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35.ゆびきりげんまん。

***前回のあらすじ***

帰り際、ラルフは約束通りアシュリーに今までの事を詫びた。でも、エキサイトした二人の会話から、異世界転移者はいつか元の世界に帰されるのだと聞かされてしまった。混乱した俺はその場から逃げ出してしまった。

 頭の中がぐちゃぐちゃしたまま、気づけば俺はギルドまで戻ってきていた。そのまま中には入りたくない。今は誰かに逢いたくない。ふと脳裏に、木の枝の上で黄昏ていたアシュリーの姿が浮かんだ。

 俺はあの日の木の下へと向かった。俺が引っ掛けたロープはまだそのままだ。俺はロープを使って木を登った。何となく、アシュリーがあの枝の上に居た気持ちが今なら判る気がする。


 木の上から見る景色は、今日も夕焼けだ。

 俺は枝の上で膝を抱える。どんな顔をして皆に会えば良いのか、判らない。こういうの、何度目だっけ。俺はちっとも進歩していない。落ち込んで逃げ出して、格好悪いままだ。


 どうすれば良い? いや、どうにもならないじゃないか。俺の意思を無視して、勝手に連れて来られて、勝手に帰されて。何なんだよ。こっちに来たのは俺が迂闊だったから仕方がないとしても、勝手に帰されるって何なんだよ。迷う事も出来ないってか? 俺の意思は関係ないってか。


 判ってるよ。カミサマってのは、理不尽なものなんだ。事故るのも病気になるのも、神様の理不尽だもんな。本人が嫌だって言ってもお構いなしだもんな。同じようなもんなんだろう。でも、それなら知りたくなかった。


 ……ああ、そうか。だから、なのか? 皆もアシュリーも俺に何も言わなかったのは。聞いていたら、俺はあんな風に一生懸命になれただろうか。皆と打ち解けようと出来ただろうか。束の間だと判っていたから、その間だけでも一緒に楽しめる様にってしてくれたのかもしれない。いきなり追い返されるなら何も知らない方が良い。その方が卑屈にならずに済む。だけど、何も知らないで、突然帰らされるなんて、そんなの嫌だ。後悔するに決まってる。


 俺は沈んでいく夕日をじっと見つめる。落ち込んでいるだけじゃ、意味が無い。皆を責めたところでどうにもなりはしないんだ。好意で優しくしてくれたのくらいは判っている。いつ帰えされるか判らないんだ。それなら、俺は此処でどう過ごす? 神様の言いなりになるだけじゃなく。後悔をしない為に。


 此処でやりたいと思った事、何があった? いつ戻されるかわからないなら、1分、1秒。後悔の無いに、過ごすしかないんだ。そう思って気が付いた。ああ、馬鹿だな。俺は。普通に生きていても、同じ事じゃないか。

 俺がこの世界に迷い込んだ日、目の前に現れたあの魔物に殺されていたかもしれない。そうしたら文句もクソも無く突然俺の人生は終わっていたはずだ。ある日突然日常が変わるなんて、俺は良く知っていた筈じゃないか。

 諦める様な自分の考えに、そうじゃない、と頭を振る。


 まるで、決まった事みたいじゃないか。まだ俺は此処に居る。アシュリーだってラルフだって、俺以外のデュォフォルツェンを知らないはずだ。あくまでもそう言われているっていうだけじゃないか。こんなに動揺する理由は、もう判ってる。アシュリーの事が、あるからだ。俺は此処に居たい。このギルドに、アシュリーの傍に、居たい。なら、考えるのは諦める事じゃない。傍に居たいなら、どうすれば良い?


「──ユウヤ」


 静かな声が近くで聞こえた。声のした方を振り返ると、アシュリーが俺の居た枝の上に移ってきた。俺は思わず小さく笑ってしまう。


「あの時と逆だな」


 一瞬きょとんとした顔のアシュリーは、直ぐにふっと笑った。


「そーだな」


 アシュリーは俺の隣に腰かけた。


「さっきは逃げ出して悪かったな」

「ん、俺も黙っててごめん」

「…風、気持ちいーな」

「うん」


 ゆっくり、夕日が沈んでいく。何度目だっけ。こうしてアシュリーと夕日を見るの。


「アシュリーは、デュォフォルツェンの知り合いが居たの?」

「……え? いや、ユウヤが初めてだよ」

「なら、アシュリーが直接居なくなったデュォフォルツェンと知り合いだったわけじゃないんだな」

「そう、だけど」

「なら、俺が消えるって確証があるわけじゃねーんだな。…なら、俺は帰らない」

「え、でも、デュォフォルツェンは──」

「俺が帰らないつってんだから帰らない」


 俺は、真っすぐにアシュリーを見つめた。アシュリーの瞳に、俺が映る。俺は諦めない。此処に残る。でも、後悔もしない様にする。


「アシュリーの、傍に居たいんだ」

「──!」


 アシュリーの頬が、赤く染まる。──これ、期待しても良いのかな。これで俺の独りよがりだったら相当みっともないけれど。


「──俺、アシュリーが好きなんだ。だから、俺は帰らない」

「──……」


 アシュリーの瞳に、涙が浮かぶ。頬を染め、両手で口を押える仕草はしっかり女の子だった。


「例えカミサマに帰されても、俺は意地でも此処に帰ってくる。約束する」


 俺はアシュリーの髪に手を伸ばす。触れるとさらりと心地がいい。ふわ、とアシュリーの身体が揺れて、そのまま俺の腕の中にぽすんと飛び込んだ。ふわりと良い香りが鼻孔を擽る。女の子の身体は見た目以上に柔らかくて小さくて、力を込めたら壊れそうだ。堪らない気分になる。息苦しい。胸が苦しい。愛おしくて、堪らなくなる。俺はアシュリーを抱き止める。アシュリーの腕が俺の背に回された。


「約束、だからな」

「──ああ。約束だ」


 俺はアシュリーの身体を少し離して、小指を立てて見せる。

 アシュリーがきょとんと首を傾げた。


「俺の世界の約束の誓いみたいなもん。小指絡めて?」

「こう…?」

「ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーますっ。ゆびきった!」


 俺はお馴染みの歌を歌って絡めた小指を解く。アシュリーが不思議そうに自分の小指に視線を落としている。


「今のどういう意味?」


 ああ、そうか。日本語。えーと。…いや、此処でそのまま伝えるとまた曲解されそうな気がする。


「約束を破ったら、そうだなー…。星でも取って来てやるよ」

「は?」

「流石に星は取れないだろ? だから、絶対破らない、破れないって意味」


 アシュリーは自分の小指を撫でて、嬉しそうに笑って頷いた。

いつもご閲覧有難うございます! 次回の更新は明日になります。

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