32.カーニバル!
***前回のあらすじ***
俺は思い切ってラルフと話してみることにした。ラルフに言われ、俺はやっと自分の気持ちに気づいた。伝えたかったことを伝えたが、アシュリーに会話を聞かれてしまっていた。
これどうすりゃいいんだろう。アシュリーは顔を真っ赤にしたまま俯いてるし。気まずい。凄く気まずい。
「えーと……。薪割すっか」
「う…うん」
アシュリーがコクコクと頷く。俺は内心心臓バックバクのまま、アシュリーの方へと向かう。アシュリーは俺が隣に並ぶと一緒に歩き出した。
「いつもなら薪割してる時間なのに音聞こえて来ないし、どうしたのかなと思って。盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど」
「あー、うん。ちょっとラルフと話がしたくて」
「何話してたんだ?」
「聞いてたんじゃないの?」
「途中から、だし」
途中ってどこだよ。と、聞きたい。凄く聞きたい。聞きたいけれど聞くのも怖いし恥ずかしい。あーもう良いや!
「途中ってどこから?」
「ラルフが俺を傷つけたまま謝んないのが嫌だつってるとこ…。その、ありがとな、嬉しい」
…あぶねー。俺が惚れてるつったとこは聞いてなかったのか? ほんとか? 俺信じちゃうぞ?
「あー、うん。勝手に悪かったな。…お前明日どうすんの?」
「あー。ラルフと二人は困るけど祭りは行きたいんだよなー」
「俺も行きたい。こっちの祭りって初めてだ。どんなの?」
「屋台とかいっぱいでて、人も凄いいっぱいで皆で輪になって踊ったりして楽しいんだ」
屋台に沢山の人。輪になって踊る、で頭に浮かんだのは盆踊り。流石にそれは無いよな。カーニバルっぽいんだろうな、多分。カーニバルってのも漠然としたイメージしかないんだけど。…あ。閃いた。
「なぁ。それなら皆も誘って皆で行けば良くね? ラルフも一緒にさ」
「あ、良いかも! 楽しそうだな!」
「じゃ、とっとと薪割終わらせてイング達に声掛けに行こうぜ!」
「うん!」
俺はアシュリーと一緒に駆けだした。
***
翌朝。偉く気合いの入った服でやってきたラルフは俺達を見るなりあからさまにがっくりと肩を落とした。アシュリーが良い笑顔で遠回しにデートはしないと言い切った。
「だからな、皆で行こ!」
「って事になったから宜しくなー」
「俺は! アシュリーと! 二人で! 行きたいんだ!」
「俺は皆と一緒に行きたいんだよ。嫌なら来なくてもいいんだぜ。いこ、ユウヤ」
「やー、楽しみだなー!」
地団太を踏むラルフを放置し、俺達は祭りが行われている大通りに向かって歩き出す。慌ててラルフが付いて来た。ちゃっかりとアシュリーを挟んだ俺の反対側へ並んで歩く。
「ユウヤのとこも祭りってあったんだろ?どんな感じ?」
「俺の所も神様に感謝だったりで行うのはこっちと同じだけど、俺のトコだと祭りと言えば浴衣!」
「ユカタ?」
「俺のとこの民族衣装だよ。丁度このくらいの時期にやる祭りだと、花火と盆踊りだな」
「ハナビ?ボン…?」
「花火ってのは、火薬を紙で巻いた弾に火を付けて空に打ち上げるんだ。すげぇ綺麗だぞ。盆踊りってのは死者の魂を迎える祭りだな」
「……それは砲撃じゃないのか。綺麗とか言ってる場合か、死ぬぞ」
イングが杞憂する様に眉を寄せ、真顔で突っ込んできた。
「いや、違ってないけど違う! 空でどーんっとこう、爆発させてだな、色とりどりの火花がだな」
「危な過ぎんだろ! 綺麗の前に山火事起きるわ! お前の世界何考えてるんだ!?」
意味判んねぇっと凄い顔でアシュリーにも見られた。ラルフもあきれ顔になってる。そっかー…。こっちには無いのか、花火。俺の知識と語彙力の無さのお陰で1㎜も伝わって無い。いや、マジなんだよ? 夏の風物詩だってのにこうも全否定されるとは。めちゃくちゃ綺麗なのに。
「死者の魂を迎える…? 死者を呼び寄せるってそりゃネクロマンサーの召喚の儀式とかじゃないんだろうね…?」
「違う! 死んだ魂が帰ってくるっていう」
「…死霊?」
「ちが──う!」
見れば絶対に感動すると思うんだけどなぁ。何で花火も盆踊りもこうも曲解されてしまうのか。血マミレの闇祭りみたいな事になってしまった。ご先祖様ごめんなさい。
大通りに近づくにつれ、少しずつ賑やかな音楽が聞こえて来た。裏通りから表通りに通じる道を曲がった途端、目に飛び込んでくるのは鮮やかな色彩。すっっげええええ!
