25.聞いてない。
***前回のあらすじ***
俺はアシュリーと共に蒸し風呂の様な倉庫の中で長時間虫を狙い撃つ訓練を行った結果、熱中症になったアシュリーをギルドへ連れ帰り急いで応急手当した。が、何故か怒り出したアシュリーに殴られてしまった。
「っっにすんだこのクソガキャ──ッ!!」
「うるせー、馬鹿ユウヤ、とっとと出てけ──ッ!!」
いきなりグーパンってなんだ。恩人に向かって酷いにもほどがあるだろうが!? 鼻血出ちゃったじゃないか。何してくれんだコイツ?!
が──ッ!と怒り狂う俺をあらあらあら、とビアンカがぐぃぐぃ押して部屋の外へと追い出していく。
「だってビアンカ、アイツっ!」
「うんうんうん、ユウヤはアシュリーを助けてあげたんだよね、そこは偉い、偉かった、でもね、流石にあれはアシュリーが怒っても仕方がないだろ?」
一緒に部屋を出て来た連中も皆一斉に気まずそうな顔でうんうんと頷く。俺だってもう少し冷静だったら多分気が付けたと思う。でもこの時の俺は鼻は痛いし鼻血垂れて来るし助けた相手にいきなりグーパン喰らって冷静になれる心境じゃなかった。八つ当たりだと分かっていてもついビアンカに噛みついてしまう。
「なんで?!」
「なんでって、そりゃあんた、独身の年頃の娘が大勢いる前でいきなり服剥ぎ取られれりゃそりゃ怒るでしょうよ。一発殴られるくらいで済んで良かった方だと思うよ? まぁ、何でユウヤがあそこまで慌ててたのかはあたしも判んないけど、あんたがアシュリーを助けようとしてるってのは判るからさ、せめてあたしも居たんだし、女に任せて部屋を出るとかはした方が良かったかもねぇ」
「だからってグーパンは無いでしょ? あのね、知らないかもしんないけど俺の世界じゃ割と常識よ? 熱中症って毎年何人も人死んでるんだから! こっちじゃ救急車もないし点滴もポカリも無いでしょうよ?!」
「キューキュとかテンテキとかポカリとかは判んないけどさ、少し体温は上がってたけどそんなにヤバイ状態にゃ見えなかったけどねぇ。騒ぐ元気はあったしさぁ」
「汗拭いても拭いても拭きだしてきてたでしょーが! 顔だってめっちゃ赤くなってて足攣ったりしてたでしょうよ?! アイツ脱水症状も起こしてたんだぜ?」
どうどうどう、っとオッサン連中に宥められ、俺は少しずつ落ち着いて来た。
「大体さぁ、女もクソもあるかよ、一歩間違えば死んでたかもしんねぇっつーのに危機感が足りねぇっつー…」
そこまで言って、自分の言葉にへ?と思った。女? ……え、ちょっと待って。誰の事? ……いや、状況考えれば一人しかいないよな。え? って事は……。
「……。え? アシュリーって男だよね?」
恐る恐る訪ねてみたら、その場に居たヤツ全員がビシっと凍り付いた。
***
「いやー……。流石にそれはどうなのかと思うよ? ユウヤ……」
「酷すぎるだろそれは……」
「やー、俺はてっきりあんまり仲良いから恋仲だと思ってたんだけど……」
「鈍感の域超えてるよねぇ……」
「アシュリー可哀想に……」
俺はギルドの連中に囲まれ、鼻に小さく裂いた布突っ込んだまま小さくなっていた。思い込みって怖い。こっちの世界の言葉は日本語や英語よりも単調で、一人称は全部『ウィ』だ。つまり、俺が今まで脳内で何となくアシュリーの一人称を『俺』って変換して男言葉で受け止めていただけで、そもそもここの言葉に、男言葉も女言葉も無い。
でも、言い訳だけどさ、スカートとか履いてるの見たことないし、ガサツだし俺より木登り上手いし、平気で朝っぱらから俺の部屋に侵入しては腹に肘鉄ぶちかます様なヤツが女だと気づけって方が無理あると思わないか?
だけど、言われてみれば、いつもは俺の傍に居る事が多いアシュリーが、水浴びの時だけは付いて来ない。大抵イングが誘いに来てくれて、俺達だけで行っていた。一度アシュリーを誘おうとしたら、イングに『アシュリーは水浴びは一緒には行かないよ』って言われて、水が怖いとかそういう理由かと思っていたけれど、女の子だから一緒には行かない、と言う意味だったのか。
確かに可愛い顔してるとは思ったんだよ。女の子みたいな顔だなって。水色の髪と相まって、かなりの美少年だと思ったし、20歳くらいになればすげーイケメンになりそうだと思った。妙に柔らかい体は子供だからだと思ってたけど、歳聞いて更にびっくり。中学生くらいだと思ってたのに、実は俺と同い年だった。
ちょっと理解が追いつかない。
実の妹が可愛げが無かった分、アシュリーは俺に懐いてくれてて、可愛い弟が出来た気になっていたのに、それが実は女の子でしかも17歳。乱暴だろうがガサツだろうが17歳。
しかも、性別間違っていたとはいえ、ぶっちゃけかなりの美少女だ。これだけ一緒に居てもおんぶしても気づけないくらいにちっぱいだけど。
男だと思ってただけでも大概失礼なのに、俺は事もあろうか年齢的にはJKの服を無理やり剥ぎ取った変態になってしまった。これはもう変態の烙印押されても仕方がない状況だと思う。それも、俺が大騒ぎしたせいでアシュリーの部屋には野郎がわんさか詰めかけて右往左往していたし、大勢の前でひんむいたわけだから、幾ら下着付けてたからつってもそりゃ怒るよな。俺だって女がわんさかいる前でズボンおろされりゃ流石に怒る。
「お……俺この場合どうすれば良いんだろう……」
「取りあえずな、男だと思ってたってのは伏せても良いけど服引っぺがしたのは謝っとけ?」
呆れた顔で苦笑し、俺の肩を慰める様にポンっと叩いたイングに、俺は情けない顔のまま、コックリと頷いた。
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