02.モブに主人公の様な行動を取るのは無理ゲーだった。
***前回のあらすじ***
俺は高橋 悠哉。モブの中のモブと言った立ち位置の普通の高校生だ。ある日オカルト好きな幼馴染でクラスメイトのシンから、異世界転移したヤツの話を聞かされた。本当に軽い気持ちで俺はシンと一緒に夜、そいつが行方不明になったっていう雑木林を見に行く事になった。
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※文字数2633字です(空白・改行含みません)
「じゃ、今夜10時に西高の後門の前でな」
「ああ。じゃ、また後で」
分かれ道まで来ると、手を軽くひらりと振って、シンは別方向へ駆けて行った。俺はゆっくり自分の家へと向かって歩き出す。やれやれ。俺もなんてお人よしなんだ。ちょっとワクワクしていることを棚に上げ、そう嘯く。
西高までは家からチャリで30分程度。風呂に入って、それから家を出れば丁度それくらいだろう。この時俺はまだ、いつもと違う日常が、実際にこの俺自身に降りかかる事になろうとは
────まだ、夢にも思っていなかった。
***
「ぉ。こっちこっち! 遅かったじゃん」
空から妙に赤い月が見下ろしていた。時折掛かる雲が、僅かな月明かりを閉ざす。オバケを怖がる歳でもないが、闇夜に浮かぶ校舎は不気味だった。
鉄格子の様な校門の前で、シンが手を振っている。ビビっていると思われたくなくて、俺は平然とした声を出した。
「わりぃ。お待たせ」
よぅ、と手を上げてシンに歩み寄る。
「おっしゃ、じゃ、早速行きますか」
シンの声は能天気だ。何だか俺の方が信じているみたいで、少し恥ずかしかった。
真っ暗なアスファルトの道に、足音が響く。時折犬の遠吠えと、遠くで光る車のライト。月明かりに浮かぶ校舎のシルエットは、まるで巨大な墓標の様だった。
広い校舎の周りに張られた柵を、ぐるりと回る。僅かに畑も残り、小さな林もある田舎町だ。まだ10時だと言うのに、人の姿は無い。岡島の言う、『神隠しにあった野球部員』が飛ばしたボールを取りに入った雑木林は、校庭沿いの道路に面し、学校の先まで続いている。
「この辺りのはずなんだよな」
シンがスマホのライトをつけ、雑木林を照らした。『自然保護区』と書かれた看板が白く浮かび上がる。雑木林は結構でかい。向こう側までは、50mはあったはずだ。林の向こうで車のライトが移動していくのが見える。
「……なんも起こんねぇって。そりゃ時間が時間だから薄気味悪いけどさ。ただの雑木林じゃん。もし本当にそんなことが起こってたんなら、今頃ニュースになってるって」
内心何か出やしないかとバクバクしていた俺は、早く切り上げたくてそう切り出した。務めて平静を装って。むぅ、とシンが頬を膨らます。
「こっからじゃわかんねぇじゃん。奥の方見に行ってみようぜ?」
シンはスマホ片手にがっさがっさと繁みを掻き分けて雑木林に入っていく。
……マジかよ。お前凄いわ。勇者だわ。行きたくねー。かと言って此処で待ってるのも何だかびびってますっていう様なもんだし、渋々俺もシンの後に続く。
雑草が生い茂り、所々木の根がむき出しになった雑木林は酷く歩きづらい。
どれくらい進んだだろうか。相変わらず、変わった様子は無い。あるわきゃない。時刻もかなり遅いせいか、うっすらと霧が出て不気味さを増す。ブルっと背筋が震える。
「……おい。もう良いだろ? 何も───」
俺が、そう言いかけた時だった。
────────低い、獣の、唸り声がした────────
暗がりで、赤い目が光る。
シンの手がガタガタと震え、手にしたスマホの明りが上下に揺れた。
その僅かな明りの中に 浮かび上がったモノは 3mはあろうかという 毛むくじゃらの
モ ン ス タ ー に し か 見 え な い 『 何 か 』 だ っ た 。
「「う……うわあああぁぁぁッ!!」」
俺も、シンも思わず悲鳴を上げて脱兎した。
走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。
無我夢中で走る。
体に当たる枝が痛かったが、気にする余裕なんて無かった。後ろを振り返る余裕は、無かった。
ナンダ アレハ
ナンダ アレハ
ナンダ アレハ……!
