31.悪いことをしたら謝るのが筋ってもんだと思う。
***前回のあらすじ***
翌朝もラルフはやってきた。邪魔をしようとした俺だがラルフが本気でアシュリーに惚れてると気づいてしまい咄嗟にその場から逃げ出してしまった。
翌朝、俺はいつもよりも早く薪割の場所に向かった。少し、ラルフと話をしようと思ったんだ。正直、俺は色々混乱気味だ。判らないのはラルフが何を考えているかだけじゃなく、俺は俺の気持ちも、良く分からずにいる。
ラルフに逢って何を話したいのかも、良く分からない。ただ、逢って話をすれば、自分がどうしたいのかもわかるような気がした。俺は格好悪いままだ。
ガラガラと馬車の音が聞こえてくる。俺は入口へと向かった。アシュリーもそろそろ出てくる頃だから、その前にラルフを捕まえたい。
俺の顔を見るなり、ラルフが物凄い嫌そうな顔をする。だろうな。俺はラルフにとっては邪魔でむかつくヤツだろうから。俺はそのままラルフに駆け寄ると、ラルフの腕を掴んだ。
「何するんだ! 暴力反対だぞ!」
「暴力なんて振るうかボケ! ちょっと話がしたいんだ。付き合えよ」
「は?! 意味が分からんぞ!? 俺はアシュリーに逢いにだな……って話を聞け!?」
ラルフが何かごちゃごちゃ言ってるけど俺はスルーを決め込んだ。そのまま腕を握ったままずんずん歩く。人気の無い場所、と思った結果連れて行ったのはギルドの裏。この発想力の乏しさよ。学校の校舎裏に呼び出す系になってしまったが、他に良い場所も浮かばない。俺はギルドの裏まで行けばラルフの腕を掴んだ手を解いた。
「全く……。何なんだお前は。俺は話す事なんて何もないぞ」
「お前さぁ。何でアシュリーが嫌がる事すんの?」
ぶつくさ言うのを再度スルーする。そのまま直球で疑問をぶつけた。
「……は?」
「ガキの頃からアシュリーを虐めてたんだろ? 孤児の事を馬鹿にしたり、髪の事を馬鹿にしたり。今でもアシュリーが困るのを楽しんでないか?」
「……」
ラルフは気まずそうにそっぽを向いた。
「……アシュリー、可愛いもんな。おちょくってふて腐れたりするとことか、可愛いよな」
ラルフが怪訝そうに俺を見る。
「だから、まぁ、からかいたくなる気持ちは判んなくもないよ? けどさ、アイツ、多分凄い傷ついてたと思うよ? お前、アシュリーにちゃんとその辺謝ったのか?」
「……」
あー。この反応は謝って無いな。
「もしさ、お前両親死んでみなしごになってさ。それを誰かにからかわれたらお前ならソイツを──」
「煩い!!そんな事判ってる! お前なんぞに言われなくても判ってる!」
俺の言葉をラルフが遮る。ラルフは苦しそうに顔を歪め、俺を睨んできた。
「だけど、今更だろうが?! どんな顔して謝れって言うんだ!」
「謝るのは出来ないけどナンパは出来るってか? ドン引かれてんじゃねぇか」
「……嫌がらせのつもりじゃない! 似合うと、思ったんだ。花もドレスも似合うって」
「全部付き返されてるんだからいい加減察しろよ。まぁ、俺はお前がアイツに嫌われて振られるのはもろ手上げて歓迎すっけど」
「……何なんだお前はこの間から! 大体お前はアシュリーの何なんだ?!」
何。何、か……。今度は俺が考え込む番だ。
「うーん……。相棒…?」
「ただの仕事の仲間だと言うならごちゃごちゃ口を出して来るな! それとも何か? お前もアシュリーに惚れてるとでもいうのか?! 違うんだろう? だったら俺の邪魔をするな!」
「俺は──」
惚れてる、の言葉に、ドキリとした。言われた瞬間、脳内を占める様にアシュリーの顔が浮かんだ。かぁ、と顔が熱くなる。ぎゅっと胸が締め付けられる様に苦しくなる。此処最近、ずっとこんな感覚が続いてばっかりだ。
答えなんて、とっくに出ていたのかもしれない。俺が初めての事で混乱していただけで。びっくりして、気づかないふりをしていただけで。俺は。俺は……。
「惚れてるよ」
するっと、自然にその言葉が口から出た。ああ、そうだよ。俺はアシュリーの事が好きなんだ。いつからか判らないけど、男とか女とか関係なく、俺にとってアシュリーはずっと特別だった。女の子だって判って、今までと違う感覚で、何度もアイツを見てドキっとしたし、可愛いって思った。愛しいって思った。傍に居たいと思う様になっていた。ちゃんと恋愛で、好きになっていた。俺の中で、アシュリーに対する『特別』の意味も変わってたんだ。
「俺もアシュリーに惚れてるよ。アシュリーが好きだよ。お前がアシュリーと居るの見て嫉妬したよ。あんまりお似合いで悔しかったよ」
ラルフが息を飲むのが伝わってくる。俺、直脳で良かったわ。思ってる事そのまま伝えることが出来る。本音でぶつかることが出来る。俺はコイツの事、そんなに嫌いじゃないんだ。だから、ちゃんと伝えたい。判って欲しい。
「……だから、だからこそ嫌なんだよ。お前がアシュリーを傷つけたまま謝りもしていないのは納得いかねーんだよ。お前もアシュリーを好きなら、ちゃんとアイツに謝れよ。遅くたって言わないよりも良いだろ。おんなじ気持ちでアイツの事思ってるお前がアシュリーを傷つけたままなのは、俺は嫌なんだ。絶対嫌なんだよ」
「お……お前に言われなくたって…! 俺だって、お前が来る前からずっとアシュリーが好きだったんだ! お前なんぞに俺の何が判るんだ! ぽっと出のお前なんかに渡さん! 明日の祭りで謝るつもりだったんだ!」
それ嘘だよな? 今思いついて言ってるよな? ラルフは顔を真っ赤にして一気にまくし立てて来る。鼻息荒くてイケメン台無しだ。
「良いか、明日の祭りで謝るんだから、邪魔はするなよ!? お前は引っ込んでろ、良いな!」
ラルフは言うだけ言うと俺に何か言う暇も与えずに回れ右して脱兎の如く駆け出していく。 本当に謝るのか? それに邪魔するなって言われたって俺だってアシュリーと祭りに行きたい。はいそうですかなんて聞けるわけねーだろ。
俺も戻ろうと振り返り、石化した。
一体いつからそこに居たのか。アシュリーが、おずっと建物の影から出て来た。逆方向に駆けだしたラルフと丁度入れ違い。アシュリーの顔が真っ赤だ。明らかにどっちかのセリフを聞いていたとしか思えない。俺のセリフからなら恥ずかしくて逃げ出したいがラルフの言葉になら俺の玉砕は確定だ。きっと俺の顔面白い事になってるんだろうな。赤くなったり青くなったりで忙しい。
ちらっとアシュリーが何か言いたげに俺を見た。がっつりと目が合った。
……あああ。またこれだよ。気まずい沈黙が流れた。
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