03.現実は物語ほど優しくは無いらしい。
***前回のあらすじ***
俺はシンと待ち合わせた西高の校門へとやってきた。噂の現場を見に、俺とシンは西高の野球部員が異世界転移をしたっていう雑木林の中へと分け入った。怖いもの見たさで本気になんてしていなかったのに、雑木林は本当に異世界に繋がっていたらしい。突然現れたのは、明らかにゲームに出て来る魔物の様だった。俺は必死に逃げて、いつの間にかシンとも逸れてしまっていた。雑木林はいつの間にか広大な森に変わっていた。俺は現実逃避をする様にその場に倒れ込み、気を失う様に眠りに落ちていった。
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※文字数3001字です(空白・改行含みません)
──ボソボソボソボソ──
……五月蠅い。誰だ……?
──ボソボソボソボソ──
勘弁してくれよ、今何時だよ。
──ボソボソボソボソ──
……ん?!
寝ぼけていた俺は思わず飛び起きた。見ると俺から少し離れた所にすんげぇガタイのスキンヘッドの男が居る。男の向こうにも誰かいるみたいだけど、暗くて良く分からない。3人くらいいる様だ。
……そうか。あの後俺は疲労でそのまま眠っちゃったんだっけ。此処が異世界だとしたら、異世界人との初の遭遇だ。俺は緊張で心臓がばくばくした。
ひょっとしてここからめくるめく大冒険が幕を開けたりするんだろうか。そうなれば俺は主人公、脱モブだ。さっきまでの恐怖心はどこへやら、俺はまだ半分寝ぼけていたのかもしれない。期待に胸が膨らんでも仕方が無いと思う。
男は俺に気づくと近づいて来る。おおおお……。明らかに日本人じゃない! 40代半ばくらいのオッサンだった。オッサンは黒人で眼は凄い鮮やかな青をしている。黒い肌に青い瞳ってすげぇエキゾチックだ。かっけぇ。
オッサンは俺を覗きこみ、口を開いた。俺はその事実に息を飲む。
最初は理解が出来なかった。男が更に言葉を続ける。
──…なん、だと──?
俺は驚愕に目を見開いた。嘘だろう……? いや、まて。そんな筈はない。こんな事ありえん。
「#$&%@、*##$&%? &%#**#$#@&。 ───%&#%@、&#$*@?」
……オイ。ふざけんなよ? 何言ってんのかぜんっぜんわかんねえ!
なんでじゃ──────────────────ッッ!?
いや、駄目だろそれは。 異世界転移と言えば何故か日本語が通じるっていうのはテンプレじゃねえか! 自慢じゃないが俺は英語だけは成績最悪だったんだ! 万年英語の評価が3以下の俺を舐めんなよ?! 多少なりとも耳にした事がある英語ですら中学校レベルで躓いてんだぞ?! なのにそれは一体どこの言葉なんだよ? 発音できる自信すらねぇぞ?! しょっぱなから難易度高すぎじゃねぇか!
しかも暗くて見えなかったオッサンの格好のある異変に気が付いて、俺は音がしそうな程にサァ───っと血の気が引いて、そのままぶっ倒れそうになる。
オッサンの服には血がべったりとついていたのだ。
……待って。お願い、ほんと無理だから。死んじゃうから。
魔物が出る様な場所で? オッサン腰にごつい剣とか挿しちゃってて? それあれだよね、確実に人殺せるよね? てか何で血まみれなんですか。 殺しダメ。ゼッタイ。の現代の日本生まれの日本育ちなんですけど。 自慢じゃないが鎖に繋がれてる犬に吼えられてもビビって届かないとこ遠回りするくらいのチキンハートなんだぞ? ぶっちゃけカッターで指ちょこっと切って血出てる人見るだけでこっちが痛くなって具合悪くなるくらい血が苦手なんだぞ? 剣はおろか殴り合いの喧嘩すらした事が無いひ弱な現代日本人舐めんなよ。
やだよー。怖いよー。もう俺強く無くていいです、モブで良いです、期待してごめんなさい、お家に帰らせてください。
俺はその場に蹲ってシクシクと泣きだした。……みっともないと言うなかれ。
良く考えて欲しい。肝試し感覚で林に入ったら突然毛むくじゃらのデカい魔物に追いかけられ、幼馴染とは逸れ、目が覚めたら剣持ったごっついスキンヘッドの黒人のオッサンが居て聞いた事の無い言葉で話しかけられ、挙句ソイツは血まみれで、更に血の匂いぷんぷんさせながら覗きこまれたら、多分誰だってこうなると思う。
