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39.備えあれば憂いなし。

***前回のあらすじ***

俺とアシュリーはデュォフォルツェンの情報を集めて回った。集めた情報を纏めるうちに、俺は元の世界に戻るとこっちでの記憶を失うのではないかという仮説に辿り着いた。

 イングに日記を書きたい旨を伝えると、快く新品の手帳を分けてくれた。見た目は本っぽい。表紙は革製で背の所も革紐で閉じてあって、くるっと革紐で巻いて止めれるようになっている。見た目はかなりおしゃれだ。シンプルだけどかなり高そう。

 少し申し訳ない気もしたけれど、その分しっかり働いてギルドに貢献しよう。


 部屋に戻って手帳を開く。何から書くか。

 やっぱり、最初はこれだな。俺はページの一番最初に、いつか戻った時の俺に当ててメッセージを入れておく事にした。


 『日本へ戻った俺へ。

 この日記に書いた事は全部俺が実際に体験した事だ。

 覚えて無かろうが真実だ。俺はこっちの世界に大切な人が居る。絶対に戻らないといけない。

 

 スマホは充電しとけ。充電器持っとけよ。野球のバットで素振りを続けろ。毎日1キロは走っとけよ。心配いらない、俺はもう体力はついてる。余裕で走れるはずだから。

 俺がこっちの世界から持ち帰ったものがあったら、寝る時も肌身離さず持っておけ。赤い月が出てる日に、西高の裏の自然保護区になってる林に行け。中にちゃんと入れよ。』


紙の質は、けば立っていてかなり書きにくい。所々インクが滲んだり引っかかって小さく穴が空いたりしちゃったけれど、読むのに支障は無さそうだ。

 それからふと思い立って、デュォフォルツェンの情報を求める為に使った紙を1枚、拝借する事にした。幸いその紙は俺の部屋で張り紙作ってた事もあってまだ数枚残っている。

俺は日本に居る家族へ当てて手紙を書いた。これは日本にもしも戻ったら、もう一度こっちに戻る時に家族が心配しないように。いや、心配はするだろうけど何も言わずに消えるよりは良いだろう。


『親父。お袋。千佳へ。

 親父、お袋、育ててくれてありがとう。千佳、こんな兄貴でごめん。戻ったと思ったらまた消えるとか呆れていると思う。

 突然消えてごめんな。でも、俺はもうこっちには戻りません。けど、死ぬわけじゃないから心配しないでくれ。

 ちょっと、逢えないくらい遠くに行くだけだから。海外にでも婿に行ったと思ってくれると助かるよ。

 念の為警察とかに変な勘ぐりされても親父やお袋や千佳に迷惑掛けそうだから、何かあったらこれ見せてくれりゃ、俺が家族との間に何かあったって思われる事も無いんじゃないかな。

 俺は自分の意思で消えたんであって親や妹に何かされた訳じゃありません。

警察やマスコミ関係者、そこんとこ宜しく』


 手紙にしてはあんまりな文章な気もするけど、まぁいいか。ちょっと大げさだったかもしれないけど、念には念を、だ。証拠として、手紙に拇印を押して置く。ついでにサインも入れて置く。俺がこっちに戻ってもこれで平気だろう。多分。

 俺はそれを丁寧に畳んで手帳の末尾に挟み、日記に続きの一文を追加する。


『机の引き出しにこの手帳の一番最後のページに挟んである手紙を入れて置いて』


 明日にでもイングに頼んで封筒を貰って置こう。手紙は一応封筒に入れて置かないと記憶を無くした俺が読んだらビビりそうな気がする。自分に邪魔されるとかになったら洒落にならない。


 取りあえずこれで良いかな?何か思い出したら追記しよう。

 ページを捲ってから、俺はあの日シンに誘われて西高の裏の林に行った事、そこから異世界に迷い込んだ事、『ジルヴラヴィフ・ヴェント』のイング達に助けられた事、ホセに作って貰ったスリングの事、『ジルヴラヴィフ・ヴェント』の一員として依頼を受けながら過ごしている事、恋人のアシュリーと交わした約束の事、ビアンカとその恋人、『イヌイ ナオユキ』って人の事などなどなど、ざっくりと今まであった事を綴った。人を殺した事だとか、獣を捌いた事は書かなくても良いよな。それから、今日あった事を追記しておいた。此処から先は日記にしていけばいい。

