表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/60

27.素直になるのって大事な事かもしれない。

***前回のあらすじ***

あれからどうもアシュリーと気まずくなってしまった。へこんでいる俺をビアンカが慰めてくれる。今のまま距離が出来てしまうのは嫌だった俺は、一度頭を冷やそうと訓練に向かう事にした。

 夕方、訓練を終えてギルドに戻ってくると、ギルドの脇にある大きな木の枝の上にアシュリーが座っているのが見えた。

 あいつは猿か。木の傍に近づいて、上を見上げてみたけれどアシュリーは気づいていないみたいだ。

 気まずさは、まだ消えない。何を話せばいいのか、まだ判らない。何て声を掛けて良いかもわからない。

 

 だけど、このままは嫌だ。このまま何となく距離が離れていくのは嫌だ。もやもやした気持ちを、きっと俺は引きずるし、アシュリーも引きずるんじゃないだろうか。どうでも良い可能性もあるけど、気にしてくれると思いたい。どうするのが正しいのか分からないけれど、何も言わずにいたら、何も伝わらないんだ。判らないなら、もういっそ当たって砕ける方がマシだ。思っている事そのまま、アシュリーにぶつけてしまえ。


 そのまま登ろうかと思ったけれど、俺はふと思いついて、そっとそのまま一旦倉庫へと向かった。時刻は夕方。このまま樹をよじ登れば、また降りられなくなる予感しかしない。流石にイングにまたおんぶで下ろして貰うのは学習しなさすぎだ。

 俺の知識なんて役に立つようなもの何もないと思っていたけれど、何気なく煎餅食いながら見ていたTVが、ポテチ食いながら見てた動画が、暇つぶしに眺めてたtwitterが、マンガが、俺に少しずつだけどちゃんと知識を授けてくれていた。

 倉庫からロープを1本拝借して、木の下へと戻る。戻る時に見えたアシュリーは何してるんだコイツって顔で怪訝そうに俺を見下ろしていた。


 そう言えばアシュリーって俺が何かすると、いつも楽しそうにのぞき込んできていたっけ。こういうの好きなんだろうな。

 俺はロープに一定間隔で結び目を作り、端に木の枝と落ちていた石を結び付けた。ブンっと振ってからアシュリーの座る枝の後ろ側の枝目がけロープを投げる。枝と石を結び付けたロープは枝の上を通過して、くるっと回転し枝にロープが絡みつく。

グィグィと引いてみてしっかり絡まっているのを確認してから、俺はロープを使って1つ目の枝まで登った。

 1つ目の枝にさえつけば、後は右に左にニョキニョキ生えている枝を伝えば登っていける。アシュリーはそんな俺を眉を寄せて眺めて居た。


「よ」

「おー。お帰り」


 俺は枝を跨いでアシュリーの腰かけた枝へと移動してアシュリーの隣へ並んで座る。日本じゃこういう木って見たことないよなぁ。物凄く大きくて、物凄く太くて、枝の太さが丸太程はある。夕日はまだ結構高いけど、周囲は金色に染まり始めていた。街の綺麗に並んだオレンジ色の屋根が凄く綺麗だ。


「前にもこんな事あったな」

「あー。ユウヤ、降りられなくなってイングにおんぶされた時な」


 可笑しそうに笑うアシュリーは、いつものアシュリーだった。嬉しいな。


「あのな。俺、実はアシュリーの事ずっと男だと思ってたんだ」

「──うん、知ってる」

「ぇ。マジで?」

「そりゃ判るだろ」


 ケラっとアシュリーは笑った。何でだろう。夕暮れだからかな。少しだけ、アシュリーが寂しそうに見えるのは。


「そっか。ごめんな」

「ユウヤは鈍感だもんな」

「うん、マジでごめん」

「良いって。俺だってユウヤに女扱いとかされたら調子狂うし」

「ん。あのな。アシュリー」


 俺は、ゆっくり沈んでいく夕日を眺めた。


「俺はね。アシュリーが男だとか、女だとか、酷いかもしんないけど、どっちでもいいんだ。俺みたいな新米が生意気だって思うかもしんないけどさ。アシュリーの事は、相棒だって思ってるんだよ。俺がこっちに落っこちて来てから俺の隣にはいつもアシュリーが居たから、アシュリーが隣に居ないと落ち着かない」

「ふーん。ユウヤ、俺が居ないと寂しいんだ?」


 揶揄う様にアシュリーが俺を覗きこんだ。アシュリーの髪に、瞳に、夕焼けのオレンジ色が映る。ああ、綺麗だな。


「そーだよ。寂しいよ」


 真顔で返すと、アシュリーは目を丸くした。


「お前とぎこちなくなんのも何となく気まずくなんのも、傍に居ないのも寂しいんだよ。嫌なんだよ。アシュリーが女だったからって関係変わるの嫌なんだよ。お前と遊べなくなるの嫌なんだよ」

「──お前は駄々っ子か」

「駄々っ子だよ」


 だって、これが俺の本心だ。アシュリーと距離が出来て寂しかったのも本当だ。傍に居ないのが嫌なのも本当だ。俺の隣にはアシュリーが居て、アシュリーの隣に居るのは俺でありたい。今までもこれからも、俺の隣にはアシュリーが居ないと嫌なんだ。


「しかたねぇな。面倒見てやっか」


 アシュリーが、にーっと笑って、俺の頭をぐしゃぐしゃっと撫でる。それから、ぽすっと俺の肩に寄りかかった。ドキっとしたのは、やっぱり俺の中でも何かが変わったのかな。泣きたいほどに切なくなるのは何でだろう。胸の奥がぎゅっとなる。ああ、でも、距離が近い。もう、遠く感じない。肩に掛かる重みと体温。小さな、息遣い。足りなかったパズルのピースが、ぴたっと嵌ったみたいな気分だ。俺もアシュリーの髪に頬を寄せる。アシュリーは、一瞬ピクっとしたけれど、嫌がるそぶりは見せなかった。

 ちっちぇー頭。シャンプーなんて無いはずなのに良い匂いがする。何だか無防備な小動物みたいだ。小動物って癒しのパワーがあるって何処かで聞いた。アシュリーもそういう力があるのかも。頬をくっ付けていると妙に癒される。


 並んで夕日を眺める。空は鮮やかなオレンジから黄色へ、そうして青へのグラデーション。夕日を受けた雲が逆光で金色の縁どられて、ゆっくりと流れていく。街の姿がシルエットに浮かび上がっている。木の下ではガキ共がまだ遊んでいる。イング達が剣を打ち合う音が聞こえる。街の何処か、教会かな。鐘の音が聞こえる。何か、良いな。こういうの。


 あの日から、胸の中にあった喪失感が、今はその感覚さえ思い出せないほど、満たされた気分だった。

いつもご閲覧有難うございます! 次回の更新は明日になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