逢えるって奇跡みたいじゃね? 俺も何億人っている世界から来てさ。イング達に会えてさ。アシュリーに巡り合えたの、これも奇跡だなって思うんだよ」

「あー、うん、そうだな」


 アシュリーも空を見上げる。

 もう見慣れた星空。それでも、圧倒される。俺の住んでた辺りじゃ、星はぱらぱらとほんの少し数える程度しか見えなかったけれど、此処は空を覆い尽くすほどの星。息を飲む程綺麗で、吸い込まれそうで、少し怖くなるくらいだ。


「此処だとあの白いのは道なんだ」

「へぇ…」

「星たちは道の向こうから来て、反対側へ降りていくんだよ」

「道の上歩いてなくね…?」


 つまるところ、神話の類はえてして穴だらけって事か。俺達は下らない事を言っては腹を抱えて笑った。何が可笑しいのか分からないのに妙にツボに入ってげらげら笑う。やっぱり少し情緒不安定なのかもしれない。


 ひとしきり笑い転げ、俺とアシュリーは肩を寄せ合い、手を握って星を眺めた。川のせせらぎの音と、ふわふわと舞う蛍と、落ちて来そうな程の星空。世界中で俺とアシュリー、2人だけみたいだ。愛しさが込み上げてくる。好きで好きでどうしようもない。こうして居ると、これからの討伐の事も、デュォフォルツェンの事も、全部忘れてしまう。全身で、五感の全てで、アシュリーの存在を感じ取っている感じだ。


「──来年も、また一緒にこうして星見ような」


 ぽつ、とアシュリーが呟く様に言う。デュォフォルツェンの慣例通りなら、俺はもうすぐこの世界から消えるんだろう。消えずにいられる方法の手掛かりは何もつかめていないままだ。それでも、来年もまた、こうして星を一緒に眺めたい。この世界から追い出されるなら、俺は牽牛みたいにしつこくなってやろう。諦めてなんてやるもんか。追い出されても追い出されても、戻って来てやろう。


「俺が牽牛だったとしたら、1年に1度だけでも、やっぱり絶対会いたいって思っただろうな」

「うん、俺も」


 アシュリーに視線を向けると、目が合った。綺麗な水色の眼は、闇に溶けて濃紺の影を落としているけど、蛍の小さな明りを受けてきらきらと綺麗だった。何も考えられなくなる。アシュリーの事しか見えなくなる。頬に触れると、少しひやりとして柔らかくて、自分の鼓動の音だけが煩さかった。長い睫毛が揺れて、小さく震えながら目を閉じたアシュリーに、吸い込まれるみたいに俺も顔を寄せる。心臓が口から出そうだ。ふわりと唇に感じる柔らかい感触。キスって凄い。こんなに、心が満たされるんだ。愛しくて破裂しそうになるくらい、気持ちも強まる事なんだ。俺は力いっぱいアシュリーを抱きしめる。

 きゅっと俺の背を握ったアシュリーの小さな手が、溜まらなく可愛くて愛おしい。


 舞う蛍が、瞬く星が、大丈夫だと祝福をしてくれている。そんな気が、した。 

ご閲覧・ブクマ有難うございます!七夕ですねー! というわけで今回は少し七夕にちなんだ話にしてみました。次回の更新は明日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