01.一般的にすげぇヤツはほんの一握りで大半はただのモブだと思うんだ。
※文字数2360字です(空白・改行含みません)
『事実は小説より奇なり』。
昔の人は上手い事を言ったものだ。
だって、誰がこんなこと、現実に起こるなんて考える?
俺はラノベ好きだし、『なろう』とかも結構ブクマ付けてるし、暇があれば読んでもいる。
特に好きなのは異世界転生もので、主人公が事故だの過労だので死んで、チートな能力身に着けて異世界で名を上げる話は大好物だ。
だけどさ、誰も本気で思いはしないだろう?
こうなったらいいなっていう願望で、本気で異世界転生だの異世界転移だのが起こるなんて、本気で信じてたら痛すぎだろ。
どんだけ電波なんだって話じゃないか。
なのに、一体何でこうなった──?
***
俺、高橋 悠哉は、照栄高校の2年だ。多少得意な教科や苦手な教科はあるけれど、軒並み成績は平均値。当然偏差値も並み。特に何かに特出した有名校でも悪ばっかりのヤバイ高校でもない。普通の家庭の普通の偏差値の普通の生徒の通うどこにでもある普通の高校に通う普通の高校生。男女半々のクラスで、女子との接点はほぼ皆無だ。
父親は運送会社でトラックの運転手。母親は普通の主婦。普段はパートに出ている。極普通の3つ年下の妹は、毎回予選敗退のバドミントン部に所属し、眼鏡女子だがこれまた特に美少女でも無ければスタイル抜群でもなく、目立ったなにかも無い。
因みに俺も身長176㎝、顔立ちも普通。虐められもしない代わり、人気者でも無い。勉強は中の下、運動は中の上、どの教科もどのスポーツも特別上手くも下手でも無い。小学校では少年野球の弱小チームに入り、中学ではサッカーを、高校は面倒だから部活には入っていない。
THE☆モブ! の家庭に育ち、多分高校を卒業したら平均値の大学に行き、どこにでもある会社に就職して、普通に嫁さんなんかも貰ったりして、普通に子供が生まれて、普通にじいさんになって、普通に老人ホームとかで一生を終えるんだろう。
別に不満なんて無いし、それでいいと思っている。何気にあんまり目立ちたくも無いし。ただ、モブの中のモブだからこそ、異世界転生ものだとか、異世界転移ものにはわくわくする。
自覚があって、目立つのはちょっとでも、実は俺にはチートな能力があって俺Tueeeeeeee!! ……ってのを妄想してによによするくらいは、割と普通の心理なんじゃないだろうか。人前では言わないだけで。
***
「なぁ、知ってるか?」
発端は、幼馴染でクラスメイトのシン──高木 慎一だった。
シンは割とオタクで、オカルト好きだ。それも多分ガチで信じてる系。ことあるごとにこうして下らないネタを持ち込んでくる。いつもの学校の帰り道の事だった。
「知ってるって何をだよ?」
またか、と内心おもいつつも、俺はいつもの様に聞き返した。どうせ近くの廃墟に幽霊が出ただの、学校のどこそこ室ですすり泣きが聞こえるだの、裏山にUFOが出ただの、大方そんなところだろう。
シンはまるで大切な秘め事であるかのようにあたりを見渡すと声を潜めた。
「西高の裏の林なんだけどさ……。あそこガチでヤバイらしいよ?」
────────やっぱり。
「あ。そう」
ハイハイ、っと肩を竦め、俺は先に立って緩やかな下り坂を降りていく。シンが慌ててついてきた。
「あ、信じてないだろ? 今度はマジだってば、オオマジ!」
頼むからそんな大きな声で力説すんな。俺まで痛い目で見られるじゃないか。
「同中の岡島って覚えてる? アイツ今西高のバスケ部に居るんだけどさ。アイツから聞いた話なんだけどな?」
お前のオタク仲間じゃねぇか。出たよこれ。
「何をだよ?」
シンは良いヤツだが、何かにつけてこの手の下らない噂を聞きつけては持ち込んでくる。俺はお前が羨ましいよ。毎日楽しそうで。
残念だが、俺は割と現実主義なんだ。物語は物語の中で十分で、リアルに起こると思える程純粋じゃない。別に幽霊だのを否定する気は無いが、俺の様なモブには無縁の話だ。
俺の気持ちを知ってか知らずか、シンはワクワクとした顔で話を続ける。
「それがさ、あの林に入ると神隠しにあうんだってよ?」
────は?
余りの内容に俺は思わず足を止めた。
俺の気持ちなどお構いなしにシンは楽しそうに話を続ける。
「なんでも以前野球部のヤツがボールを取りに入ったっきり行方不明になってさ。何年も経ってから、入った時と同じ歳、同じ格好のまま突然戻ってきたんだと。ソイツの話では、林に入った後、出口が見つからなくて1時間くらい彷徨って帰ってきたらしいんだよ」
フンスフンスとシンが鼻息を荒くする。顔寄せてくんな。
「つまりだよ。そいつにはたった1時間。こっちじゃ数年過ぎてた、と。これ凄くね?! ガチの異世界転移じゃね?!」
……いや、それは異世界転移じゃなくて浦島太郎じゃねーか。大方家出でもして、居候する先が無くなって帰ってきたってオチだろ? お前だって中学の時から1mmも変わってねーじゃん。なぁ、俺たちもう高校生だよな? ちょっと現実見ようぜ? もし岡島もそれ信じてるとしたらアイツもヤバいわ。
で、この流れも最早俺とシンの中ではテンプレだ。苦虫を噛み潰した表情の俺に構う事無く、案の定シンが俺の前に回り込む。
「なぁ、俺たちで調べちゃおうぜ!」
──だよな。そう来るよな。
調べるって何をだよと思わなくもないが、正直言うと俺も、そんな事あるわきゃねぇだろと思う気持ちの端っこで、興味ってのが顔を覗かせてる。結果は判っちゃいるが、ほんのちょっぴり面白そうだと思ってしまう。仕方がないじゃないか。だって俺もラノベ好きだし。異世界転移大好物だし。
どうせ帰ってもやる事ないしな。最近はブクマしてる小説も最新話まで読みつくして更新待ちだし。暇つぶしにはなる。
「仕方ねぇなぁ」
俺は苦笑を浮かべ、やれやれと言う様に肩を竦めて見せる。
「お前ならそう言ってくれると思ったよ」
シンが嬉しそうに笑った。
新しいお話始めました! 初めて来て下さった方、はじめまして。楽しんで頂けるよう、頑張ります!
気に入って頂けたら嬉しいです。毎日更新予定です。次の投稿は今日の夜を予定しています。
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