ぐるぐると頭の中を疑問符が飛び交う。
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ
呪文の様に怖い、夢だと頭の中で叫んだ。声にならない悲鳴が漏れる。恐怖で奥歯がガチガチと鳴った。シンを気遣う余裕すらなかった。ただパニックに陥って、必死に走った。何度も転び、転んでは走った。
やがてふらふらになり、木の根に躓いて転び、俺はようやく足を止めた。
恐る恐る振り返ると、あのバケモノの姿はどこにもなかった。シンの姿もいつの間にか見えなくなっていた。ガチガチと震えながら、周囲を見渡してみる。漆黒の闇の中、鬱蒼と生い茂る木々。
……おかしい。
林は精々50mくらいだったはずだ。でも、俺はかれこれ1時間くらいは走ったはずだ。例え、迷ったのだとしても、たかだか数十メートルの距離だ。ほぼ直進に突っ走っていたんだから、何処かの通りに出るはずだ。
俺はばくばくと騒ぐ胸を押さえ、大きく深呼吸をし、周囲を見渡し、耳をそばだてた。
静かすぎる。
車のライトはおろか、僅かな灯りすら見えない。
一体、何が起こったんだ?
シンはどうなった?
あのバケモノはなんなんだ?
此処は一体どこなんだ。
俺はヨロヨロと立ち上がると、重い足を引きずる様に歩き出した。
────何て生々しい夢だ。まるで現実そのものの様だ。早くこんな夢から覚めたい。
俺はとぼとぼと歩きながら、自嘲した。
時々さ。小説であるわけよ。クソザコのモブが仲間おいてカッコ悪く逃げ出すヤツ。みっともねぇ、とか、仲間おいて逃げるなんて薄情なヤツだと思ってたし、ざまぁって思った。
そういうポジションで描かれてたけどさ。実際自分がこうなったら、俺もそのクソモブと同じだった。ションベンちびりそうなくらいびびって、パニックになって、怖いってそればっかで、シンの事なんて頭からすっぽ抜けちまってた。
今だって、風で少しガサって茂みが鳴るだけで腰抜かしそうなくらいびびって飛び上がってる。
ちょーかっこわりぃ。
重たい手足を引きずりながら、俺はふらふらと彷徨い歩く。
夢だ。
そう。これはみんな、悪い夢に決まっている。夢で無ければなんだと言うんだ。
映画のCGの様なバケモノ。どこまでも続く雑木林。
────いや。森、だ。
半日あれば一周出来てしまうほど小さな町の中の、広大な森。
────ばかばかしい。
空には、月が煌々と輝いている。俺は太い木の根に足を取られ、地べたに転がった。もう無理だ。手も足も重くて、もう歩けそうにない。転んだ時に負った傷が、じくじくと痛む。
夢なら────
そうだ。
夢なら、ここで寝てしまえばいい。
きっと次に目を覚ましたら、俺は自分の部屋にいる。
部屋にいる……はずだ。
激しい疲労感と、到底受け入れる事の出来ない状況に、いつしか俺の意識は深く深く沈み
────そして、何もわからなくなった。
ご閲覧・ブクマ、有難うございます!はわわ、嬉しい…!ブクマがもう11件も…!感謝感謝です。
タイトルになっているモブ少年、異世界に転移しました。
ちょっと前に書いたお話のオマケのお話を書きますので、次の更新は明日の朝になると思います。