38.神隠しの生還後。
***前回のあらすじ***
翌朝、俺はイングとビアンカにデュォフォルツェンがいつか元の世界に戻ってしまうと知った事を伝えた。そこでビアンカから、彼女もまたデュォフォルツェンと別離した一人だと知らされた。
俺はアシュリーと一緒に、デュォフォルツェンを知る人を探し始めた。酒場などに張り紙を貼らせて貰い、手当たり次第に店に許可を貰って声を上げ、頭を下げて回った。乗合馬車の停留所や駅馬車の停留所、宿屋にも足を運んだ。
俺は歩く間ずっとアシュリーの手を握っていた。勿論、好きだからというのもあるんだけど、今はそれ以上にふとした瞬間にいきなり戻されたらと思うと怖かった。繋いでいれば離れずに済む様な気がして。時々確かめる様にぎゅっと俺の手を握るアシュリーも、きっと同じように思っているんだろうな。ビアンカの話を聞いて、尚更に。
「アシュリー、ごめんな」
「んー? 何で謝ってんの?」
「不安だろ?」
「ユウヤは帰らずに済むためにこうして歩き回ってるんだろ? お前の事なら俺の事でもあるんだし」
俺は、告白した事を詫びそうになってその言葉を飲みこんだ。
だって後悔なんて出来るわけが無い。アシュリーと離れるなんて嫌だ。その想いが俺を突き動かしている。まるで主人公みたいだろ? モブで、平凡な一番楽ちんなポジションで適当にいい加減に生きてきた俺が、こんな風に必死になれるなんてさ。言わなきゃ良かったなんて言えない。アシュリーの事を、後悔なんて出来ないし、それをごめんとは言えない。
「ん、そだな。変な事言った」
俺が笑うと、アシュリーはいつもイングがするみたいに、俺の背中をバンバンバンっと叩いて笑った。
最初は、知り合いの知り合い、だの、どこそこの村に来ていた旅人が、だの漠然とした情報が得られただけだったけれど、そういう人に食い下がり、命綱のロープを引く様に、1つ1つ手繰り寄せていくうちに、有力な情報が幾つか見つかった。
1か月で手に入った情報は全部で20件。少ない様だけど今みたいにネットが普及しているわけでもない場所でこの数は結構見つかった方だと思う。俺はアシュリーと一緒に手当たり次第に出向き、話を聞いて回った。
***
「えーと。やっぱり突然居なくなる、此処は共通だな…。後は夜か。パターンはビアンカの時と同じってのばっかだな」
俺とアシュリーはギルドに戻ると情報を纏めた。
共通していたのは、3名を除きやっぱり皆ある日突然居なくなったという事。皆荷物を置いたまま居なくなったらしい。それも、皆消えたのは夜。こっちに入り込むのも夜で消えるのも夜。期間は大体数日から3年位の間。日本人は俺とビアンカの恋人を入れて3人。なんか運命的な事の様に感じる。残りの一人も今から5年前に、こっちに来て3年目に消えてしまったらしい。今のところ帰らずに残ったヤツの情報は得られなかった。
で、残りの3名はというと、俺と同じようにこの世界に現在滞在中のデュォフォルツェン。一人は20代前半のボスニア人の男、もう一人は30代のギリシャ人の女性。残りの一人は俺の世界とは別の世界から来た人だった。ボスニア人の男性は俺と同じ日にこっちに来て、ギリシャ人の女性は1年目だそうだ。
けど、異世界って便利だな。ボスニアの彼は母国ではクロアチア語らしいけど、この世界の言葉で話してくれるから普通に会話が通じる。ギリシャ人の彼女も異世界から来たというヤツもそうだった。どっちも独特の訛りがあったけれど普通に通じる。多分彼らが聞く俺の言葉も訛ってる程度だろう。ちょっと不思議な感じだ。英語が判るとこういう感じなのかもしれない。
「戻った連中ってさ、こっちに戻らない、戻れない理由でもあるのかな?」
アシュリーが不安そうに眉を下げ、首を傾げる。中には夫婦になって子供まで居たヤツも居たらしい。俺なら意地でも戻りたいと思った筈だ。何か理由がある、と考える方が自然な気がする。