大通りの向かい合う家同士の窓から窓に色とりどりの薄い布が渡されて、花びらや紙吹雪が撒かれている。子供たちのはしゃぐ声が聞こえて来る。うん、やっぱりカーニバルってイメージだ。
雰囲気は某ランドのパレードみたい。ねぶたの西洋版みたいな張り子のデカいのが車輪を付けられ通りを引かれて行くのが見えた。色も鮮やかで丁度横切って行ったのは真っ赤なドラゴンだ。続くのは巨大な帆船。これも張り子。こっちの連中って凝り性なのかも。クオリティがハンパ無い。
「ユウヤ、行こうぜ!」
「ああ!」
アシュリーが何時もの様に俺の腕を掴んで駆け出す。俺も一緒に駆けだした。慌てたようにラルフも走って付いて来る。
「アシュリー、腕! そいつの腕を掴むなぁー!」
「ざまぁー。俺とアシュリーはいつもこんなだぜー、はっはー!」
びろびろびろっと俺は肩越しに振り返りラルフに向かって舌をびろびろして見せる。
「貴様ぁ! この落下物がぁ! アシュリーから離れろー!」
「やーだね!」
俺とラルフのやり取りにアシュリーが可笑しそうに笑う。イングとビアンカが微笑まし気に付いて来る。紙吹雪が舞う。明るく陽気な曲が響き渡る。
通りに出ると、アシュリーに案内され、俺は護符を配るテントへと向かった。祭りの日には真っ先に至る所で配られているこの魔法陣っぽい図案の描かれた5cm四方くらいの布を受け取り、1日大事に持って置いて、夜眠る前にその布を燃やすんだそうだ。そうすると願いが叶うって伝えられているらしい。絶対になくしては駄目なんだそう。取っておくのも駄目らしい。こういうしきたりみたいなのってどこにでもあるんだな。
イングが果実水を買ってくれた。良く冷えていて美味い。小さなテントが幾つも並び、小物を売って居たり剣なんかの武具が売られて居たり、遠くの街からも沢山の商売人がやって来てテントを出しているんだそうだ。珍しい異国のものなんかも手に入るらしい。
俺達はアシュリーの取り合いをするのも忘れて、気づいたら俺とアシュリーとラルフ3人で、あっちの店こっちの店と見て回り、祭りを満喫していた。
「ユウヤ、あそこ!」
アシュリーが指さした先、中央広場では皆が輪になり踊っている。ちょっと激しいフォークダンスみたいだ。小さな輪が幾つも出来ていて、スキップをする様にステップを踏み、男女がくるくると回りながら次々に入れ替わる様にして踊っていく。長いドレスとワンピースの中間みたいな女性達の服の裾が軽やかに翻る。綺麗に手を叩く音が揃うとフォークダンスっぽいのに格好いい。
俺達も踊りの輪に混ざる。うわ、これ結構難しいぞ。でも凄い楽しい。動き自体は単調だから直ぐに覚えた。手を打ち慣らし、知らない人と腕を組み、八の字を描く様に次々に相手が入れ替わっていく。イングやビアンカも踊りの輪に混ざっていた。流れる曲はゲームの賑やかな街の音楽みたいな曲で、これだけでもテンションが上がってしまう。
曲の終わり際にアシュリーの姿を見つけた。俺は笑いながらアシュリーに手を伸ばす。アシュリーも笑いながら俺に手を伸ばした。何だか、映画のワンシーンみたいだ。丁度手を取り合って、曲がフィニッシュ!みたいな。
俺とアシュリーの手が触れあう瞬間。
ラルフの手が横から伸びてアシュリーの手を取り引き寄せて、俺はラルフと踊っていた知らないおばちゃんの手を握る格好フィニッシュになってしまった。
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