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最弱を求める魔導師と最強を求める復讐姫  作者: 天ヶ瀬翠
通商都市アパミア強奪戦
8/28

8話.魔力顕現

 三軒目に入った店は、これといった特徴もない普通な店だった。

 店の奥に会計用のカウンターがあり、天具は壁に面したガラスケースの中と、店の中央にあるテーブルの上に置かれている。

 ガラスケースに入っている天具はどれも実用性に長けており、デザインも凝られている高値がつけられていた。


 店内にいる人は、エリクが探知した通り三人。カウンターの中にいる店員が一人、ドア横に立っている店員が一人、テーブルの天具を見ている客が一人だ。


「なるほど。ここの店員は天具を見る目があるね。しっかりと性能に応じた値が貼られている。おお、あれは珍しい〝光〟に干渉する魔具じゃないか」


 エリクは店に入るや否や、ガラスケースに飾られている天具を見て回っていた。売られている天具や、店員の質が高いためか若干興奮気味だった。

 目的を見失っていないか心配になったチェルは、エリクに駆け寄り耳打ちする。


「……あのー、魔具探しは……」


 しかしエリクは答えずに、店のカウンターの上に飾られてるガラスの中の指輪を指差した。


「これは見たことあるかい?」


 プラチナの輪に丸や線から成る模様が印字されており、赤い宝石が三つ埋め込まれていた。

 チェルはケース越しにじっと指輪を見つめる。


「ううん、初めてかも。……あ、でもこれ非売品なんだね」


 チェルがこの店に入ったのは一ヶ月以上ぶりであり、ラインナップが変わっていてもおかしくはない。ただ、値札が貼られていない展示のみの天具は初めてだった。


「これ、君にとっても似合うと思うんだよ。だからプレゼントしたいと思って」


 あまりに唐突な言葉に、チェルは無言のまま一回瞬きする。そして意味を理解した瞬間に、顔が真っ赤になる。


「ええとね! こういう時に変な冗談はやめて欲しいなって!」


 エリクから勢いよく遠ざかり、思いっきり顔を横に振った。


「至って真剣だよ。冗談で言うと思う?」

「真剣でも困るよ! 冗談でも悪趣味だよ! 私をからかってそんなに楽しいのかな! っていうかこれ、展示用みたいだし買えないよね!」

「そうみたいだね。それなら……」


 エリクが右手のひらを指輪に向けた。


「〝来い〟」


 刹那、エリクの手を握りしめる。そして、ゆっくりと開くと手の上に指輪が乗っていた。

 もちろん、ショーケースからは指輪が消えていた。

 エリクの導きの魔導師としての力の一つで、エリクの魔導体系を持った物や人を手元に手繰り寄せることができる。ただ移動させるのではなく、空間転移での手繰り寄せが可能だった。

 エリクと手繰り寄せたい対象の距離が五メートル以内で、尚且つ直視していなければならないなどの条件はあるが、非常に便利な力である。


「いつの間に指輪を……もしかしてそれが……っ!」


 チェルは途中で言葉を止めた。

 店の中にいた三人が、天具を二人に向けていたためである。かまいたちをまとう風の弓矢が轟々と唸っている。もしこんな近距離で放たれたら、体が動く前に風穴が開いてしまうだろう。


「お客様、それは非売品ですよ。大人しくこちらへ渡してくれれば、この場は丸く収めましょう」


 カウンターに立っている男が、エリクへと忠告する。

 口の周りに髭をたくわえ、少し垂れ目な相貌から、武器さえ構えていなければ雰囲気の柔らかいおじさんである。

 おそらくこの中で一番の実力者であろう魔術士だが、エリクの眼には対した男には映っていなかった。そもそも天具に頼っている時点で、魔術士としての弱さを証明している。


「残念だけど、それはできないね。この指輪はプレゼント用だからさ」


 エリクは指輪をポケットの中に入れて、カウンターの男へと微笑んだ。


「それで盗みを働いたと? 馬鹿馬鹿しい……返さない気でいるならば、警備兵を呼んで謙虚しますよ」


 確かに彼らにとって、エリクらはまごう事なき盗人である。この指輪をどうやって彼らが手に入れたか分からない以上、警備兵を呼ばれてしまっては面倒事が増えてしまうだけである。


「それじゃあ、呼ばれる前に帰らせて貰おうかな」

「させるとお思いで?」

「させるさ」


 エリクが不敵な笑みを浮かべた後、三人とも矢先を向けた。

 そして彼らが矢尻を掴む指が僅かに動いた瞬間、エリクは宣言した。


魔力顕現(アルヌカム)


