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34.神様の悪戯だからって笑えるわけが無い。

***前回のあらすじ***

祭りのテントで俺は良い感じのアーチャー用のグローブを見つけた。これならアシュリーも喜ぶかもと思った俺は、揃いでグローブを購入する。アシュリーにプレゼントすると、物凄く喜んでくれた。

「アシュリー、ちょっと話があるんだ」


 たっぷりと祭りを堪能し、来れなかった連中への土産を抱え、ギルドへの帰路に着く。帰り際、唐突にラルフがアシュリーを呼び止めた。俺達は足を止める。

 アシュリーが困惑気味に俺をちらっと見上げて来た。気になるけど、これ俺行っても良いのかな。不味いよな、やっぱり。


「……何もしない。話がしたいだけだ。ユウヤも一緒で良いから」

「え?良いの?」


 アシュリーの表情に気づいたのか、半ば睨む様にラルフは頷いて見せた。お邪魔虫感が半端ないけど、俺も物凄く気になっているのは確かだ。俺はイングとビアンカに先に戻ってる様に伝えて、アシュリーと一緒にラルフの後に付いていく。あたりは夕日に金色に染まっていた。祭りの余韻で、街はまだざわついている。

 喧騒から離れた川のほとりで、ラルフはようやく足を止めた。アシュリーが俺をちらっと見上げて来る。俺がアシュリーに頷いて見せると、アシュリーはラルフの傍へと近づいて行った。俺は少し下がっておく。


「何だよ。話っ──」

「ごめんな!」


 アシュリーの言葉を遮る様にラルフが振り返りざま、アシュリーにバっと頭を下げた。アシュリーは驚いて目を丸くしている。


「なんだよ突然…」

「ガキの頃から、酷い事いっぱい言って悪かった! アシュリーの気を引きたくて、言い訳にもならないけど! ずっと謝らなきゃって、思ってて…!」


 あー。やっぱ俺コイツ嫌いじゃないわ。やった事もアシュリーの傷が消えるわけでもないから、俺がこんな事思うのは筋違いかもしれないけど。こいつもずっと、後悔していたのかもしれない。俺も同行させてくれたのは、ひょっとしたら、ほんの少し俺を頼ってくれたんじゃないかな。俺が居る事で自分の逃げ道を塞ぐために。


「昔の事だし…。もういいよ」

「本当にごめん…! けど、アシュリーが好きだっていうのも本当なんだ! 嫌がらせをしたいわけでもからかったわけでも無い、俺がお前を好きだって判らせたかった! 好きだから、アイツに取られたくなかったんだ!」


 そこで俺の名前出すか──っ!?

 ビシーっと俺を指さして人が折角褒めてやってたのにどさくさに紛れてダシにしやがった。

 アシュリーが真っ赤になって俺を見た。俺の顔もめっちゃ熱い。見なくてもすげー勢いで自分が赤面してるのが判る。


「なっ! なんで此処でユウヤなんだよ?!」


 アシュリーがテンパった声でラルフに怒鳴り返す。

 あああああ、どうするんだよこれ。野次馬集まってきたじゃないか。逃げたい。


「アシュリーもユウヤが好きなんじゃないのか?! でも、何でコイツなんだよ? コイツはデュォフォルツェンなんだろ?!」

「てめー何言いだすんだ!」


 口を挟むに挟めず、完璧に周りが見えなくなってるアシュリーとラルフを止めることも出来ず、しかも逃げるに逃げられないこの状況。野次馬が興味芯々で遠巻きに見てるし、かと言って部外者の様で部外者じゃない俺。取りあえずペコペコと周りに頭を下げておく。何なのこの公開処刑。


「見ていれば判る! だけどユウヤはいつか元の世界に戻ってしまうんだぞ!? 何でよりにもよってコイツなんだ!」

「んな事言われなくても判ってるって!」


 ……は? 今なんかとんでもない言葉が聞こえた気が。

 え。 ちょっと待って。 今の言い方だと元の世界に戻れるって事? なんか確定事項みたいな言い方じゃなかったか? どういうことだよ。普通異世界に転移したら帰れないもんなんじゃないの? 普通に帰れちゃうわけ? そんな馬鹿な。いや、物語とは違うとは判っていたけどこれはちょっと想定外過ぎる。


「それどういう事?」


 思わず声を掛けてしまった。俺が居た事を今思い出したっていう風にしたようにラルフとアシュリーが振り返る。


「俺の世界じゃ異世界に行って帰ってきたなんてヤツの話、聞いたことないぞ? そんな奴が居たらあっという間に拡散されるはずだろ? 俺の世界の情報ネットワークはこっちみたいに鳥だの馬車だのじゃなく電波なんだぞ? 5分あれば世界中に拡散出来たりもするんだぜ?」


 そんな馬鹿な。顔が引きつるのを感じる。笑い飛ばしたいのに上手く笑えない。アシュリーもラルフも気まずそうな顔をしている。やめてくれよ。マジになられると本当に俺が向こうに帰る事になるみたいじゃないか。


「さぁ……。戻った後の事は俺達も知らないんだ。ただ、デュォフォルツェンはある日突然やって来て、ある日突然居なくなる。……判ってんのは、赤い満月の日にデュォフォルツェンは落ちて来て、ある日突然消える。戻ってきたやつの話は聞いたことがないから、元の世界に戻ったのか別の場所に落ちていくのかは判らないけど、元の世界に戻るって言われてる。この世界じゃ常識みたいなもんなんだ」


 赤い、満月? 俺は記憶をたどる。この世界に落ちた日の事を。確かにあの日も赤い月が浮かんでいた。校舎が墓標みたいに見えた。でも、急に帰される? そんな話、聞いてない。冗談じゃない。そりゃ、家族にも会いたいよ。友達にも会いたいよ。でも、戻りたくないわけじゃないけど、俺は此処も好きなんだ。帰ったら、もうアシュリーに会えないって事か? ギルドの皆にも? またただのモブに戻ってあの世界でだらだら生きろってか? この世界を知ったっていうのに? 俺はさっきまで赤面していたのが嘘の様に、サァっと血の気が引く。目の前が真っ暗になった気がした。


「そんなの、俺聞いてないぞ…?」

「聞いてどうするんだよ」


 アシュリーが、低い声でぼそっと言った。


 それは、そうだけど。皆、知ってたのか? 俺がいつかいなくなるって。だからすんなり俺を受け入れてくれたのか? 外国から来た客人程度の認識だったって事か? 俺はずっとこの世界で生きていくと思っていたのに。もう仲間になったってそう思っていたのに。何だよ。それ。


「なんだよ、それ……。どうするってそんなの判るわけねぇだろ!? 判んないけど仲間だったんじゃないのかよ?! 知ってたのに何で黙ってたんだよ!? 俺はずっと此処でお前の相棒でやってくってそう思って──!」


 あ、まずい。不覚にも涙が込み上げて来た。


「ユウヤっ!」


 それ以上、話を続ける事は出来なかった。俺は踵を返すと野次馬を押しのけて駆けだした。ただ、これ以上聞きたくなかった。考えたくなかった。俺を呼ぶ留めようとするアシュリーの声を振り払う様に、俺はその場から逃げ出した。

いつもご閲覧有難うございます! 次回の更新は明日になります。

キャラページのリンクバナーを作りました。各ページの下に表示されています。

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