26.男女の友情は成り立たないなんて寂しいじゃないか。
***前回のあらすじ***
ずっと弟みたいに思っていたアシュリーは、実は同い年の女の子だった。流石に17歳の女の子の服剥ぎ取ればグーパンで済めば優しいものだ。俺はイングに促され、アシュリーに謝りに行く事にした。
物凄く気まずい。気まずいが明らかに状況が判った今、悪いのは俺だ。
アシュリーの部屋の前で中々ノック出来ずにうろうろする事数分、俺は思い切ってアシュリーの部屋のドアを叩いた。
「おー」
中からちょっと気だるげな返事が返ってくる。俺はそろっと部屋のドアを開けた。
「アシュリー、起きてるか?」
「起きてるよ」
……ぅっ。声が不機嫌そうだ。俺はのそのそとアシュリーの部屋に入り、椅子を引っ張って来てアシュリーのベッドの脇に腰かける。
「……その、な、アシュリー」
「ユウヤは心配性過ぎんだよ。頭痛くらいで大騒ぎしやがって」
ぷぃ、とそっぽを向いたアシュリーに、俺は出かけた言い訳を一旦飲み込む。
「まぁ、焦ってたとはいえ悪かったよ。ごめんな」
「心配してくれてんのは判ってるから良いけどさ」
……あれ?そっぽを向いたアシュリーの顔。気のせいかまだ赤くないか? 俺はアシュリーのおでこに手を伸ばした。
「ぴゃ!!」
「えっ?!……あ、大丈夫だ、熱は下がってんな。わり、まだ顔赤い気がして熱上がったのかって思っただけ」
相当警戒されてんのかなぁ。ぴゃってなんだよ。ぴゃって。アシュリーが目を丸くして真っ赤になったままわなわなした顔で俺を見る。
……いや、待って。そこでそういう顔されるとね、モテない男子としては意識しちゃうだろ?
でも大丈夫、落ち着け俺。流石に此処で調子に乗るほど現実を知らないわけじゃない。そりゃなー。服ひんむいた男にいきなり手伸ばされれば警戒もするよなぁ。今まで無警戒だった分怖がられても無理はない。ビビらせたかと俺はもう一度ペコっと頭を下げる。
「あー、ううん。ちょっと驚いただけ」
変な感じだな。女の子だって判った途端、アシュリーが違う人みたいに思えてしまう。距離が出来たっていうか、妙にぎこちない。変に意識をしてしまう。アシュリーの態度もなんかいつもと違うし。
そう言えば、小学校の時もあったんだよな。5年生くらいになってから、それまで仲良くていつも一緒に遊んでた女の子がさ。何となく気まずくなって、遊ばなくなって、あんなに仲良かったのに顔を合わせても挨拶もしなくなって。妙に寂しい気がしたっけ。
俺が悪いんだけど、アシュリーはもう俺に付き合ってはくれなくなるのかな。いつもワンセットみたいに一緒に居たのに、このまま距離が出来るのかな。
それは嫌だなぁ。それは凄く寂しいぞ。おにーちゃん悲しい。いや、タメなんだけどさ。いつの間にか俺はシスコン拗らせていたらしい。
何となく、言葉が続かない。お互い口を開かなくなる。普段はぽんぽん軽口を叩くアシュリーが妙にしおらしいっていうか、コイツも俺にひんむかれて俺が男だった事を思い出したって感じなのかも。
多分俺がアシュリーを可愛い弟に思っていた様に、アシュリーにとっては放っておけない子分みたいなもんだったのかもしれないな。流石にそんなやつに変な意味じゃなかったとはいえ、上手く力が入らない状態で服毟られたらそりゃ怖いだろう。コイツそういや男だったっけと気づいても可笑しくはない。
アシュリーは視線を落として俺の顔を見ない。気まずそうに前髪を指先で弄ってる。沈黙が辛い。
「んじゃ、俺もう戻るな? 水分いっぱい取っておけよ」
「ん、判った」
俺はそそくさと椅子を元の場所に戻すと、アシュリーの部屋を出て、閉めた扉に寄りかかりため息を付いた。
***
翌朝、アシュリーのいつもの襲撃は無かった。普通に目が覚めた俺は、何だか妙な喪失感を味わっていた。いや、腹に一撃喰らうのが楽しかったわけじゃないよ。ただ、ああいうじゃれあいが思った以上に俺は楽しかったのかもしれない。
こっちの世界に来てからずっと、アシュリーは俺を構ってくれていたんだと気が付いた。文句言いながらも、俺の面倒を見てくれてたのはアシュリーだったもんな。何故だかアシュリーの顔ばっかり頭に浮かんでくる。大分拗らせてるなぁ。
俺は身体を起こすと、顔を洗って部屋を出た。
***
薪割を終えて食堂に行くと、アシュリーは既に食堂に居た。いつもなら俺を叩き起こして一緒に薪割に付き合って、一緒に飯食いに来るのに。避けられてるのかと思うと、少し気まずい。
「お早う、ユウヤ」
先に声を掛けて来たのはビアンカだった。ビアンカはアシュリーに水を渡しつつ俺に声を掛けてくれる。
「おはよ、ビアンカ。アシュリー、もう体調良いのか?」
「あー、うん、大丈夫。今日は部屋で休んでるよ」
アシュリーは俺をちらっと見ただけで直ぐに視線を逸らせてしまう。
……なんだよ。ちゃんと謝ったじゃん。まだ怒ってんのか?
