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3  私のタイプライター

高校生の時に英語が好きだった


テレビや映画で見たんだろう、タイプライターというものを知った

今は商社というのだろうけれど、貿易会社でカチャカチャと文字を打つ


なんとなく憧れた



買ってほしいとねだったけれど、自分で買いなさいと言われて

お年玉で買うことにした


近所の文房具屋さんに行ってパンフレットを見ると


手動式の物が目についた

というよりも、私が憧れていたものは「それ」なのだ


安くはなかったけれど届いた時の嬉しさといったらなかった


自分で英語の詩などというのも浮かばす

教科書や歌手の歌詞を打ち込む


カチャカチャ カチャカチャ チーンと


インクがまんべんなく出ないで濃く出てしまったり

手について汚れてしまった記憶がある


でも、私の好きなタイプライター

手が汚れても全然平気


アメリカに行くことが決まって

やり取りで使うことになった喜びといったらなかった



あちらでは授業でタイプのクラスを受けた

電動の物だから指の感触が違う


だけど嬉しくて頑張って

1分間に最高70words以上という時もあった



大学に入るときには持って行かず

実家に置いておいた


30過ぎて絵を習っていた時に

手動式のタイプライターを描きたいという人がいた


実家の物置にあるはずと

返事があるが「ないと思う」

だけど、そこにしかあるはずもないわけで・・・



タイプライターを描きたいという人の話では

骨董屋さんにかなり高額で売っているとのこと

そこまでして描くことも出来ず、期待した私のものも出てこない


後で実家が引っ越しのために壊された

その時にもタイプライターのことは言われなかった

もしかしたら、その物体が何だかわからずに捨てられてしまったのかもしれないし

要らないのではないかと思われたのだろう



ああ、ばかね、私

そんなに大事なものを

どうして自分で持っていなかったのよ

大学で上京する時に

狭い部屋でも持っていけばと


大切なものは

その時にはわからないことがある

物でも人の心でも

見えない時が

気がつかない時が

後になって、その存在が大きくなってくるのだ


もう見ることが出来ない、私の大切なタイプライター

骨董品やで買う?

いや、そういうことじゃない

「あれが」ほしい、私のタイプライターなのだから



でもね、私

もしも、それがあったとして

どうしている?


部屋に飾ってインテリアのようにすることは出来る

インクはなく使うことは出来ないし

使う必要もないから


もしも、毎日見ていたとしたら


あの時の憧れだとか

カチャカチャ カチャカチャ チーンの音

インクのにおい

紙を真っすぐに入れないと斜めになっちゃうこと

打ち込む時の文字盤の指の重み

初めて触った時の嬉しさ


そんな想い出がかえって褪せてしまうものかもね

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