11.共同作業って文化祭っぽいよね。
***前回のあらすじ***
俺はアシュリーに叩き起こされ、夕飯時に皆に紹介をして貰った。これで晴れて俺も『ジルヴラヴィフ・ヴェント』の一員だ。異世界人が珍しいらしく、俺はあっという間に囲まれた。俺は嬉しくて皆に向こうの世界の話や持ってきた財布から日本円を出して見せた。こっちに来たら日本円何て何の役にも立たないと思っていたが、なんと高額で買い取って貰えることになった。俺の書いた日本語やレシートで折った鶴に大喜びをして貰えて、俺は束の間の俺sugeee!を堪能した。
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※文字数2562字です(空白・改行含みません)
最初に乾杯した飲み物はアバと言う酒だったらしい。飲むと少しキャラメルの様な甘い香りがして、ピリっとした辛みがあって、少しの苦みと辛さが癖になる。口当たりが良くてぐいぐい勧められるままに飲んでたら結構べろべろに酔っぱらってしまった。
気が付くと朝になっていて、俺は自分の部屋のベッドに居た。どうやって部屋に戻ったのか覚えて居ない。頭ががんがんする。めっちゃ喉が渇く。幸い気持ち悪くないのが救いだ。
俺はズキズキする頭を押さえ、食堂へ降りた。俺を見ると数名がお早うと声を掛けてくれる。昨日と同じ席に居たアシュリーが手を上げて招いてくれた。イングやゴッドも一緒だ。
「おはよ、ユウヤ。お前大丈夫かよ?」
「おはよ、頭いてぇー」
「飲み過ぎだ」
俺は呻きながら椅子に腰かける。ビアンカがフレークっぽいのを持ってくる。フルーツの入った小麦ブラン。あれに似てる。ビアンカが皿に入ったブランっぽいのにミルクと蜂蜜を入れてくれた。ココと言って、酒を飲んだ翌日はこれが良いんだそうだ。食べてみると食感は硬めのアーモンドっぽいカリカリした歯ごたえで、ミルクを加えると少しとろっとしたヨーグルトっぽい感じに溶けて、新鮮な生のフルーツがたっぷり入ったそれはさっぱりとして美味かった。
「んじゃ食ったら早速行こうぜ」
「ん? 行くってどこに?」
「お前覚えてないのかよ」
アシュリーにじとっと睨まれた。……すみません。
「ギルドで鍛冶職人やってるホセんとこだよ。パチンコ見て貰いに行くつっただろ?」
……そうなの? 駄目だ、何も覚えて居ない。
「良いから行くぞ」
アシュリーに急かされて、俺は食器を片付けてからアシュリーと共にホセって人の所へ向かった。
***
「よう!来たな、ユウヤ!」
ホセはマッチョで見事に日に焼けた赤銅色の肌をしたいかついオッサンだった。うん。顔は見覚えがある。短い逆立った黒髪にもみあげからそのまま髭に繋がったアゴヒゲが失礼だけど山賊か何かみたいだ。額にねじり鉢巻きみたいに布を巻き付けている。汗避けらしい。 付いて来なと言われて俺とアシュリーは作業場の奥にある部屋へと押された。作業場は息も苦しい程に熱い。炉の窯が3つくらい、オレンジ色に焼けていた。
水を出されて一気飲みしてから、俺はホセに言われるままにざっくりとした図を描いて見せる。
「こんな感じにしたいんだけど……」
「へぇ、面白れぇな。どら」
ホセがペンでその図からきちんとした図面を引いてくれた。時々ホセから質問が飛び、俺が身振り手振りで伝えていくと、俺の脳内に漠然と浮かんでいたイメージにピタリと嵌る図が出来ていた。
「すげぇー!」
「昨日の金換金して結構裕福なんだろ? それなら、握りは木で作って他は鋼で作った方が丈夫じゃねぇかな」
「ああ、そうしたい!」
「で、昨日あれから俺も考えたんだけどよ」
