表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/60

37.ビアンカの過去。

***前回のあらすじ***

アシュリーに誘われて俺は屋根の上でアシュリーからデュォフォルツェンが神の与えた試練だと聞いた。なら、乗り越えて見せる。そうして神様にざまぁって言ってやる、俺はそう心に誓った。

 アシュリーと別れてから、俺は部屋で夜遅くまで、じっくりと考えた。青天の霹靂とはこういうのを言うんだろうな。何からすればいいのかもわからない。俺に出来る事は、何があるだろう。


 そう言えば、この世界は外国人レベルで人が落ちて来るんだよな? という事は、このギルドでは俺が初デュォフォルツェンでも、他にもデュォフォルツェンと関わった人が居るんじゃないか?


 そういう人から何か聞けないかな。それに俺以外のデュォフォルツェンだとか、ひょっとしたら戻ってきたヤツだとか、何十年もこの世界に居る人とかも居るかもしれない。


 探し物とか人探しなら俺も何度もやっているし、いけそうな気がする。


***


 翌朝、俺は薪割を終えてから、イングとビアンカを呼び止めて、話をすることにした。デュォフォルツェンが、いつか元の世界に戻ってしまう事を知った事、俺はこの世界に残りたい事、仮に戻ったとしてもこの世界に戻って来たい事を伝えた。


「俺は余所者かもしれないけど、本当にこのギルドが好きなんだ。お願いします。俺をずっとここにおいてください」


 俺は深く頭を下げる。イングとビアンカが顔を見合わせた。


「ユウヤ。俺達にとってお前は最初からずっと仲間だ。今までもそのつもりだったんだけどな? お前の部屋もお前以外に使わせるつもりは無い」

「イング…」


 イングの言葉に泣きそうになる。アシュリーが俺の手をテーブルの下でぎゅっと握ってくれた。胸の中が暖かくなる。気持ちがすっと楽になる。


「俺、探してみようと思うんだ。こっちに落ちて来た他のデュォフォルツェンを。デュォフォルツェンを知る人を」

「俺も手伝う」

「勿論俺達も手伝うよ」


 俺の言葉に即アシュリーが反応する。イングとビアンカも頷いてくれた。


「あのねぇ、ユウヤ。これはイングとゴッドしか知らない事なんだけどね。あたしも、むかぁし、デュォフォルツェンに逢ったことがあるんだよ」


 ふんわりと穏やかな笑みを浮かべ、ビアンカがそう切り出した。俺は息が止まるほど驚いた。アシュリーも目を丸くしている。ビアンカは懐かしむ様に、話して聞かせてくれる。


 今から20年以上前の話。ビアンカの居た村に、一人の青年がある日突然現れたんだそうだ。言葉の通じない彼は、夜も遅い時間にビアンカの家の戸を叩いた。当時両親を失い、一人で暮らしていたビアンカは、そのまま放り出すわけにも行かずにその青年を家へと招き入れ、教会でシスターとして働きながら彼の世話をしたのだそうだ。

 言葉を教え、村で育てていた家畜の世話を教え、やがて二人は恋仲になった。


 けれど、ある日突然、彼は消えてしまった。いつもの様にお休みを言って別々の部屋へ戻り、朝起きて来ない彼を呼びに行くと、そこに彼の姿はもう無かった。荷物も残ったまま、まるで彼だけが幻だったかのように。

 ビアンカは必死に彼の行方を捜した。夜の間に何かあったのではないか。そんな僅かな期待も、1年、2年と過ぎていくうちに、彼もまた元の世界に帰ったのだと、静かに思える様になったのだとか。


「それでもねぇ、もしかしたらね。いつか彼が帰って来るんじゃないかってねぇ、思っちゃうんだよ。だからあたしはこのギルドに来たんだ。此処であっちこっち行ってたら、いつか彼に逢えるんじゃないかってね。探して探して、気づいたらこんなおばちゃんになっちゃったてたんだけどさ。あんたが此処に残る為にすることは、あたしとあの人をもう一度繋いでくれるかもしれないね」


  …そうか。ビアンカの大事な人は、帰ってしまった人なのか。だから、ビアンカはずっと独身だったんだ。今でもその人の事を想って。

 あははっと軽やかに笑うビアンカに、俺は笑う事は出来なかった。あの日俺を最初に見つけたのはビアンカだったらしい。きっと俺をその人と間違えたんだろうな。がっかりしただろうに、俺にずっと親身になってくれてたのか。


 いつも明るくてほっこり笑ってるビアンカに、そんな過去があったなんて。でも、恋人のビアンカをここに残して、その人は今どうしているんだろう。ビアンカと同じように彼も戻る方法を探してるんだろうか。何十年も? それ程に難しい事なんだろうか。不安が込み上げて来たけれど、俺よりもアシュリーの気持ちを想うと胸が詰まった。アシュリーは黙って話に耳を傾けている。繋いだ手が、少し震えていると思うのは、多分気のせいじゃない。そこまで想ってくれるのが嬉しいって気持ちと、不安な気持ちにさせて申し訳なく思う気持ちが混ざり合う。

 ラルフが何故ユウヤなんだって言った意味が良く分かる。アシュリーを想う気持ちも本当だろうけど、アシュリーがビアンカみたいになるのを憂いていたんじゃないかな。


「その人、名前は…?」

「ナオ。イヌイ・ナオユキ」


 いぬい なおゆき! 日本人だ!


「俺の国の人だ…! ビアンカ、もし俺が元の世界に帰されたら、その人を探すよ。それで一緒にこっちに連れて帰って来るよ!」

「あの人が幸せなら、あたしはそれでいいんだからね?」


 ビアンカは、それでもふんわり、嬉しそうに笑ってくれた。

ご閲覧・ブクマ・ご感想有難うございます!次の更新は明日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