 記憶が消えるかはその時にならないと分からないけれど、いざって時の備えは必要だろう。


 俺はジャージにベルトを付け、ナイフとスリング、スリングの弾を装備して、ギルド証は首から下げたままにして、アシュリーとお揃いの手袋をポケットへと突っ込んでからベッドにもぐりこむ。準備万端。ちょっとベルトに装着したナイフやスリングが邪魔だけど、その内慣れるんじゃないかな。もう少し邪魔にならない布製の鞄か何かに纏めて入れておく方が邪魔にならないかもしれない。

 明日にでもビアンカに相談してみるか。俺は眠気で寝落ちしそうになりながら、都合の良い時だけの神頼みをしておく。


 どうか、目が覚めてもギルドの俺の部屋でありますように──。


***


「ユウヤ、おっはよー!」


 翌朝。久しぶりにアシュリーの襲撃で目が覚めた。肘鉄は止めることにしたらしい。が、変わりにどかーっと腹にアタックされて俺はぐほぁっと間抜けな声を上げてしまう。

 ……こんな事されても可愛いと思うんだから末期だな。多分俺が消えてたらどうしようとか思っていたんじゃないんだろうか。俺が昨日遅くまでああだこうだやってた様に、アシュリーもアシュリーなりに眠れない夜過ごしたりしていたんだろうか。


 俺がそのままぎゅーっと抱きしめると、アシュリーは、ひゃぁぁと照れた様な声を上げてじたばたした。くそー。可愛いな!


「いっ…良いから! 起きろよ。渡したいものがあるんだって!」

「渡したいもの?」


 何だろう。俺は手を解くと、アシュリーは真っ赤になって身体を離し、少し気まずそうに頬を掻いて、ズィっと俺に拳を付きだした。何か握っているっぽい。俺は首を傾げながら手を差し出す。


 アシュリーは俺の手の中に小さなその拳をお手をする様に乗せて来る。ぽとんと手の中に何かが落ちた感触。何だろうと思ってみると、水色の柔らかい毛の端を革で包んで止めた、筆の先みたいな形のストラップみたいな飾り。


 え?これってアシュリーの髪じゃないか? 鮮やかな水色の毛なんて早々あるもんじゃないだろう。 良く見るとアシュリーの髪が少し短くなっていた。


「昨日部屋に戻ってから作ったんだけど…。こっちでは髪には魔除けの効果があるってんでこういう飾りを作るのは珍しくないんだ。出稼ぎなんかで離れて暮らす相手にこうして髪で魔除けの飾りを作って渡してさ。離れてても傍に居るとか、私を忘れないでって意味も込めるんだよ。昨日、言っただろ。なんか用意しとくって…」


 …いじらしい。ちょっと涙出そうだ。日本だと重くなるって考えそうだけど世界変わればだな。

 それにアシュリーの髪って少し猫ッ毛気味だから物凄くサラサラしてて柔らかい。触れているとアシュリーの髪を撫でてる気分で、きゅんと来る。壊したり汚したりするのは嫌だな。ベルトポーチみたいなのを作ってそれに入れておこうか。


「ありがとな、アシュリー。大事にする」


 俺はもう一度アシュリーの腕を掴み引き寄せ、抱きしめる。


「ユウヤってくっつくの好きだよな。甘えん坊かよ」


 真っ赤になりながら俺の背に手を回すアシュリーの髪に俺は頬を埋める。だよなー。俺も自分がこんなに甘ったれとは思わなかったわ。女の子苦手だったのはどこに行ったんだって感じで。アシュリー相手だと俺は随分大胆になれるらしい。


「それ言ったらアシュリーもだろ? お前普段こんな風に誰かに甘えたりしないじゃん」

「そりゃ相手がユウヤだからだろ」

「俺も相手がアシュリーだからじゃん」


 俺達は顔を見合わせて声を上げて笑った。


ご閲覧・ブクマ有難うございます!ここ最近遅くなってすみません;次の更新は明日を予定しています。

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