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28.修羅場フラグは唐突にやってくる。

***前回のあらすじ***

夕刻、俺は木の上に居たアシュリーと話をした。俺は思って居た事をアシュリーにぶつける。これが俺の本心だ。アシュリーと俺は頭を寄せ合って沈む夕日を眺めた。少しだけ、距離が縮まった気がした。

「──なぁ。アシュリー?」

「んぁ?」

「俺だけ思ってる事ぶちまけたけどお前は? お前が何考えててどうしたいのか俺聞いてないんだけど」

「面倒見てやるつったじゃん」


 いや、そうだけど。そうじゃねんだよ。


「俺はお前の考えてる事が聞きたいんだっつの」

「うっわ面倒くさい」


 オイ! 面倒って何だよ面倒って。俺がじとっと見下ろすと、アシュリーはあはは、と軽い笑い声を上げた。


「んー。難しいなー」

「難しい?」

「うん、難しいな。俺も、ユウヤと話せなくなるのは嫌だし、関係が終わるとかも嫌だけど、やっぱどうしても意識はするんじゃないかな。ユウヤが俺を男だって思っていた様に、俺もユウヤが俺を男だって思ってるのは直ぐ気づいたし、気づかれたくないって思ってたんだよ。お前が俺を男だって思ってるから、ああやってじゃれあえてたと思うしさ」

「まぁなー」


 そうか。アシュリーは気づかれたくなかったのか。確かに女の子だと思ってたら、こんな風に接する事出来たかな。たらればだからなのか、もし、を考えてみたけど判んないや。やっぱ今の様にしてたかもしれないし、女の子とまともに話した事も無いから上手く話せなかったかもしれない。ビアンカくらいのおばちゃんだと意識しないで話せるんだけど。


「けど、俺もユウヤが相棒だったら楽しいって思うし、うん。良いんじゃないかな、これで。俺もユウヤの傍が良いよ」


 夕日に照らされて、ふわっと笑ったアシュリーは凄く可愛かった。


***


 翌日、アシュリーの襲撃は無かったけれど、俺が薪割を始めると駆けて来て、いつも通りに話しながら薪を仕舞うのと手伝ってくれて、一緒に飯食って、一緒に練習をした。

 いつも通りだけど、少しだけ、いつもと違う。少し、照れ臭いような、ぎこちない様な空気が流れてる。でも、それは嫌な感じでも無くて、くすぐったい様な、思わずニヤけそうになるような、そんな感覚だった。


***


「アシュリー」


 アシュリーと練習をしていると、不意に誰かがアシュリーを呼んだ。誰だろう。振り返ると見慣れない男。俺と同い年くらいか、少し上かな? 金髪に碧の瞳。同い年くらいのヤツってここには俺とアシュリーだけだから少し新鮮だ。


「ラルフ? わり、ユウヤちと外すわ」

「おー」


 アシュリーが男の方に駆けて行く。知りあいかな。……何だろう。少しこう……。モヤっとする。


 俺が見ているのに気づいたのか、男が俺に視線を向けた。がっつりと目が合ってしまった。俺は反射的にぺこっと頭を下げて見せる。ラルフって呼ばれたヤツはじっと俺を見た後、フィっと俺の会釈をガン無視しやがった。

 何だアイツ。感じ悪いな。

 アシュリーににっこりと笑みを浮かべ、まるで俺に見せつけるかのように顔を寄せて話しているのがやけにむかついて来る。

 誰だか知らねぇけどアシュリーの相棒は俺だからな。馴れ馴れしくすんじゃねぇよ。


 俺はアシュリーとソイツを意識しない様に背を向けてスリングの練習に戻る。

 意識したくないのに、気になって仕方がない。何で俺はこんなに苛々してるんだろう。


 くそー。ちらっと振り返ったら、アシュリーが俺を見ていた。──っは。あの顔は俺を呼びたがっている。俺はアシュリーの方に駆け寄った。


「アシュリー、練習」

「おー。……あ、コイツ、ラルフっての。幼馴染で、服飾店の息子。ラルフ、コイツ、デュオフォルツェンのユウヤ」

「ども」

「……ふーん。これがデュオフォルツェンね。冴えないな」


 うるせーほっとけ。異世界から落っこちただけで元々モブなんだよ悪いか。


「今度街で祭りがあるんだって。それで……」


 アシュリーがちらっとラルフを見る。ラルフはすっごい良い笑顔でアシュリーを見た。こう、歯がキラーンってしそうな笑顔だ。これはあれだな。モテる自覚があるヤツの顔。余計むかつく。


「へぇー、祭りか! 面白そうだな、一緒に行こっか」


 つまり、コイツに祭り一緒に行かないかと誘われて困っていると見た。俺は負けじと『俺鈍感なんでー、全然気づきませんでしたー』って顔でアシュリーの肩に手をやった。


「悪いな『落下物(フォルツェン)』。アシュリーは俺が誘ったんだ、空気読めよ、つか出て来るなよ」


 バッシとアシュリーの肩に置いた手を思いっきり払われた。カチーン。同時に頭の中でカーンっとゴングが鳴り響く。


「ユ・ウ・ヤ、だよ。名前も覚えらんないの? 頭弱いなお前。アシュリーが嫌がってそうだったんでねー」

「金魚のフンが付いて来そうで困ってるんだろ。ママのオッパイが恋しいならビアンカとでも行けよ。お似合いだぜ?」

「生憎アシュリーの相棒は俺なんだ。 今時ママのオッパイとか草生えるわ。 ビアンカとデートしたいなら仲取り持ってやんぜ? ビアンカのお相手はお前に譲ってやんよ」

「誰が誰のデートを取り持つんだって?」


 不意に割って入った声に俺もラルフも飛び上がった。にこにこと笑みを浮かべ、困惑顔のアシュリーを背に庇って仁王立ちをしていたのは、ビアンカだった。いつも通りの柔和な笑みがなんかどす黒い。


「で……デートつったのはソイツだからな! アシュリー! 祭りの日迎えに来るから!」

「あっ! ちょ、ラルフ!」


 返事も聞かずにラルフは言うだけ言うと脱兎の如く逃げ出した。ビアンカねーさんWin。

 でも俺もヤバイ。そろりと逃げ出そうとすると、そのままむんずと襟首を掴れた。


「ユウヤ? あたしが何だって? 詳しく聞こうじゃないか。さーおいで」

「うわぁぁ、違うんだ! ごめん、謝る! アシュリー何とかして──!」

「ばぁーか」


 引きずられて行く俺を呆れた様に見ていたアシュリーの顔は、ちょっと嬉しそうに見えた。

いつもご閲覧有難うございます! 次回の更新は明日になります。

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