あれだ。軽い気持ちで近所の林に入ったらヒグマが出て襲い掛かってきたと思って貰えればきっと想像付きやすいだろう。
更に此処は何処かと聞きたくても言葉が通じない。俺の服装はジャージでポケットにはスマホと家の鍵と小銭入れしか入って無い。異世界じゃ確実に圏外だっつぅのに、そんな所でスマホが一体何の役に立つというのか。寧ろ寝る前に充電する俺のスマホは既に赤ランプ。あっという間に充電切れて使い物にならなくなるのは目に見えてる。
オッサンは困った様に眉を下げ、スキンヘッドの頭をガリガリ掻いている。向こうに居た連中はいつの間にか焚き火を囲んでいた。ファンタジーっぽい。焚き火を囲んでいた男の1人が近づいて来て、俺を指さしながらオッサンに何かを渡した。あれだ。サラダとか入れるような木の器。器からはほこほこと湯気が立っていて良い匂いがした。木のスプーンがそのまま突っ込まれている。
オッサンは男から器を受け取ると、ズイっと俺に差し出して食べる真似をして見せた。つまり食えという事か。赤っぽい色をした肉入りのスープと煮物の中間みたいなヤツだった。俺は泣きそうなくらいにジーンとなってしまった。
俺はオッサンにぺこりと頭を下げて器を受け取った。飯食って来たのに、結構腹が減っていた。
──折角の好意だし、出して貰っててなんだけど、くそ不味い。肉が少し癖があって噛み切れない程硬い上に臭みが強い。贅沢言える立場じゃないし、俺は口に含んだそれを息を止めて咀嚼し、ごっくんと飲み込んで何とか喉に通す。美味いか?と言う様にオッサンがニっと笑ってサムズアップした。おお。これ異世界共通なのか。俺は何とか笑みを作ると、サムズアップをして返した。
食事を終えると、スキンのオッサンは俺の手首を掴み、来いよと言う様に親指で仲間らしい連中の方を指さした。俺はオッサンに引かれるままに男たちが座る場所へと移動する。
たき火の火を囲んで居たのは、さっきの髭のオッサンと、弓を背に背負った中学生くらいの水色の髪(!)の少年と、コロコロしたおばちゃんが居た。紅一点か。オッサンだけじゃ無かったが、愛は芽生えそうにない。なんつうか、バランス悪いな、このパーティー。
オッサンが何かをべらべらっと喋った後、髭のオッサンを指さし、「ゴッド」と言った。髭のオッサンがひょぃっと手を上げて見せる。すげぇなオッサン、神なのか。
次に弓の少年を指さし、「アシュリー」と言う。少年はビーフジャーキーみたいなのをもぐもぐしながら俺をチラっと見て軽く手を上げた。
で、おばちゃんを指して「ビアンカ」と言った。おばちゃんはにっこり笑って手をぱたぱたと振って見せる。
名前、教えてくれてんのか。俺はちょっとほっこりした。
最後にオッサンは自分を指さし、「イングヴァル」と言った。それから、お前は?と言う様に俺を指さした。
「ぁ。ゆ、ユウヤ」
俺も下の名前だけ名乗る。イングヴァル──言いにくいからイングと呼ぼう。イングはわははーっと笑うと俺の背をばんばん叩きながら、ユーヤと連呼した。
何言ってるのか全然分かんなかったけど、皆は口々に俺に何か話しかけてくれた。言葉が判らないってのは伝わったみたいだけど、気にせずに何か言っては爆笑したりしている。嫌な感じはしなかったから、悪口じゃないんだろう。
結構長く話していたと思う。皆はじゃあなと言う様に手を上げて、毛布みたいなのを引っ張り出して転がり出した。
イングが毛布みたいなボロい布を俺に差し出して、何か言いながら寝るんだよ、と言う様に自分の体に毛布を掛ける真似をする。
「あ、どうも……」
俺が毛布を受け取ると、オッサンはにかーっと笑って俺の肩をバンバンと叩いた。
……ごめん、イング。文句ばっか垂れちゃって。良い人だなこの人。見ず知らずの俺の面倒を見てくれて。俺はオッサン達の優しさにホロっと来た。
俺はごろりと横になり、もう一度毛布に包まって目を閉じた。
ご閲覧・評価・ブクマ・ご感想 有難うございます! 初感想頂きましたー!!嬉しいぃぃぃ!みひろさん、有難うございます! ちょっと予定よりも早い投稿になりました。次は明日のお昼には書き上げられるかな? 頑張ります!