14.異世界は思った以上に物騒だった。
***前回のあらすじ***
ついにホセに頼んでおいたスリングが完成した。あれから毎日薪割と水汲みを続け文字の読み書きを学び、気づけば俺は随分と体力が付いていた。
「ユウヤ、買い出しちょっと付き合って」
「おー、ちと待って」
最後の薪を割り終えたところで、アシュリーがやってきた。俺は薪と斧を片付けると、アシュリーについて街へと向かう。
「買い出しって何買うの?」
「食材だよ。飯当番が熱出したから俺が代わりなんだ」
飯当番もあるのか。どうしよう。俺飯なんて作れないぞ。
「心配いらねって。飯作るのは厨房専属のヤツがいるから、俺らがするのは食材の買い出しと配膳だけ」
「あー、なるほど」
流石に飯作ったことのないヤツの飯は怖い。疲れてる時に飯が不味いとがっくり来そうだからなぁ。食材も無駄には出来ないし、その方が良いのかもしれない。
街の大通りは相変わらず賑やかだ。俺はアシュリーに付き合って食材の買い出しをする。買った荷物をアシュリーがほいほいと俺に渡してくる。つまり俺は荷物持ちと言う事らしい。俺はアシュリーが果物屋の屋台の前で買い物をしている間にバランスが悪くて崩れそうになる荷物を持ち直す。
──ふと、何か声が聞こえた気がした。
周囲の活気のある声とは違う、息を飲む様な、悲鳴みたいな?俺は声が聞こえた建物と建物の間の1m程しかない路地を覗きこんだ。
「えっ…あ、アシュリーっ!」
俺は咄嗟に持っていた荷物を果物屋のオッサンに押し付けた。オッサンはわけも判らず俺の荷物を受け取って目を白黒させている。大声になりそうなのを必死に抑える。
「ぁ?」
「あれ!あれ、あれあれ!」
俺はアシュリーの腕を引いて路地が見える方に引っ張った。
──路地の向こう、裏通りの手前で、10歳くらいの女の子が明らかに悪そうなやつに口を押えられて抱えられている。女の子がばたばたと暴れているのが見えた。あれ、やばいだろ!
アシュリーの目つきが変わった。風の様に物陰から物陰へと駆け抜けて行く。
俺は慌てて果物屋のオッサンにギルドに誰か呼びに行ってと言うだけ言ってアシュリーの後を追った。
「アシュリー…っ」
俺が路地に飛び込むと、アシュリーは既に1本向こうの路地の角から向こう側をじっと伺っていた。俺は身体を低くして、出来るだけ足音を立てない様にアシュリーに近づく。
アシュリーが俺を振り返った。
「あの子は?」
「…」
アシュリーがそっと路地の向こうを指さした。俺はアシュリー越しに通りを覗きこむ。黒い馬車が1台遠のいていくのが見えた。
「馬車か…」
「ばぁーか。アーチャーの眼を舐めんなよ」
アシュリーは自分の眼の横をトン、と叩いて見せた。
「あの馬車前に見たことがある。行くぞ、ユウヤ」
「えっ?!行くって…ちょ!」
裏路地へと飛び出したアシュリーは馬車の向かった方へと駆けだした。俺も慌てて後を追う。心臓がドキドキした。不謹慎だけど、気分が凄く高揚した。興奮していた。ワクワクしてしまってた。まるで大冒険が始まるような気がしていた。
アシュリーを追って辿り着いたのは、大きな商人の屋敷だった。やっぱアシュリーは早い。俺はすっかり息が上がってしまっているのに、アシュリーは僅かに肩を上下させているだけだ。コイツやっぱり凄いな。
「見ろよ。ユウヤ」
アシュリーが指を指したのは屋敷の脇にある馬屋の前に止められた馬車だった。確かに黒い馬車だ。さっきのと同じかは俺には判らなかったが、アシュリーの眼は確信している様だった。
「さっきの馬車?」
「ああ。間違いない」
ちろりと赤い舌が唇を舐める。猫みたいだ。アシュリーは身を低くしたまま館の壁に沿って駆け出した。俺も慌ててアシュリーの後を追う。アシュリーが向かったのは裏門の方だった。アシュリーは戸を背にすると、木戸に指を掛け、軽く戸を引いた。戸は小さくキィ、と音を立て、隙間を作った。アシュリーがその木戸の隙間から中をのぞき込む。俺は壁際から少し開いた戸の向こうを覗き見た。気分は探偵か警察だ。僅かな隙間の向こうには綺麗な庭が広がり、裏口らしい入口には、ごつい男が二人、見張りの様に立っている。他にもちらほらと警備の者らしい男の姿が見えた。
「──駄目だな……。警備が厳重過ぎる。一旦ギルドに──」
振り返ったアシュリーが目を見開いた。その目は俺を通り越し、その後ろへと向けられ、同時にふっと俺の頭上に影が落ちた。はっとして振り返ろうとした瞬間、ガンっと頭に激痛が走り──
何も、判らなくなった。
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