「だから悪かったってば」
「怒ってねーし」
アシュリーは残ってた飯をそのままに立ち上がった。
「怒ってねぇならなんだよ?!」
「なんもねーよば──か!」
か……可愛くねぇなコノヤロウ!
アシュリーはとっとと飯の乗っていたトレイを持ってこっちを見ようともせずにすったすったと食器を戻して食堂を出て行った。
「なんなんだよアイツ……っ」
俺がムカ付いていると、ビアンカがぽんぽんっと俺の肩を叩いた。ほんわかした笑みに、俺の気持ちがすぅ、っと落ち着く。
「あの子もさぁ、どうしていいか判んないんでしょ。あんたまでカリカリしないの」
「や、俺が悪いのは判ってるけど……。なんか、性別違うだけで急に距離が出来るのって寂しいじゃないっすか」
俺だって男女の友情は成り立たないってのは知ってる。
でも、俺がガキなのかもしれないけど、俺はアシュリーと居るのが楽しかったんだ。
女子って見たことなかったけど、友情だの仲間だのって意味で俺はアシュリーが好きだったんだ。
本当に熱中症心配しただけで、変な意味もやましい気持ちも1㎜も無かった。そこは誓える。やったことは変態かもしれないけど、急にそっけなくされたら俺だって傷つく。
飯をがつがつ食いながら半ばまた八つ当たり気味に文句ぶぅぶぅ言う俺の話を、ビアンカは黙って聞いてくれた。
「アシュリーは俺の事嫌いになったのかなぁ……。へこむわ……」
飯を食い終わり、お茶を啜りながら俺ががっくり項垂れると、ビアンカは苦笑を浮かべて俺の背をぽんぽんと叩いた。
「心配しなくてもあの子はあんたを慕ってるよ。少しそっとしておいておあげ。今はまだ混乱してるだけさ」
「そうだと良いけど……」
あー、女々しいな俺は。俺は思いっきり自分のほっぺたを引っぱたいてどんどんへこみそうな気持ちに喝を入れる。
「俺、ちょっと訓練行ってきます! ビアンカ、愚痴聞いてくれてありがと!」
「あいよ。どういたしまして。──ユウヤ」
「──はい?」
「人って言うのはね、いっぱい迷っていっぱい悩む方が良いんだよ。そういうのは、成長する為の糧だからね。辛いかもしんないし、苦しいかもしんないけど、悩んで躓いてあんたなりの答えを探してごらん。どんな答えでもいいからね。答えが見つかれば、あんたは1つ成長したって事なんだから。その代りね。落ち込むだけで終わらせちゃいけないよ。落ち込むだけじゃ答えにはたどり着けないからね」
成長。成長か。アシュリーとの事も、多分必要な事なんだろうな。俺はアシュリーが大事だ。だから、このまま気まずいまま離れたくない。それなら俺なりにどうするか、考えなくちゃいけないんだ。
「うん、ありがと、ビアンカ!」
今はぐちゃぐちゃ考えてもへこむだけになりそうだから、今は身体を動かして、それからゆっくり考えよう。
俺は食器の乗ったトレイを持って返却口に戻すと、昨日の訓練をもう一度やる為に食堂を後にした。
いつもご閲覧有難うございます! ちょっと近いうち、ざっくりですがイラスト書いて登場人物紹介を載せようかと思っています。此処に載せても良いんだけど、折角なので紹介ページとか作ってみようかなー。次回の更新は明日になります。