 二度、三度。

 激しい風圧とともに、エリクから白い光と風が放たれる。テーブルに置かれていた天具が床に落ち、家具が慄えるようにガタガタと音を鳴らす。

 そして、風が止んだとき、エリクの体が白いオーラに覆われていた


「君たちは悪くない。悪いのは僕たちだ。強盗まがいのことをしているのだから。でも……」


 男たちは、エリクの足元に落ちた矢を見ながら呆けていた。

 コンマ一秒にも満たない術の発動速度以上に、何を持って矢が落とされたかが分からなかった。彼らの放った矢は、風の加護により突風や衝撃波、水などの気体や液体に対する妨害を貫く事に特化している。だが、現実には矢が落とされている。盾で防いだわけでも、何かをぶつけた訳でもない。かまいたちによる切り傷も一切見られない。

 チェルも微動だにせず、男らと同じく固まっている。


「何をしているのです! 次は命を狙う気で打ちなさい!」


 悲鳴にも似た叫び声と共に、再度矢を放つ。が、エリクに当たる直前で全て見えない楯によって弾かれる。


「僕の魔具は導くためにある。飾るためにあるわけじゃない。だから返してもらうよ、我が一部を」

「くっそ……」

「ところで、君に聞きたいことがある」


 エリクはカウンターにいる男に向き直った。


「この二人、君が雇った用心棒だよね。そこまでしてこの指輪を守りたかったのかな? 例えば、偉い誰かにこの指輪を渡す手はずだったとか?」


 男は答えないが、目線が下に逸れたのを見てエリクは推測が間違っていないと確信した。

 この指輪が彼にとって、大事なものであることは盗む前から分かっていた。指輪に近づいた時に、体内魔力の流れが荒々しくなっていたのを見逃すエリクではない。

 エリクは体を翻して、ドアの方へと歩く。


「……お前らはもう出られない」


 カウンターにいた男が、顔を引き攣らせながら笑っている。


「そのドアには幾重にも天具を仕込んでいる! いかなる攻撃も通用しない!」


 しかしエリクは迷わず手をかけ、ドアを開けた。

 が、何も発動しない。


「そんな……バカな……」

「言っておくけど、君たちが魔術を行使できたのは僕が許可したからだよ。でも本来は……僕が導いていない者に魔術を使わせる価値はないんだよ」


 導きの魔導師の他の魔導体系に対する厳しさは、魔導師の中でも飛び抜けている。〝拒絶〟は他の魔導体系から生じた魔術を魔力でねじ伏せる能力である。


 三人の持つ弓矢から風が消え失せ、ただの弓矢と化していた。そして当然ながら、彼ら自身の天承術も封じられていた。

 成す術が無くなり、立ち尽くす三人を背にエリクは店を出た。


「はい、一丁あがりっと」


 エリクはふぅと息を吐いた。体の周りで渦巻いていた白い光が消失する。

 余裕ぶっていたものの、〝拒絶〟は多大な魔力消費が発生してしまうために疲弊していた。


 ――あの力は極力使用しない方が良さそうだ。


 エリクは自身の魔力を減らしてからロクに力を使わなかったため、どれほど魔力消費するか分からなかった。〝万視〟の魔力消費は微々たるものだが、〝拒絶〟に関してはたった三人を相手に、この短時間封じただけでこの有様である。

 盾としてではなく、不意打ちのために使う程度に絞った方が無難だろう。


「えっと……」


 チェルは一体どこからどう聞けばいいのか分からず、エリクの後ろで口を開けては何も言わず閉じていた。


魔力顕現(アルヌカム)の説明はしておこうかな」

「あるぬかむ……?」

「簡単に言えば、魔力のエネルギー化ってところかな」


 普通の人間は、魔導師から流れる魔力を使い、魔導体系に従い何らかの現象を引き起こす。魔術士にとっては魔術を使うエネルギーでしか無いが、魔導師はそれを直に武器として使うことができる。


「魔導師なら誰もが出来る基礎の技だね。長年眠っていて、魔力で体を覆う方法を忘れなくて良かったよ」

「魔力そのものを操って、エネルギーに変えるなんて……」

「そんなに驚くことでも無いよ。決して万能では無いし、操れる魔力量にも上限がある。技名も丁寧に言わないといけないし、体がピカピカ光るから目立つったらありゃしない」

「それでも全身が武器になるなら、充分強いと思うけど……」


 チェルはまた口を噤んだ。

 ちらちらと視線が、指輪を握っている手に向けられている。エリクはチェルの様子が少し変な事に気付いた。が、港の方から感じた魔力と魔具の気配を感じて、後回しにすることにした。


「さ、もう一つの方へ行ってみようか。面白いことになりそうだ」

読んで頂きありがとうございましたm(_ _)m


ご感想・ご指摘・ご意見等々頂けるととても助かります。批判含め受け付けておりますので、忌憚なく書いて頂ければ幸いです。

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