ホセはそこで言葉を区切り、脇に置かれた椅子の上にあった袋を手にして、中に入っていた殻付きのナッツっぽいのを取り出した。
「ナッツ?」
「オールの実さ。コイツの殻はどうだろう」
……どうだろう、とは? 俺が目をぱちくりさせていると、アシュリーが気づいたようだ。
「ああ、弾な!」
「あ、なるほど!」
俺は出されたオールの実を摘んでみる。銀杏の殻っぽい。確かにこれなら勢いよく当たれば簡単に壊れて中身が飛び出しそうだ。
「こいつの中に香辛料入れて、こうしてな」
ホセは今度は瓶に入ったどろっとしたものを取り出す。蓋を開けて、木のマドラーみたいなヘラ状の棒でそれを掬った。つんっとした匂いがする。
「こいつは木の樹液だよ。これでこうして閉じれば密封出来る」
割ったオールの実の殻の切り口に樹液をちょんちょんっと付ける様にして、ヘラで伸ばし、元の形になる様に割った残りの半分の殻をぎゅっと押し付けると、ぴったりと殻がくっついた。振っても落ちない。
「すげぇよホセ! イメージ通りだ!」
「パチンコは丁度今は仕事も入って来ていないからな。3日もありゃ出来るだろ」
「待った、折角こんなかっこいいのにパチンコとは呼びたくない!此処はかっこよくスリングで!」
俺が慌てて止めると、ホセとアシュリーは笑って「ああ、判った」と頷いた。
ホセが俺にオールの実の殻の入った袋を渡してくれる。この鍛冶屋?は、3人人が居て、休憩の合間におやつ代わりに食ってるらしい。結構量があった。
「足りなかったら食堂に行ってみな」
「ありがとう、ホセ」
「ユウヤ、弾作ろうぜ弾!」
「おう!」
「取ってきたっていう枝は?」
「エルナに預けてある!」
「ああ、判った、後で取りに行ってやる」
俺はホセによろしくと声を掛け、アシュリーと一緒に駆け出した。
***
俺とアシュリーは建物の脇にある芝生の木陰に草で編んだシートを広げ、早速部屋から香辛料の袋を持ってきて、試しに1つ作ってみる。唐辛子の粉は胡椒くらいの粉になるまで石臼で挽いてみた。この時点で目がめちゃくちゃ痛い。
「これ効く、すっげぇ効く、目ぇ痛ぇ!!」
「馬鹿ユウヤ、こっち向けるな!」
俺とアシュリーがぎゃーぎゃー騒ぎながら弾を作っていたら、俺らの声に引かれたらしい何人かが集まってきた。
「何やってんだお前ら?」
「スリングの弾作ってんだ」
「スリング?」
俺はジャージの腰に挿していた前に作ったその辺の枝製のパチンコを取り出して、試しに作った試作1号をパチンコに宛がってゴムを引いて離れた樹に向けて撃った。弾は樹に命中するとパンっと弾けて当たった周辺が赤い霧に包まれた様になる。半径50cmくらいに飛散するっぽい。
オッサンたちも興味を示したらしい。手伝うと言ってくれた。気づけば10人くらい集まって来て、石臼で粉を引いたり、トリモチみたいなのを詰めだしたり、共同作業になっていた。
「ユウヤ、このくらいでどうだ?」
「良いね! バッチリ」
「なぁ、コイツも入れてみないか?」
「え、これ当たるとどうなんの?」
「くっついて動けなくなるんじゃないかな」
アイデアがどんどん出て来る。見分けが付かなくなりそうだから、インクで殻に色を塗る。
なんか楽しいなこういうの。学園祭の前とか、こんな感じだった。皆で意見出し合って、皆で一緒に何か作って。めちゃくちゃ一体感覚えて楽しかったっけ。俺たちは夕暮れまで飯も食わずに弾を作りまくった。
気づけば大量のスリングの弾が出来上がっていた。
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