「うん。俺もそれが気になった。俺の世界ってさ、ネットってのが普及してるわけ。ネットっつーのは電波飛ばして遠くの人と話が出来たり文字のやり取りが出来たりするんだよ。俺の世界ではそれが当たり前みたいになってて、世界中のヤツとその電波使って一瞬でやり取りが出来るんだよね」
「…わりー、意味が全然わかんねーわ」
…そーね、俺も電波で何で声が届くのかとか説明できねぇもん。画像とか写真とかも電波で飛ばせるってそりゃそういうの知らない世界のヤツが聞けば俺の頭が電波にしか聞こえないだろうな。
「まぁ、判んなくても良いけど、兎に角一瞬で情報が飛ばせるワケ。俺が落ちて来た森からその電波飛ばすとギルドに居るやつに即俺見つけたぜとか報告出来る世界なんだよ。で、少なくとも世界中にデュォフォルツェンは居たわけだよな? カザンスの街周辺だけでも20人も居たんだしさ。と、俺の世界に戻ったヤツは当然じーさんばーさんでもない限り、ネット使えるヤツが殆どだと思うんだよ。なのに何でそういう話が流れて来ないんだ? それって凄い不自然なんだよ」
「そ…そーなんだ?」
あーくそ、スマホが無事でここに電波届くならすぐにでも見せてやりたいのに。ドン引かれると俺が危ないヤツみたいじゃないか。もういいや、やけくそだ。通じなくても語ってしまえ。
「少なくとも、フェイスブックやツイッターで拡散されてても可笑しくないと思うんだよ。一人二人じゃない。何十人もこの世界の記憶があるヤツが居れば──」
……ん? 記憶? 待てよ?
「…大丈夫か?ユウヤ」
突然黙った俺にアシュリーが恐々俺を覗きこんでくる。突然意味判らん事言い出して困惑してるんだろうけど、俺は至って正気だ。
「なぁ、アシュリー。もしも、だよ? 向こうに戻った時記憶を失っていたとしたら?」
「…ぁ。 …そっか。こっちでの事を忘れてるなら、戻って来なくても不思議じゃないし、ユウヤのとこの電波?でも何も言われてなくても不思議じゃないって事?」
「ああ」
俺は頷いてから記憶をたどる。思い出せ。シンは何て言ってたっけ? 確か何年も経ってから戻ってきたヤツは、1時間くらい彷徨って帰ってきたと言ってたんだよな。それがもし、本当の話で、その間の記憶を無くしていただけだとしたら? 同じ歳、同じ格好ってのは判らないけど、噂を持ってきたのはシンだし色々尾ひれ背びれついていても不思議じゃない。もし記憶を無くしてるのだとしたら、情報が流れないのは不思議じゃない。
「神隠しだとか、突然の失踪とか、そういう話は昔からあったんだ。突然戻ってきた人の記憶がない、こういう話も結構聞く気がする。夜で寝る時なら、剣とかは身に着けて居ないだろうし、俺みたいに元の世界の服をパジャマ代わりにしていたら戻った時元の服のまま戻ることになるかも」
スーツとかでこっちに来てれば流石にそれパジャマにはしないだろうけど、Tシャツに短パンだったりジャージだったりなら、十分有りえそう。
「なら、寝る時に武器とかも全部装備したまま寝てみるとか…。そうすれば忘れたとしても、何かおかしいって気づくんじゃないかな。日記とかあればもっと情報を残せるかも?」
アシュリーが俺の考えていた事をそのまま口にした。
「他にもまだ情報が得られるかもしれないし、もう少し聞き込み続けてみようぜ。俺も寝る時は全装備で寝る様にするわ。日記も付けてポケットに突っ込んでおく」
「良いな、それ。あ、俺も忘れられない様になんか用意しとく」
「ならいっそアシュリー抱っこして寝れば──」
アシュリーごと連れて帰れたりしてな。 …っていう前に俺はアシュリーに拳固で殴られた。
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